Kiss mark

 

 

 今日の体育は、バスケットボールだった。

 秋也は、自分の体が本調子でない事を知りながら、それに参加し、思ったとおり、負けてしまっていた。

 相手のチームには信史がいたから、絶対に負けたくはなかったのに。

 授業が終わっても、体が重くて。

 それでも、調子の悪い事を知られたくなかった秋也は、負けた責任にと、一人で片付けを引き受け、体育館に残った。

 身体に残る疲労は、思ったより激しいらしく、動きたくなかったのだ。

 片付けをやっと終えて、秋也は体育館の片隅で、ボーっとしていた。

 次は昼休みだし、やけに風が気持ち良いから、もうしばらくはこうしているつもりだった。

 多分、もうすぐ信史が迎えに来るのだろう。

 そう思っていたから、近くに人の気配を感じた時、秋也はそれを信史だと信じて疑わなかった。

「こんな所で、何してるんだ?オニイチャン?」

「三村……」

 と、思わず口にしてしまってから気付く。

 言葉のニュアンスは、とても信史に似ていたけれど、聞き慣れた彼の声とは違った。

 秋也はふっと顔を上げ、予想外の人物がいた事に、驚きの色を隠せない。

「川田……?」

 名前を呼ばれた男は、独特の笑みを浮かべ、肩をすくませた。

 川田は、もう制服を着ている。

 授業が終わってから、もうそんなに時間が経ってしまったのかと、秋也は思った。

「三村、ね……」

 川田は、意味ありげにそう言い、口の端を歪めて見せる。

「あっ、ごめん、つい……!」

 秋也は慌てて立ち上がり、川田に対して非礼を詫びた。

 急に立ちあがったせいか、腰がズキン、と、痛んだけれど。

 ふわっと、何かの香りがする。

(これって、タバコ、か……?)

 体育館の脇は、人も来ないし、タバコを吸ったりするのには、ちょうど良い場所かもしれない。

 川田はその為にここに来て、自分を見つけたのだろうか。

 そう思った時、ふっとその匂いが強くなる。

 原因は、川田が秋也に近付いた為だった。

 川田は、少し首にかかる秋也の髪をかき上げ、顔を寄せる。

「川田っ!?」

 いきなり何をするんだと、驚いた秋也は、川田から大きく距離をとった。

 川田は、またフッと笑った。

「やっぱりな」

 そう言って、制服のポケットから何かを取り出し、秋也に向けて差し出す。

「ほら」

「?」

 何を差し出されているのか分からなかった秋也は、それを恐る恐る受け取った。

 何のことは無い。

 それは単なる――

「バンドエイド?」

 どこか怪我でもしていたかと、首を傾げる秋也に、川田は自分の首筋をトントンと叩いて見せた。

 そう。先程、顔を寄せた、秋也の首筋と同じ場所を。

「それで隠しときな、オニイチャン」

「隠すって、何――」

 そこまで言って、秋也は顔を真っ赤に染めた。

「!!」

 慌てて首筋を抑え、うつむいてしまう。

「三村、ね……」

 からかうようにか、半ば呆れたようにか、どちらとも取れるニュアンスで、川田はもう一度そう言った。

 そして、秋也に背を向け、歩き出す。

「か、川田っ!この事、誰にもっ……!」

 秋也の焦った声に、川田は歩みを止めようとはせず、左手を上げて、ひらひらと振って見せた。

 秋也はほっとしたように息を吐く。

 それから、その大きな背に向かって、小さく

「ありがとう」

 とつぶやいた。

 

 

「七原!」

 いつもの声が、体育館に響いて。

 秋也は、首筋の辺りが熱くなった気がした。

 

 

END



「kiss mark」の2万打祝いに、キユリさまに捧げさせて頂いたss。捧げものシリーズ第6弾(笑)
せっかくだからリクしてもらおうと思って尋ねたところ、「川田が出て来るモノ」という事でしたので。
やたらと短い話になってます。
どうやら、初・川田(もどき)に、苦戦を強いられたようです。
結局これ以降、川田は書いた事ないですね。貴重品です(笑)
何を書いても結局37になる…そんな時期もありました…(遠く)

これは、レイアウト変えたくらいしか修正してないと思います…(2・3)