キス





「三村ぁ・・・・」

「何?」

「・・・・・・していい?」

「・・・・・あ?」

「・・・キスしてもいい?」

ボーゼンとした。

七原がまさかそんなこと、望むなんて思わなかったから。

しかも、それを口に出すとは。

今日は日曜だ。

暇だし、七原とイチャつこうかと思って(そんな事七原には言ってないけどさ)呼び出した。

そうして昼過ぎ、七原がウチに来て。

テレビ見て、ゲームをし始めた。

それから30分ばかりしたころ、上の会話があったって訳。

「何?七原欲求不満?」

意地悪げにそういうと、信史は持っていたコントローラを床に置いた。

リビングのフローリングに座り込んでいたので、置く時にカタンと響いた。

秋也の頬が赤くなると同時。

「そんなんじゃないっつーの!もういい。」

秋也はふいと顔をそむけると、再びテレビと向かいあった。

「七原く〜ん!冗談だってば!!」

(欲求不満以外の何者だよ、七原?)

と、思ったがそんな事は口にはしなかった。

折角の機会を逃すまいと。

「もういいってば。」

「すねんなよ。な?」

信史はそういうと、秋也を自分の方に引き寄せる。

腰のあたりに手を回されたが、秋也は知らない顔をしてゲームを続けていた。

(・・仕方ねぇな)

「七原・・・・」

信史はいつも、SEXの最中に出すような声で、秋也の耳元に囁いた。

秋也の体がビクリと反応したように思う。

そのまま、後ろから抱きしめるような状態で、秋也のあごを持ち上げた。

(・・・キスされる!)

そっと目を閉じた秋也だったが、予想に反し、唇に感覚が来ない。

目をあけると、そこにはいつもの笑みを浮べた信史が写った。

「・・〜!!」

「キスしてもらえると思った?」

相変わらず、片方の手は秋也の腰に回したまま、顔を覗き込む。

(あ、怒ってら)

「・・・・!!三村なんて大っ嫌いだ!!」

信史は秋也の言葉なんて、まるで届いていないように、飄々と続ける。

「だって今日は七原がしてくれるんだろ?俺からする必要ないって感じ?」

しばらく秋也は黙ったままだったが、意を決したのか、口を開いた。

「・・・していいんだな?」

「・・・・どうぞ?」

信史は、ちょっとからかったような笑みを浮かべ、あぐらをかいた。

テレビから、ゲームの音だけが煩く鳴り響いている。

秋也は、そばにあったリモコンを手にとり、ソレを切る。

急に、リビングに静寂が訪れた。

「え、・・・っと・・・・」

少し戸惑いながら、膝立ちになると、信史の元に向き直った。

自分から言い出したことなのに、緊張する。

(俺、何やってんだろ・・・)

信史の肩に手を置いたとき、ますます顔が赤くなった気がする。

俯いていた顔を上げたら、信史と目が合った。

ニヤニヤと見つめられていたようだ。

「・・・・なんだよ」

「別に〜?」

今は下手なことを言わないでおこうと、信史はそれ以上口にしなかった。

(折角の七原からのキス、逃してたまるかよ?)

「なぁ・・・三村・・・」

「ん?」

「目ぇ・・・閉じてほしいんだけど・・・」

「何で?」

「・・・・やりにくいじゃん・・」

信史は襲い掛かりたい気持ちを抑え、目を閉じた。

腰に手を回そうかと思ったが、床についたままにしておいた。

秋也は、信史の肩に置いていた手を、首に回した。

もう息のかかる距離に、信史の顔がある。

(うわ・・・俺、今すっげぇ恥ずかしいことしてるかも・・・)

まだ、少し残る躊躇の気持ちを振り切って、秋也は信史の唇にそっと触れた。

自分からキスをねだったこともない。

ましてや、自分からするなんて、もってのほかだった。

それなのに、今日は違った。

(もしかして、大胆なことしてる?)

頭によぎった考えを振り切ると、信史から一旦唇を離した。

いつもなら、間髪入れずに、信史の舌が滑り込んでくる。

でも、今日はどうやら自分からしなければならないようだった。

信史のように、テクニックがあるわけじゃない。

行為一つ一つを言葉で伝えるしかなかった。

「三村・・・口あけて・・」

「・・・七原、今日なんかやらしー」

信史が目をあけて、笑った。

本当は嬉しくて、可愛くてどうしようも無かったのだけど。

さっきだって、思わず舌を入れるところだった。

秋也に言わせたくて、我慢したが。

「うるさいな。」

「怒んなよ。ハイ、あー」

信史が口を開いたのを確認し、秋也は信史の口内に、自分の舌を侵入させた。

これも又、普段は信史にされるままだったので、上手くいかなかった。

けれど、自分なりに、信史の真似をしてみる。

くちゅ、といやらしい音がリビングに響き、自分の耳に届く。

羞恥心に襲われそうになったけれど、構わなかった。

今は信史とキスがしたかった。

マジ、今日の俺どうかしてる。

三村とキスしたいと思うなんて・・・

さっき、公園でキスしてるカップル見たせいかな・・・

秋也があれこれ考えていたら、急に顔を離された。

もっとしてたかったのに、という表情を思いっきりさらしながら、信史を見つめた。

「七原ってキス下手。」

「下手とか上手いとかあんのかよ。」

「まぁ多少はねぇ・・・それより?もういいですカ?」

「・・・・何が?」

「もう我慢できないんですけど。」

「は?我慢??なに・・」

そう言葉を続けようとしたら、急に唇をふさがれる。

「・・・・っん!!」

さっき自分から仕掛けたキスとは違う。

信史からのキスだった。

息をするタイミングがつかめないような、そんなキス。

しばらくして、顔を離した。

「七原が求めてくれるなんて、すっげぇ嬉しいんだけど」

「も、求めるとか言うな!!」

「ハイハイ」

「わかってんのかよ・・・」

「さ、それよりキスの続きでも・・・♪」

信史は秋也の腕が自分の首にあるのを確かめると、そのまま後ろに倒れた。

「わっ!」

信史の胸に倒れこみ、そう、ちょうど秋也が信史を押し倒しているような格好になった。

秋也の腰に信史の手が回されていたけれど。

「あ、なんか興奮するかも(笑)」

「ば、バカ!!離せ!」

「だーめ。このままする。したかったんだろ?」

「俺がしたかったのはキスだけだっ!!」

結局、そのまま食われてしまうのだった・・・

「もう絶対自分からキスなんてしない・・・」

そう心に誓った秋也でした。