記憶

 

 

 例えば君が、生き返る方法があるなら。

 それが、俺に出来る事なのだとしたら。

 出来ないと分かっていても、したい事はある。

 この心臓を取り出して、君に捧げる事が出来たなら。

 俺の全てを、君にあげる。

 

 

 

「なーなっはら♪」

 浮かれた声で名前を呼ばれ、振り返る前に抱きつかれた。

 振り返るまでもなく、秋也には相手が誰なのか分かっていたけれど。

「バカ!三村、暑苦しいっ!」

 文句を言って、鞄で殴る。

 朝から昇降口の前で、新学期早々何をやっているんだか。

「大変だな、秋也も」

 横で慶時が笑って、少し離れた所で弘樹が苦笑していた。

「何だよ、朝っぱらから!全く」

 それでも離れない信史を、秋也はバシバシと叩く。

 信史は笑ったままで、叩かれている事を気にしようともしない。

「クラス。見た?」

「は?」

 間の抜けた秋也の顔を見て、信史はやっと秋也から離れた。

 過激なスキンシップは、ここで終わり。

「七原、喜ぶと思うぜ。また俺と一緒だからな」

「!?」

 秋也は驚きの声を上げる事も出来ずに――

「って、当たり前だろ。2年から3年に上がる時は、クラス変えないって言ってたじゃんか」

「お。よく覚えてたな」

「バカにすんなっ!!」

 くっくっく、と信史は笑って、秋也の頭をぽんぽん叩く。

「お前の頭には、ロックの事しか入ってないと思ってた」

「お前の頭ん中は女の事ばっかりだろーがっ」

「おぅ、ちゃぁんと七原の事も入ってるから安心しろよ」

 そう言って、笑う。

 いつもの光景。

 楽しくて幸せな――夢。

 

 

 

 頭がぼうっとしていた。

 何が夢で、何が現実なのか。

 ただ胸が苦しくて、秋也はベッドから起き上がった。

 この胸の痛みには、覚えがある。

 確認しようと、カレンダーを見た。

 

 2003年5月23日

 

 やっぱりそうかと、秋也は思う。

 記憶なんて薄れていくもので。

 辛い事とか、悲しい事とか。

 忘れる事で、人は前に進めるのに。

「……忘れるわけには、いかないよなぁ……」

 そう呟いて、胸に手をやった。

 痛くて、苦しい。

 あの日失った、たくさんのもの……

 記憶は薄れても、気持ちが変わる事はない。

 今でもあの時と同じ気持ち。

 会えるものなら会いたいし、傍にいたい。

 またああやって話す事が出来たなら、どんなに幸せだろう。

 

 

 だけどそれは、叶わない事。

 

 

 お前の事を、たくさん思い出そう。

 どんな顔で、どんな声で、何を話して、どう笑ったか。

 

 

 

 例えば俺が何かする事で、お前が生き返るのなら。

 俺は何だってするけど。

 実際はそういうものじゃない。

 死んだ人間は生き返らない。

 分かっているから。

 

 

 

 せめて、俺の中で永遠に生きていて。

 

 

 

 死んだ人が、思い出の中でしか生きられないと言うのなら。

 薄れていく記憶を必死で留めようとする俺は。

 間違ってなんか、いないはず……

 

 足掻いたってどうしようもないとか、忘れるしかないとか。

 そういう言葉は聞くし、そうかもしれないと思うけど。

 仕方がない、とか。俺は思えない。

 諦める事は勇気じゃない。

 忘れる事は、強さじゃない。

 

 お前を思い出す事で、結局俺は傷付くのかもしれないけど。

 その痛みが、いつまでも俺を。

 俺の記憶を、失わせはしないから。

 

 

 

 いつまでも、俺の中で。

 

 

 

END.



例えば誕生日に更新が出来なくても。
例えば37の日に更新が出来なくても。
この日だけは更新しなきゃって、決めた日がある。
それが、今日。
『忌日』と同じレイアウトになっているのは、やっぱりこれがそういう話だからで。
去年の私と、今年の私。何が変わってるのか、それとも変わってないのか、分からないけど。
薄れる記憶の中で、それでも忘れないもの。
忘れる事が出来ないのか、忘れたくないのか。
それって何か違うのかもしれないし、違わないかもしれない。
忘れる事は強さじゃないかもしれないけど、忘れる強さだって、私はあると思う。

ただ今は、彼らに、黙祷を。