葛藤

 

 

 こんなはずじゃあなかった……

 言うつもりなんてなかったんだ。

 

 

 七原の具合は回復したらしく、一日休んだ後は学校に出て来た。

 ……あぁ、良かった。

 昨日はちょっと辛そうに見えたけど。

 ……俺のせいか。

 表面上は、何も変わらないように見える。

 「大丈夫?」と聞いて来る女の子達に笑いながら答えている姿も、杉村にノートを借りようと頭を下げている姿も。

 何もかもが、同じ、風景。

 いつもと、同じ風景。

 ――違うこと。

 俺と、目を合わせようとしないこと。

 俺に、近付こうとしないこと。

 そりゃあ、さすがの俺も溜息なんかついちゃうよ?

 気付かれないようにだけど。

 ――分かってる。

 悪いのは、俺だ。

 七原の気持ちも考えずに、自分の気持ちを勝手にぶちまけた。

 それでも……

「あ、悪い、七原。俺、この時間ノートとってないんだ」

 杉村の声が聞こえた。

 いや、ホントはずっと気にしてて、聞いてたんだけど(女々しいなんて言うなよ、自分で分かってるんだから)。

「三村に借りてくれないか?」

 おいおい、何を言い出すんだ、こいつは。

 ノートをとってないって?お前が?

 嘘つくなよ、余計な事しやがって。

 杉村って、変なとこで勘が良いからな。

 何か気付いたのもしれない。

「でも……」

 ほら、七原の奴、困ってる。

 俺は、二人の会話が聞こえていないふりをしてる。

 分かってるって。

 もう何も言うなよ。

 俺の方、見ないの分かってるから。

 昨日も、そうだったしな。

 心配で思わず行っちまったけど、何も言えなかった(俺とした事が、ナサケナイ)。

 あれってやっぱ知恵熱だよな。

 そこまで悩ませたの、俺だ……

「七原、三村と何かあったのか?」

 ……そういう事聞くなよ。

 七原が答えられるわけないんだからな。

 お前だってそれくらい分かるだろ?

「え?い、いや、何も……っ」

「そうか。何かされたんだったら言えよ?」

 もしもし杉村くん?聞こえてるんですけど。いや、聞こえているのも分かってて言ってるな、あいつは。

 俺が何かしたと思ってんのかね、失礼な。

 ……できねぇよ。

 出来るんだったら、もう色々してるっつの。

 七原の顔が、曖昧な笑みを浮かべる。

 お前にそんな顔、似あわねぇのに。

「ありがとう、杉村……」

 

 

 おかしいのは、分かってる。

 自分が、一番。

 だからってどうにもならないだろう?

 ――ただ。

 七原が、俺を見て怯えた顔をする。

 何か、嫌なものを見るような目で、俺を見る。

 いや、視界にすら入れてもらえてないな。

 それが、辛い。

 お前に伝えた気持ちに、嘘偽りなんかは全くないのに、今の七原を見ていると、嘘にしてしまおうという気持ちになる。

「ごめんな、七原。ちょっとからかっただけなんだ」そんな言葉一つで、全て元通り。

 ……このままずっと友達のままだったら、一緒にいる事はできたのに。

 何で言っちまったのか、そんな事は分からない。

 ばっかだねぇ、信史クン。

 こんな事なら、自分の気持ちになんか気付かなければ良かった。

 

 

 結局、一度も目を合わせてもらえないまま今日が終わる。

 泣いちゃいそうだね。

 声をかけることも出来なかった俺も俺だけど。

「好き……なのになぁ」

 声に出してみる。

 誰もいない教室。

 こんな気持ちのまま、部活になんか出れるかよ。

「七原が……好きだ……」

 声に出すと、胸に詰まった気持ちが、少し楽になる。

 でも、すぐに違う辛さに押しつぶされそうになった。

 何やってんだか。

 乙女チックだな、俺は。

 あぁ、ホント、嫌になるぜ。

 何なんだよ、この涙は。

 悲しくなんかない。

 別に、付き合ってた女の子に振られたって泣いたりなんかしなかったぜ?

 当たり前か。

 ちくしょう。馬鹿だよ、俺は。

「三村……?」

「――!!」

 ……最悪だ。こんなところ、一番見られたくない奴に見られるなんて。

「あ、俺、プリント忘れて、だから、あ、明日までに提出しなくちゃいけなくて、休んでた分の、えっと、だから……

 三村、泣いてるのか?」

 ああ、そうだよ。

 泣いてるよ。

 お前のせいだ。

 七原が悪い。全部……

 だって、俺は、俺は……

「七原が、好きなんだよ……」

 七原の体が震えた。

 怯えないで、何もしないから。何も……

「好きになってくれなんて言わねぇよ。目を合わせなくてもいい。話をしなくても。避けてくれたっていい。

 何を言われても、何をされてもかまわないから……」

 だから――

「嫌いに、ならないでくれよ……」

 それだけは、耐えられない。

 一方的に、俺が想っているだけだから。

 見返りなんて望まないから。

 せめて、嫌いにだけは――

「そんな、俺、三村の事嫌ったりなんか……」

「……良かった」

 もう、帰ろう。

 これ以上七原の傍にいたって、怯えさせるだけだ。

「三村!」

 背中に、かけられる声。

「――俺達、もう駄目なのか?前みたいに、友達になる事って出来ないのか?」

 七原の気持ちは、俺にとっては残酷なんだ。

 なれるわけないだろ?

 俺はもう、耐えられないんだから。

 七腹をこれ以上傷つけたくもない。

「無理だな」

 冷たく、一言。

 七原が悲しい顔をしたのが分かったけれど、何もしない。

 何も、出来なかった。

 ここで振り返り、全部冗談だと言えたらどんなに楽か。

 それだけで、俺は七原の笑顔をまた見る事が出来る。

 でも、それは出来ない。

 もう、違うんだ。

 俺の中で、七原は――

 

 

 好きになってなんて言いません。

 言わないから、どうか、嫌いにならないで。

 嫌いにだけは……

 

 

To be continued…



『SECOND』シリーズ第3話は、三村の一人称でした。
2話は七原の一人称だったから(安易な作者)
それにしても、一人称って難しいですね…キャラの把握が出来てないからでしょうか。
やたらと弱気な三村を、少しでも切ないと感じて下さればしてやったり。
思った事を声に出してみると、ちょっとすっきりするって事、ありますよね?

なんと、次回最終回です。
こんなんで、ちゃんと幸せになれるのでしょうか…?