影が伸びる。

 夕日に照らされて、長く伸びるそれを、信史は踏みながら歩く。

 自分を踏みつける行為。

 きっと大した事ではないのに、こんな事すら、深く考えてしまう時もあって。

 そういう時は、横に秋也がいてくれたらといつも思うのだ。

 夕日の出ている間に学校から帰宅するのは、信史にしては珍しかった。

 部活をやっていれば帰りは真っ暗になるし、そうでなければ明るい道を歩く事が出来る。

 こんな時間になってしまったのは、信史がこんな気持ちなっている事と、少なからず関係があるわけで。

 自分の影を見ながら、深い溜息をついた。

 

 

 放課後の教室で、信史は見てはいけないものを見てしまった。

 秋也が、女生徒に告白をされている場面だった。

 こんな事は珍しくはないのだろう。

 秋也がもてるのは、信史だって知っている。

 けれど、秋也は慌てていた。

 どんな対応をしたら良いかも分からないようで、ただ目を泳がせて。

 顔を真っ赤にして、それでも小さく、ごめんとつぶやいていた。

 それから何度も、何度も頭を下げて。

 

 君の気持ちは嬉しいんだけど。

 君の事が嫌いっていうわけじゃないんだけど。

 だけど、ごめん。

 

 そう言っている姿が、信史にはとても眩しかった。

 何をしたって、何を言ったって、秋也はいつも輝いている。

 眩しいくらい輝いて、直視出来ない時がある。

 そんな秋也だからこそ、信史は惚れたわけだし、そこが好きなのだけれど。

 それでも。

 

 秋也を見ていると、自己嫌悪に陥ってしまう自分がいた。

 

 信史だったら、こうはしない。

 こんな面倒臭い事は。

 謝る事も、断る事も。

 何もせずに、ただ受け入れる。

 今までも、これからも――

 

 

 

 伸びる影を、ひたすら踏みながら歩く。

 こうしていると、何故だか落ち着く気がして。

 ここまで落ち込んでいる自分にも嫌気がさしていたのに、信史は影を踏む事をやめなかった。

 

 これが、三村信史?

 ザ・サード・マンと呼ばれた俺の姿?

 

 信史は大きく息を吸って、影に背を向けた。

 輝いているのは秋也だけじゃない。

 自分もそうだと、信じたかった。

 ――それなのに。

 

「ぅわっ!急に振り返るなよ」

 

 眩しい夕日を背にして、そこに立っていたのは秋也だった。

 後光が差すとは、この事を言うのかと思うくらい。

 今の信史に、秋也は眩しすぎた。

「三村の姿が見えたから、追いかけてきたんだけど……」

 秋也はそう言って、信史に近付いてくる。

 信史は思わず、体をひいてしまった。

 それは、誰が見たって拒絶の反応に見える。

「……三村……?」

 不思議そうな秋也の声に、信史は応える事が出来なかった。

 なんと言えば良いか分からなくて。

 自分でも無意識の行動を、どう説明して良いか分からなくて。

 口を開けば、言わなくて良い事まで言ってしまいそうだったから――

 

「お前見るの、嫌なんだよ」

 

 分かっていたのに、口が勝手に動いた。

 秋也の目が見開かれる。

 信史からは、逆光で表情が見えなかったけれど。

 それでも、どんな顔をしているかは簡単に想像が出来た。

 ここで冗談だと言ってしまえば、あるいはまだ、戻れたかもしれないのに。

 

「俺の、傍に寄るな……!」

 

 それは、自分がずっと隠してきた、本音だったのかもしれない。

 信史はそう思いながら、眩しい光を見ていた。

 

 ――その光が、曇る事を望んでいた。

 

「あ……三村、俺……俺、何かした……?」

 秋也が震える声で尋ねる。

 必死で笑顔を作ろうとしているのは、すぐに分かった。

 そうしなければ、泣き出してしまいそうなのだろう。

「……別に、何も」

 信史は何とか言葉を搾り出して、目を伏せた。

 自分に非があると思い、謝ろうとする秋也の姿。

 信史は胸が痛くて仕方なくて。

 とても、見ている事など出来なかった。

 額に手を当てる。

 髪を、掻きむしる。

 

 俺は、最低だ――

 

 自分に出来ない事をしている秋也が羨ましくて。

 出来ないんじゃない、しないだけだ――なんて。

 そうやって自分を誤魔化して、ずっと。

「俺は、お前の影なんだよ、七原……」

 口に出せた言葉は、それだけだった。

「三村……」

 言っている意味が分からない、という秋也の戸惑った声。

 信史は、額に手を当てたまま、更に声を絞り出した。

「七原と一緒にいると、俺はどんどん黒くなる。お前は自分が輝いているせいで、どれだけたくさんの影を作っているか、知らないだろう……?」

 光あるところには闇が出来るように。

 秋也という光に照らされて、信史の心の闇はどんどん深くなって。

 そうして、溢れ出す――

「俺、自分が輝いてるだなんて、思った事ない」

 秋也はそう言って、信史の肩にそっと手を置いた。

「三村の方が、ずっとずっと、光ってる――」

 心の底から、そう思っているのが信史にも分かった。

 だから、余計に心が痛む。

「三村は俺の事なんか、傍に寄って欲しくないほど嫌いかもしれないけど、それでも俺は三村の事が好きだし、変わらないし、だから……」

 秋也はそこで言葉を詰まらせた。

 何を続けて良いのか分からなかった。

「だから、えっと……えーと……」

 何を言いたいのか、頭で整理が出来ない。

 ただ。

「三村が元気ないと、俺も辛い、から……」

 一生懸命だった。

 こんな信史は見た事がなかったから。

 何かにとても苦しんでいる信史。

 苦しめているのが、たとえ自分だったとしても。

 どうにかして助けたくて。

 

 思わず、抱き締めて、いた。

 

 自分の行動に驚きながらも、秋也は離れようとはしなかった。

「――好き。大好き。三村が、大好き」

 繰り返す。

 きっと、行動に意味なんてなかった。

 ただ、そうしたかっただけ。

 された信史は驚いて、声も出ない。

 まさか秋也がこういう行動に出ようとは。

 意外で、意外すぎて――

「ぷっ……」

 笑ってしまった。

「な、何で笑うんだよっ」

 秋也は信史の体を離して、顔を覗き込む。

「は、はははっ、いや、悪い。まさかそう来るとは思わなくて」

 考えるより行動派の秋也の事だから、きっと体が勝手に動いたんだろうと信史は思った。

 だからこそ、嬉しかった。

「俺も、七原が好きだよ。変な事言ってごめんな」

 そうして、続ける。

「誰かさんが告白されてるとこなんか見ちまったからな、ヤキモチ焼いた」

「えっ?あっ!いやっ、でもあれはことわ……」

 説明しようとする秋也の口をキスで塞いで、信史は笑った。

 

 

 

 影を吹き飛ばすくらい、お前なら輝ける。

 だからどこまでも、2人で――

 

 

 

END.



3月7日の37DAYを、すっかり忘れていたという、37サイト管理人失格のあさこです…
せめて1日遅れでも37小説をアップさせようと思ったので、必死で書いてみました。
いかがでしたでしょうか…?

説明が足りなかったかもしれないのですが、この37は、まだ両思いではないという設定で、お互い片思いしていたって感じです。
今回の三村の、弱い事弱い事…(涙)それに比べて、七原はちょっと頑張ってみました。
37も73も私は好きなので(基本はもちろん37ですが)この話はちょっと2人を対等にしてみました。やっぱり37は良いですよねっ。
そしてやっぱり、37には自然現象が似合うと勝手に思っているのでした。

これからも頑張るぞっ!(自分に言い聞かせ)おー!!