一緒

 

 

 少し、重い身体。

 隣で信史が眠っているのを確認してから。

 ゆっくり起き上がってみて、軽く伸びをする。

(筋肉痛だな……)

 秋也はそう思いながら、信史を起こさないようにベッドから降りた。

 そんなに激しかったわけじゃないけれど、無理な体勢をした事は確かで。

 だから、筋肉痛になる事も、理解できた。

 信史は深い眠りについているようで、起きる気配は感じられなかった。

(珍しいな、三村がこんなにぐっすり眠ってるなんて)

 自分はただ、されているだけで良かったけれど、信史は色々してくれたから、さすがに疲れたのかもしれない。

 そっと、信史の髪を触る。

 少しだけ乱れた、信史の髪。

 すると、ゆっくりと信史が目をあけた。

「……おはよう」

 優しく微笑んで、ひと言。

 秋也は昨日の事を思い出して、恥ずかしくなってしまい、真っ赤な顔でそれに答えた。

「お、おはよ」

 二人が、ひとつになった事。

 恥ずかしかったけれど幸せで。

 これからもきっと、ずっと、一緒だと――

 

 

 はっきり言って、機嫌が良かった。

 月曜日の朝、郁美が見た兄は。

 鼻歌交じりに、学ランに腕を通している。

 昨日、自分がいない間に何が起こったかなんて、想像するのは容易だ。

 そう、それが例え、信じたくない出来事だとしても。

 だって、見てしまった。

 自分の家から出てくる、秋也の姿を――

「お兄ちゃん、なんか嬉しそうだね」

 郁美が冷ややかな目をしながら、多少の厭味を込めてそう言うと。

「ちょっとな〜♪」

と、信史は満面の笑みで答えた。

「ふーん」

 苛立つ気持ちを抑えながら、気のなさそうに郁美は言って。

「良い一日になるといいね」

 こちらも、満面の笑みで返した。

「おう、サンキュ!」

 妹からの嬉しい言葉に、信史は上機嫌で家を出る。

 郁美は、それを見送るやいなや、受話器を手にして――

 

 

 月曜日の朝は、皆学校に来るのが少し遅れる。

 休みを引きずっているのか、朝起きるのが辛いようだ。

 けれど、豊が遅く来る事は、珍しかった。

 いつものように、秋也と、信史、弘樹の3人で、先生が来るのを待って。

 弘樹は、二人のあまりの仲の良さに半ば呆れながら、それでも、いつものように話していた。

 何があったかなんて、聞かなくても分かるし、聞く気も無かったから。

「シンジっ!」

 そう叫びながら教室に入ってきた豊に、3人は目を向ける。

 豊の顔はなんだか真剣で、今にも泣きそうだった。

「おぉ、オハヨ……」

「シューヤと寝たってホントなのっ!?

 軽く挨拶をしようとしていた信史の動きが止まる。

 秋也は目を見開き、弘樹は頭を抱えた。

 クラス全員の目が二人に向いて。

「寝たぁッ!?

「嘘でしょっ!?

「七原君、三村君に食べられちゃったのっ!?

「三村ぁぁっっ!お前、なんて事をっ!?

「えぇぇっっ!?

「秋也……!!

 数々の声が、二人に向けられて。

「ゆ、豊……何言って……?」

 さすがに動揺したのか、信史が切れ切れに尋ねる。

「朝、郁美ちゃんから聞いたっ!」

 豊はそう叫んで、本当なの、と詰め寄ってくる。

 信史の脳裏に、朝の郁美の言葉が思い出された。

 

『良い一日になるといいね』

 

 郁美の、満面の笑み。

 あれは、こういう意味だったのか。

 秋也の顔が、青ざめているのが分かる。

「郁美ぃぃぃぃぃっっ!!!!!!!」

 信史は思わず叫んでいた。

 敵にまわしたら一番怖い、身内の名を。

 クラス全員の目が痛くて。

 明らかに、怒っている奴もいて。

 一人、秋也を守りきる自信はあったけれど、さすがに女に手は出せないし。

「七原、逃げるぞっ!」

 まだ何が起こったのか分かっていない秋也の手を掴んで、信史は教室から飛び出した。

「シンジーっ!!

 後ろの方で、クラスメイト達の怒号が聞こえたけれど。

 無視をして、廊下を走り抜ける。

 朝の教室へ向かう人の波を、逆走していく。

 手を繋いだまま走っていく二人に、周りの視線は集中していたけれど、気にしなかった。

 途中で出会った先生の声も無視して、二人で外に飛び出す。

 

 大丈夫。

 二人なら、なんだって大丈夫。

 切り抜けられる。

 だってまだ、始まったばかり。

 

 

「三村っ、どこ行くんだよっ!?

「どこまででも!」

「はぁ!?

 

 

 二人の恋は、前途多難――

 だけど、二人一緒なら。

 

 

 

「行けるトコまで、行きましょうっ!」

 

 

 

END.

 


そんなわけで(どんなわけで?)『FIRST』シリーズ最終話です。
最後までずっと終わらせ方を悩んでいて。
思ったよりも人気のあった郁美ちゃんが、勝手に動いてくれた結果になりました。
7話とこの話の間には、当然あるべき事があるわけで。
それは書くつもりなのですが、やはり、裏行きになっちゃうんですよねー…
ずっと読んで下さった方々には、とても申し訳ないと思ってます…(なら書くな)

『FIRST』シリーズ、なかなか好評で、嬉しかったです。
次のシリーズは、三村の葛藤などを書きたいと思っていますので、またお付き合いくだされば幸いです。
2ヶ月もの間、ありがとうございました!