光の渦

 

 

 例えば、その、無邪気な笑顔とか。

 例えば、その、華奢な体とか。

 例えば、その、素直で綺麗な心とか。

 全部、全部閉じ込めて、俺だけのものにしたい。

 それは、俺には無いもの。

 眩しくて、目がくらむ。

 近くに置いてみたら、俺も綺麗になれるかな。

 

 

 秋也はゆっくり屋上の扉を開けた。

 一般生徒は立ち入り禁止になっているのだが、そんな事を守っている奴の方が少ない。

 だから、誰かいるかもしれないと思い、そおっと覗いてみる。

(良かった。誰もいない)

 秋也はほっとして扉を閉めた。

 手には、愛用のギターを持っている。

 いつもなら、音楽室で弾けばいいのだが、今日は他の部活が使うという事で、それが出来なかった。

 それでも、今日はなんとなく弾きたかったのだ。

 それから、なんとなく、叫びたくなって。

 弾きながら、高い声で、頭の上から声を出す。

 もしかしたら、グラウンドで部活をやっている連中には聞こえたかもしれないが、特に気にはならなかった。

 誰に聞かれたって――

「七原クンたら。色っぽい声出しちゃって」

 突然した、からかうような声に、秋也は慌てて振り返る。

「三村……!なんでここに……」

「何でって……人のお昼寝の邪魔したのは七原の方なんですけど?」

 どうやら信史はずっとここにいたらしい。

 確かめた時には見えない位置にいたのだろう。

「でも、良いじゃん。もっとその声出して。俺、感じちゃうかも」

 ニヤニヤと笑いながら信史が近付く。

 秋也は思わず身を引いた。

 それを見て、信史はくすっと笑う。

「何?警戒してんの?」

 信史の視線から目をそらし、秋也はギターを握る手に力を込めた。

「ギター、弾きに来たんじゃねぇの?」

「……いい。今日は、もう帰るから」

 体が震え出しそうだった。それを、信史に気付かれるのも嫌で。

「俺が怖い?」

 信史は笑いながら尋ねた。ビクッと、秋也の体が震える。

「別に……」

 決して合わせようとしない目線。

「怖いよなぁ?また、あんなコトされたら嫌だし?」

 秋也は、思わず自分の体を抱きしめるように腕を回す。

「それならさ、さっさと帰るべきじゃねぇ?俺に、捕まるよ?

 ――それとも、捕まえて欲しい?あの時みたいに」

 明らかに怯えている秋也が、そこにいた。

 信史は秋也の腕を強く掴むと、自分の方に引き寄せた。

「七原、逃げる気あんの?」

 耳元でそうささやくと、秋也は信史の体を腕で押してきた。

「……っ……放せよ……!」

「何で?俺のこと、好きって言ったじゃん」

「ちがっ……!俺はっ、そういうつもりじゃなかった!」

 思い出しているのだろうか。秋也の目に、あの時と同じ、恐怖の色が見えた。

「じゃあ、どういうつもりだったわけ?七原は俺を好きで、俺も七原が好き。
 だから――」

 

 

 だから、嫌がる秋也と、無理矢理体を重ねた。

 

 

「違うっ!」

 秋也はそう叫んで耳を抑える。

「何が?好きだったら当然だろ?」

「ちが……」

 違う、と何度もつぶやいて、秋也は信史から離れた。

「俺のこと、嫌いなんだ?」

「そんな事言ってないだろ!俺はっ……俺は……」

 言葉が続かなかった。

「俺は、ただ……三村が好きで……だから……」

「だから、愛を確認しただけだろ?」

「違う……よく、分からないけど、三村のは、違った」

 それは、愛を伴う行為ではなく、ただの暴力のようで。何の感情もこもっていない気がした。秋也には、それが怖かった。

「ふぅん。じゃあ、教えてくれよ。七原が言う、『好き』って何?俺は、目に見えるものしか信じないけど」

 困ったような、悲しそうな秋也の顔。

 何を言いたいのか。何を伝えたいのか。分からなくて。ただ、信史を見つめる事しか出来なくて。

 ――どうしたら、伝わる……?

「俺は、七原が好き。だから、抱きたいと思う。簡単だろ?」

 信史は、そう言って秋也にキスをした。

 制服を脱がすために手が伸びて、体を支えるために壁に押し付けて。

 秋也は抵抗もせずに、じっとしていた。

 

 

 

「何で、痛いって言わねぇの?」

 信史は、無理に秋也を突き上げながら言った。

 わざと痛くしているはずだった。

 こんな行為に慣れていない秋也の秘所からは、赤い血が流れているのに。

 秋也は、じっとこらえるように、唇を噛んでいた。

「……み、むらの方が、痛そうだ……からっ……」

 かすれた声でそう言われ、何故か優しく微笑まれて。

 信史は、戸惑った。

「俺は、痛くなんか……」

「すげ、痛そう……何が、そんなに辛いんだ……?」

 なんだろう。この気持ちは。

 いろんな女の子と、いろんな事をして。

 支配欲は満たされても、罪悪感を覚える事なんて無かったのに。

「三村……好きだ、よ」

 綺麗で。眩しくて。溶けてしまいそうだった。

 気が付くと、涙なんていうものが流れていて。

 信史はそれを隠そうと、乱暴に秋也に打ち付けた。

 

 

 

 痛みのせいか、気絶してしまった秋也の髪を撫で、信史は小さく息を吐いた。

「ごめんな、七原……」

 表現の仕方が分からなかった。

 生まれて初めての、感情。

 支配したくて、独占したくて、汚したくなって……

「ん……」

 気がついたのか、秋也がうっすらと目を開ける。

 信史は、何故かビクッとしてしまった自分に気付いた。

 これは、恐怖?

「……三村……」

 けれど信史を呼ぶ秋也の声は、いつもと変わらない。

 目だけが、いたわるように信史を見ていた。

 大丈夫かと、尋ねるように。

「……七原ってさ、作曲とかはしないわけ?」

「……え?」

 突然そんな事を訊かれ、秋也はまだボーっとしている頭で考えた。

「あー……楽譜……読めても書けないんだ。漢字と一緒」

「ふーん、そんなもん?」

「三村だって、数学得意でも、問題作るのは得意じゃないだろ?」

「んにゃ。俺は何でも出来るから」

「あっそ」

 例えば、こんな風に会話をしているだけで、なんだか満たされた気がするとか。

 体を重ねなくても、伝わる想いがあるのなら。それって、なんて言うんだろう。

「俺、七原好きかも」

「……『かも』?」

 不満そうな秋也の顔を見て、信史は笑う。

 これを「好き」と呼ぶのなら、今までのはなんだったのか。

 そんな事を考えて、自分に笑う。

 

 

 例えば、その、太陽のような光に溺れてみたら。

 何か、見えるのかな――

 

 

END.



キユに捧げたss第4弾!
チャットでお話している時に、「黒エロが読みたい」って話になったので、「それなら書きましょう!」と、書かせて頂いたもの。
これを「黒エロ」と言うか、私…(汗)
キユのサイトでは裏に置いてもらってたんですが、うちの裏はアドレス申請式だし、そこまでして隠すほどのものでも無いので、表に置いてます。
結局ラブラブな二人になってしまうので、いつかもっとちゃんとした「黒エロ」に挑戦したいと思っています。37では無理かもしれないですが…
ちなみに、「読めても書けない。漢字と一緒」という言葉は、電車に乗ってた知らないにーちゃん達が言ってた言葉です。何の話してたんだろう…?

加筆修正しました(2・3)