幻星

 

 

「あ。流れ星……」

「えっ!?」

 ふと見上げた夜空に、流れる星を見つけたのは、ただの偶然だった。

 信史は、綺麗だなと思いつつ、それを口にしてみただけで。

 自分の隣で、必死になって空を見ている秋也に苦笑した。

「もう見えないって」

 そう言うと、秋也は軽く拗ねたような顔をして、信史を睨んだ。

「何でもっと早く言ってくれないんだよ?」

「俺が見つけた時点で、どんなに早く言ったって、七原には見られなかったと思うけど?」

 信史の言葉に、秋也はぐっと言葉を詰まらせる。

 流れ星を見る事が出来る時間なんて、ほんの数秒に過ぎない。

 だから、それは確かにそうだとは思うけれど。

「それでも……俺だって、見たかったのにさ」

 秋也は、もう一度空を見上げて、流れ星を探す。

 けれど、そんなに簡単に見つかるようなものではない事も、分かっていた。

 諦めたように視線を落として、指を絡めるように繋いだ手へ力を込める。

「三村のばーかっ」

 信史だけが流れ星を見た事が、ちょっと悔しかった。

 彼には何の責任もないと分かっていたって。

 信史はふっと笑って、秋也の手を握り返した。

 ちょっと強めに握り返すと、秋也の顔が微かに歪む。

「三村、痛いっ」

 絡めた指が食い込んで、骨に当たって。

 少しだけ痛かったから、軽く睨んだ。

「ん〜?」

 とぼけたふりをして、信史は秋也に微笑みかける。

「いや、七原の手を握っていたくてさ」

 ホントは手だけじゃなくて――なんて言葉を飲み込んで、握った手に更に力を込めた。

 秋也は一瞬面食らったような顔をして、それから、笑った。

「じゃあ俺も同じっ」

 同じようにぎゅぅっと力を込めると、今度は信史の顔が歪んだ。

「イテっ……」

「三村の手を握っていたいんだよ」

 信史の真似をしてそう言い、にぃっと笑うと、信史は口の端を吊り上げた。

 挑発してくれちゃって。

「ほぉぉ。そういう事言って良いわけだな」

 繋いだ手に、更に力を込めて。

 それが、自分の手すらも痛める事を知っていながら。

 2人して、強く強く、手を絡ませた。

 

 

 

 秋也は、繋いでいた手を離して振りながら、信史の方を見る。

「ムキになっちゃって、まるで子供みてぇ」

 痛かったけれど、なんだか楽しかった。

「同じ言葉を、そっくりそのまま返してやるぜ」

 赤くなった手を見ながら、信史が答える。

 負けず嫌いはお互い様。

 不毛な争いだと気付いてはいても、譲れないものはある。

 とても、くだらないものだとしても。

 それは多分、本人達にとってはくだらなくない事だから。

「三村っ、ほらほら、オリオン座!」

 秋也が突然、空を見てはしゃぐ。

 信史は、それを見て笑う。

 多分、星なんかよりも、こうして一緒にいられる事が、嬉しいんだと思う。

 そんな気持ちが、あまりに嬉しくて。

 信史は秋也の頭に手を置いた。

 くしゃくしゃっと撫で回すと、秋也は首を傾げる。

「何?また子供扱いかよ?」

「いや、そうじゃないけど」

「けど?」

 続きを待っているかのような秋也の目を見て、信史はまた、笑みがこぼれた。

「で?どれだって?オリオン座」

 誤魔化すように空を見ると、ひときわ輝く、並んだ三つの星が見えた。

 それが、オリオン座の中心である事を知っていながら、信史は知らないふりをする。

 得意げに、オリオン座について説明する秋也が、可愛かったから。

 

 

 

「星ってさ……」

 ゆっくり歩きながら、夜空を眺めて。

 繋いだ手の温もりを感じながら。

 秋也は言った。

「今、こうして見ててもさ、その星が、今現在そこにあるとは限らないんだよな」

 そこで、言葉を区切って。

「言ってる意味、分かる?」

 不安そうに信史を見た。

 自分が言いたい事ははっきりしているのに、上手く言葉に出来ない事がもどかしかった。

「なんか、詩人みたいだな」

「茶化すなよ」

 悪い。そう言って、信史は続きを促した。

 けれど、秋也には、それ以上の話があったわけではなくて。

「なんか、不思議だよな……」

 そう言って、黙り込んだ。

「七原?」

 信史が、不思議に思って顔を覗き込むと、秋也は言いにくそうに、言葉を紡ぐ。

「なんて言うか……

 例えば、自分が死んだとして、さ?例えばだけど」

「あぁ」

 “例えば”を繰り返す、秋也が可愛いと思った。

 死ぬ、なんて。

 きっと考えたくもない事なんだろう。

「自分が死んだ後もさ、自分がそこにいた証みたいなものを、誰かが見る事があるなら、それって、なんか良いなって……」

 秋也は、照れたように頭を掻いた。

「誰かが、自分の残した物を、綺麗とか言ってくれるなら、幸せだろうな、とか……」

 言葉が上手く出てこなくて、秋也は困ったように空を見上げた。

「何が言いたいのか、よく分かんないけど……」

「なんとなく、分かるような気がするから」

 信史は微笑んで、繋いだ手に優しく力を込めた。

「何か、残れば良いよな」

 信史の言葉に、秋也はほっとしたように微笑み返す。

「何か、残そう」

 例えばそれが、思い出だけだとしても。

 残った物が、輝き続けるというのなら。

 ここにいた事は、きっと間違いなんかじゃないから。

 それが、流れ星のように、一瞬のものでも。

 誰かの目にとまる事があるのなら、それは、幻なんかじゃないはずだから。

 

 

 

 

 

 例え、いつかは消えてしまっても――

 

 

 

 

 

END.



久々のss更新です。
それが何故か、サイト名…(汗)
これは、最近更新をサボりまくっているにも関わらず、サイトに遊びに来て下さっている方への、
感謝の気持ちを込めて書いたモノだったりします。
それがこんなんか…ともちょっと思ったりするんですが、とにかく、色々気持ちは込めてみました。
上手く言葉に出来ない事が多くて、何が言いたいのかよく分からなかったりもするけれど。
ただ今は、頑張ろうと思っています。