笑顔

 

 

 そりゃあ、出会ってまだ間もないわけだから?

 ずっと一緒に暮らしてきたって噂の奴と同じように接してもらえるなんて、思っちゃいない。

 出会った瞬間に打ち解けて、まるで十年来の親友のようになれる関係だってあるとは思うし、良いとも思うけど。実際、七原と三村なんか、まさにそれだろう。杉村だって同じかもしれない。……だけど。

 俺達は違うし、だから、仕方のない事。

 ただ、無力さを感じる。自分の力の無さ。何も出来ない事に。どうすれば良いかも分からない、焦燥感に駆られて。

 

 それは、薄い壁。

 

 気まずさを感じているのは、俺だけじゃないはず。だって、言ってたもんな?

「七原、俺といるの、気まずいわけ?」

 そう聞いた俺に、少しだけ言いにくそうに。けれどはっきりと。

「新井田と二人きりってのは……気まずい……」

 あぁ、分かってる。そんな事分かってる。

 素直に口に出せるって事は、少しは打ち解けてくれてるんだろうって事も。その言葉が、紛れも無い本心である事も。

 俺はその気まずさを取り除こうと、努力してる。

 それなのに、から回って。

 余計に壁を厚くしてるだけじゃないだろうか、なんて思いつつ、遊びに誘ってみたりとか。別に二人きりでって言ってるわけじゃないし、特に下心があるわけじゃない。

 それなのに、七原は頷かない。

 あぁ、分かってる。それでも気まずいんだろ。それに、お前、忙しそうだしな……

 多分、部活か何かなんだと思う。バイトをしてるってワケじゃなさそうだし(七原に限って、それはない)、勉強してるってワケでも無いだろう。

 それとも何か。俺と遊んでる暇はない――か?

 

 呆れるくらい、自信が無い。

 

 こんな考え方は嫌だし、もっとストレートにぶつかれば良いと、俺だって思う。

 でも出来ない。

 ただの友達でも、なんとも思っていない奴にでも、普通に接する事が出来るのに、七原に話し掛ける時、壁を作ってるのは多分。

 ――俺の方なんだと思う。

 何を話して良いのか分からなくなって。頭の中がおかしくなる。

 言うはずの無かった言葉や、触れないと決めたはずの話題を出して。後悔するくせに、止められなくなる。

 

 ただ見つめて、苦しくなる。

 

 七原はやたらと鈍感らしくて、俺が見つめていても絶対に気付かない。教室でも、どこでも。俺は七原の姿を探して、つい視界に入れてしまうのに、七原と目が合う事は決して無い。七原が俺を見ていない、証拠。

 分かってる。

 俺は三村みたいに楽しい話なんか出来ないし、俺と話してたって、七原は面白くないだろうなって事も。

 俺と話してる時はそんなに笑わない。

 

 やっぱり、嫌われてんのかな。

 

 分かってる。俺じゃ駄目なんだって事。

 七原は気付きもしない。俺がこんなに苦しんでる事。

 でも、七原のせいじゃない。俺の勇気が無いせいだ。

 

 ただ、笑顔が見たいだけなのに――

 

 笑わせたいと思った。楽しませる事が出来れば良いと思った。楽しい話も、面白い事も、何も言えないけど、笑ってる顔を見るのが好きで。それでも、俺以外の奴と話してる時の笑顔は嫌で。

 そんな事がわがままだと、分かっていながらどうしようもない。

 どうする事も出来ない。

 好きだと伝える勇気も無いくせに。

 話し掛けて拒絶されるのが怖くて。周りの目を気にして。

 それでも好きで、どうしようもなくて。

 七原以外の奴だって、構わないはずなのに。

 第一、七原は男だ。

 男を相手にするよりは女の方が良いに決まってるし、千草貴子なんて、最高じゃないか。

 だけど、それでも俺は七原を見てる。

 他の奴なんてどうだって良い。

 七原の笑顔だけが特別で、七原の心だけが気になるんだ。

 認めたくなくても、事実なんだから仕方ない。

 七原を好きなこと、認めたってどうにもならないけど。

 どうする事も出来ないけど。

 だけど認めるしかないじゃないか。

 

 

 

 ただ君が、俺に向かって笑ってくれるなら、最高――

 

 

 

 多分それは、どんなに願っても叶わない事なんだろうけど。

 

 

END.



7777HIT記念という事で、もうずいぶん前から書いていたのですが、結局幸せのひとかけらも感じさせる事の出来ないまま、新井田の独り言は終わっていくのでした。
もうちょっと、幸せにする事が出来れば良かったかな、と思うのですが、スランプというやつなのでしょうか…幸せな話が書けません(苦)
新井田が、凄く乙女な思考をしているのは、恐らく作者のせいだと思われます…
恋する乙女、新井田(笑)
やはり、片思い話は新井田か充か竜平で!(こだわり?)
七原の性格が思いっきり違う気がするんですが、そこには触れないで下さい…(涙)