大好き。

 

 

「七原、キスしようぜ」

「ヤダ」

 あっさりと断られて、信史は一瞬沈黙する。

 断った本人は、何やら真剣な顔をして、机の上の辞書と向き合っていた。

 放課後の教室に二人きりなんて、絶好のシチュエーション。

 この状況で何もしない方がどうかしているというのに。

「恋人よりも、宿題が大事?」

「大事」

 拗ねたような信史の言葉にも、秋也は顔を上げず、シャーペンを動かしていく。

 信史はそれを目の前の席に座りながら、眺めていた。

 秋也は信史がいる事を気にも留めず、黙々と宿題をこなしていく。

「明日とかにやれば良いじゃん」

「良くない」

 明日は土曜日で、休みの日。

 帰ってから家でやる事も、土日に済ませる事も、簡単に出来るはず。

 特に、秋也の得意科目である国語なら、尚の事。

 それなのに秋也は放課後に済ませて帰ると言い張った。

「何で?」

「……」

 信史に返事をするのも面倒臭くなったのか、秋也は何も言わずに宿題を続けた。

 今度から入るところの、新出漢字練習。

 教室に置きっぱなしの辞書で意味を調べ、ノートに書き写す。

 面倒臭いけれど、集中してやればすぐに終わる事。

「七原ぁ」

 構って欲しい信史は、秋也を呼ぶけれど、彼は自分の世界に入り込んで作業を進めていく。

「七原ってば」

 返事をしない秋也にムッとして、信史は席を立った。

 それから、無理矢理秋也の顔を自分に向ける。

 驚いたような秋也の顔。

 胸倉を掴んで、強引にキスをした。

「っ!!」

 秋也はカッとして、信史を突き飛ばす。

「バカっ!邪魔すんなよっ!」

「邪魔!?お前、そういう事言うわけっ!?」

 好きな人に邪魔扱いされれば、さすがに傷付く。

 けれど落ち込むのではなく、信史はそれを怒りという形で示した。

「それならとことん邪魔してやるよ」

 二人の間にあった机を乱暴にどかして、信史は秋也に再びキスをする。

 辞書も教科書もノートもペンケースも。

 全部が床に散らばって、音を立てた。

 抵抗する秋也の体を押さえつけて、更に深く口付ける。

「……ばっ……やめっ……!」

 秋也の声も無視して、制服を脱がそうと手をかけた瞬間。

 ドカッ!

 ――蹴られた。

「ってぇ……!」

 腹部に膝蹴りを入れられて、信史はうめいた。

 さすがにそういう事をされるとは思わなかったらしい。

「何すんだよっ!」

 信史がそう言うと、

「何すんだはこっちのセリフだっ!!」

と、すぐに言い返される。

 多少息を乱した秋也は、真剣に怒っているようで。

 信史はムッとしたまま蹴られた腹をさすった。

 秋也は無言で散らばった物を拾い、机を直す。

「そんなに勉強が大事かよ」

 吐き捨てるような、信史の言葉。

 さすがに頭に来たのか、秋也はバンっと机を叩き、信史を睨みつけた。

「俺のこと、嫌いなわけ」

 信史は睨まれながら言った。

 できるだけ感情を込めないように、冷たく言った。

 ――泣いてしまいそうで。

 秋也はすぅっと目を閉じて、一度大きく深呼吸をする。

「もう、お前バカ。すげーバカ。救いようの無いバカ」

 そう言ってから目を開けて、信史を見た。

 今度は睨みつける事無く、いつもの優しい目で。

「バカってなんだよ」

 ムスッとしたままの信史は、秋也の目つきが変わった事にも気付かない。

「誰のために頑張ってると思ってんの?」

「は?」

「三村と土日一緒に過ごしたいから、さっさと宿題終わらせようとしてんじゃんか」

 秋也はそう言って、椅子に座った。

 それ以上何も言う気がないのか、ノートを開き、さっきの続きから始める。

「七原……」

「……三村もやれば?」

 秋也の言葉に、信史は笑った。

 嬉しそうに笑って、椅子に逆向きに座り、頬杖をつく。

「七原、大好き」

「俺も大好き」

 秋也は顔を上げる事はなかったけれど、それでも良いと思えるくらい、信史は幸せだった。

「あ」

 しばらく信史が秋也の顔を見つめていると、秋也は少し困ったように声を上げた。

「どうした?」

「シャー芯、全部折れてる……」

 

 

END.



無性に37が書きたくなって、思いつくまま書いたss。所要時間40分(笑)
七原は基本的に姫なんですけど、私が最初に書いた七原は男の子な感じで。
今回も、男の子チックにしてみました。おかげで三村が情けないと言うか…
ちょっとつれない七原っていうのも、書いてみると楽しいです。
三村苛め…?

それにしても、私ワンパターンだな…
放課後の教室&宿題ネタ…