これはどうしたものだろうか。
普通に声をかけるべきか、それとも黙って立ち去るべきか。
立ち去るなら早いほうがいいが、それでは用事が済ませない。
明日提出期限のレポートだ、出来るだけ早く持って帰りたいのだが―・・
杉村がそんなことを考えていると、教室の中にいる三村があ、と声を上げた。
机に座っていた七原が、三村の視線を追って後ろを向く。
すると、七原の顔色はみるみるうちに青くなっていった。
慌てて三村から離れると、しどろもどろでまくしたてる。
「あ、あの、ちが、違うんだ!今のは、ほら、ええと・・」
「何が違うわけ?キスしてただけじゃん」
「!!!・・・・・ば、バカ三村っ!」
七原はどん、と目の前の三村を突き飛ばすと、杉村とは反対側のドアからばたばたと逃げ出して行った。
しばらく響いていた足音が消えた後、三村はやれやれと肩を竦め、机にひょいと腰をかけた。
真後ろにある開け放した窓からの風で、彼のシャツがばたばたとゆらめく。
「あーあ、怒らせちゃった」
「・・行かなくていいのか?」
「大丈夫大丈夫、そのうち戻ってくるよ」
ひらひらと右手を振ってみせる三村を見ながら、杉村は自分の席へと向かって行った。
とにかく用事を済ませないことには帰れない。机の中を探りながら、ほとんど無意識にぽつりと呟いた。
「七原のことなら何でもわかる、って?」
三村は一瞬おやと目を瞬かせた。
そして、口の端だけを上げて笑うと、杉村のほうを覗きこむように身を乗り出し、楽しげに言った。
「お前、妬いてるだろ」
「・・誰が、誰に」
「お前が、俺に。俺が七原と仲いいもんだから、妬いてんだろ」
杉村はゆっくりと立ち上がり、三村を正面から見据えた。
三村は怯む様子も見せずに腕を組むと、楽しそうに肩を揺らした。
図星だろう、と言って指を指し、唇に笑みを残したまま、言った。
「残念だったな杉村、一足遅かったぜ。こないだっから、あれは俺のなの」
「・・・・だから、何だ」
「あれ、今更違うとでも?」
杉村は黙って三村を見返した。肯定と受け取ったのか、三村はくつくつと声を殺して笑った。
何処か自嘲的な、押し殺した笑い声。
何がおかしい、と杉村が問うと、三村は目線だけを上に上げて杉村を仰いだ。
「いくらお前でも、あいつはやれないの。悪いな」
「・・人から奪ってまで欲しがるような性格じゃないんだ、生憎」
「本音が出たじゃねぇか。そうだな、それがいい」
俺を敵に回すと厄介なことになるぜ、と言って三村は笑った。
こいつはよく笑うが、本気で笑っているところは殆どといっていいほど見たことがないな―・・
杉村はふとそう思った。
いつだって何かを隠しているような態度で、一歩後ろに下がって周りを眺めている―・・そんな男。
三村はひょいと机から降り、突っ立っている杉村の真横に来て、肩に手を置いて呟いた。
「俺は独占欲が強いんだ。少しでもあいつに手出ししたら―・・」
そこで言葉を切った三村を見ると、彼は目を僅かに伏せてにいと笑った。
杉村の肩をぽんと叩くと、そのまま教室のドアへと向かって歩いて行く。
その腕を、杉村がさっと捕らえた。
不審な顔をした三村が、ゆっくりと振り返り、何、と短く言った。
杉村は若干下にある目線をゆっくりと見下ろし、言った。
「お前から、あいつを奪おうとは思わない」
「それはさっき聞いたぜ。何なんだよ」
「・・・・でも」
再び何事か問おうとした三村の口が、杉村のそれで塞がれた。
突然のことに驚き、三村は目を見開いたまま固まってしまった。
動かない彼の体とは別物のように、シャツだけが風に煽られてばたばたと音を立てた。
ほんの一瞬か、それとも長い間だったのか―・・
唇が離れると、杉村は三村を見据え、まるで目の前の男の仕草を真似するかのように笑み、言った。
「あいつが俺に傾いたら―・・それは仕方ないよな、三村?」
三村は目を見開き、手の甲を顎に当て、視線を泳がせた。
いくら第三の男といえど、この状況は予測できなかったのか―・・
とにかく、悔しげに杉村を睨みつけて、搾り出すように呟いた。
「・・てめえ、何で・・・・・」
飄々と鞄を持ち、教室を出て行こうとした杉村が、ちらと後ろを振り返った。
三村の様子を見てふと笑うと、そのまま、まるで見せつけるかのように唇を舐めてみせ、言った。
「間接キス、だな」
「・・・・・・!!」
三村は思わず唇を手のひらで覆った。
杉村はさっと向きを変えると、何事もなかったかのように教室を出て行ってしまった。
がらんとした教室の中、三村は急に脱力感を感じ、ずるずると床に滑るように座りこみ、呟いた。
「・・ちっくしょ・・・・・」
そのとき、急に響いたドアの開く音に、三村は反射的に顔をばっと上げた。
先ほど杉村が出て行ったのとは違う扉から覗く、見慣れた顔。
―なんだ、七原か―・・
三村はそう思うと、ふと眉をひそめた。
―・・ちょっと待て、七原が来たのにどうして「なんだ」なんだよおい―・・
七原はさっと教室を見回し、三村しかいないのを見て取ると、頭をぽりぽりとかきながら言った。
「あれ、杉村は帰ったの?・・ったく・・所構わずああいうことするなよなお前、たまたま杉村だったからよかったものの、新井田あたりだったらどうなると―・・って、三村?」
三村のそばに歩いてきながらぶつぶつ言っていた七原が、座りこんでいる三村の顔をひょいと覗きこんだ。
そして、彼の真ん前にしゃがみこむと、じっと顔を見て言った。
「どしたの、お前顔真っ赤だぞ」
三村は顔を俯かせたままぷいと横を向くと、ごく小さな声で、煩い、見るなと呟いた。
―・・・・夕方の強い風で、カーテンがふわりと教室を舞った。
→真夙あさこさんのリク、「杉七設定で37に嫉妬する杉」
大分お待たせしまして申し訳なく(深々)
37に嫉妬→おまけに杉七→どうせだから三角関係
つーわけでタイトルが「トライアングル」・・安易ッスね。
ホントは「絶体絶命」にしようと思ってました。
その人と私のどちらを選ぶの〜♪・・百恵ちゃん。
知名度低すぎそうなのでやめましたが。
ではでは、お待たせしましたv真夙さんに捧げます。