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日常−春− ざぁっと、風が吹いて。桜の花びらが、舞った。 帰り途中だった秋也達は、それを一斉に見る。 ――ああ、綺麗だな。 信史はそんな風に思って、目を細めた。 雪のようにも見える、桜の花びら。 始まりの花。そんな気がする。 「三村っ、パス!」 突然の声と共に、自分の方へ投げられた鞄を受け取る。 しっかりキャッチ出来るところが、さすがザ・サード・マン。なんて自分で思いながら、鞄の持ち主に向かって声をかける。 「おい、七原?」 秋也は鞄を放り投げたと同時に駆け出していた。 桜の花びらの中へ。 それを見て、豊と慶時が顔を見合わせる。 同時に笑い合って、秋也と同じように駆け出した。 「シンジっ、これもっ!」 「よろしく三村!」 もちろん、信史に向かって鞄を放り投げてから。 教科書の入った鞄が二つ。 ひとつは片手でキャッチしたものの、自分の鞄と秋也の鞄。既に二つを持った手で、もうひとつは受け取れなかった。 「ぶっ……」 豊の鞄が、信史の顔面にぶつかってから、地面に落ちる。 それを見て、弘樹が微かに笑った。 「……杉村。何でお前の方には飛んでこないわけ?」 「さぁ。日頃の行いじゃないか?」 言いながら豊の鞄を拾い上げ、ついた土を払う弘樹。 信史はぴくんと眉を上げ、弘樹を見る。 赤くなった信史の額を見て、弘樹はまた少し笑った。 「豊ァ!!わざと顔面狙ったな!」 「あっはははは。シンジならキャッチ出来ると思ったんだよー」 豊は笑って、花びらを夢中で追いかけている。 3人で花びらに向かって飛び跳ねて、手を伸ばして。 彼等が花びらを掴もうとしているのに気付いたのは、少ししてからだった。 歓声を上げた秋也が、そのまま信史の元へ走ってくる。 「ほら三村っ!取れた!」 手の平に一枚の花びらを乗せて、秋也は満面の笑みを見せた。 「はーいはいはい。良かったなー」 信史は馬鹿にしたように秋也の頭をわしゃわしゃと撫でて、鞄を突き返す。 「もう良いだろ?自分で持てよ」 突き返された鞄を受け取ろうとせず、秋也は首を傾げた。 「あれ、三村知らないの?」 「何を」 「桜の花びらって、地面に落ちる前にキャッチ出来たら、願いが叶うんだぜ?」 「だからどうしてそういう根拠のない事を信じるんだお前は」 「うわ。またそういうロマンのない事を」 「いや、ロマンとかそういう問題じゃなくて」 「夢がないなぁ三村」 「理論的に説明出来ない事に夢中になる事が夢だっていうなら、ないかもしれないな」 「中学生のうちからそんな事言ってると、禿げるぞ?」 秋也はそう言うや否や、また桜の花びらの中へ駆け出した。 押し殺すような弘樹の笑い声で、信史は我に返る。 「杉村」 「ん?」 「パス」 問答無用で弘樹の腕に鞄を三つ押し付けて、信史は走り出した。 「七原ァ!!」 名前を呼び、振り向く前に肩に手をかける。 そのままの勢いで、秋也の背中を踏みつけ、ジャンプした。 豊や慶時が唖然とした顔で見ている。 信史は更に2回ほど宙返りをしてから、綺麗に着地した。 踏み台にされた秋也が、背中を抑えながら恨みがましい目つきで信史を睨む。 「曲芸師かお前はっ!?」 「何言ってるんだ七原っ。漫画の俺ならこれくらい朝飯前だぜベイベっv」 「語尾にハートマークをつけるなっ!」 「まぁそういうわけで、ほら」 まだ文句を言い続けそうな秋也の目の前に、信史は右手を突き出す。 そこには桜の花びらが握られていた。 「これで、俺の願い事も叶うはずだよな?」 「うっ……」 ニヤリと笑う信史に、秋也は何も言い返せない。 「じゃあ七原クンに俺の鞄を家まで持って帰って貰うのが願いなんだけど―― 当然、叶うよな?」 「そ、そんなつまんない願い……」 「あっそう。じゃあもっと過激な事でも良いんだけど?」 「……持ちます」 秋也はがっくりとうなだれて、弘樹から自分の鞄と信史の鞄を受け取った。 「ああ、そうだ。七原」 「まだ何かあるのかよ」 「俺、年取っても禿げないと思うぜ」 信史の言葉に、秋也も弘樹も、豊も、慶時までが笑う。 そういう、根に持つ所が―― 「ぜーったい禿げる!ハゲになったら笑ってやるからなっ!」 秋也はそう言って、駆け出した。 すぐに信史が追いかける。 「気にしてるんだね」 ぼそっと豊が呟いて、弘樹と慶時が同時に吹き出した。 禿げるくらいの歳になるまで、ずっと。 一緒にいられれば良かったのに。 END. 37…?じゃないと自分では思うんですが。 『修学旅行』に続く、どノーマルな話。 桜の花びらを地面につく前に掴めると願い事が叶うっていうのは…私が中学生の頃に本当に言われていた事で、一生懸命飛び跳ねながら取ろうと頑張ったものです。 誰が言い出したのかは分かりませんが。 彼等も中学生なんだよなぁと、改めて思ってみた今日この頃。 夜桜を見ながらこんな事考えてたわけじゃないです。電車の中から桜を見ながらこんな事考えてました。(変わらないって) この話で1番書きたかった所は、三村の宙返りかな。 漫画の三村ならそんな事してくれそう。くすっ。とか思ってしまった私はもう駄目かも。 これ、題名見れば何となく分かりますが、実は『日常。−冬−』も存在するのです。 もう2年ほど前に書き始めて、まだ書き終わっていない冬。 冬終わっちゃったから、もう春で良いや、みたいな…あはは。 今年は夏、秋と、書いていけたら良いですね。こんなノリで。 三村と七原が目立っている、5人のお話。たまにはこんなのも、いかがでしょうか。 |