お前が俺にした事を、俺は決して忘れない。

 

 

SiLENce MOrNing

 

 

 クス、と。

 真っ赤な唇を笑みの形にして。

 光子は立ち上がる。

 細く、すらりとした体に纏うのは、たった1枚の白いシーツ。

 窓辺までそのまま歩いて行って、外を見る。

 2階の窓から見下ろす景色。

 静かな朝の訪れ。

 周りには他に家もなく、庭と緑が広がったその場所に、人影を見つけて。

 記憶を頼りに、曜日を割り出す。

 今日は確か月曜日。

 ハウスキーパーが来る日では、ない。

 という事は。

 くるり、と反転。

「三村」

 まだベッドに横たわっている男に声をかけた。

「……何?」

「お客さん」

 白いシーツと、黒い髪と。真っ赤な唇。

 朝日を背にした光子を、少し眩しそうに見つめてから、信史は体を起こした。

「こんな、朝っぱらから?」

 真っ直ぐに、光子のいる窓辺へと歩き、彼女の折れそうな腰に手をかける。

 唇へ軽いキスを落としながら、外を見た。

 外からは見えるはずのない、特殊ガラスの向こうから。

 人影は、隠そうともしない殺気を込めた目で、じっとこちらを睨んでいる。

 信史は、思わず笑い出しそうになった。

 まさか、本当に。

 本当に来るなんて。

「相馬」

「何?」

 自分の腰を支える手に、力がこもったのが分かって、光子は少し不思議そうな顔をする。

「俺はこれから、殺されるかもしれない」

 微笑みながら、信史は言った。

 まるで、ずっと楽しみにしていた事のように。

「そう」

と、光子は答えた。

 驚きも、悲しみも、嘲笑すらも浮かべない、いつものままで。

「じゃあ、最後にもう一度しておく?」

 

 

 

 

 

 鍵穴に、そっと鍵を差し込む。

 以前、彼から貰った合鍵を。

 回すとがちゃりと音がして、鍵が開いた。

 まさか、今でも使えるとは思っていなかったけれど。

 扉を開ければ、そこに信史が待ち構えているかと思ったが、それはなく。

 秋也は、ためらいなく室内へ足を踏み入れた。

 リビングを覗くと、空になりかけた酒のボトルが目に入る。

 飲みかけのアルコールが入ったグラスが2つ。

 ひとつには、赤い口紅がついていた。

 それから、溶けた氷の入ったアイスペール。

 誰もいないリビングに、笑い声が響いた気がした。

 いつだったか。

 そう、正確には覚えていないけれど。

 彼と共に、こんな風に。

 溶けるはずのなかった、氷を肴に。

 2人で夜明けまで飲み明かした事が……

 ――無意識に。

 手がアイスペールを掴んでいた。

 ためらいもなく、それを傾ける。

 床の上に、溶けた氷が広がる。

「裏切り者……!」

 

 

 

 

 

 声が、聞こえた。

 女の喘ぐ声が。

 ちりちりと、心が焼け付く音がする。

 秋也は、ゆっくりとノブに手をかけた。

 気配と物音がして、すぐに。

 光子は喘ぐのをやめて、信史の上からそっと降りる。

「最後まで、出来なかったわね」

 そう言って、乱れた髪を掻き上げた。

「三村」

 秋也の口から発せられた、彼の名前。

 その一言には、秋也の思いの全てが込められているようだった。

「氷は、どうしたんだ」

 あの時、2人はそれの事を氷と呼んでいた。

 なんのひねりもなく、ただ、見た目だけが似ているからと。

 そう呼ぼうと提案した秋也の言葉に、信史は笑いながら、「俗語でそういう意味でもあるんだぜ」と。

 あの時の事を、思い出した。

 秋也の問いに、信史は答えない。

 口元に笑みを浮かべながら、秋也を見ていた。

 彼と、2人でいた、過去。

 冷えない氷に囲まれて。

 全てが上手く行ったと思っていたのに。

「その氷を全て持って、お前は逃げた」

 その上。

「俺を、警察に差し出して」

 罪の意識とか、常識とか、良心とか。

 そんなものはどうでも良かったけれど。

 裏切りだけは、許す事が出来なかった。

「三村」

 名前を、口に出す度、どす黒いものが溢れ出すかのような感覚。

 一歩ずつ、ゆっくりと。

 ベッドにいる彼に近付く。

 光子は静かに、そこから離れた。

 秋也の目に、自分は映っていなかったから。

「三村」

 ゴリッと、音がするほど、強く。

 銃口を、信史の額に押し付ける。

 信史は黙ったまま、それでも、笑みを絶やさなかった。

「三村――」

 零れそうになる、言葉。

 必死でこらえて。

 強く、強く、信史を睨みつけて。

 憎くて憎くてたまらなくて。

「俺に愛を語ったその口で、俺を陥れたんだな、三村」

「七原」

 何年ぶりかに聞いた、信史の声は。

 あの頃と全く同じ物で。

 懐かしさと憎しみと愛しさと殺意が。

「――愛してるよ、七原」

 瞬間。

 溢れ出す感情と共に、引き金をひいた。

 

 

 

 

 

 

 

 呼び鈴が、鳴る。

 警察の車が、外に見えた。

「早かったわね」

 光子は呟いて、そっと信史の唇に自分の唇を重ねる。

 それから、同じように秋也に口付けて。

「最期のキスよ」

 クス、と、笑った。

「生きている間に出来なかったのが残念だけど」

 指先で、流れた血をすくい取り、自分の唇に当てる。

 真っ赤な真っ赤な、唇に。

 それからゆっくり部屋を出て、音を立てないように扉を閉めた。

 

 

 

「おやすみなさい」

 

 

 

 そこはきっと、永遠に静かな、朝のまま。

 

 

 

END.



18000HITのkiyuりんご様からのリク…
とても詳しくリクを頂いたのですが、結構削ってしまいました(苦笑)
まず、頂いたのはこういうリクなのですが。
『三村(悪)に復讐すべく、殺しにやってきた七原(悪)』
七原が悪…ここ、まずおかしいです。まぁ、前にしてた事は悪だったよ、と(苦)
で、あんまり2人がオトコマエにならなかったのが第2反省点。
ダークとエロリズムはクリアしたんじゃないでしょうか!?
で、光子ですよ!やたらと出張っている光子です!どうよ!?(笑)
光子難しかったんだけど、キユの好きそうな光子に仕上がっていたら良いな…
37って指定が無かったから、主に三光で書いてみたけど…でも37も入れてみたけど…(笑)

で、今回は珍しくタイトルにも凝ってみました。
何だかカッコ良いタイトルつけたいなぁと思って、適当に浮かんだ英語をセレクト。
「silence morning」をメインにストーリーを作り、それだけじゃ面白くないので、単語に分けてみました。
大文字小文字で、それぞれ4つの意味を。
「SLEN」スレンダー(こじつけ)
「MON」月曜日(無理矢理)
「ice」氷(またはダイヤモンド)
「ring」鐘や鈴が鳴る(呼び鈴とでも思って頂ければ…)
と、いうような事をやってみたりとかしました。たまには色々考える(笑)
でも、タイトルにこだわろうと思ったのは、やっぱりキユのリクだったからかな。
キユの書く話のタイトルが、独創的で好きなんです。(TRESURE部屋kiss mark参照)

と、いうわけでこれはkiyuりんご様に捧げます〜v
ありがとうございましたー!