HAPPY TRAVEL

 

 

「二人で旅行にでも行かないか」

 三村信史がそう言い出したのは、いつものように突然だった。

 秋也は目を丸くして彼を見た後、しばらくしてから聞き返す。

「……なんだって?」

「俺んちの別荘。修学旅行の予行演習だと思ってさ。行かねぇ?」

「そんな事、急に言われても……」

 旅行に行くとなれば、当然お金がかかる。慈恵館で育つ秋也には、自由になる小遣いなど、そうたくさんあるわけではなかった。安野先生に相談したら、きっと笑って出してくれるだろうけれど、気が引けて、言う事など出来ない。

 第一、自分だけが遊びに行くなんて、慶時に悪い。

「金はさ、そんなにかかんないぜ。電車一本で行けるし、向こう行ったらほとんど金の心配なんて要らないし」

 彼の心配を汲み取って信史がそう言うと、秋也は小さくうめいた。

「うぅん……」

 まだ渋っている秋也に対して、信史はトドメの一言を口にする。

「豊や国信も連れて行こう。なんだったら、杉村も誘うか?」

「ん、まぁ、それなら――」

 特に心配はなさそうだな、と、秋也は笑って頷いた。

 

 

 

「――で、何でこーいう席順になるかな?」

 信史は不服そうに横を見た。

 信史の隣には豊が。後ろには秋也と慶時が。そして、前には一人、弘樹が座っていた。

 不満そうな信史の声を聞いて、弘樹が小さく笑ったのが窓に映った。

 同時に、頭上に気配を感じる。

「杉村ぁ、ホントに一人で良いのか?寂しくない?なんだったら、俺、隣に行くけど」

 弘樹のふたつ後ろから、秋也の心優しい声が聞こえた。

 座席から立って、身を乗り出すように弘樹に話し掛けている。

「いや、俺は本を読みたいからな。一人で大丈夫だ」

 こんな時にまで本なんか持ってくるなよと、八つ当たり気味の信史の声が聞こえたが、無視をする。

「それに、お前がここに来たら、国信が一人になるんじゃないのか?」

「あ、そっか」

 ゴメン、と慶時に言いながら、秋也は座った。

「七原、んじゃ、俺の隣に来いよ」

 すかさず信史がそんな事を言う。

「シンジ、俺は?」

 心もち唇を尖らせて、豊は信史を見た。

「ん?お前は、七原とトレード」

 にっこり笑ってそう言うと、

「シンジ!」

「三村っ!」

豊と秋也の声が重なった。

「何バカな事言ってんだよ!杉村っ!三村とトレードして良いぞっ!」

 信史の自分勝手な言い分に、秋也は少し腹を立てていた。

 それではあまりに豊が可哀想ではないか。

 出発から波乱含みだな、と思いつつ、弘樹は本に目を落とす。

 後ろで、信史の「ちくしょう……」とつぶやく声が聞こえて、弘樹はまた、微かに笑った。

 

 

 しばらく後ろで賑やかに話す声が聞こえていたかと思ったら、急に静かになる。

(ああ、寝たのか……)

 子供みたいな奴等だな、と思いつつ、弘樹はちらっと後ろを向く。

 その気配に気付いたのか、信史は伏せていた目を開け、「何?」と聞いてきた。

 隣の豊を起こさないようにする為か、声は小さい。

「三村は寝ないのか?」

「俺が寝てどうするんだよ。乗り過ごしたらシャレになんなんねェだろ」

「ご苦労。じゃあ、俺も少し眠って構わないか?」

 信史は一瞬、驚いたように目を開けた。

 肩を竦ませながら「どォぞ」と言うと、弘樹は本を閉じ、眠りに入った。

 どうせ向こうに着いたら、騒ぐ彼等に付き合わされ、ろくに眠る事も出来ないのだろうから。

 

 

 信史がしばらく電車の窓から外を見ていると、後ろで物音が聞こえた。

「ちょっ……慶時、悪い、どいて……」

(七原?)

 通路を歩いて行く秋也を見て、「便所?」と尋ねると、秋也は「あぁ」と頷いて、前車両に向かった。

 こんなチャンスはないと思い、信史は豊を起こさないようにどかして、秋也の後を追う。

 一番心配だった弘樹にも、どうやら気付かれなかったらしい。

(さすが俺)

 揺れる車両の通路を歩いて行く。

「あれ?三村も――」

 何か言いかけた秋也の顔を両手で包み、問答無用で唇を寄せる。

「み、三村っっ!!」

 慌てた秋也は、顔を逸らそうと必死になるが、しっかりと両手で抑えられているために動かない。

「せっかくの七原との旅行、つまんねぇんだもん」

「お前、何言って……」

「やっぱ連れてくるんじゃなかったな、あいつら」

「三村が連れて行くって言ったんだろ!?」

「そうしなきゃ、七原、来なかっただろ?」

 ――絶句。

 その為だけに三人を連れて来たのだろうか。いや、薄々感付いてはいたものの……

「良いから、ちょっと黙ってろよ」

「おい!こんなトコで――んっ」

 よっぽど鬱憤が溜まっていたのか、信史は秋也の舌を絡めとり、呼吸も出来ないほど激しくなぶった。

「んっ……ふっ、ぅ」

 秋也は苦しそうに信史の服を掴み、じたばたと暴れている。

「!!」

 その向こうに、とんでもないものを見た秋也は、思わず信史の舌を噛んだ。

「イッテェっ!!何すん……」

 秋也の青ざめた顔を見て、信史はその視線の先を目で追う。

「ゆ、豊……!」

「んー?シンジ?シューヤも……?何してんのぉ?」

 寝ぼけているのか、目を擦りながらそう言った豊は、そのままトイレに入り、出て来ると何も言わずに戻ってしまった。

「ね、寝ぼけてた……?」

「……多分」

 とりあえずほっと息をついて、秋也は信史を睨む。

「三村ぁ……!」

「ほらほら、さっさと戻ろうぜ」

 とりあえず気は済んだのか、信史はさっさと後ろ車両に戻ってしまう。

 秋也は、どこにぶつければ良いかも分からない怒りを胸に抱いたまま、彼の後を追った。

 

 

「慶時ぃ……」

 戻ると、秋也の隣の席であった慶時は、体を倒して、深い眠りについているようだった。

 窓際の秋也の席まで占領して。

 仕方ないと思い、弘樹の隣の席に目をやると、何故か豊がそこで眠っていて。

「ま、寝ぼけたんだろうな」

 どうしようかと困っている秋也を見上げるように、信史は声をかけた。

 信史の隣の席だけは、しっかり空いていて。

「座れよ、七原」

「……変な事、すんなよな」

 しばらく迷った後、渋々そこに座ると、信史は上機嫌な顔で笑った。

「ずっとこのまま電車に乗ってられたら良いな」

 そう言って秋也の頬に軽く口付けると、彼は真っ赤な顔をして、目を逸らす。

 

 それからしばらくは、目も合わせてくれなかったのだけれど。

 

 眠気に負けて信史の肩に頭を乗せてくる秋也は、たまらなく可愛かった。

 

 

END.



いつもお世話になっている、砂見リウさまへvv
題名はこんななのに、行く途中で終わっているという、掟破り小説です。
最近無性にまた37が書きたくなって…って言っても、このネタはもう、かなり前に思い浮かんだまま執筆に入らなかったやつなんですけどね(笑)
顔を両手で包み込んでキスって、異様に萌えるのは私だけですか?

リウさん、いつも本当にありがとうございます〜v
どうぞ、これからもよろしくしてやって下さいv


と、いう事でですね!実はリウさんにこの小説のイメージ画を頂いてしまいました〜っっvv
んもう、めっちゃくちゃ素敵ですので、ぜひ御覧あれっ!!