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Happy rebirthday 知らない事があった。 多分、誰も知らない事。 でも、知りたくて仕方のない事。 けれど、なかなか本人には聞けない事。 「……あのさ、豊」 秋也は、言いにくそうに豊の前に立った。 授業の合間の休み時間に、わざわざ秋也が豊の所へ来るのは、珍しかった。 秋也は黙っていても周りに人が寄っていくし、大体、いつもなら信史の席に行く事が多いのに。 豊は、不思議そうな顔をして秋也を見上げた。 「聞きたい事があるんだけど……えーと」 次の授業は数学。 宿題はあった。 けれど、秋也が自分に宿題を訊きに来たとは思わない。 それは、信史に訊けば済むことだ。もちろん、ただでは教えてくれないだろうけど。 「どうかしたの?シューヤ」 なかなか用件を言わない秋也に向かって、豊は自分から尋ねる事にした。 秋也は一瞬視線をどこか遠くへやって。 それが、信史の位置を確認したのだと豊は気付いてしまって。 信史の件か、と思ったら、少しだけ気分が沈んだ。 秋也が自分に何か聞きたい事があるなんて、何かと思えば。 「あのさ、豊は……その、知ってるか?」 「何を?」 多分、自分の方が信史の事をよく知っている。その自信が豊にはあった。 秋也もそう思ったからこそ、豊に訊きに来たのだろう。 けれど、豊は知っている。 どんなに自分が信史の事を秋也より知っていたからといって、信史が豊を見てくれることはない事を。 自分は友達。信史の友達。でも、秋也は違う。 その豊に、教えられる事なんてあるのだろうか―― 「……三村の誕生日」 ぼそっとつぶやいた秋也の言葉に、豊は思わず目を見開いてしまった。 「あっ、やっぱおかしい、よな?でも知らなくて……豊なら、知ってるかなって。ほら、本人に聞くのもどうかと思うしさ」 本人に聞くのが一番早い。 それはよく分かっている。 けれど、秋也は信史の驚く顔が見たかった。 何で俺の誕生日知ってるんだ?なんて。 そんな驚く顔が見たくて。 「シューヤ、シンジの誕生日知らないの?」 それが豊には本当に意外だったようで、マジマジと秋也の顔を見ている。 「うん……あ、ほら、言いたくなかったりとかだったら、別に良いんだ。そんなに気になるってわけでもないし……」 その言葉が嘘である事など、一目瞭然だったけれど。 「そうじゃなくてさ」 豊はそう言って、小さく溜息をついた。 こんな事、言いたくなかったのに。 「……俺も知らないんだよね。シンジの誕生日」 「え?」 小学校からの親友なのに?という言葉を飲み込んで、秋也は豊を見つめた。 豊の目を見れば、それが嘘でない事は分かる。 「シンジもてるから、誕生日なんて広まったら女の子達がプレゼント持ってきて凄い事になりそうでしょ? だから黙ってるのかなって、思ってたんだけど。……そっか、シューヤにも言ってないんだ」 うつむいて考え込む豊を見て、秋也は無理した顔で笑った。 「うん、きっとそうなんじゃないか?だから俺にもさ、うん」 自分を納得させるように、頷いて。 秋也は自分の席に戻った。 誰も知らない、信史の誕生日。 気になるのは、仕方のない事で。 屋上に寝転んで、青い空を見上げる。 もうすぐもっと暑くなって、こんな風にコンクリートに寝転ぶなんて事は出来なくなるだろう。 流れる雲を、ただ眺めて。 秋也は風を感じていた。 昼休みからここにいるけれど、もしかしたら午後の授業が始まっているのかもしれない。 あまりに静かだったから。 「サボり?」 急に視界に影が差す。 逆行で顔は見えないけれど、誰かが秋也の上から彼の顔を覗き込んでいた。 「んー。そうかも」 秋也はそう言って、顔の見えない彼のために起き上がった。 もちろん、それが信史である事など、最初から分かっていたのだけれど。 「俺の誕生日が気になるんだって?」 「……瀬戸に聞いた?」 「いや。……まぁ、そんなとこ」 豊と秋也が何を話しているのか気になって、聞き耳を立てていたと、正直に答えることはしなかった。 「俺に直接聞けば良いのに」 信史はそう言って、フェンスの方へ歩いていく。 秋也はそこに座ったまま、彼の姿を見つめる。 「俺が直接お前に訊いたら、お前、ちゃんと答えたか?」 「答えないな」 即答して、信史はフェンスに手をかけた。 下を見て、軽く口笛を吹く。 「良い眺め」 「――三村ぁ」 「んー?」 だるそうに座ったまま、振り返らない信史の背中に向けて、秋也は声を投げる。 「お前の誕生日って、いつ?」 「誕生日ってー?」 すっとぼけたような声。 きっと口元には笑みを浮かべている事だろう。 そんな事は分かってた。こうなるだろうと、分かっていたから訊かなかった。 秋也はその場に立ち上がって、もう一度、尋ねる。 「三村の、生まれた日」 カシャンと、フェンスが音を立てる。 信史が、フェンスへかけた手に力をこめた、音。 「何でそんなの聞きたがる?」 声はいつもの調子だった。 軽い、おどけたような声だった。 「三村信史が、この世に現れた日が、知りたいと思っただけ」 良いながら、秋也は信史の方へ歩いて行く。 秋也が信史に触れられるほど傍に来る前に。 信史はゆっくりと、振り返る。 彼は笑っていた。いつものように。皮肉っぽい笑みを浮かべて。 「俺は」 何か言いかけて、信史は一瞬、遠くを見た。 自分が生まれた日なんか、知りたくもなかった。 愛し合っていない親から出来た子供。 自分がどんな存在なのか、知るのが嫌だった。 どうして生まれたのかなんて、考えるのも気持ち悪かった。 「三村……?」 「例えばここから飛び降りたら、死ねると思うか?」 笑いながら、信史は言った。 このフェンスを越えて。 足を踏み出して。 新しい世界へ、行くという事。 「三村……死にたいと思ってる?」 秋也はゆっくりと、信史へ手を伸ばす。 そこに彼がいる事を、確かめたかった。 信史は笑顔のまま、秋也の目を見て。 「七原――俺を殺してくれよ」 見開いた秋也の目に、様々な感情が、浮かんで消える。 困惑。 憤怒。 悲哀。 それらが、全て消えて。 秋也は信史へ伸ばした手を、彼の首にかけた。 首の薄い皮膚の下で、血液が脈打つ感触が、伝わってくる。 お互いの目を見つめ合ったまま、秋也は両手で信史の首を締めた。 信史は顔を歪める事もなく、黙って、秋也の目だけを見ていた。 苦しいはずなのに、何故だかとても、心地良かった。 秋也の指の力が、とても、心地良かった。 「俺がお前を殺したら、俺も、俺を殺すよ」 全ての感情が消えた目で、無表情のまま。 その言葉に対して唇を動かしたけれど、それは多分、言葉にはならなかった。 目の前にいる秋也だけを、ただ見つめて。 信史は意識を手放した。 どこまでも青い空。 流れる雲に、終わりはあって。 そうしてまた、雲は生まれる。 信史が目を開けると、少し離れた所で、秋也が膝を抱えて座っていた。 少し、胸のあたりが痛んだ。赤くなっている。 おそらくは、心臓マッサージでもしてくれたのだろう彼に向けて。 信史はいつもの調子で、尋ねた。 「俺、どれくらい死んでた?」 秋也はその問いには答えずに、抱えた膝に顔を埋めて、小さく。 「……悪趣味な事、させるな……」 震える声が、胸に痛かった。 「ああ……サンキュ、七原」 「……三村、死にたい?」 「まさか」 自殺願望なんて、ないと思ってた。 もちろん、今でもないと思っている。 「じゃあどうして」 「今日が俺の、誕生日だよ、七原」 体を起き上がらせてから、信史は秋也に微笑んだ。 「七原が、俺を生んだんだ。その手で」 秋也は自分の手を見つめて、また、膝に顔を埋めた。 信史の首を、締めた手。 彼を生き返らせた、手。 止まらない涙の理由は、恐怖なのか、安堵なのかも分からない。 「Happy rebirthday――三村」 「ありがとう、七原」 END. rebirthday――再生日というところでしょうか。 三村の誕生日ネタを、ずっと書きたいと思っていて。 七原が三村へ誕生日プレゼントを贈るという、微笑ましくラブラブなお話を書こうかと思っていたのですが。 気分が、ダァクちっくを求めていたようです(笑) この話の元ネタについて少し。 私の好きな歌に、『REBIRTH〜再生〜』というものがありまして。 「産まれた事さえ呪った果てに」「カルマの渕を越え甦る」という歌詞をふと思い出して、ああ、そういう話を書きたいなぁと思った結果、こんな事になってしまったわけで。 更に言うならば、その歌の途中で、「Happy Birthday.Happy Rebirthday」と繰り返す部分があるんです。題名はそこから来ています。 そして、この歌が何の歌か分かった方、是非友達になりましょう(笑) 躯(漢字出なかった…)大好きなんですよ〜!飛ぶ影の人はもっと好きですがv |