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All or Nothing 全てじゃなければ、何もいらない。 全部じゃなければ、何も無いのと同じ事だから。 体育の後、グラウンドから帰って来てすぐに。 販売機に、100円玉をひとつ、ぶちこむ。 校内にあるジュースの販売機は、どれも100円。 学生相手に儲けなんてどうでも良いのかもしれない。 100円でも儲けは出るのかもしれないけど。 とにかく、と。 「新井田っ」 スプライトのボタンを押そうとした和志の耳に、聞き慣れた声が届く。 指の動きが止まり、視線が声の主を探す。 「ジュース良いな、俺にも買って!」 遠慮のない声で、笑いながら。 秋也がその場に立っていた。 「……」 ヤダ。とか。 自分で買えば。とか。 言いたい言葉が、浮かんでは消える。 代わりに出て来たのは。 「……どれ?」 「コーラ!」 ためらいも無く、言われたままにボタンを押して。 吐き出されたモノを、取り出す。 和志はそれを秋也に渡して、自分はポケットの中から小銭を―― ない。 「サンキュ!」 プシュッと音を立てて、缶が口を開ける。 秋也の口の中に、注ぎ込まれるソレを、見送って。 和志はガシガシと頭を掻いた。 最後の100円だった、なんて。 今更そんなカッコ悪い事、言えるわけも無い。 眩しいくらいの笑顔で、秋也は教室へ戻って行く。 その後ろ姿を見送って、恨めしそうに販売機を睨み。 和志は思わず、頭を抱える。 「……俺って、弱すぎ……」 断る事も出来る状況だった。 でも、別にジュースを奢った事、後悔しているわけではなくて。 これだけであんなに笑ってくれるなら、100円程度惜しくはない。 喉の渇きはウォータークーラーで癒す事にする。 だけど、神様。 あの笑顔を独り占めするのには、一体いくらかかるのか、見当もつかない。 和志が秋也に告白したのは、少し前の話。 「俺、七原が好きなんだけど。もし良かったら、付き合わねぇ?」 勇気を振り絞った、和志の言葉に。 「ごめん」 あっさりと。 秋也は引導を手渡してくれた。 ショックはショックだったけれど、そうなるだろうという事は分かっていたから。 別に泣きはしなかった。 正直、フラれたら諦めもつくかと思っていたのだ。 それは、甘い考えだったけれど。 分かっていた。 勝ち目なんて無い。 認めるのはとても悔しいし、ムカつくけど。 だけど仕方がない。 秋也が誰よりも愛しているのは、信史だけなのだから。 それを知ってて、告った俺はバカか? 見て欲しかった。 好きになって欲しかった。 その笑顔を、誰よりも傍で。 一番近くで、見ていたかったから―― 秋也は、以前と変わらぬ態度で和志に接して来た。 それは彼の優しさだ。 誰に対しても同じように。 俺に対しても同じように。 話し掛け、笑いかける。 知らない、だろう? それがどれ程、俺を傷付けるか。 七原。 俺を、他と一緒にするなよ―― ありがたかった。 避けられるよりも。 嬉しかった。 嫌われるよりも。 ずっとこの方が良かったはずなのに。 和志の心は、痛くて痛くて仕方がなかった。 だって俺が欲しいのは、“友達”じゃ、ない。 好きになって欲しい。 好きだから。 とてもとても好きだから。 だから好きになって欲しい。 それは当たり前の考えで、そんな当たり前な事すら叶わない。 カラの拳を、握り締める。 想っても、想っても、想っても、想っても、想っても。 報われないのに、何でこんなに好きなのか。 見返りは求めない。ただ愛してる。 そんなカッコ良い事、俺は言えない。 好きになってもらえなきゃ、意味がない。 返って来ない愛を注いで、それって単なる自己満足だろ? 好きで好きで好きで好きで好きだから。 他の何もいらないから、お前だけが欲しい。 そんなカッコ良い事、俺は言えない。 地位も名誉も金も夢も愛も全部。 俺は全部欲しい。 だけどそれが全部手に入らない、今。 望んでいるのは、お前だけなのに。 例えばもし、友達になりたいと望んだって。 国信や杉村に敵うはずが無い。 “親友”なんかにはなれるはずが無い。 どう足掻いても、一番傍に行く事が出来ないのなら。 中途半端な友情なんてイラナイ。 好きになってくれないなら笑いかけるな。 そうしたら俺も、お前を好きだった事を忘れるから。 次に、進むから。 次? 次なんかどーだって良い。 他のヤツなんてどーだって良い。 何で俺じゃ駄目なんだ。 何で俺を好きになってくれないんだ。 お前の好きな三村は、お前の事が好きなのに。 俺の好きなお前は、俺の事を好きにはならない。 好きで好きで好きで好きで好きだから。 苦しくて苦しくて仕方がない。 辛くて悲しくて痛くて。 好きになってくれないのなら、いっその事嫌ってくれ。 俺にとっては、“好き”以外はどれも同じだから。 “好き”か“嫌い”のどっちかで良い。 どっちかしかいらない。 そうして教室へ戻った俺に、お前はまた極上の笑顔を見せるんだ。 「新井田、ジュースありがとなっ!」 お前は空になった缶を投げ、俺はそれを受け取って、ゴミ箱に捨てる。 ああ、全く。 憎たらしいくらい愛してる。 END. 『All or Nothing』は、私の好きな言葉です。 いつかこれを題にして書きたいなぁと思っていて、37ではなく新井田に持って来てみました。 先日メールを頂きまして、37←新のお話が好きだと言って頂けたので、久しぶりに新七書きたいなぁ、と思ったのもきっかけですね。 新井田…どれだけカッコつけてもヘタレの新井田…所詮ヘタレ… そんなところがたまらなく魅力的で仕方ないのです! 好きか嫌いかしかいらないとか言いつつ、七原の笑顔を見て、やっぱり好きだー!!なんて。 まるでどっかの誰かみたいじゃないですか!( そしてそんな新井田を知ってか知らずか翻弄する七原。 これぞ新七!(笑) 鬼畜新井田も好きですが(笑) 一人称か三人称、どちらかに統一すれば良かったですね。ちょっと反省… そうそう、100円販売機は、私の高校にあったものです。どこの高校にもあるんでしょうかね。中学には無かったけど。 |