1日遅れの

 

 

「まだ持ってんのかよ、それ」

 昼休みの、屋上。

 どうしようかと、手に持った物を眺めている充の頭上で、その声はした。

「うるせーよ」

 お決まりの言葉。

 充は顔を上げる事もせず、それを制服のポケットにしまいこんだ。

「リュウ、あんまり充からかうなよ」

 博はそう言って、充の隣に腰を降ろす。

「こいつ、からかうとおもしれーんだよ」

 竜平は臆面もなくそう答え、充の目の前に。

「小学生並よね」

 少し離れた所で、彰がつぶやいた。

 竜平はそれを聞いて彼女……もとい、彼を睨んだが、彰は気にした様子もなく、爪磨きに没頭している。その向こうには、同じく自分の世界に入り込んで読書をしている桐山がいた。

「でも、充。確かにリュウの言うとおりだと思うけど?」

 博は目線を充の制服のポケットにやった。

「今日はもう2月15日で――」

「バレンタインはもう過ぎたんだよ、バァーカ」

 博の言葉を受け継いで、竜平が舌を出す。

「るせーっつの」

 そんな竜平に殴りかかる気力も無く、充は俯いた。

 確かに、バレンタインはもう過ぎている。

 これは、自分があの人の為に買ったチョコレート。

 恥ずかしさを抑えて、必死で買った、チョコレート。

 渡すはずだったのは、昨日の事――

 

 

「ボス、今日の帰り、ちょっと良いですか?」

 充はドキドキする心臓を押さえつけて、桐山に尋ねた。

 もちろん、バレンタインのチョコレートを渡す為で。

 他の奴等に見られたくなかった充は、帰りに桐山と2人になるチャンスを狙っていたのだ。

 そのチャンスさえあれば、渡す事は出来る。

 何日も前から、悩みに悩んで、やっと買ったチョコレートを。

 自分の気持ちを込めて、勇気を出して渡す事。

 チャンスさえあれば……

「……今日は用事がある」

 桐山の一言で、それは無残に打ち砕かれた。

「す、すぐ済みますけどっ……」

「悪いが」

「そ……そうですか……」

 これ以上しつこく言って、嫌われてしまうのは絶対に嫌だ。

「分かりました……別に大した事じゃないっスから、良いです……」

 充は、そんな事しか言えずに、すごすごと引き下がったのだ。

 

 

 それでも、渡す事の出来なかったチョコレートをどうする事も出来なくて。

 次の日になっても、持ち歩いている、自分。

 そして、あそこにいる桐山は、今日会った充に、こう言ったのだ。

「……今日なら空いている……」

 それを言われたのが、屋上に来る前。

 充は戸惑って、言葉を濁した。

「でも、今日じゃ……」

 バレンタインは過ぎている。

 バレンタインを過ぎたチョコレートに、何の意味があると言うのだろうか。

 けれど、それをきちんと桐山に説明する事も出来なくて。

「……何故、今日ではいけないんだ?」

 頭の中を、ぐるぐると言葉が回った。

 悩みに悩んで、まだ、悩んでいる。

 桐山は、自分がそんな事を言った事すらどうでも良いのか、本に目を通していて。

 それをチラリと見ながら、充は小さく溜息をついた。

「テメーが溜息なんて、気持ちワリーな……」

 竜平はそう言って、自分も小さく溜息をつく。

 こんな充は、見ていて嫌だった。

「別に今日だって良いだろーが。さっさと渡して来いよ」

 心にも無い言葉。

 そんな竜平を見て、博も小さく溜息をつく。

 全くもって不器用な言い方しか出来ない相棒――

「そうよ、充ちゃん。別に今日だって良いじゃない?」

 そう言ったのは爪磨きを終えた彰だった。

 充は顔を上げ、彰を見る。

「バレンタインにチョコをあげようって思った気持ちは、充ちゃんの中にまだあるんでしょう?」

「それは……そうだけど」

「その勇気って、一日限りのものじゃないはずよ。決してね」

 彰はそう言ってウインクすると、桐山の方に目をやった。

 早く行きなさいとでも言うように。

 充はごくっと唾を飲んで、一度目の前の竜平と目を合わせた。

 竜平は充から視線を外して、顎で桐山を指す。

 隣を見ると、博がにっこりと微笑んでいる。

 充は頷いて、勢い良く立ち上がった。

 

 

「ボスっ。あの、これ」

 桐山は充の声に顔を上げる。

 差し出された小さな箱に目を落とし。

「……何だ?」

「昨日、渡そうと思ってたんスけど……」

 充が、何を言って言いか分からずに頭を掻いていると、桐山はスッとその小さな箱を手に取った。

「すまない……ありがとう」

「い、イエっ!」

 その一言で、充分だった。

 彼の、その一言だけで、満たされたから――

 

 

「充ちゃんってば、ダメねぇ。告白するの忘れてるわ」

「でも、バレンタインチョコだって事は分かってるし、気持ちは伝わったんじゃ?」

「甘いな、博。ボスが“バレンタイン”なんて、知ってると思うか?」

「……思わない……」

 

 

 ひとつの勇気の結末。

 

 

END.



あさこ初・桐山ファミリー勢ぞろい!ですね。私の中の桐山ファミリーは、こんな感じです。
えぇ、分かっています。黒長博が明らかにおかしいという事くらい…(哀愁)
なぜか私の中の博は、優しく微笑む事の出来る、天然が入った不良です(え?)
そして、笹川とは仲良し。とゆーか、相棒(笑)
ヅキはお姉さんな感じで。他はもう、そのまんま…
桐山書くの、本当に難しいです。
でも、「何故、今日ではいけないんだ?」というセリフが書きたくてっ。
そんな事言うの、桐山くらいだろう、と…
そういえば、イベントものをssに置くのって初めてですか…?いつも限定にしてたから…
皆様は、バレンタイン、いかがでしたか…?

ハイ、微妙に実話!(爆)