聖なる夜の不実な果実

 

 

 アダムとイブの食べた、禁断の果実。

「旧約聖書……だったっけ」

 手の平で、その赤い実を弄んでいた。

 眺めてみたり、指先で突付いてみたり。転がしたり、擦ったり。

 それから、いとおしそうに、口付けた。

 赤い唇に、負けないくらい、赤いその実に。

「ツリーに林檎の飾りがあるのは、どうしてだか知ってる?」

 光子はそう言って、目の前に座る、無表情な男に話し掛けた。

「桐山くん」

 煽情的な目で彼を見ても、桐山は眉一つ動かす事無く、その赤い実を見つめていた。

 光子の細い手の中で、転がされる赤い実。

 優しく優しく撫でて、ちょっと、爪を立ててみる。

 少しだけ傷がついて、光子は薄く笑った。

「禁断の、果実……知恵の実だったかしらね」

 傷付いたその実を、ゆっくり舐め上げて、軽く歯を立てる。

「口にしたら、楽園から追放されるのかも」

 そう言いながら、思い切り、噛み付いた。

 

 しゃくっ

 

 爽やかな音がして、甘い蜜が零れた。

 唇から落ちるそれを拭おうともせずに、光子は笑う。

「ねぇ」

 甘い唇を彼のそれに押し当てて、ゆっくりと舌で彼の唇をなぞった。

 

 

「神様って、いると思う?」

 

 

END.