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クリスマスプレゼント 「はぁ……」 柄にもなく、溜息をつく。 溜息なんて、あいつと関わるまで自分には縁のない事だと思っていた。 ――七原秋也。 犬のように無邪気で、可愛らしくて、それなのに男らしく、和志を翻弄させる。 一応、恋人。 一応だなんて言うと、秋也は怒る。 それでも、和志ははっきりと恋人だと言い切る事は出来ないのだ。 自信が持てなくて。 こんな事、今までなかったのに。 自分に自信が持てないのか、恋人同士だという事が未だに信じられないのか、それは分からないけれど。 とにかく、今はそんな事で悩んでいる訳ではなかった。 「どうすっかな……クリスマスプレゼント……」 街が、クリスマス一色で埋め尽くされる季節。 恋人である秋也に、プレゼントを渡す事は当然。 けれど、本人に「何が欲しい?」だなんて、死んでも聞けなかった。 そんな、カッコ悪い事は出来ない。 ただでさえ、秋也には良いところを見せられない和志なのに。 最初は、ギターのピックにしようかと思った。 けれど、誰もが思いつくプレゼントだと気付いたので、やめた。 と言うか、確か誕生日に誰かに貰っていた気がする。 例えば相手が女の子だったら、アクセサリだの、花だのと、色々考え付くものはあるのだが。 何をあげれば良いのか、何だったら喜ばれるのか、全然分からない。 和志は、ただ溜息をつくしかなかった。 なんだかんだで、クリスマスイブ。 当然のことながら、まだプレゼントなど用意していない。 それなのに、自分はこうして秋也の前に立ってしまっているのだから、あまりのカッコ悪さに溜息すら出てこなかった。 目の前に立つ、私服の秋也。 学ランも似合うと思うけれど、普段見慣れないその姿は、和志をドキドキさせる。 街で、デートの約束。 それは、前からの約束だった。 「クリスマスは、二人でデートしような」 自分から誘う前に、秋也に言われてしまい、またもや敵わない事を思い知ったのは、12月の始め。 結局クリスマスは慈恵館で過ごす事になって、替わりにイブに会う事に。 早く来て待つのもカッコ悪いかと思って、わざと遅れて来た。 「悪い、遅れた」 わざとらしくそんな事を言ってみても、秋也は気付いた風もなく、笑った。 「俺も今来たとこ」 (嘘つくなっつの) 和志を待っている間、知らない男にナンパされている秋也を陰で見ている事しか出来なかっただなんて、情けなさすぎて絶対に言えない。 心の中でそう思いながらも、和志は違う事を口にする。 「寒くね?どっか、入るか」 マフラーに顎を埋めてそう誘うと、秋也は笑って頷いた。 「自分だけマフラー、ずるい」 「お前もしてくりゃ良かっただろーが」 「急いでて、忘れた」 和志は、その言葉に首を傾げる。確か、秋也が来たのは待ち合わせの時間の10分程前だったはずだ。それだけ時間があれば、マフラーくらいして来れる気がする。 「そんなに急いでたのか?」 自分でわざとらしいと思いながらもそう尋ねると、笑いながら、秋也は答えた。 「だって、早く新井田に会いたかったからさ」 「……あ、そ」 気のない返事。 秋也は、「何だよその反応」と言いながらも、楽しそうに笑っていた。 和志はマフラーがあって良かった、と思う。 ――赤くなった顔を、少しでも隠せるから。 街を巡って、ゲーセンに行って、昼はファーストフードで。 何とも色気のないデート。 もっとロマンチックに…… (三村なら、出来るんだろうなぁ) 和志はそう思って、嫌な事を思い出したかのように顔をしかめた。 デートの間中、ずっと考えていた。 まだ用意していない、クリスマスプレゼント。 二人で何を見ても、秋也は「欲しい」なんて言わなくて。 結局、このまま終わってしまいそうだった。 陽も落ちかけて、空は暗くなってくる。 多分、そろそろ帰らなきゃいけないんだろうな、と和志は思いながら、秋也を見た。 秋也の吐く息が白くて、さすがの彼も寒いんだろうな、と思ったら、なんだか可愛く見えて。 くすっと笑うと、すぐに不思議そうな目で見つめられた。 「何?」 「寒いんだろ」 「そりゃあ、冬だから仕方ないって。新井田はマフラーしてるから良いかもしれないけど」 まだ言ってるよ、こいつは。と、和志は笑って、思いついたように自分のマフラーを外す。 「あれ?何で――」 秋也が首を傾げてそれを見ると、和志はそっと彼の首にマフラーを巻きつけた。 「新井田?」 「……やる」 顔を隠すものがなくなって、多分、赤くなった顔を見られているんだろうけれど。暗くなり始めたから、バレてはいないかもしれない。 「クリスマスプレゼント」 こんな物しかあげられない自分が、やたらと情けない気がしたが、この際仕方がない。 「マジでっ?うわ……嬉しい……」 秋也は幸せそうに笑って、和志のマフラーに顔を埋めた。 和志の体温が残っているから、暖かくて。 「あ、でも、俺何も用意してない……」 困ったように自分を見てくる秋也に向かって、クリスマスイブくらいはかっこつけようと、和志は思い切って言う。 「俺はいい。七原と一緒にいられただけで、充分」 ――完璧。 心の中でそう思いながら、秋也の顔をうかがってみた。 たまには、赤くなる秋也の顔も見たい。 その思惑にハマったのか、秋也はマフラーに顔を埋めていた。 顔が赤くなっているのかもしれない。 和志が笑うと、秋也は口元に笑みを浮かべて、言った。 「じゃあ、明日の朝まで一緒にいようか」 ――結局。 敵わないんだよな、俺って…… 自分の腕に腕を絡ませて、嬉しそうに笑っている秋也を見ながら、和志はそう思った。 END. |