●解説

 テレビでウルトラシリーズが開始された1966年。各社が特撮モノに力を入れ始める中、東映でもテレビにて「悪魔くん」を春よりスタートさせ、映画では「海底大戦争」を夏に公開した。これらは東京のスタッフによるものだったが、一方の京都でもやはり特撮モノの企画が進行しており、テレビでは「忍者ハットリくん」(実写版)が春にスタート。そして、夏休み向けの映画として公開されたのが「大忍術映画ワタリ」である。伝統ある時代劇、それも子供受けする忍者モノに特撮を使ったのは至極当然のことかもしれない。
 原作は当時「週刊少年マガジン」に連載中だった白土三平の「ワタリ」であるが、映画に取り入れられたのは外観的な部分のみであり、そのテーマ性は敢えて無視された。台本の段階ですでにクレームをつけていた白土氏は完成されたフィルムを見て激怒し、これ以降東映は白土氏に絶縁されてしまったという。当初は映画化だけではなくテレビシリーズ化も進められていたのだが、それも実現不可能となってしまった。何としてでも忍者モノのテレビシリーズを作りたいと考えた東映側は「伊賀の影丸」(東映で1963年に映画化している)で人気があった横山光輝氏に原作を依頼。これが翌1967年に「仮面の忍者赤影」として実現し、スタッフやキャストの多くが「ワタリ」から移行している。
 原作者に見放されたとはいえ、実写映画版「ワタリ」のエンターテイメントに徹した映像は実に幻想的で、独特の魅力にあふれていた。当時東映に導入されたばかりのブルーバックシステムの多用、東映動画の精鋭に協力を仰いだ合成作画など、様々な手法によって変幻自在の忍術が映像化された。本作品で東映初の特撮監督となった倉田準二氏は「赤影」でも本編を含めて監督を手がけ、本作品で試した技術がテレビでも活かされている。変幻自在な忍術を使うのは主人公ワタリだけでなく敵忍者も同様だが、特に伊賀崎六人衆と呼ばれる奇々怪々な忍者たちのキャラクターは印象的で、やはり「赤影」の敵忍者の原型といえよう。
 同時上映は、同じく「少年マガジン」連載中だった「サイボーグ009」の劇場版アニメ。奇しくも"片目隠しキャラ"の競演となったが、劇場版の009はなぜか片目が隠れていなかった。興行面では、文献によっては「大ヒット」となっていたり、「興行的に失敗」となっていたりするが、実際のところ国内では「そこそこ」だったようで、大ヒットしたのはむしろ海外の方。なにしろ後に「赤影」までもが「WATARI」の題名で輸出され、ワタリ役の金子吉延氏演ずる青影がワタリと呼ばれていたりするほどである。国内公開から三、四年後にこの映画が大ヒットした台湾では、当時中学2年生になっていた金子氏を招いて現地で続編が製作されたという(勿論、他の役者は台湾人)。この台湾版「ワタリ」もまた欧米に輸出されており、海外では「ワタリ」は単発映画ではなくシリーズものとして認識されているようだ。
 なお、本作は村井国夫氏のデビュー作でもある。氏が演じた小次郎は、実に精悍な好青年の役どころであり、二枚目俳優として売り出そうとしていたようだ。また、当時人気のコメディアン・ルーキー新一氏も登場し、劇中で「いやーん、いやーん、いやーん」というギャグも披露。さらに、子役を全国から公募したりと、話題性を持たせるための工夫もこらされていた。ちなみに子役の役名の中にピロンというのがあるが、これは当時発売されていた健康飲料の名前で、巧妙なタイアップとなっている。


 
●キャラクター


ワタリ
(金子吉延)・・・・・・伊賀でも甲賀でもない独特の忍術を会得した謎の少年忍者。病気の爺を助けてもらうため、百地三太夫の下忍となった。が、下忍の命を粗末にする百地のやり方に疑問を持ち、伊賀の秘密をさぐる。武器として斧を愛用。得意の忍法は「おぼろ影」の術。
■爺
(牧冬吉)・・・・・・ワタリと共に伊賀の百地党へころがりこんだ老忍者。病気とはいえ、すぐれた忍術の使い手であり、ワタリを助けて活躍する。その正体は伊賀の抜け忍・四貫目。
■カズラ
(加藤敏孝)・・・・・・伊賀の下忍養成所の教官的存在。年端も行かない子供たちに忍術を教え、厳しくあたりながらも彼らを弟のように感じていた。ワタリと術くらべをするうちに心うちとけ、親友となる。得意の忍法は「タンジン」の術。
■新堂の小次郎
(村井国夫)・・・・・・百地党花組の小頭。ツユキと夫婦になるために忍びを捨てる決意をする。
■ツユキ(本間千代子)・・・・・・カズラの姉にして百地党のくノ一。小次郎と共に最後の役目を果たそうとするが・・・。
■ドンコ
(ルーキー新一)・・・・・・カズラの弟分。だが、忍術の腕は未熟で万年落第生。
■百地三太夫
(内田朝雄)・・・・・・伊賀の百地党の頭領。掟を破る者を五月雨城に送り込んで、抹殺しようと図る。
■雲組小頭
(楠本健二)・・・・・・百地党に属する雲組の頭。
■カンネ
(宍戸大全)・・・・・・雲組の下忍。伊賀の秘密を知ったため、仲間に追われ、殺されてしまう。

■カンパチ
(汐路章)・・・・・・雲組の下忍。得意の「死巻き」でカンネを抹殺する。

■藤林長門(瑳川哲朗)・・・・・・百地党と勢力争いをしている藤林組の首領。
■楯岡の道順
(天津敏)・・・・・・藤林砦の組頭。その正体は音羽の城戸。

■ハンザキ
(加藤浩)・・・・・・藤林砦の伊賀崎六人衆の一人。肌が全身赤く、その身体は灼熱となってあらゆるものを溶かす。小次郎を襲い、彼もろとも五月雨城の堀に落ちて死滅。
■シジマ
(脇中昭夫)・・・・・・伊賀崎六人衆の一人で、肌が緑色。放電する杖を武器とし、巨大化する。ワタリと対戦し敢え無く倒れるが、その崩れた身体には機械が詰まっていた。
■ヨサメ(阿波地大輔)・・・・・・伊賀崎六人衆の一人で、肌が黒。暗闇でも動くことができ、明かりのない密室にワタリを閉じ込めて襲いかかるが、失敗する。
■トリコ
(原健策)・・・・・・伊賀崎六人衆の一人。坊主姿の老忍者にして、強敵。相手の動きを封じて無数の蛾に襲わせる忍法「カカツツミ」でワタリを窮地に陥らせるが、駆けつけた爺に斬られて死滅する。
■ツブキ
(岡田千代)・・・・・・伊賀崎六人衆の紅一点。全身から炎を噴き出し、クグツメと共にワタリと爺を襲う。が、忍法で氷づけにされてしまう。
■クグツメ
(大城泰)・・・・・・伊賀崎六人衆の一人で、肌がオレンジ。ツブキ同様の忍法を使い、共に敗れる。

■音羽の城戸
(大友柳太朗)・・・・・・百地党の大頭。というのは下忍たちを欺く仮の姿で、実は百地や藤林を陰で操っていた本当の首領。


 
●ストーリー


 忍者の国・伊賀の里。ここには百地三太夫を頭とする百地党と、藤林長門を首領とする藤林組の二つがあり、それぞれが多数の下忍を従えて勢力を争っていた。しかし、大勢いる下忍たちの命は軽く扱われており、百地党の雲組は武田の根城・五月雨城へ忍びこめとの困難な命令を受け、全滅してしまう。そんな時、病気の爺を連れた一人の少年忍者が百地にひろわれ、下忍となっていた。少年の名はワタリ。彼は下忍養成所を取り仕切る少年・カズラと友達になり、養成所をやめてもらいたいと告げる。大勢の下忍が殺されるのは、後から後から下忍が作られているせいだと考えたのだ。さらにその根源が伊賀の掟にあると気づいたワタリは、その秘密をさぐるべくの藤林砦へ潜入。砦の組頭・竹岡の道順に襲われながらも、得意の忍法「おぽろ影」によってその場を切り抜ける。
 カズラにはツユキという姉がおり、ツユキは花組の小頭・新堂の小次郎という恋人がいた。小次郎はツユキと夫婦になるには忍びを捨てるしかないと考えていたが、それを知った百地は五月雨城に忍び込んで城主の首をとってくれば望みをかなえることを約束する。だが、そこにはおそるべき罠が待っていた。五月雨城からはすでに武田の兵は引き払われ、そこにいたのは藤林砦の伊賀崎六人衆だったのだ。彼らの使命は城に送りこまれた裏切り者を消すこと。そして、小次郎は六人衆のハンザキに襲われて堀に落下し、ツユキは追い詰められて自爆する。
 姉たちを追ってカズラが五月雨城へ向かったことを知ったワタリもまた城へ潜入。シジマ、ヨサメを倒し、捕われていたカズラを救い出すが、新たな敵・トリコの術にかかる。そこへ駆けつけ、窮地に陥ったワタリを救ったのは爺であった。爺とワタリは残るツブキとクグツメをも倒し、六人衆を全滅させる。だが、その間にカズラは姉の仇をうつべく一人で藤林砦に忍び込み、自らの命と引き換えに砦を爆破した。
 砦と共に藤林長門を失い、困惑する百地と道順。爺に助けられて生きていた小次郎は道順の正体が音羽の城戸であることをあばき、彼らが意図的に伊賀を二分化し、互いに競わせていたことを知った下忍たちは二人に詰め寄った。思わず、自分もまた命令されて動いていたことを口に出した百地は、手下であるはずの城戸に斬られてしまう。実は音羽の城戸こそが真の首領であった。ワタリは城戸に対決を挑み、苦戦の末、これを打ち倒すのだった。


 
●データ


1966年7月21日公開
カラー ワイド 82分
東映京都作品

[スタッフ]
製作/大川博  企画/岡田茂、秋元隆夫、新海竹介  原作/白土三平  脚本/伊上勝、西村俊介  監督/船床定男  撮影/国定政仁男  照明/長谷川武夫  録音/荒川輝彦  美術/矢田精治  音楽/小川寛興  合成/松本春吉  編集/神田忠男  助監督/本田達男  記録/矢部はつ子  装置/矢守好弘  装飾/笠井伴夫  美粧/堤野正直  結髪/橋本明子  衣裳/三上剛  擬斗/谷明憲  舞踊指導/長曾我部はる子  進行主任/中川卓慶  協力/東映動画スタジオ(森康二、菊池貞雄、羽根章悦)、東映化学工業

[特殊撮影班]
特撮監督/倉田準二  撮影/赤塚滋  照明/若木得二  録音/中山茂二  美術/石原昭  助監督/清水彰  記録/勝原繁子

[キャスト]
ワタリ/金子吉延  ツユキ/本間千代子  新堂の小次郎/村井国夫  爺/牧冬吉  楯岡の道順/天津敏  百地三太夫/内田朝雄  雲組小頭/楠本健二  カンパチ/汐路章  トリコ/原健策  ドンコ/ルーキー新一  藤林長門/瑳川哲朗  ハンザキ/加藤浩  カズラ/加藤敏孝  ピロン/金子剛  ツブキ/岡田千代  シジマ/脇中昭夫  下忍/波多野博、春川純、土橋勇、矢部義章、末広恵次郎、有島淳平、香月淳二  カンネ/宍戸大全  ヨサメ/阿波地大輔  雨組小頭/岩尾正隆  シブタレ/西田良  クグツメ/大城泰  音羽の城戸/大友柳太朗

[主題歌・挿入歌]
ワタリ  (作詞/たなかゆきお  作曲/小川寛興  唄/佐々木新一) 
ワタリまーち  (作詞/たなかゆきお  作曲/小川寛興  唄/佐々木新一)