●解説

  1968年に公開された『ガンマー第3号宇宙大作戦』は、米国のラム・フィルムから持ちこまれた企画をもとに東映が製作した日米合作の宇宙SF映画である。ラム・フィルムと東映はこの2年前にも共同で『海底大戦争』を製作しており、本作品は2本目の合作。前作では多くの外国人俳優を起用しながらも主役は日本人(千葉真一)だったが、本作品は主役から端役にいたるまですべて外国人俳優が占めていた。主演はテレビ『幌馬車隊』等で主演したロバート・ホートン、後に『緯度0大作戦』に出演するリチャード・ジェッケル、『007サンダーボール作戦』でボンドガールとなったルチアナ・パルツィの三人。脇役の中には『スーパージャイアンツ』シリーズや多くのテレビドラマに出演していたエンバー(エンベル)・アルテンバイ、『キングコングの逆襲』でヒロインを演じていたリンダ・ミラー、そして『吸血鬼ゴケミドロ』『昆虫大戦争』などの強烈な演技が印象深いキャシー・ホーランといった、日本の特撮映画、テレビ作品でおなじみの顔も見受けられる。
 日本人俳優がひとりも登場しないにもかかわらず、撮影は東映東京撮影所にてオールセットで行なわれており、撮影スタッフもすべて日本人である。後にバイオレンスの巨匠と呼ばれる深作欣二監督がメガホンをとり、一連の東映特撮テレビシリーズを手がけていた田口勝彦氏が共同監督を務めた。田口監督は67年のテレビ作品『キャプテンウルトラ』にて宇宙SFの撮影はすでに経験済みで、脚本の金子武郎氏も一本だけ同作を担当している。一方、特撮については東映の特撮スタッフではなく、外部の日本特撮映画株式会社が担当した。同社は日活で『大巨獣ガッパ』、松竹で『宇宙大怪獣ギララ』『昆虫大戦争』『吸血髑髏船』と、67年から68年にかけて劇場映画を中心に各社で腕をふるっていたが、本作品が最後の担当作品となっている。タイトルでは社名がクレジットされているだけだが、撮影現場では東宝で特撮美術チーフだった渡辺明氏が中心となっていたという。また、音楽を手がけたのは深作監督の代表作のひとつ『仁義なき戦い』シリーズで有名な津島利章氏で、深作監督作品は本作品が初めてとなる。その猛々しい音楽は深作演出と見事に合致していた。
 物語はタイトルが示すように宇宙ステーション「ガンマー第3号」を舞台に繰り広げられる。遊星フローラを10時間以内に爆破しなければ地球に衝突するという、序盤からいきなり危機感に溢れる展開。遊星の爆破作戦はなんとか成功するのだが、遊星に生存していた生物の一部が隊員の宇宙服に付着していたことからガンマー内部に持ちこまれたその生物が増殖を始めて怪獣化し、これが新たな脅威の対象となっていく。怪獣の着ぐるみは複数製作されたが、いかにも人間が入っているという印象は否めない。しかしながら、倒しても倒しても襲いかかってくるその描写は怪奇映画としてのテイストに溢れ、本作品が後の『エイリアン』の元ネタではないかと言われる所以となっている。なお、当時のプレスシートや怪獣図鑑等ではこの怪獣にも遊星と同じ「フローラ」の名がつけられているが、本編中では特定の名称はない。
 本作品はポスターや雑誌等では『ガンマ第3号宇宙大作戦』のタイトルで発表されていたが、完成されたフィルムでは『ガンマー第3号――』となっていた。また、『宇宙大作戦』のタイトルは同年に日本でも放送されていた米国製テレビシリーズ『STAR TREK』の邦題と同じだが、特にこれにあやかったというわけではなく単なる偶然と思われる。今でこそ日本でも絶大な人気を誇る『STAR TREK』も本放送当時の知名度は極めて低く、第2シーズンの放送からは『宇宙パトロール』に改題されている。
 さて、『ガンマー第3号宇宙大作戦』の日本公開にあたっては日本語吹き替え版が製作され、1968年12月に封切られた子供向けプログラム「東映ちびっ子まつり」(「東映まんがまつり」の名称で統一されるのは翌年から)の4本立ての1本に組みこまれた。4本立ての中にはテレビ作品『河童の三平妖怪大作戦』も含まれており、外国人スターを招いた日米合作のSF映画にしてはいささか不遇の扱いと言えよう。翌1969年には『THE GREEN SLIME』のタイトルにて全米で公開。こちらは日本版よりも尺が長い1本立ての公開で、カルト的な人気を獲得した。1970年の日米合作による戦争超大作『トラ・トラ・トラ!』の共同監督として深作監督が抜擢されたのも本作品がきっかけと言われており、日本よりも海外で評価の高い一本である。


 
●キャラクター


■ジャック・ランキン中佐
(ロバート・ホートン)・・・・・・国連宇宙センターより遊星フローラ爆破の指令を受け、宇宙ステーション・ガンマー第3号にやって来た男。常に沈着冷静で、自分にも他人にも厳しい。ガンマーの乗組員を指揮し、的確な判断力で任務を成功させる。日本語版の声優は納谷悟朗氏。
■ヴィンズ・エリオット中佐
(リチャード・ジェッケル)・・・・・・ガンマー3号司令部の隊長。ランキンとはかつて名コンビと呼ばれていたが、任務に失敗して疎遠になっていた。遊星フローラ爆破の作戦にあたってランキンと再びコンビを組む。人の命を重んじるあまり、ランキン中佐と衝突することもしばしば。日本語版の声優は村越伊知郎氏。

■ルイズ・ベイスン
(ルチアナ・パルツィ)・・・・・・ガンマー3号内の医務室に勤務する女性。エリオットの身を心配する。日本語版の声優は北浜晴子氏。
■ジョナサン・トンプソン所長
(バッド・ウイドム)・・・・・・国連宇宙センター所長。ランキン中佐に遊星フローラ爆破の作戦指令を言い渡す。日本語版の声優は富田耕生氏。
■ハルパーソン博士
(テッド・ガンサー)・・・・・・宇宙コンサルタント。遊星フローラで正体不明の生物を見つけ、研究のためにそれを持ち帰ろうとするが、ランキン中佐に止められる。だが、その生物の細胞が隊員の宇宙服に付着したためにガンマー第3号に恐怖をもたらすこととなり、博士自身もその犠牲者となった。
■マイケル
(リチャード・ハイランド)・・・・・・ハルバーソン博士の助手。怪獣化した生物の第一の犠牲者となる。
■マーチン大尉
(ロバート・ダンハム)・・・・・・ガンマー3号の副隊長的存在。ガンマーから乗組員が撤退する際、その指揮をとった。
■モリス中尉(ダビッド・ヨーストン)・・・・・・遊星フローラ爆破作戦のメンバーのひとり。
■怪獣フローラ・・・・・・爆破された遊星フローラからガンマー3号に侵入した怪物。電気やレーザーなどのエネルギーを吸収するとわずかな細胞からたちまち増殖し、傷を受けてもすぐに回復する。触手から高圧電流を放って人間を次々に殺害し、ガンマー3号を恐怖に陥れた。



●ストーリー


 ある日、国連宇宙センターでは地球に向かって突進する遊星フローラを発見した。コンピューターの分析によると、10時間以内に爆破しなければ地球に衝突するという。シンプソン所長はその任務が遂行できるただ一人の男・ランキン中佐を宇宙ステーション・ガンマー3号に派遣した。ランキンは旧友のエリオット中佐を始めとする数人のメンバーたちとともに、遊星フローラに着陸して爆弾を仕掛け、見事に任務を成功させる。だが、その時、フローラに生息していた緑色の細胞が隊員の宇宙服に付着してガンマーの中に持ち込まれたことを彼らは知るよしもなかった。
  電気エネルギーを吸収した生物はたちまち増殖して怪獣と化し、乗組員たちを次々と殺害していった。しかもその怪獣にはレーザー銃がまったく効かないばかりか、流れ出した血液からまた新たな個体が生まれ、ガンマーの乗組員を恐怖に陥れる。ランキンとエリオットは電気エネルギーでさそいこんで一室に閉じこめようと計るが、敢えなく失敗。怪獣はますます増え続け、宇宙ステーションの外側にまであふれ出した。もはやガンマー3号ごと怪獣を爆破するしかない。宇宙船で次々と脱出する乗組員たち。だが、故障によって地上からガンマーを誘導することができなくなったため、ガンマーを破壊するには怪獣たちのいる危険な司令室へ戻らなければならなかった。
  ランキンがひとりで司令室へ向かったことを知ったエリオットは彼を助けに駆けつけるが、怪獣の攻撃の前に命を落としてしまう。ランキンの活躍とエリオットの犠牲によって動きだしたガンマー3号はそのまま地球の大気圏に突入。怪獣もろとも焼失していった。


 
●データ


1968年12月19日公開
カラー ワイド 77分
東映映画、ラム・フィルム作品

[スタッフ]
企画/アイバン・ライナー、ウイリアム・ロス、扇沢要、太田浩児  脚本/トム・ロー、金子武郎  撮影/山沢義一  録音/渡辺義夫  照明/梅谷茂 美術/江野慎一  音楽/津島利章  編集/田中修  助監督/山口和彦  進行主任/阿部征司  装置/松野大三郎  装飾/武井正二  記録/山之内康代  特撮/日本特撮映画株式会社  現像/東映化学工業株式会社  監督/深作欣二、田口勝彦 

[キャスト]
ロバート・ホートン  リチャード・ジェッケル  ルチアナ・パルツィ  バッド・ウイドム  ウイリアム・ロス  テッド・ガンサー  ロバート・ダンハム  ダビッド・ヨーストン  ジャック・モリス  ストロング・イリマイテイ  エンバー・アルテンバイ  ユージン・ヴィンス  カール・ベングス  トム・スコット  リンダ・ミラー  キャシー・ホーラン  リンダ・マルソン  スーザン・スケルジック  リンダ・ハウゼスティ  パトリシア・エリオット  日本語版協力/テアトル・エコー