●解説 |
1973年10月、フジテレビとピー・プロは視聴率的に低迷した『風雲ライオン丸』を終了させると共に、その後番組として『鉄人タイガーセブン』をスタートさせた。ライオンの次は虎、時代劇から現代劇へと番組のイメージは一新される。そして番組の味付けとして取り入られたのが「怪奇色」であり、これはこの年の春に企画されながら実現しなかった『パーフェクターMM(ムー)』のイメージを引き継いでいた。ヒーローのコスチュームにイナズマ模様があったり、主人公の名が滝川(ただし名前は音彦)だったりと、この企画から転用されている部分は多い。
また、本シリーズではヒーローの乗り物としてオートバイが設定されており、怪奇色を狙った設定といい、第8話から首に巻くことになる赤いスカーフといい、当時のブームの中心にあった『仮面ライダー』との共通点がいくつか見受けられる。だが、『仮面ライダー』が途中で怪奇色を廃して明るい番組を目指したことにより人気が上がったことを考えると、いささか的をはずしていたかもしれない。実際のところ、ムー原人の描写に子供が怖がってしまい、視聴率はやはり芳しくなかったという。もっともこれには裏番組となった『ジャンボーグA』や『ド根性ガエル』などの影響も少なくないと思われる。
しかし、視聴率が上がらなかったわりに、本シリーズでは特にテコ入れらしき対策がほとんど行なわれていない。前述の赤いスカーフにより少しだけイメチェンしただけである。それどころか物語は前作『風雲ライオン丸』同様にハード路線をたどり始める。特に『風雲』で救いようのない話を多く書いていた高際和雄氏の参入による影響は大きく、大塚莞爾監督との黄金コンビは第17、18話の前後編を機に、飽くまでもヒーローものであることを前提にした人間ドラマを形成していく。その結果、視聴率はやはり上がるはずもなく、『風雲』同様、2クールでの終了が決定した。
終盤においてはそのハードさにますます拍車がかかり、主人公がオートバイで少年をはねたり、ムー原人と少女が手をとりあって死んだりという、当時の特撮ヒーロー番組の暗黙のルールさえ打ち破ったようなエピソードが続出。そして、死期を悟った主人公が仲間たちと別れてどこへともなく去っていくという、ヒーローものの爽快さとは程遠いラストとなった。
後番組『電人ザボーガー』では本シリーズの反省を踏まえ、アクションを中心とした明るい作品となり、一定の人気を獲得するに至った。しかしながら『鉄人タイガーセブン』の驚愕のエピソードの数々は特撮ファンの語り草となり、先頃、全話を収録したDVD―BOXが発売され、その魅力が再評価されている。子供の頃に夢中になっていた番組を大人になってから見ると、そのつまらなさに唖然とすることも少なくないが、本シリーズは子どもの頃以上に夢中になれる稀有な作品といえるだろう。
●キャラクター |
■滝川剛(南条竜也)・・・・・・考古学者・滝川博士のひとり息子。父親に反発して家出し、プロのオートバイレーサーとなる。それでもサハラ砂漠に調査に出かけた父のことが心配でその後を追い、砂原人に襲われて一度は命を落とすが、父の開発したミイラ蘇生用機材・人工心臓SPを埋め込まれて蘇えった。高井戸研究所のひとりとしてムー原人と戦う一方で、タイガーセブンとしての孤独な戦いをも続けていく。
■タイガーセブン(鴨志田和夫)・・・・・・古代エジプトに伝わるペンダントの威力によって滝川剛が変身した姿で、ムー原人の魔手から人類を守るために戦い続ける正義の鉄人。ペンダントがなければ変身することはできない。セブンの名は額、眼、耳、牙、爪、手、足の七箇所にそれぞれ超能力を持っていることに起因するが、明確ではない。
■高井戸博士(中条静夫)・・・・・・考古学者で高井戸研究所所長。滝川考古学研究所にてムー帝国の研究に尽力していたが、所長の滝川博士がムー帝国に殺害され、蘇えったムー原人が現人類への復讐を企てていることを知る。ムー帝国の存在を信じない人々に罵声を浴びせられながらも人類を守るため、研究所に残った若いメンバーたちと共に日夜戦い続ける。科学的な見地からだけでなく、時には自ら原人と格闘することもあり、メンバーたちの信頼も厚い。
■北川史郎(達純一)・・・・・・高井戸博士の助手。物事の考え方が実にストレートで直情的なため、剛の行動が気に入らなかったりすると、すぐに殴りかかる。その喧嘩っ早さは当然ムー原人にも向けられ、何も考えずに素手で立ち向かっていくことが多い。戦いに嫌気がさし、自分はムー原人とは何の関係もないとグチったこともあったが、その後、皮肉にも敬愛する父親をムー原人に殺されてしまった。故郷の伊豆に妹がひとりいる。
■林三平(佐久間宏則)・・・・・・高井戸博士の助手で北川の弟分的存在。そそっかしく、グループの足を引っぱることもしはしば。ムー原人に大けがさせられるのはまだいい方で、ロウ原人に全身蝋で固められて人間ロウソクにされてしまったり、黒仮面にハエ人間にされてしまったりと、もう散々な目に遭う。しかし、それにもめげず命がけでムー原人と戦い続ける。ハーモニカが得意で、次郎の遊び相手になることもある。
■青木ジュン(久万里由香)・・・・・・高井戸グループの紅一点。亡き父親・青木博士の遺言により滝川博士のもとで剛とは兄妹のように育てられた。そのため剛のことは「剛兄さん」と呼んで慕っており、博士の死後も滝川家で剛と共に暮らしている。とても弟想いで、次郎が行方不明になってもたいして気にもとめなかった剛を強くなじったこともある。しかし、剛に対してはひそかに恋心を抱いており、最終回にて打ち明けるものの、かなわぬ恋となった。
■青木次郎(吉田友紀)・・・・・・ジュンの弟。同年代の友だちと遊ぶこともあるが、研究所にいることが多い。ムー帝国の魔手は子どもの次郎にまで及んでおり、飛竜原人には崖上の巣に連れ去られ、ガマ原人には悪夢を見せられ、ろくろ原人にはろくろビールスを注入されてしまう。剛を本当の兄のように慕い、タイガーセブンに憧れを持つ。次郎の行動が事件解決に結びついたことも度々あり、グループにとっても欠かせないメンバーのひとりである。
■ムー大帝・・・・・・1万4000年前に人類との抗争に敗れてサハラ砂漠奥地のピラミッドの中に封印されていたムー一族の長。脳髄だけの姿となって生き長らえ、現代に目覚めた。超能力を持ち、一族すべてを支配しているが、その意思の伝達は常にギル太子を通して行なわれ、直接声を発することはない。基地内の壁面にある巨大な顔はムー帝国のシンボルであり、その目からは強力な光線を発射することができる。
■ギル太子(剣二郎、槇龍太郎 声/小林恭治)・・・・・・ムー帝国の司令官。人類への怨念で凝り固まっており、1万4000年の恨みを晴らすべくムー原人を指揮する。醜悪な素顔を持っているが、普段はマスクの下に隠している。最終回ではムー大帝の脳髄をその身に納め、棍棒を武器にして自らタイガーセブンと対決するが、タイガーカッターにあっけなく敗れる。その際は衣服を捨て、全身を太陽の下にさらけ出していた。
■黒仮面(君塚正純 声/増岡弘)・・・・・・ムー帝国の行動隊長。普段はギル太子と共に基地内にいることが多いが、時には自ら現場でムー原人や戦闘員たちの指揮をとり、タイガーセブンと直接対決することもあった。性格は冷酷で卑怯極まりなく、ムチ、剣、ナイフなどを武器に持つ。設定ではギル太子同様、その仮面の下に醜悪な顔があることになっていたが、劇中でその素顔が明かされることはなかった。第25話でタイガーセブンのヘッドビームに倒される。
●全話ストーリー |
第1話 ムー原人恐怖の大反乱 |
滝川博士と彼の率いる探検隊はサハラ砂漠の奥地で一万四千年前に封じこめられたと伝えられるムー原人のピラミッドを発見した。だが、そこには滅びたはずのムー帝国の支配者・ムー大帝が脳髄だけの姿で生きていた。そしてムー原人の尖兵・砂原人が探検隊を襲撃。危険な探検をやめさせるべく後から追ってきた滝川博士の息子・剛がその犠牲となった。
一度は息絶えた剛を滝川博士はミイラ蘇生用の人工心臓SPを使って奇跡的に蘇らせるが、その喜びもつかの間、ピラミッドに侵入した探検隊は次々に惨殺され、博士自身もムー帝国の幹部・ギル太子に殺されてしまう。しかし、剛だけは父から譲られた古代エジプトのペンダントの不思議な力によって命を救われた。
ついに人類への復讐を開始したムー一族はマグマ原人を日本に派遣。彼らの秘密を知る滝川考古学研究所にその魔の手をのばした。絶対絶命の危機に陥る高井戸博士とそのメンバーたち。その時、タイガーセブンと名乗る正義の鉄人が出現。マグマ原人に立ち向かい、激闘の末にこれを倒すのだった。
第1話にして7体ものムー原人が登場。このうち4体は後からそれぞれ一本づつエピソードが作られているが、マグマ原人、砂原人、カッパ原人の3体はこの回のみ。触れた物がすべて炎に包まれるというマグマ原人の迫力にはとにかく圧倒される。また、剛の命を一度は奪った砂原人は本編終了間際になって再登場しタイガーセブンにあっけなくやられてしまうが、このシーンはシナリオにはなく、撮影時に急遽撮り足されたようだ。
ストーリーは父子関係をテーマにした、いかにも上原正三氏らしいものになっている。
第2話 蘇ったミイラ原人の復讐 |
国立博物館で警備員が殺害された。これを館内に展示されていたミイラの仕業と考えた高井戸博士は、ミイラを研究所に移し精密検査を行うが、何の異常も認められなかった。
そんな折、剛は数年ぶりに高井戸たちの前に姿を現し、自分の目の前で父親が殺されたことを告げる。ムー原人の存在は世間から認められず、いまだキチガイ扱いされている父・滝川博士。その汚名をはらすため剛は、意を決して再びサハラ砂漠へと向かった。そして形見のペンダントの威力でタイガーセブンに変身。襲い来るムー戦闘員と戦うが、彼がピラミッド内部に潜入した時にはすでにムー大帝やギル太子の姿はなくピラミッドは轟音とともに崩れ去った。
一方、滝川研究所に保管されていたミイラは突如として蘇り、ジュンをさらって洞窟の中へ入り込んだ。ミイラはムー帝国のミイラ原人だったのだ。ジュンを助けるべくその後を追った高井戸たちだが、ミイラ原人の猛威になすすべがない。そこへ駆けつけた剛はタイガーセブンに変身してミイラ原人と対決。必殺武器のファイトグローブでこれを倒した。だが、日本の近海に誕生したばかりの小さな島がムー帝国の新しい本拠地であることに誰ひとり気づく者はいなかった。
シリーズ全体から見れば第1話はプロローグであり、この第2話こそが滝川剛=タイガーセブンの苦悩の物語の始まりである。社会的にその研究が認められていない高井戸博士、剛にいきなり殴りかかる直情的な北川のキャラクター、兄妹のように育てられたという剛とジュンとの関係など、第1話では示されていなかった基本設定が満遍なく織り込まれている。ムー帝国の戦闘員が登場したのも今回からで、サハラ砂漠(ロケ地は浜松の中田島砂丘)でタイガーセブンと激闘を繰り広げた。他の番組の戦闘員と違い、まったく声を出さないあたりがその外観同様ブキミである。
ブキミと言えば、ミイラ原人も実にブキミで、番組の狙いであった怪奇性を最も端的に現わした造型となっていた。当時、子供に怖がられ番組が敬遠されてしまったのも頷ける。なぜかミイラ原人の周囲に赤トンボが飛んでいるという謎めいた部分も興味をそそられたが、これは最後まで謎のままであった。
また、本編の最後にはムー帝国の本拠がサハラ砂漠のピラミッドから日本近海の島に移動するという展開に至り、いよいよムー原人が本腰を入れて日本を狙い始める。ガソリンスタンドに給油に来た自動車の窓からぬっと現われるオイル原人、子供を沼の中へとさらっていく半魚原人…そんなムー原人たちのブキミな様子が、次回への興味をひく。
第3話 逆襲!半魚原人アマゾンX |
奥井川一帯で次々と謎の水死事故が相次いだ。アマゾン川に住む半魚人・アマゾンXの仕業と考えた高井戸博士と秘密研究隊はただちに河口へ急行。すると、そこには金目当てに怪物を生け捕りにしようとする四人の男たちがいた。高井戸は危険だからやめるように説得するが、彼らは耳を貸そうとはしない。そして、網にかかったアマゾンXに麻酔弾を撃ちこむと、倒れこんだその怪物を檻の中に閉じ込めて運び去ってしまう。怪物を目の当たりにした高井戸はそれがムー原人であることを確信した。
だが、アマゾンXは運搬中に目覚め、檻を脱出。男たちを皆殺しにすると河口へと戻り、そこに残っていた高井戸たちに襲いかかった。剛はタイガーセブンに変身。怪物が火に弱いことに気づいた彼はたいまつを手にして挑みかかるが、アマゾンXの超能力・天地渦巻きによって火は消され、川の底に引きずり込まれてしまう。辛くも陸に逃れ、タイガーヘッドビームを放つタイガーセブン。アマゾンXは苦しみながら川の中へと消えていった。
ほとんどが川とその近辺だけで物語が進行しており、怪物アマゾンXをめぐる騒動を描いたオーソドックスなストーリー構成。アマゾンXが有名な半魚人(ギルマン)そっくりであるだけでなく、欲にかられて怪物を生け捕りにしようとする男たち、切り落とされた怪物の片腕が動き出すなど、古典的なパターンが目につくものの、これが返って心地良かったりする。
後で復讐するとはいえ、魚のように網で引き上げられ、あっけなく人間に捕まってしまうアマゾンXには情けなさを感じざるを得ないが、タイガーセブンとの戦いではなかなかの善戦。アマゾンXの「天地渦巻き」に対し、タイガーセブンは必殺技・タイガーヘッドビームを初披露。それでも相手を爆死させるには至らず、川の中に逃げられてしまう。ひょっとすると、アマゾンXはその後も奥井川の底に生き続けているのかもしれない。
ところで、ナレーションの中で高井戸たちを「秘密研究隊」と称しているが、第2話のシナリオでは高井戸が秘密研究隊を結成するくだりがある。と言ってもそれまでと何が変わる訳でもなく、映像作品では削られていた。
第4話 オイル原人恐怖の陰謀!! |
石油コンビナートから石油が減り始めた。高井戸はその原因がムー原人にあるものと見て調査させて欲しいと願い出るが、聞き入れてはもらえなかった。
一方、次郎は古井戸の底でオイル原人を目撃。次郎の言うことを最初は信じなかった剛とジュンであったが、その夜、彼らの家にオイル原人が出現した。原人に襲われながらも辛くも逃れた剛は古井戸の中を調査する。コンビナート付近の排水口につながっており、原人はそこを隠れ家にしてコンビナートから石油を奪っていたのだ。
早速行動を開始する高井戸グループ。北川と三平はコンビナートを警戒し、剛とジュンは再び古井戸の中へ。オイル原人に襲われた二人はオイルまみれになり、窮地に陥るが、剛はジュンが気絶したのを見計らってタイガーセブンに変身した。コンビナートへ潜入し、火を吹くオイル原人。駆けつけたタイガーセブンは懸命に火を消し止め、オイル原人を打ち倒す。だが、時すでに遅く、コンビナートは大爆発を起こすのだった。
冒頭、高井戸の車の中にオイル原人が出現。染み出たオイルの中からヌッと現われるオイル原人の顔が実に不気味で、車内はパニックとなり結局この自動車は爆発炎上してしまう。当時の子供番組の撮影で自動車一台を燃やしてしまうのは珍しく、番組に対するスタッフの心意気が感じられる。ちなみに高井戸は本編のラストで新車を披露。社会的な信用はなくても、この博士、結構儲けていたようだ。
さて、本シリーズ初参加となる藤川桂介氏が脚本を手がけた本作品は、ムー原人の存在が世に信じられていないという部分が上原作品以上にクローズアップされている。「父さん、僕たちの戦いがどんなに難しいものか、やっとわかってきました」というのは、本当のことを言っても警官に信じてもらえなかった剛がふと漏らしたセリフだが、誰にも信じてもらえないもどかしさが全編通じて繰り返されていた。ラストのコンビナートの大爆発も世間の無理解さが招いた結果として描かれており、いささか後味の悪さが残る。
第5話 戦慄!へび原人! |
ビルの工事現場で土砂崩れによってできた洞穴の中からオロチが現われたという。知らせを受けた剛はその目撃者を訪ねるが、彼は何者かによって殺され、病院で昏睡状態にあったもう一人の目撃者までもが殺害されてしまう。二人の死因は毒蛇の毒であり、高井戸は知能を持ったへび=へび原人の仕業であると断定した。
ある雨の夜、剛はオートバイで少女をはねた。滝川家にかつぎこまれ、剛とジュンの手厚い看護を受ける少女。だが、彼女こそへび原人の変身であり、剛を抹殺するべくへび妖術を使って彼に幻覚を見せた。カエンジン、アマゾンX……次々と現われるムー原人をまのあたりにし、狂ったように暴れる剛。その様子を見たジュンは思わず彼の頬を叩き、やがて剛は正気を取り戻した。
少女の部屋でジュンにその気づかれ、ついにその正体を現わすへび原人。剛はタイガーセブンに変身してこれに立ち向かった。そして、オロチの姿となって襲い来るへび原人に苦戦しながらもタイガーセブンは辛くも勝利するのだった。
マグマ、砂、半魚人…と、ムー原人のモチーフは実に様々だが、怪人のモチーフとしては定番である動物≠ェこれに加わることになる。しかも今回はこれまた定番のへび≠セが、へび原人が可憐な少女の姿に変身する点がポイントである。少女(亜矢子という名がついているが、本編中では呼ばれていない)を演じたのは、この翌年に丘野かおりと改名して『ウルトラマンレオ』で山口百子役を演じた山田圭子氏で、おぞましい顔をしたへび原人とのイメージのギャップが面白い。
また、唯一の女性レギュラーであるジュンも、今回は剛を助けた上、蛇少女の正体を見破るといった活躍を見せている。単に原人に襲われるだけのキャラではなかったのだ。へび原人と剛は滝川家の庭で格闘を始めるのだが、剛がタイガーセブンに変身すると、なぜかそこは墓場の中! 両者はあろう事か、墓場の中で激闘を展開しており、なかなかシュールなアクションシーンとなった。カエンジン、アマゾンX、砂原人、ミイラ原人の四体が剛の幻覚として登場するのも見どころ。
第6話 忍び寄る電撃殺人!! |
公園で遊んでいた子供たちが突然感電した。身体から高圧電流を放つエレキ原人の仕業だ。次郎が原人を目撃したことから、剛、北川、三平の三人はその付近の捜索を開始。エレキ原人を発見するが、駆けつけた警官は殺され、原人には逃げられてしまった。
本当のことを言っても誰もわかってくれないと、落ち込む次郎。剛はそんな次郎を連れてウェスタン村へ遊びに行くが、そこにもエレキ原人が出現。またも罪のない人々が殺されてしまう。犯人と間違えられ、警察の取り調べを受ける剛。高井戸博士の働きかけでなんとか釈放されると、急いで発電所へ向かった。発電所の電流が急激に減少しており、その原因がエレキ原人だと思われたからだ。
案の定、発電所の電流を吸収していたエレキ原人は、剛を襲って橋から転落させると、後から駆けつけた北川と三平にも襲いかかる。奮闘空しく追い詰められる二人。そこへタイガーセブンが現われ、彼らを救った。電撃の前に窮地に陥るタイガーセブンだったが、北川から渡された特大のタイヤを使って電撃を封じ、ついにエレキ原人を倒した。
今回もやはりムー原人の存在は世間に信じてもらえず、とうとう剛が殺人犯に間違えられて捕まってしまう。初期は特に警察官が登場することが多く、社会性を重視したリアルな世界が形作られていたと言えよう。付近の住民からオートバイの音がうるさいという苦情があり、剛たちが警官に呼び止められるといったあたりも妙にリアルだった。しかしながら、本作は比較的娯楽性が高く、ウェスタン村での剛と次郎の西部劇ごっこ、北川と三平の奮闘ぶり、初披露となるスパーク号など、アクションシーンでの見どころも多い。
第7話 疾風!!オオカミライダー部隊 |
絶滅したはずのニホンオオカミの子供が捕獲された。金井動物パラダイスの社長はこれを使って金儲けを企むが、オオカミ原人とその弟たちによって社員共々殺害されてしまう。子オオカミはオオカミ原人たちの護りオオカミであり、彼らはそれを取り戻しに来たのだ。
事件を不審に思った剛、北川、三平は残された血痕を手がかりに犯人を追跡するが、それはオオカミ原人の罠であった。オオカミのオートバイ部隊にたちまち取り囲まれ、ピンチに陥った時、剛はタイガーセブンに変身。オートバイ部隊を倒したものの、驚くべきオートバイテクニックを持つオオカミ原人には、まんまと逃げられてしまう。
剛はオオカミ原人に対抗するべくサーキットで猛練習を開始。だが、そこへ現われたひとりの女ライダーが剛のマシンをあっさりと追い抜いた。彼女こそオオカミ原人の変身した姿だったのだ。剛はタイガーセブンとなってオオカミ谷での対決に臨むが、オオカミ原人はタイガーセブンのあらゆる攻撃をかわし、オートバイから鋭い刃物を出して襲い来る。スパーク号にまたがったタイガーセブンは一瞬の隙をついて辛くも勝利を得るのだった。
オオカミライダー部隊、そしてオオカミ原人とタイガーセブンとのオートバイ対決が見もの。人里離れた山奥に住むオオカミ原人たちがなぜオートバイを乗りまわしているのか、いささか疑問ではあるが、危険なオートバイアクションも随所に見られ、娯楽性に富んだ作品となっている。
オオカミ原人が人間の女性(サキという名がつけらけているが、へび原人の亜矢子同様、本編中では名を呼ばれていない)に変身するのも魅力的で、剛がケガしたのを見て「狼の長は傷ついた者を襲わないのさ。牙が汚れるからね」と言ってひきあげるあたりの気高さは他の原人と一線を画している。それに比べ、オートバイ対決ではかなわないと見てブーツから飛び出す凶器(タイガースライス)でオオカミ原人を倒したタイガーセブンは、卑怯な感がしないでもない。
ちなみに撮影に使われたニホンオオカミの子はどう見てもただの子犬。「まちがいない。狼ですな」と言い切る高井戸博士が可笑しい。
第8話 スカーフに怒りをこめて!! |
大学で地質学を研究していた池田美波は、硫黄山で石の採集をしていたところを石原人に襲われた。大学の仲間たちは全員殺され、ひとり逃れた美波は先輩の剛に通報。ただちに現地へ向かった剛はタイガーセブンに変身して石原人に立ち向かい、その身体をバラバラに砕いた。
石原人の身体のかけらを研究室に持ち帰り、美波にその分析を任せる剛。だが、石原人はまだ死んではいなかった。砕かれた身体はたちまち復元し、かけらに呼ばれるまま高井戸研究室に近づいていったのだ。剛が駆けつけた時にはすでに遅く、石原人に倒された美彼は彼に分析結果を手渡すと、静かに息をひきとった。彼女が自分を慕っていたことを知って剛の心に悲しみと怒りがこみあげてくる。
「美波、一緒に行こうな」
美波のしていた赤いスカーフを自らの首に巻いた剛はタイガーセブンとなって再び石原人と対決。分析の結果が硫黄であったことから、タイガーセブンは石原人の身体に火をつけ、木っ端微塵に爆破するのだった。
ヒーローのデザイン変更やイメージチェンジというのはよくある事。その大半はパワーアップに伴うものであったりするのだが、今回からタイガーセブンが身につけるようになった赤いスカーフ≠ヘタイガーセブンの能力や技とはまったく関係がなく、ひとりの女性の死という悲しいエピソードをひっさげて登場した。その女性・池田美波を演じたのは、特撮ヒーロー作品には多数出演している隅田和世氏。薄幸の美女(しかも人間でないことが多い)が良く似合う稀有な女優さんだが、本作でも剛を慕う健気な女性を好演している。
さて、一方の適役・石原人も身体が石だけにいささか無機質なイメージはあるが、その暴れぶりはなかなか魅力的だ。バラバラになっても復元したり、転がって石の塊になるなどの能力は既に使い古されていたものではあったが、何も言わずに(基本的に無機物の原人は言葉を発しないらしい)強引に襲ってくるあたりは、なかなか怖い。タイガーセブンとは三回に渡って激闘を繰り広げ、軽トラの荷台の上という、おおよそ他のヒーロー番組では考えられない場所でも戦っている。何かとストーリーのハードさが取り立たされる本シリーズであるが、臨場感のあるアクションシーンにも着目したい。
第9話 死斗!飛竜原人対タイガーセブン |
工事現場で発見された翼竜の化石。それは空を自由に飛べる翼を持った飛竜原人であった。剛はこれに敢然と戦いを挑むが、ふと気づくとペンダントは原人の手の中にある。タイガーセブンに変身することができず、その場を逃れる剛。だが、自宅に戻った彼のもとに再び飛竜原人が飛来し、次郎をさらっていった。
一方、化石の調査にやってきた高井戸研究室のメンバーたちもやはり飛竜原人に襲われ、近くの小屋に逃げ込んだものの高井戸が深い傷を負い、すぐにも輸血を必要としていた。北川は決死の覚悟で自動車を走らせ、ひとり病院へ向かうが、原人に行く手を阻まれる。次郎の後を追っていて北川の自動車を発見した剛は、高井戸の容態を知って北川の代わりに病院へ行き、輸血用の血液を運んだ。
高井戸は命をとりとめたが、原人の巣にとらわれた次郎のことが心配だ。剛は北川や三平の協力を得て行動を開始。北川たちがおとりになって原人をおびきだし、その隙に剛が崖上の巣へ向かう。だが、それに気づいた原人がたちまち巣に戻り、剛の命綱を切ってしまった。次郎を背負ったまま転落する剛。その時、偶然にもタイガーセブンのペンダントは剛の胸にあった。原人の巣の中にあったそれを次郎が持ち出していたのだ。剛はタイガーセブンに変身して飛竜原人と対決。必殺技を駆使してこれを倒した。
クレーンを多用した怪人の飛行シーンはピープロの前作『風雲ライオン丸』でもよく見られたが、今回は全編に渡って飛竜原人が飛び回っている。変身アイテムがないために変身ができなくなるというエピソードは、変身ヒーローものの定番ではあるものの、低空で飛びながら襲ってくる飛竜原人の特性が活かされ、なかなかスリリングな展開となっていた。卵を産むわけでもないのに、崖の上に巣を作る原人というのも妙ではあるが……。
第10話 大爆発!!ツチノコ原人 |
ニトログリセリンが大量に盗まれるという事件が起きた。ツチノコ原人に襲われた高井戸たちは事件が原人の仕業であることを察するが、大量のニトロを飲み込まれていては、むやみに攻撃することはできない。ちょっとしたショックでも大爆発を起こすかもしれないからだ。そこで剛は麻酔銃を使ってツチノコ原人を眠らせ、湖へ沈めることにした。
ツチノコ原人はその住みかである洞穴の奥にいくつもの卵を産みつけていた。高井戸はそれを研究資料として研究所へ持ち帰り、孵化器の中で暖める。だが、ニトロは原人の体内ではなく、卵の中に栄養として詰まっていた。それを知った高井戸研究所のメンバーたちは、ただちに卵を外へ持ち出した。
一方、湖に沈められる前に麻酔から目覚めたツチノコ原人はタイガーセブンを倒せというギル太子の命令を無視して卵のところへ向かっていた。自分の産んだ卵に愛着を感じ始めていたのだ。しかし、卵は高井戸たちの手によって安全なところで爆破され、ツチノコ原人は駆けつけたタイガーセブンに倒されるのだった。
いわゆる幻の動物の一つとして、当時何かと雑誌やテレビのネタにされていたツチノコ≠怪人のモチーフとした唯一の例がここに登場するツチノコ原人である。しかしながら、蛇の特徴はあってもツチノコのイメージはまったくなく、そのうえ口にはセイウチのような巨大な牙、肘にはスペクトルマンのネビュラスライスを思わせる刃物がついており、「いったいどこがツチノコなのか?」と、デザイナーを小一時間ほど問い詰めたくなるような不思議なデザインとなっている。それにしてもニトログリセリンを卵の栄養としなければならないのではちょっとしたことですぐ爆発してしまい、出生率は非常に低いのでは? だから幻の動物なのかと妙に納得してしまう。
第11話 とける顔 ロウ原人 |
銀行からの帰り道、ジュンは怪しい男につけられていた。男をまいてタクシーへ乗り込むジュンだったが、そのタクシーの運転手もまた奇怪な顔の男であった。剛はタイガーセブンとなってジュンを救い出すが、タクシーの中から運転手の姿は忽然と消えてしまう。男は全身がロウで出来たロウ原人だったのだ。原人の残したロウの痕跡を追った剛と高井戸たちはやがて東京タワーの蝋人形館へとたどりつくが、ロウ原人をさがしだすことはできなかった。
その夜、ロウ原人はジュンの寝室に現われ、ジュンをさらっていった。再び蝋人形館を訪ねた剛たちはそこに捕われていたジュンを救出。火炎放射器でロウ原人を攻め立てる。だが、ロウ原人の表面のロウが溶けると、そこには爆弾を身につけた本体が。剛はタイガーセブンに変身するが、ロウ原人に組みつかれ、ピンチに陥る。そこでタイガーセブンはスパーク号に乗って猛スピードで東京タワーを駆けのぼると、頂上から回転しながら落下。さしものロウ原人もその身体を振りとばされ、東京タワーにぶつかって大爆発した。
木を隠すには森、ロウ原人を隠すには蝋人形館……というわけで、東京タワー蝋人形館の協力による館内での撮影が目をひく。マリリンモンローなど、有名な蝋人形の数々も画面に登場。ちなみに人形の補修員役で中山剣吾(薩摩剣八郎)氏が顔出しで出演している。
不気味なイメージの強いロウ原人だが、ロウの下には爆弾を身につけているという過激な原人でもある。このロウ原人にしがみつかれたタイガーセブンはスパーク号に乗って、なんと東京タワーを駆けのぼり、頂上からダイビングする荒業をやってのける。しかし……爆発によって折れ曲がった東京タワーの姿はなんとも哀れだ。
第12話 三平 ハエ人間になる!! |
次郎と遊んでいた三平の耳に突然、巨大なハエがとまった。三平はそれを研究所へ持ち帰るが、やがて彼の身に異変が起こり始めた。手にカップがくっついて離れなくなり、足の形がハエのそれになってしまったのだ。ふと鏡を見ると、耳に傷跡が……。彼の耳にとまった巨大なハエの仕業だ。恐怖におびえた三平はアパートの自分の部屋に閉じこもるが、ついに全身が醜いハエ人間と化した。
三平の意識を失ったハエ人間は近所の人々や通行人を次々と襲い、さらに高井戸たちを襲撃。剛はタイガーセブンに変身すると、相手が三平と知りながらやむなくこれと戦った。タイガーセブンの攻撃で気を失ったハエ人間に対し、血液の交換を試みる高井戸。それが功を奏し、次第にハエ人間は三平の姿に。
だが、そこに謎の男が現われ、戦闘員を繰り出して三平をさらっていった。その男こそ三平に巨大なハエを差し向けた張本人であり、その正体はムー帝国の幹部・黒仮面であった。
後を追ったタイガーセブンは黒仮面と対決。激闘の末にこれを退け、タイガーバックルエネルギーの力によって三平を完全にもとの姿に戻すのだった。
前回では全身をロウで固められてロウソクと化した三平が、今回はハエの怪人にされてしまった。ピープロ版『ハエ男の恐怖』…というか、イメージ的にはリメイクの『ザ・フライ』に近い。商業誌等では怪人名が「ハエ原人」となっているが、サブタイトルも本編中のセリフもすべて「ハエ人間」である。
また、本作では黒仮面が作戦を自ら実行し初めてタイガーセブンと対決している。ヘッドビームをまともに浴びても死なないあたりが、「さすがは幹部!」と思わせたのだが、第25話での対決でタイガーセブンに倒された時の決め技もやはりヘッドビームであった。
第13話 剛兄ちゃん助けてェーッ!! |
ある日、次郎はとても恐い夢を見た。一つ目のガマ原人に襲われ、そばにいた剛に助けを求めるのだが、彼はどこかへ消えてしまう。代わりに次郎を助けに現われたのは、死んだ次郎の父親であった。
夢の中とはいえ、剛が助けてくれなかったことがショックで、次郎はだまって学校を休んだ。それを知ったジュンは剛に相談するが、彼は事件の調査に忙しく、ろくに話も聞かない。だが、ジュンが次郎の姿を発見した時、次郎は雪の中で倒れていた。父親の墓に行ったところをガマ原人に襲われたのだ。そして夢と同じように、剛はやはり助けにきてはくれなかった。
「どうしてあの時、話を聞いてくれなかったの?」
ジュンに責められ、何も言えなくなる剛。必ず原人を倒すことを心に誓うと、タイガーセブンに変身。墓荒らしをするガマ原人に立ち向かい、これを倒した。そして、次郎の夢の中でも剛が助けに現われるのだった。
『風雲ライオン丸』にてハードで切ない話を連発していた高際和雄氏が本シリーズにも参入。視聴者を絶望のどん底に突き落とす、その独特の世界はまだ展開されてはいないが、ジュンに責め立てられ、悩み苦しむ剛の描写にその片鱗がうかがえる。弟を想うあまり剛につらくあたるジュンの表情にも注目したい。
また、本作には今まで語られなかったジュンと次郎の父親・青木博士が夢の中のシーンで登場。ただし次郎にとっては父親が夢に出てきたことよりも、剛が助けてくれなかったことの方が重要のようだ。青木博士がなぜ死んでしまったのか、ジュンと次郎がどのような経緯で剛と兄弟のように育てられるようになったのかなどは、次回で詳細に紹介されることになる。
放映日が年の暮れということで、研究所内では鏡餅を飾ってメンバーたちが正月の準備をする姿も描かれている。それでいて次回の放送では正月らしさがほとんど感じられないのはどういう訳だろうか。
第14話 燃える命のろくろ地獄 |
次郎は学校帰りに猿まわしを見かけ、面白がってその後をついていった。だが、その猿回しの男はムー帝国のろくろ原人であり、次郎の身体に恐ろしいろくろビールスを注入してしまう。ろくろビールスには特効薬がなく、これに侵された者は命が十日と持たない。しかも次郎の父・青木博士もまたサハラ砂漠の遺跡の調査中に同じビールスに侵されて亡くなっていた。彼を看取った剛の父・滝川博士はジュンと次郎を引き取って我が子のように育てたのだ。
父親の日記を読んだ剛は、ろくろビールスに侵された者でも命の花のエキスを飲めばすぐに元気になるという言い伝えを知る。だが、それは一度踏み込んだら二度とは戻れぬサハラ砂漠の地獄谷にしか咲いていないという。剛は意を決してサハラ砂漠へ赴き、地獄谷を目指す。しかし、砂漠の中をひたすら歩き続けて三日目にようやく命の花を見つけた時、目の前にろくろ原人が出現。剛はもうろうとする意識をふるい立たせ、タイガーセブンに変身した。そして、砂漠に生息する食肉植物ツタカズラに苦しめられながらも、ろくろ原人を倒したタイガーセブンは命の花を持って日本へと急いだ。
次郎が倒れる展開は前回と同じだが、今回は命が十日として持たないビールスに侵されたということで、前回以上に深刻だ。剛も次郎の命を救うため決死の覚悟で再びサハラ砂漠の地を踏むことになる。食肉植物ツタカズラという思わぬ敵まで現われ、砂漠での戦いはタイガーセブンに苦戦を余儀なくされた。
ところで、ろくろ≠ニいうのは、この場合、何を意味するのだろう。本編を見る限りではさっぱりわからない。やはりどくろ≠フ印刷ミスなのか。それから、謎といえばもう一つ。日本近海の小島にアジトを移したはずのギル太子たちがいつの間にかサハラ砂漠のピラミッドに戻っている。第2話でピラミッドも崩壊したはずなのだが、また建て直したのだろうか。
第15話 ムー帝国大侵略 |
ムー帝国はついに人類抹殺計画を開始。その手始めに建設中の地熱発電所の壊滅を実行に移した。ギル太子の命を受けたガス原人が身体から毒ガスを噴射し、建設現場の作業員たちを抹殺したのだ。事件は単なるガス中毒死と見られていたが、これを不審に思った剛はただちに現場へ調査に向かった。だが、剛が訪ねた現場事務所の佐山はガス原人に襲われ、タイガーセブンとなって駆けつけた時には彼の心臓はすでに止まっていた。
タイガーセブンは自らの牙からタイガーエネルギーを佐山の身体に注入して彼の心臓を動かそうと試みた。そこへやってきた佐山の妹・陽子とその弟・勝男はタイガーセブンが兄を襲っているものと誤解し、二人を引き離す。そのため佐山は助からず、姉弟はタイガーセブンが兄を殺したと思いこんでしまった。
ガス原人による発電所襲撃はさらに続き、護衛にあたった北川と三平が負傷。タイガーセブンがガス原人に戦いを挑むが、自在に身体を気化させるガス原人にはいかなる攻撃も通用しない。苦戦を強いられるタイガーセブンであったが、ガス原人を地中に封じ込めることでこの強敵をうちやぶった。
しかし、ムー帝国は新たな罠を仕掛けていた。勝男を利用してタイガーセブンをおびき出し、クモ原人の巣の上に落下させたのだ。身動きのとれないタイガーセブンにクモ原人の放った毒蜘蛛タランチュラが迫る!
タイガーセブンの人命救助が殺人に間違えられてしまう哀しい展開。しかし、牙からエネルギーを注入するその姿は、襲っているようにしか見えないので無理もない。人々に理解されないという点は高井戸グループも同様で、北川もまた報われることのない戦いに疑問を感じ、不満を爆発させている。
第16話 ムー帝国への挑戦 |
タイガーセブンは毒グモをタイガーハリケーンで吹き飛ばすと、クモの糸を切断して脱出した。だが、勝男はまだムー帝国に捕われている。剛は陽子にそのことを伝えるが、陽子は剛の助けを拒み、クモ原人の巣のあった洞窟の中を警官隊と共に自ら捜索する。たちまち襲い来る無数の毒グモ。警官たちは次々とその餌食になり、陽子も窮地に立たされた。そこへ駆けつけたタイガーセブンが彼女を救うが、陽子はそれでもタイガーセブンを信じようとはしなかった。
一方、高井戸博士はムー帝国の本拠地を探るべく、火山研究家の加藤博士に協力を仰いだ。地脈からその位置を特定しようというのだ。だが、クモ原人の放った毒グモは加藤博士をも殺害。もはやムー原人の存在を証明するためにはムー原人を捕まえるしかないと考えた高井戸グループは意を決してクモ原人のいる洞窟へと向かった。しかし、洞窟の中に仕掛けられた罠に落ち、檻の中に捕われてしまう。
黒仮面にタイガーセブンの正体ではないかと疑われた剛は厳しい拷問を受けるが、隙を見てタイガーセブンに変身。クモ原人を倒し、高井戸たちと先に捕われていた勝男を救い出した。勝男は洞窟内の地熱とガスのために瀕死の状態にあったが、タイガーセブンはタイガーエネルギーによって彼の命を救い、陽子の誤解も晴れるのだった。
前回のラストではクモ原人の出現によってピンチに陥ったタイガーセブンの姿でつづく≠フテロップと共に終了。後編となる本作へと引き続いているが、今回のラストでも新たな敵・地震原人が登場。テロップこそ入らないもののやはりタイガーセブンのピンチで締めている。次回も前後編であり、シリーズも中盤に入ってピープロお得意の連続ドラマ性が強調されていた。いよいよ「鉄人タイガーセブン」の物語は佳境へ入る。
第17話 日本列島沈没の危機!! |
伊豆近海で海底異変が起こり、伊豆に大地震の怖れがあると噂され始めた。そんな時、黒沢と名乗るルポライターが高井戸博士に近づいた。彼はムー原人の存在を信じ、異変の原因がムー原人にあるのではないかと問いただすが、高井戸は何も答えようとはしなかった。
一方、北川はテレビのニュースを見て愕然となった。海底異変の影響により漁船が転覆。その船の船長こそ彼の父親だったのだ。急いで故郷の伊豆へ行くが、救助船から引き上げられた犠牲者たちの中に父の姿はない。北川は妹の美穂と共に港で父の帰りを待ち続けた。
異変を調査するため高井戸博士と他のメンバーたちも伊豆へ。やがて伊豆に地震が発生し、一連の異変がムー原人の仕業であることを確信する。そして岩盤の集中する大室山に原人がいるものと推測するが、おばけウニが現われたとの連絡を受けた高井戸たちは、港近くの浜辺へ急行した。だが、それは彼らを地震原人から注意をそらすべく、ムー帝国がおとりとして派遣した海坊主原人であった。高井戸と三平は麻酔銃を使って海坊主原人を捕獲することに成功する。
ムー帝国の罠を見破り、ひとり大室山に残った剛の前に地震原人が出現。剛はタイガーセブンに変身して戦うが、地割れに転落し、地底深くに閉じ込められてしまった。
大ブームとなった『日本沈没』の劇場映画版が公開された直後の放送であり、それにあやかってか、サブタイトルに「日本列島沈没」の文字が。ただし、日本列島沈没はムー帝国の作戦の最終目標であって、本編では伊豆半島での中規模な地震にとどまっている。したがって大地震によるスペクタクル映像などは見られず、むしろこれまで以上に人間ドラマが重視されている。なお、書籍類に掲載された放映リストでは脚本担当が藤川桂介氏となっているが、EDのクレジットもシナリオの表記も後編同様、高際和雄氏である。
伊豆でのロケでは、地元のホテル暖香園とタイアップ。特撮番組ではおなじみの伊豆シャボテン公園でも撮影を行なっている。
第18話 伊豆半島 死の攻防戦!! |
港に到着した最後の救助船によって北川の父は亡骸となって運ばれてきた。北川は何も言わない父を背負い、涙をのんで歩いていく。
すべての原因はムー原人にあった。しかし、高井戸博士は人々の混乱を避けるため、捕えた海坊主原人を突然変異と発表する。黒沢はそんな高井戸を非難し、自分もまた北川と同じように父親をムー原人に殺されたことを告げた。ムー原人が生きていることを知っていたら死なずにすんだかもしれない。そんな思いで黒沢は独自でムー原人を追っていたのだ。
父親を殺され、怒り狂った北川は、その怒りを海坊主原人にぶつけた。目をさまし暴れ出した海坊主原人に、ひとり素手で立ち向かう北川。激しい格闘の末、両者は建物の屋上から落下。海坊主原人はその衝撃で倒れ、北川は運良くプールの中に飛び込んで助かった。
その頃、地下へ閉じ込められていたタイガーセブンは迫り来る戦闘員たちを倒し、ようやく地上へと逃れた。そして、暴れまわる地震原人に再び挑み、ついにこれを倒す。かくして伊豆の大地震は阻止されたのだった。
父親を殺された北川の怒りはすさまじく、なんと海坊主原人を素手で倒してしまった。敵の怪人を普通の人間が武器も持たずにひとりで倒してしまうという展開は、ヒーローの存在価値をなくすようなもので、当時のヒーロー番組では考えられなかったことである。事実、本作でのタイガーセブンは地震原人を倒してはいるものの、印象がいまいち薄い。前回のラストから今回の後半部にかけて、いつまでも地下洞窟を行ったりきたりしていたのも、なんだか情けなかった。ちなみに変身前の剛が登場するのは、ラストの1シーンのみであった。
また、前回より登場のルポ・ライター黒沢も北川に負けず、いい味を出している。ムー原人を公表するか否かで高井戸博士と対立するものの、シリーズ中唯一、高井戸グループの活動に理解を示した、良識あるジャーナリストとして印象深い。それにしても16話では命がけでムー原人の存在を証明しようとしていた高井戸博士が、いざムー原人を捕えてしまうと、それを拒むなんて……。結構、この人、優柔不断かもしれない。
第19話 タイガーセブンの唄が聞える |
下田に隕石が落下。高井戸グループがそこへ駆けつけた時、隕石の中から現われた流星原人が人々を襲っていた。これに立ち向かう剛、北川、三平。戦いのさ中、北川は剛が変身するために人目につかないところへ隠れるのを目撃するが、剛がタイガーセブンであることを知らない彼には、戦いが恐くなって逃げ出したようにしか見えなかった。そのため北川は剛を非難し、ひきょうもの呼ばわりする。本当のことが言えず、苦しむ剛。
そんな時、黒沢が剛に近づき、話を持ちかけた。黒沢はタイガーセブンの戦いをカメラに収めたのだが、フィルムに写っていたのはまぎれもなく剛の姿。それはタイガーセブンの正体が剛である、なによりの証拠であった。黒沢はそのフィルムを渡す代わりに高井戸グループが持つムー原人の資料を要求するが、剛は断固としてそれを拒否した。
隕石の調査に出かけた高井戸たちの前に再び流星原人が出現。駆けつけた剛はタイガーセブンに変身してこれに立ち向かった。その様子を見てシャッターを切る黒沢。戦いはタイガーセブンが勝利するが、そばにいた黒沢が落石に巻き込まれそうになる。タイガーセブンに命を救われた黒沢は自分が撮ったフィルムを彼に差し出すのだった。
今回はホテル下田とタイアップ。駅から降りたジュンと次郎がタクシーに乗ろうとすると「歩いた方が早いすよ。ホテル下田ならすぐそこだ」と言われてしまう。事実、その場所からホテルの看板が見えており、ジュンも「駅のまん前なのね」と思わず感心。そして、ラストではホテルの一室に豪華料理が並び、「こんなうまいもん、東京じゃ食べられないよ」などと次郎に言わせている。こういった露骨な宣伝も、なかなか楽しい。
ドラマは前回同様、北川と黒沢のキャラクターが目立つが、飽くまでも剛を中心としたストーリー。自ら背負った宿命の重さに苦悩する剛の姿が切なく描かれており、ラストエピソードへの伏線ともなっている。
ところで今回のサブタイトル。抽象的な意味かと思いきや、本編中で本当にタイガーセブンの唄(主題歌)を剛が唄っている。自分の宿命の重さに耐えかねて思わず口ずさんだ歌がなぜか番組の主題歌だったという、これはどう解釈してよいのやら…。
第20話 ガン・ファイター鼠原人の挑戦!! |
横浜でネズミが凶暴化して人間を襲うという事件が続発。そのうえネズミを駆除しようとする保健所の駆除員たちが何者かに射殺されていった。事態を深刻にとらえた高井戸博士はネズミ駆除の研究者・ドクターモーリンを横浜へ招くが、そこに彼女を狙う暗殺者の影があった。ネズミたちのリーダーと称する鼠原人である。
ネズミが凶暴化したのは人間に原因があるのに、人間は自分たちがしたことも忘れてネズミたちを殺そうとしている。黒仮面にそんな話を吹き込まれ、ますますモーリン暗殺に燃える鼠原人。だが、瀕死のネズミからムー大帝が自分たちを利用していることを知らされた彼は、逆上してムー帝国の本拠地に殴り込んだ。しかし、ムー大帝の力には及ばず、仲間の安全のために剛を殺すことを誓う。
高井戸グループを襲い、ついにモーリスを殺害する鼠原人。剛はタイガーセブンに変身。二丁の拳銃を使う鼠原人に対し、タイガーヘッドビームで勝負に挑んだ。だが、ビームを発射しようとしたその時、ビームのエネルギー源となる太陽は厚い雲に覆われてしまう。窮地に陥るタイガーセブン。それを見ていた北川と三平は教会の鐘を鳴らし、鼠原人の動きを止めた。急に大きな音を聞くと動けなくなるというネズミの習性を利用したのだ。その間に空は晴れ、タイガーセブンはヘッドビームを放ち、戦いに勝利するのだった。
鼠原人はネズミたちのためだけに戦うネズミたちのリーダーであり、もともとムー帝国とも無関係らしい。そんな彼をムー原人と呼べるのかどうかは疑問だが、ネズミたちにとっては間違いなく正義の味方だ。タイガーセブンもそんな鼠原人の行動に多少なりとも理解を示し、正々堂々と決闘することを提案。お互いに背を向けて二十歩歩き十数えたら勝負、という西部劇でおなじみの決闘法で戦う。だが、結局は相手が動けなくなったのに乗じてヘッドビームを放ち、勝利するタイガーセブン。オオカミ原人との勝負といい、今回といい、敵よりもヒーローの方が卑怯に見えるのはいかがなものか。
第21話 必殺!!タイガー回転スパーク |
幼稚園児たちが突然ミノムシに変身してしまった。この奇怪な事件の調査を依頼された高井戸研究所はその原因がミノムシ原人の放つ燐粉にあることをつきとめるが、ミノムシになった子どもたちは凶暴化し、原人に操られるまま暴れだした。相手が子どもだけにおとなたちは手が出せない。ミノムシ原人の狙いは、まさにそこにあったのだ。
剛はタイガーセブンとなってミノムシ原人に立ち向かう。だが、その強力なミノマントにはタイガーカッターも通用せず、崖下に転落して剛の姿に戻ったところを原人に捕われてしまった。そしてムー帝国の本拠地へと連れていかれた剛はムー大帝の命令によって目を潰され、視力を奪われる。
ミノムシ原人は次々と子どもたちをミノムシに変え、ミノムシ軍団を結成した。眼球の手術を受けた剛は、まだ視力の回復しないその身体で再び戦いを挑む。タイガーセブンとなった彼はスパーク号のオートレーダーを使って相手の動きを捉え、必殺タイガー回転スパークでミノムシ原人を粉砕。子どもたちはもとの姿に戻り、剛の目も回復するのだった。
ミノムシ原人の燐粉を浴びた子どもたちはミノムシになってしまうというのだが、目の周りを青く、口元を裂けたように赤く塗っているだけで、何がどうミノムシなのか、さっぱりわからない。しかも今回はかなり事件が大っぴらになっており、この後のエピソードにおいてもムー原人の存在が世に知られていないことになっているのは妙である。
ムー大帝は捕まえた剛に対し、殺さずに生かしたまま苦しめようと彼の視力を奪う。が、それは普通の眼球手術で治る程度のものであった。人類の医学の勝利と言うべきか。
第22話 逆襲!!狂った犬原人 |
犬を飼っている者が殺されるという事件が頻発した。高井戸グループは麻酔銃で犯人の捕獲を試みるが、ムー戦闘員たちに妨害され、取り逃してしまう。犯人は犬原人であり、犬を本来の姿に立ち返らせたいと願うばかりに犬を支配する人間たちを襲っていたのだ。命を助けられたことに恩義を感じた犬原人はムー帝国に力を貸し、ジュンと次郎をさらった。
犬原人に呼び出された剛はタイガーセブンとなってムー帝国の本拠地へ。そこにはジュンと次郎が吊るされ、今まさに処刑されようとしていた。二人を放すことを条件に自ら囚われの身となるタイガーセブン。だが、ムー帝国の汚いやり口を見て彼らの手先となっていたことを恥じた犬原人は、ムー帝国に反逆しタイガーセブンを救い出した。
タイガーセブンは犬原人の真意を知り、共に力を合わせたいと申し出るが、犬原人はそれを拒んだ。人間が今の生活を続ける限り、犬の幸せはありえないと考えたからだ。犬原人はタイガーセブンに剣を向け、仲間を呼ぶため遠吠えをする。しかし、いつまでたっても仲間は来ない。人間の街はすでに犬の遠吠えすら聞こえない世界になっていたのだ。もつれあううちに剣を自らの胸に刺し、絶命する犬原人。その目には涙が浮かんでいた。
犬たちの幸せために戦う犬原人。ネズミたちのために戦っていた鼠原人とどうしてもイメージがかぶってしまうが、仲間に仲間と認められていない分、犬原人の方がより悲劇的である。犬の遠吠えすら聞えない街は、犬だけでなく我々人間にとっても幸せな街とは言えないのではないか。そんな重いテーマがラストの剛のモノローグによって語られている。
なお、今回は円谷プロや日本現代企画等の作品でお馴染みだった鈴木俊継氏によるピー・プロ初監督作品。鈴木監督は続く『電人ザボーガー』においても8本手がけている。
第23話 悪魔の唸り コールタール原人 |
都内の工事現場で人間がコールタールで固められるという事件が起こった。パトロールを開始した北川と剛は住民を襲うコールタール原人を発見。焦った剛は市民の安全を確認するまで手をだすなという高井戸博士の指示を無視し、コールタール原人と戦うためオートバイを走らせる。そしてタイガーセブンに変身しようと空中へとび上がったその瞬間、彼のオートバイは少年をひいてしまった。
病院に運ばれ、手術を受けたその少年は一命をとりとめる。だが、偶然の事故とはいえ子どもを傷つけたことで剛は苦しみ続けた。苦しみを忘れられるなら死んでもいいと、ムー戦闘員に襲われても抵抗すらしない剛。高井戸博士はそんな彼に「我々が死ぬ時は他人の苦しみを救う時だけだ」と言い放つ。
コールタール原人が再び出現。自分のなすべきことに気づいた剛はタイガーセブンに変身し、ついにコールタール原人を倒した。そして多くの人々のために戦い続けることを心に誓うのだった。
主人公のオートバイが子どもをはねてしまう。そのインパクトは強烈で、本シリーズ中でも特にファンの間で語り草となっていたエピソードだ。事故の原因は剛がオートバイからジャンプして変身しようとしたことにあるが、他の回ではこのような変身の仕方はしたことがない。ちょっと試しにやってみた…のだろうか。慣れないことはするもんじゃない。
また、この回が衝撃的なのは子どもをはねただけでなく、そのことにより剛が苦しみ、死んでもいいとさえ言ってしまうことにある。ヒーローが自らの死をかけるのは敵を倒す時、若しくは人を守る時であって、苦しさから逃れるために死にたいなどという台詞は決して言ってはならなかったことだからだ。もっとも脚本の高際和雄氏は同じようなことをすでに『風雲ライオン丸』でやっているが……。
第24話 ムー帝国移動大作戦!! |
ムー原人がすっかり姿を現わさなくなり、不審に思った高井戸グループは彼らが寒さを嫌って移動したのではないかと推測した。やがてムー原人の仕業らしき爆発事故が四日市コンビナートで発生。そのことから高井戸博士はムー帝国基地の移動を確信し、次の目的地と思われる長島温泉へ向かった。
その頃、北川の妹・美穂が上京し、一緒に暮らしたいと兄に告げていた。だが、ムー帝国を打倒することに命をかけている北川には妹を自分のそばに置いておくことはできない。美穂からその話を聞いた剛は高井戸博士にも相談し、美穂の願いをかなえようとするが、北川の怒りを買うだけだった。
ムー原人が再び四日市コンビナートを狙っているとの情報を得た高井戸と三平はヘリコプターで現場へと急いだ。だが、それは高井戸たちの注意をひきつけるおとりに過ぎず、本当の狙いである熱帯植物園に植物原人が出現。長島温泉に残っていた北川と、タイガーセブンに変身した剛が原人に立ち向かい、激闘の末にこれを倒す。
美穂は兄が必ず戻ってくることを信じ、故郷へと帰っていった。
長島温泉ロケによるラスト三部作の一本目。基本的にはこの三部作も一話完結だが、ムー原人との戦いに疑問を抱く剛の心情の変化が織り込まれ、最終話への伏線となっている。
さて、ストーリーの本筋はサブタイトルにあるようにムー帝国基地の移動の話だ。赤道直下のサハラ砂漠に住んでいただけにムー原人たちは寒さに弱いらしく、暖流海域に沿って長島温泉まで行ってしまう。やはり寒い時にはムー原人も温泉に入りたいらしいが、放送日はすでに3月中旬となっており、現実の季節とは若干ずれている。
しかしながらムー帝国の移動は長島温泉を舞台とする理由づけのようなもので、本作のポイントは兄と一緒に暮らしたいと願う美穂と、そんな妹のことを想うばかりにそれを拒絶する兄・北川にある。ただ、話が途中から剛の側に逸れてしまい、ラストに至る美穂の心情が今ひとつ描ききれていない。
第25話 恐怖の大サーカス マリオネット原人 |
長島温泉で公演を行なっていたサーカス団に黒仮面とマリオネット原人が潜入。ピエロを殺し、マリオネット原人が彼になりすました。だが、それをサーカス団の少女・冬子が見ていたことに彼らは気づかなかった。
ピエロとなったマリオネット原人はジュンをさらい、黒仮面に命ぜられるまま彼女の処刑を開始。ナイフをかまえた時、ジュンの前に冬子がとびだした。彼女は自分の目で見たことがまだ信じられなかったのだ。ピエロも冬子とのちょっとしたふれあいがあったことからナイフを投げることをためらった。
駆けつけたタイガーセブンによってジュンは助け出されたが、簡単にあきらめるような黒仮面ではなかった。次郎は冬子と仲良しになり、剛はふたりを連れて遊びに出かけるが、そこへ黒仮面が襲ってくる。剛はタイガーセブンに変身して黒仮面、そしてマリオネット原人と戦った。
ピエロのことを心配して近づく冬子。その時、黒仮面の剣が彼女に命中。動かなくなった冬子を見て怒りを爆発させるマリオネット原人だったが、タイガーセブンの涙を見て攻撃をやめてしまう。黒仮面はそんな原人を処刑すると、単身タイガーセブンと対決。だが、タイガーセブンの怒りは黒仮面を圧倒し、ヘッドビームが黒仮面を葬り去った。
ムー原人は原則として二種に大別される。人語を喋らず(喋るとしてもギル太子の声がそのまま伝わるだけ)ただ操られるままのの原人。そして、人語を喋り、自らの意思を持つ原人。前者は石やオイルなどの無機質なもの、後者は動物が多い。高際脚本ではたとえ動物系でも操られるタイプがほとんどで、唯一自らの意思を持って黒仮面に反抗までしたのが今回登場したマリオネット(操り人形)原人だったというのは、なんとも皮肉だ。
マリオネット原人を助けようとして死んでしまう少女・冬子。戦いを放棄した原人は黒仮面に始末され、冬子の手をとって死んでいく。この展開はあまりにも切なく、掟やぶりだった。そして自分の戦いに疑問を抱いていた剛にとってこの事件は決定打となってしまう。「もうこんな思いはたくさんだ!」と言い放ち、オートバイで走り去る剛の姿で次回へ続く。強烈なドラマの前に黒仮面の最後の戦いもすっかり霞んでしまっている。
第26話 今蘇えるタイガースパーク!! |
自分の宿命の重さに耐え切れなくなった剛はムー原人との戦いから逃れ、オートレーサーに戻ってサーキットを突っ走った。剛の勝手な振る舞いに激怒する北川。だが、すべてを悟った高井戸は剛を責める気にはなれず、研究所を閉鎖することを北川たちに告げる。そして単身ボートへ乗り込むと、ムー原人との最後の戦いに臨んだ。高井戸を襲い、恨みを晴らそうとするギル太子の身にはムー大帝の脳髄が納められ、今は彼こそがムー帝国の指揮官であり、支配者であった。
やがて岸に打ち上げられたボートに高井戸の亡骸が発見され、その手にはギル太子の毛髪がしっかりと握り締められていた。彼はその命をかけてムー原人の存在を世に示したのだ。呆然とする剛にジュンは博士のメッセージが吹き込まれたテープを手渡した。博士は剛の体内の人工心臓があと二日と持たないことを知りながら「思い通り生きるんだ。しかし、逃げようとはするな!」と告げていた。
剛は残された命ある限り戦うことを決意し、タイガーセブンに変身する。博士の仇を討つべくギル太子に果敢に挑む北川と三平。彼らのピンチにタイガーセブンが駆けつけ、一族最強の水牛原人を倒し、ギル太子と対決。そしてギル太子の死と共にムー帝国は崩壊した。戦い終えたタイガーセブンは仲間たちの目の前で剛の姿に戻ると、何も言わずにただひとり去っていくのだった。
高井戸博士はタイガーセブンが剛であることを知っていたのか。本編中では明確にされていないが、やはり気づいていたと考える方が自然だろう。剛が戦いを放棄すると、高井戸は単身ギル太子に挑戦。本来ならば剛=タイガーセブンがなすべきことを自分で示し、そして死んでいく。モーターボートでの対決は生身の高井戸がある程度持ちこたえることのできる理由づけと、映像の上で戦いを盛り上げるのに大いに貢献していた。長島温泉のヘリコプターを利用した空撮が両者の対決に迫力を出している。ボートの「木曽川マリーナ」の文字がちょっと気になったが…。
高井戸の死後、身勝手ともとれる剛の行動の裏には人工心臓SPがあと二日と持たないというとんでもない事情があったことが判明。人工心臓に関しては第1話で剛の体内に埋め込まれて以来、本編中で触れらたことはなく、それは視聴者にとっても、まさに驚愕の事実だった。高井戸博士の死と彼の残したメッセージに心揺り動かされた剛はムー原人と最終対決。一族最強というふれ込みだった水牛原人もムー大帝と一体化したギル太子もタイガーセブンに案外あっさりと倒されてしまい、拍子抜けの感はあるが、いかにも本シリーズらしい衝撃的な最終回であった。
●データ |
197310月6日〜1974年3月30日
フジテレビ系 毎週土曜午後7:00〜7:30放映
カラー 30分 全26本 ピー・プロ作品
[スタッフ]
企画/別所孝治(フジテレビ)、鷺巣富雄、篠原茂 企画原案/うしおそうじ、別所孝治 音楽/菊池俊輔 撮影/中川芳久、早川勝春、小林茂 照明/安藤正典、小中健二郎 美術/本田衛 編集/小出良助 装飾/金杉正弥 操演/中島徹郎 合成撮影/黒田清 色彩計測/平雅夫、野崎正短 記録/藤沢すみ子、中川亜子 美粧/ゆう美粧 衣裳/京都衣裳 原人製作/ゼン工芸、異人館 技斗/高橋市郎 助監督/村石宏美、中西源四郎 製作補/黒田達雄 製作主任/設楽正之 協賛/鈴木自動車工業 協力/劇団河童 選曲/吉田征雄 効果/イシダサウンドプロ 録音/アオイスタジオ 現像/東洋現像所 製作/ピー・プロダクション、フジテレビ
[キャスト]
滝川剛/南条竜也 高井戸博士/中条静夫 北川史郎/達純一 林三平/佐久間宏則 青木ジュン/久万里由香 青木次郎/吉田友紀 タイガーセブン/鴨志田和夫 ギル太子/剣二郎、槇龍太郎 ギル太子の声/小林恭治 黒仮面/君塚正純 黒仮面の声/増岡弘 原人/駒田次利 ナレーター/岡部政明
[主題歌]
鉄人タイガーセブン (作詞/しのだとみお 作曲/菊池俊輔 唄/ヒデ夕樹 コロムビアレコード、フジ音楽出版)
走れ鉄人タイガーセブン (作詞/しのだとみお 作曲/菊池俊輔 唄/コロムビアゆりかご会、ブルーエンジェルス コロムビアレコード、フジ音楽出版)