●解説 |
60年代にいくつかの特撮テレビ作品を製作していた日本電波映画はどちらかと言うと『矢車剣之助』『天馬天平』などの時代劇で知られていた。時代劇の本場・京都に設立され、当初は撮影所を持っていた会社なので当然といえば当然だろう。後に同社は大和企画として新たなスタートを切るが、73年の変身ブーム真っ只中には得意の時代劇と変身ヒーローを合わせた作品を製作。それが『白獅子仮面』であり、当初はパイロットフィルムも製作されていた。ただし、パイロット版の主演はテレビシリーズの三ツ木清隆氏ではなく、ヒーローのデザインもモチーフの鏡獅子により近いイメージであった。
時代劇の変身ヒーローといえば、当時すでに『快傑ライオン丸』『変身忍者嵐』『魔人ハンターミツルギ』といった作品があったが、いずれも主人公は忍者であり、変身は忍法のひとつとして解釈されていた。そんな中で登場した『白獅子仮面』は同じ時代劇でも主人公が十手持ちである点が他の作品と一線を画している。十手持ちが主役の時代劇は大人向け作品にはいくらでもあるが、30分枠の子供向けとなると極めて珍しい。その上、職位は同心より上の影与力だというのだからなおさらだ。
忍者が主役ならば、当時は東京郊外の造成地でも撮影が可能だった。しかし、十手持ちが主役だとそうはいかない。舞台は町中になりざるを得ず、セットが必要不可欠になる。『白獅子仮面』は京都に撮影所を持つ京都映画株式会社(現在は松竹京都映画株式会社)が製作協力していたからこそ可能ならしめた企画なのだ。そしてセットだけでなくスタッフが時代劇専門のエキスパートだったことも幸いし、本シリーズの持つ荒唐無稽さと時代劇らしさの微妙なバランスを保っていた。主人公がパンタロンや赤い陣羽織を身につけていても、ちゃんと時代劇に見えるのは見事という他はない。『柳生武芸帳』シリーズや『伊賀の影丸』等、多くの時代劇映画を手がけた阿部皓哉氏の明朗快活な音楽の力も大きい。まさに京都の職人が結集して生まれた作品と言えよう。
また、本シリーズは、妖怪モノとしての側面も持っている。毎回様々な妖怪の登場するテレビ映画といえば、妖怪漫画の大家水木しげる先生原作の『悪魔くん』や『河童の三平妖怪大作戦』が60年代に製作されていたが、70年代の変身ブームの中で妖怪を敵に設定したのは本シリーズが初めてだった。放送当時のアピールポイントもまさにそれであり、カラカサ小僧やのっぺらぼうなど、誰でも知っているおなじみの妖怪が登場することが雑誌や新聞で謳われていた。しかし、なぜか初期の四話分では「妖怪」ということばがまったく使われていなかったりする。第一話に登場したのも狼仮面という、名前からしてあまり妖怪っぽくないキャラクターであり、本当に妖怪モノとして売り出そうとしていたのか疑問に感じる部分もないではない。
時代劇ということもあってイメージ的には『妖怪百物語』を始めとする大映妖怪シリーズに近いものがあるが、妖怪を徹底的に悪役に仕立てているところが大いに異なる点である。しかも同種の妖怪の着ぐるみが毎回三〜五体ほど製作され、映像では着ぐるみの数以上に見せることが多かった。敵キャラは毎回一体というのが暗黙の了解だった当時の特撮番組において、これはかなり贅沢なことだ。また、明暗をくっきり映し出すライティングは妖怪の迫力を増すのに実に効果的だった。
ところで、全話の特撮を担当したのは、大和企画の前身・日本電波映画で『宇宙Gメン』や『アゴン』を手がけていた影山晴紀氏。戦前に円谷英二氏のもとで仕事をしていたという経歴を持つ影山氏は、妖怪の不思議な妖力を巧みに具現化しており、特に第二話でカラカサ小僧の群れが空中から次々と急降下してくるシーンは圧巻。シリーズを通しても名場面のひとつと言えるだろう。ただ、他の回は特撮と言える場面は少なく、白獅子仮面に倒された妖怪の身体が消え去る際に合成が使用されているくらいだった。
●キャラクター |
■剣兵馬(三ツ木清隆)・・・・・・大岡越前の影与力にして懐刀。武芸に長け、正義感が強い。そのため越前の信頼は厚く、選りすぐりの同心で結成された武装同心隊の指揮を任された。二丁十手を愛用し、変身しなくても一人二人の妖怪ならば倒すほどの腕を持つ。
■白獅子仮面・・・・・・神から力を授かった剣兵馬が二丁十手を合わせ、"獅子吼"することによって変身した姿。主要武器は鞭。刀や手裏剣も併せて使用し、妖怪たちを次々と倒していく。刀に光を反射し、その光に乗って瞬間移動することもできる。
■大岡越前(清川新吾)・・・・・・南町奉行。江戸の平和を守ることに尽力しており、善良な人々の支えとなっている。だが、それだけに妖怪たちに命を狙われることも多い。兵馬や同心たちに警護されているが、自らも剣の達人であり、妖怪相手に戦うこともある。
■妹縫(瞳順子)・・・・・・大岡越前の妹。兄同様、常に江戸の人々の平和を願っている。小柄の名手でもあり、何かと事件に首を突っ込みたがる。そのたびに兵馬にたしなめられるのだが、妖怪の術にかかって敵に利用されることもしばしば。
■田所源八(古川ロック)・・・・・・南町奉行所に勤める同心。怪力の持ち主だが、人間相手ならまだしも妖怪相手だとつい弱腰になり、ドジばかり。犬に弱いという弱点もある。だが、腹黒さのない気持ちのよい男で、年下の兵馬にも彼の実力を認めて敬意を払っている。
■一平(千代田進一)・・・・・・源八と常に行動を共にする目明し。ドジばかり踏んでいる源八に対し、馬鹿にしたような態度をとることも少なくない。
■火焔大魔王(声 山本弘/第1〜6話、千葉敏郎/第7〜13話)・・・・・・妖怪たちを繰り出して江戸を我がものにしようと企む悪の帝王。強大な魔力を持ち、野望を前に立ちふさがる大岡越前と剣兵馬の命を狙う。最終話では自ら立ち上がり、刀から高熱の光を発して白獅子仮面を苦しめた。
●全話ストーリー |
第1話 青い目と赤い目の狼
突如として起こった天変地異。混乱する江戸の町に狼仮面と呼ばれる怪物が現れ、放火殺人など悪事の限りを尽くしていた。この緊急事態に南町奉行・大岡越前は選りすぐった者たちで武装同心隊を結成し、その指揮を影与力・剣兵馬にとらせた。歳は若くとも越前が絶対の信頼を寄せる兵馬は提灯や風を利用してたちまち狼仮面を追いつめる。だが、狼仮面は一匹だけではなかった。子分を倒されて怒った狼仮面の頭目は越前の妹・縫を人質にとり、兵馬をさそいだして岩穴へ閉じ込めた。固い岩盤に挟まれて身動きできず、苦しむ兵馬。その時、神の声が彼の耳に届いた。「兵馬よ立て!獅子吼せよ!」兵馬は声に導かれて白獅子仮面に変身。岩穴を脱出すると狼仮面の群れに立ち向かい、子分たちを次々と倒していく。そして、頭目との一騎打ちに挑んだ白獅子仮面は戦いに勝利するのだった。
三ツ木清隆氏演ずる極めて爽やかなイメージの主人公・剣兵馬。一匹かと思いきや集団だったという展開にワクワクさせられる狼仮面一味。そして子供向け時代劇ではあまりお目にかかれない本格的な時代劇のセットの中での捕り物などなど、明るい作風とエンターテインメントに徹した演出で、まさに「痛快時代劇」と呼ぶに相応しい内容だ。ただ、基本設定があまりにも大雑把すぎて、兵馬が白獅子仮面に変身できるようになった理由が不明なのがやや難点。どこからか神の声が聞こえてきて突然変身できるようになったというだけでは、当時の子供たちも納得できなかったのではないだろうか。ちなみに変身のキーワード「獅子吼」とは、仏教語で仏が説法することだそうだ。
第2話 雨もないのにカラカサ小僧
天変地異相次ぐ江戸は今また日照り続きの水飢饉に襲われていた。悪の帝王・火焔大魔王はこの機を逃さずカラカサ小小僧の一団を町に送り込み、井戸に毒を投げ込ませる。そうとは知らずに毒水を飲み、次々と倒れていく町民たち。そこで大岡越前は残った井戸のうちひとつだけを残して他をすべて埋めてしまった。そのひとつの井戸に敵を誘い出そうというのだ。だが、カラカサ小僧たちは同心たちの厳重な警護を破ることなくいつのまにか井戸に近づき、さすがの兵馬もその神出鬼没の行動に翻弄されて捕り逃してしまう。そして埋めた他の井戸が役人によって掘り返されると、カラカサ小僧の群れは再び出現した。彼らは傘を広げて自在に空を飛び、上空から井戸を襲っていたのだ。兵馬は白獅子仮面に変身。カラカサ小僧に敢然と戦いを挑み、彼らを一人残らず倒すのだった。
第一話の敵キャラは妖怪なのかどうか微妙な狼仮面だったが、今回は誰でも知っている定番の妖怪・カラカサ小僧が登場。ただし一本足ではなく二本足であるところが本作品だけのオリジナル……というか、一本足の着ぐるみではアクションが困難なのでテレビ番組としては当然の措置と言えよう。ユーモラスかつ恐ろしい存在としての妖怪のイメージを的確に具現化しており、けたたましく笑いながら相手には叫び声一つあげさせずに人間を瞬殺するあたりが実に不気味。傘を開いて空へ舞い上がり、上空から次々と急降下してくるシーンも印象的である。
第3話 一ッ目の刺客がやって来た
江戸を我がものにせんとする火焔大魔王は、己の前に立ちふさがる大岡越前と剣兵馬を一挙に倒すべく刺客を送り込んできた。三度笠で顔を隠した一ッ目たちが越前の屋敷に突如として押し入ったのだ。だが、その時、目差す越前と兵馬は外出中であった。そこで一ッ目は皆殺しにした同心たちの死体に術をかけて立ち去った。やがて屋敷に戻った越前はたちまち同心たちの死体に斬りつけられるが、自分が口を聞かなければ死体は動かないことに気づく。越前の抹殺に失敗した一ッ目は再び江戸の町に出現。これを待ち受けていた兵馬はひとりで一ッ目たちに挑みかかるが、田所と一平を人質にとられて自ら囚われの身となる。彼を番屋の中に閉じ込めて火を放つ一ッ目。窮地に陥った兵馬は口笛で愛馬を呼び、二丁十手を運ばせて白獅子仮面に変身。一ッ目たちを倒し、越前を守り抜くのだった。
今回登場の妖怪・一ッ目はその名の通り目は一つだが、そんなことよりも上半身が演者の裸そのものであることに驚かされる。七十年代の変身ブームに登場した怪人数々あれど、乳首丸出しの怪人はこれくらいのものだろう。いきなり越前への屋敷へと乗り込んでいくあたりの大胆さは実に気持ちいいが、肝心の越前と兵馬が留守だった…という拍子抜けする展開。その上、同心の死体を操って越前を殺させようと計ったら、越前が声を発しなければ斬りかからないことをあっさりと見破られてしまう。この間抜けさ加減がまたいい。ところで、今回の兵馬の危機を救った白獅子仮面の愛馬だが、名前は何というのだろうか。少なくとも本編中では最終回まで不明のままである。
第4話 小判の好きな化け猫騒動
江戸の町に突如出現した化け猫たちは金持ちばかりを襲っては容赦なく殺害していたが、なぜか千両箱には手をつけた様子はなかった。だが、兵馬が調査した結果、千両箱の中身はすべてニセ金に替えられていたことが判明する。その真の目的はニセ金によって江戸に大恐慌を起こすことにあったのだ。化け猫の足取りを追ううちに、久世屋敷の綾姫とその腰元たちが怪しいと睨んだ兵馬は、同心隊を屋敷の周囲に配置してその動きを封じようとする。彼が睨んだ通り綾姫の腰元・加世こそが化け猫のかしらであり、彼女は姫や他の腰元たちをも化け猫に仕立てていた。同心隊の目を欺いて屋敷から抜け出した化け猫たちはまだ手をつけていなかった蔵に忍び込むが、そこに兵馬が待ち受けていた。兵馬は白獅子仮面に変身。かしらの化け猫が倒されると、綾姫たちはもとの姿へと戻っていった。
大量のニセ金を使って世の中を大恐慌に陥らせようとする話と言えば、『レインボーマン』の「M作戦編」が有名だが、そのすぐ後に時代劇でそれをやったのが本作品だ。時代劇でありながら世の中の動きを如実に反映した作品作りをするという姿勢が見られ、これは本シリーズと同じく松竹京都撮影所で撮影されていた必殺シリーズとの共通点でもある。小判をにせものに擦り替える役目を担っているのは化け猫で、「猫に小判」という諺を逆手にとったようなサブタイトルが愉快。お姫様が実は化け猫だったという展開も面白く、着物を着たままの化け猫が何とも愛らしい。
第5話 顔なし男が顔を盗る
人の顔を盗みとる妖怪・顔なし男が現れた。幕府要人との会見を終えて帰る途中だった大岡越前は川で溺れていた少年を助けるが、その少年は顔なし男の変身であり、たちまち顔なし男に顔を盗られてその川の中に放り込まれてしまう。そして越前になりすまして屋敷へ戻った顔なし男は、小天満町の牢の囚人たちを全員解放するよう田所たちに命じた。極悪人を解き放って江戸中に悪の種をまき散らすことが妖怪の狙いだったのだ。そうとは知らず不審に思いながらも囚人を解放するため小天満町へ向かう田所。彼から話を聞いた兵馬はその越前がにせものであることに気づくが、別の顔なし男に襲われて白獅子仮面に変身。一方、本物の越前は命からがら屋敷へと戻り、にせものと対決する。縫に正体を見破られる顔なし男。そこへ白獅子仮面が駆けつけ、顔なし男を討ち果たすのだった。
前回まで脚本と監督をひとりで担当していた淺間虹兒氏に代わり、今回より脚本は後に必殺シリーズを手がける石川孝人氏、監督は『仮面の忍者赤影』等で知られる小野登氏が主に担当することになる。そのためか、これまでは「妖怪」ということばを一切使っていなかったのに対し、今回は幾度も「妖怪」ということばが飛び交っていた。初めて妖怪呼ばわりされた「顔なし男」だが、「顔なし男」という題材でなぜフルーツのお化けのようなデザインになるのか不思議である。また、他の回のようにコスチュームの数以上に沢山見せるようなことはしておらず、三人に固定。武器を使わずに素手で戦うあたりも本シリーズでは珍しく、彼らの特徴のひとつとなっている。
第6話 妖怪牝狐参上
突如現れた五匹の妖怪牝狐は、夜な夜な残忍な殺人を繰り返し、江戸八百八町を震えあがらせていた。これに敢然と立ち向かった兵馬は一匹の牝狐を仕留めたものの、惜しくも四匹はとり逃してしまう。その頃、森田屋の娘・お光は継母のお幸にいじめられて左目を傷つけられ、居たたまれなくなって家を飛び出した。牝狐のかしらはそんなお光に声をかけ、彼女を牝狐に仕立てる。再び五匹となった牝狐は町中で大暴れし、さらに森田屋を襲うべくその予告を記した矢文を越前に送りつけた。森田屋を厳重に警護する兵馬と同心たち。だが、牝狐の頭目は兵馬が手下と戦っている間に森田屋へ爆弾を仕掛けた。兵馬は白獅子仮面に変身。爆弾の導火線を切り、牝狐のかしらを倒す。そしてお幸に襲いかかった牝狐は母親をかばう弟を前にして優しい心を取り戻し、お光の姿へと戻るのだった。
第四話の化け猫は人間の女性の変身だったが、今回の牝狐も一匹は町娘・お光が妖怪に仕立てられたものである。もともとは優しい心の持ち主だったお光だが、継母にいじめられて左目を傷つけられ(、恨みの心を持ったために牝狐に目をつけられてしまう。いかにも怪談っぽい傷のメイクが痛々しく、お光が恨むのもわからないではない。おまけに牝狐になっても目の傷はそのままだ。ラストでは白獅子仮面に「もう一度優しい娘に戻るんだ」と言われ、お光の姿に戻る。継母も自分の非を認めて彼女に謝り、めでたしめでたし。お光の傷はどうなったかというと、なぜかすっかり治っていたりする。ご都合主義もこういう場合は実に気持ちがよい。
第7話 必殺コウモリ男
大岡越前の屋敷の上空に現れる不気味なコウモリの群れ。それは妖怪コウモリ男となり、越前の命を狙って屋敷内に入り込む。留守中の越前に代わって兵馬がコウモリ男に立ち向かうが、響き渡る呼子の笛に怒り狂ったコウモリ男は戦いの途中で飛び去っていった。コウモリは光に弱いだけでなく、音に敏感なため邪魔な音を嫌がるのだ。再び屋敷を襲撃するコウモリ男たちだったが、兵馬にその弱点を突かれては退却せざるを得なかった。だが、それであきらめるコウモリ男ではない。越前の可愛がっているしじみ売りの少年・三太を人質にとった彼らはまんまと越前ひとりをおびき出す。兵馬はコウモリに見張られて身動きが出来ないでいたが、縫や田所の協力でコウモリをすべて退治すると、白獅子仮面に変身。危機一髪の越前と三太を救い出し、激闘の末にコウモリ男を倒した。
第三話と同じく、妖怪が越前の命を狙って屋敷へ押し入るという展開だが、今回もまた越前は留守であった。妖怪たちも押し入る前に下調べくらいはして欲しいものだ。さて、今回の妖怪・コウモリ男はその名前といい、外観といい、妖怪というよりはやはり怪人のイメージだ。コウモリの怪人につきものの吸血活動を一切しなかったり、なぜか背中に四本もの刀を刺しているあたりが特徴的ではあるものの、今ひとつインパクトには欠ける。ところで、コウモリ男に人質にとられる少年・三太は第五話にすでに登場していた。越前に可愛がられ、奉行所にもわりと自由に出入りしている様子だ。科特隊におけるホシノ少年のようなものか。
第8話 のっぺらぼうが火をふいた
得体の知れない虚無僧たちによって油屋が次々と襲われた。虚無僧の正体は妖怪のっぺらぼうであり、油屋で待ち構えていた兵馬は彼らに立ち向かうが、稲光を使ってどこへでも自由に出没するその能力に翻弄され、取りのがしてしまった。そこで兵馬は江戸に残ったすべての油を集め、それを奉行所で人々に分配すると告示する。のっぺらぼうはその最後の油をも奪い去るが、それこそが兵馬の狙いであった。彼らの後をつけ、虚無僧姿となって一味に紛れ込んだのだ。そして一味の目的が大量の油を使って江戸を焼け野原にすることだと知るが、火焔大魔王にその正体を見破られてしまう。兵馬は白獅子仮面に変身。のっぺらぼうは江戸を囲む四箇所から一斉に火を放とうとしていたが、白獅子仮面は刀の光に乗って四方を一瞬のうちに跳び、すべてののっぺらぼうを倒すのだった。
のっぺらぼうといえば普通、目も鼻も口もないものだが、本作に登場するのっぺらぼうは顔の中に口だけがあるという変種である。ストーリー上、火をふく必要があったためこういうデザインになったのだろう。ただ、あんなに大きな口にする必要はなかったとは思うのだが…。さて、そののっぺらぼうの目的は江戸を焼け野原にすることであり、兵馬がそれを知った時、一味はすでに四方に分散してその準備を終えていた。馬を走らせてもとても間にあわず、まさに江戸の町は絶体絶命のピンチ。ところが、白獅子仮面はあっそりとその難題を乗り越えた。刀を光らせ、その光に乗って一瞬のうちに移動してしまったのだ。光の速さで移動するとは、さすがは光速エスパーと言いたいところだが……こんなのあり?
第9話 ワラのお化けが笑う時
江戸から離れた田舎で子供がさらわれるという事件が相次いだ。そこで田所と一平は犯人の手がかりをつかむべく江戸を離れ、誘拐事件の起きた草壁村を訪れる。やがて彼らの前にワラのお化けたちが出現。子供をさらい、村人たちを殺害した。誘拐は火焔大魔王の命を受けたワラのお化けの仕業だったのだ。そしてその目的は、兵馬をその村へおびき出し、江戸に残った大岡越前の命を狙うことにあった。兵馬はそのことに気づきながらも、やむなく村へ向かい、お化けたちの住みかから子供たちを救い出す。だが、その時すでに一味は江戸に移動し、越前の屋敷を襲っていた。警護の同心たちは次々と倒され、窮地に陥る越前。兵馬は白獅子仮面に変身。急いで馬を走らせ、屋敷に駆けつけると、ワラのお化けたちをすべて倒し、越前の命を守り抜くのだった。
脚本家は異なるが、前回のエピソードと共通点がある。白獅子仮面が如何にして素早く現場にたどり着くことができるかが見せ場のひとつとなっている点だ。なにしろ前回では光に乗って瞬時に移動するという離れ技をやってのけているので、今回もそれを使うのかと思いきや、ただ単に速く馬を走らせるだけであった。ところで、今回の妖怪・ワラのお化け(こういうネーミング、好きです)は全身がワラで出来ているので、ワラさえあれば簡単にコスチュームが作れそうだ。もっとも歩くたびにゴミが落ちると思うので、コミケにはお薦めできない。コスプレするならお化けの分身の方がいいかもしれないが、こちらは人間モドキに間違えられそうだ。
第10話 河童の皿の光る時
火焔大魔王は妖怪河童を町に送り込み、米屋から町人の台所に至るまで江戸中の米という米を奪わせた。そのため江戸は深刻な米不足に陥り、人々は飢えに苦しんでいた。事態を重くみた大目付は江戸へ向かう御用米の輸送隊に三人のお庭番を派遣するが、河童の群れの襲撃を受けて三人は無惨にも殺されてしまう。そこで兵馬は自ら輸送隊の護衛に赴くが、彼の名を語る男がすでに着任していた。ニセ者だと疑われ、刀を向けられる兵馬。だが、兵馬を名乗る男の正体は河童であり、輸送隊は河童によって術をかけられていた。正体を見破られた河童はたちまち池の中へ逃げ帰ったが、仲間たちを連れて再び輸送隊の前に姿を現す。河童たちに池の中へと引きずりまれた兵馬は水中で白獅子仮面に変身。池の外へとびだすと、河童たちを一匹残らず葬り去るのだった。
第十話にして大メジャー妖怪・河童が登場。ただし本作品の河童には一般的に持たれているようなコミカルなイメージはほとんどなく、むしろ他の妖怪以上に邪悪でずる賢く描かれている。江戸中が水不足になった第二話、油不足になった第八話、そして米不足になった今回と、放映当時の経済不安を反映したかのような話が目立つが、第一次オイルショックによって日本経済が大打撃を受けたのはこの番組が終了した後のことである。なお、予告編のナレーションではサブタイトルが「妖怪河童の陰謀」だったのだが、本編では右の通りに変更されている。ちなみに「妖怪河童」は「ようかいかっぱ」ではなく、「ようかいがっぱ」と読み、本編中でも兵馬はこう呼んでいた。
第11話 三ッ目の一ッが飛んでくる
江戸に斧の悪源太と呼ばれる大悪人がいた。彼は徒党を組んで殺人や強盗の罪を重ねていたが、ついに大岡越前の手によって捕えられた。そして今まさに磔の刑に処せられんとしたその時、三人の三ッ目入道が現れ、彼を処刑台から救い出した。自由の身となった悪源太は三ッ目入道を伴って、恨み深い越前に襲いかかるが、入道は突然彼を見捨てて逃げ出してしまう。駆けつけた兵馬にたちまち捕えられる悪源太。だが、それは三ッ目入道の巧妙な作戦であった。入道は三つ目のひとつを飛ばして牢の中の悪源太に超能力を与え、彼を三ッ目入道に仕立てる。そして牢に捕えられていた囚人たちを解き放ち、兵馬が彼らを追いかけている隙を狙って悪源太が越前を再び襲撃したのだ。それに気づいた兵馬は白獅子仮面に変身。馬を走らせて越前を救い出し、悪源太と三ッ目入道を倒した。
大悪人が悪の組織に見初められて怪人にされるというのは特撮ヒーローの定番ストーリーのひとつで、時代劇に限っても『魔人ハンターミツルギ』や『風雲ライオン丸』等に同様の話が存在する。しかしながら滝譲二氏演じる本作品の悪源太はその面構えと態度がいかにも大悪人らしく、三ッ目入道を食ってしまった感がある。ちなみに悪源太というのは通称で、本名は源太なのに本編中では悪源太としか呼ばれていない。ところで、本シリーズの妖怪は個体の区別ができないのがほとんどなのだが、三ッ目入道は目の色がそれぞれ黒、赤、黄色の三人が登場。悪源太の変身した入道は黄色目の入道を流用している。なお、頭目と悪源太以外の二人については倒された描写がない。
第12話 怪人ヨロイ武者
徳川に敗れた豊臣家の鎧二体が火焔大魔王の魔力によって怪人ヨロイ武者となり、暴れ出した。将軍家の指南役を務める柳生道場へ乗り込んだヨロイ武者は柳生一派を皆殺しにし、道場の奥に飾られていた鎧をヨロイ武者の王者として迎える。火焔大魔王の命を受け、江戸中の侍たちを滅ぼそうと行動を開始する三人のヨロイ武者たち。田所と一兵は彼らの隠れ家をつきとめようとその後を追うが、途中で気づかれて底なし沼に逃げ込むはめに。だが、そこへ駆けつけた兵馬は田所たちを救うと、先手を打つことを思いついた。ヨロイ武者たちが通るその沼の周辺で、彼らを待ちうけようというのだ。越前の命を狙って出陣したヨロイ武者たちは役人たちの襲撃を受け、兵馬の手によって二人の武者は敗れた。兵馬は白獅子仮面に変身。激しい騎馬戦を繰り広げ、ヨロイ武者の王者を討ち果たすのだった。
徳川に恨みを持つ豊臣家の亡霊が鎧に宿り、たった三体しかいないところが滅ぼされた豊臣家の悲哀を感じさせる。本作品用ではなく撮影所に用意されていた衣裳の流用と思われ、三体がそれぞれ兜や鎧の形が異なっているのも面白い。特に「ヨロイ武者の王者」と呼ばれるリーダー格の鎧は強敵で、白獅子仮面と激しい騎馬戦を展開し今回最大の見せ場を作っている。王者の首(兜)が胴体から離れて浮遊するシーンは単純な二重露光だが、透けて見える点がかえって亡霊らしく不気味だ。なお、サブタイトルは予告でも本編のタイトルコールでも『怪人ヨロイ武者の襲撃』となっているが、画面上のテロップは『怪人ヨロイ武者』と表記されており、ここではテロップの方を記した。
第13話 輝け!白獅子の星
火焔大魔王はかつて白獅子仮面に倒された妖怪――狼仮面、カラカサ小僧、一ッ目、コウモリ男、河童――を地獄から蘇えらせた。江戸のあちらこちらに現れて再び暴れ回る妖怪たち。さすがの兵馬も五種の妖怪を相手に苦戦を余儀なくされ、窮地に陥った田所と一平を救うのがやっとだった。妖怪軍団の進攻はとどまることを知らず、ついに大岡越前の屋敷を襲撃。兵馬は懸命に戦うも重傷を負って気絶し、越前はさらわれてしまう。やがて意識を取り戻した兵馬は縫の止めるのも聞かずにとび出し、白獅子仮面に変身。馬を駆って火焔大魔王のもとへと急ぐ。火焔大魔王は今まさに越前を処刑しようとしていたが、駆けつけた白獅子仮面によって越前は救われた。妖怪たちはすべて倒され、火焔大魔王は自ら白獅子仮面と対決。激しい戦いの末、相打ちに。悪は滅び、白獅子仮面は星になった。
人気が得られずに打ち切りというケースは本シリーズに限らずテレビではよくあることだが、当時の十三本はやはり短かい。しかし、打ち切りだからといってスタッフは決して手を抜くことはなく、八束基氏を監督に迎えてシリーズのラストを飾っている。再生妖怪が暴れ回るシーンではフィルムを流用しているものの、その迫力ある映像の数々には圧倒。五種の妖怪たちが勢揃いするのも最終回ならではの大サービスだ。兵馬がなぜ迷うことなく火焔大魔王のもとへ行くことができたのか少々疑問は残るが、ラストの息詰まる対決まで一気に見せる。そして白獅子仮面が大魔王と共に散るという哀しい結末。「もしかしたら白獅子仮面は兵馬さんじゃなかったのかしら」とつぶやく縫の姿には涙を禁じえない。
●データ |
1973年4月4日〜1973年6月27日
日本テレビ系 毎週水曜午後7:00〜7:30放映
カラー 30分 全13本 大和企画作品
[スタッフ]
企画・制作/松本常保 プロデューサー/川口晴年(日本テレビ)、那須大八、井上健 脚本/淺間虹兒、石川孝人、小谷正治、小池俊司 監督/淺間虹兒、小野登、八束基 撮影/西前弘、田辺皓一 照明/松本久男 編集/木村幸雄 助監督/斉藤寿也 音楽/阿部皓哉 美術/川村鬼世志 調音/本田文人 音響効果/鈴木信一 タイトルバック絵/古城武司 装飾/真城一夫 特殊効果/須藤一良、遠藤茂 記録/原淳子、牛田二三子 特撮/かげやま晴紀 装置/新映美術工房 床山結髪/八木かつら 衣裳/松竹衣裳 協力/日本染芸 殺陣/二階堂武 特技/宍戸大全 スチール/佐野秀男 進行/大志万宣士 監督助手/服部公男 撮影助手/土岡勲、小林善和 照明助手/山口孝雄 編集助手/鎌苅エリ子 デスク/佐浪正彦 ナレーター/重久剛 造型/秋山重平(ゼン工芸) 現像/東洋現像所 製作主任/水上輝雄、寺川省三 制作/大和企画 協力/宝塚映画、京都映画
[キャスト]
白獅子仮面、剣兵馬/三ツ木清隆 大岡越前/清川新吾 妹縫/瞳順子 田所源八/古川ロック 一平/千代田進一 火焔大魔王/? 魔王の声/山本弘(1〜6話)、千葉敏郎(7話〜13話) ナレーター/加藤也朱雄(1〜4話)、重久剛(5〜13話) 出水憲司 エクラン剣技会 美鷹健児 梶原伸隆 松尾勝人 横堀秀勝 橋本和博(7話〜13話) 広田和彦 加藤伯明 宮谷隆俊 丸尾好広 村山茂
[放映リスト]
放送日
|
サブタイトル
|
登場妖怪
|
脚本
|
監督
|
ゲスト
|
|
1
|
73/4/4
|
青い目と赤い目の狼 | 狼仮面 |
淺間虹兒
|
淺間虹兒
|
坂下光一郎(神の声) |
2
|
4/11
|
雨もないのにカラカサ小僧 | カラカサ小僧 |
淺間虹兒
|
淺間虹兒 | |
3
|
4/18
|
一ッ目の刺客がやって来た | 一ッ目 |
淺間虹兒
|
淺間虹兒
|
三木昭八郎(同心)、宮川竜児(同心) |
4
|
4/25
|
小判の好きな化け猫騒動 | 化け猫 |
淺間虹兒
|
淺間虹兒
|
山口朱実(加世)、矢野以知子(綾姫)、広瀬恵子(腰元A)、尾形徳香(腰元B)、吉田益子(腰元C) |
5
|
5/2
|
顔なし男が顔を盗る | 顔なし男 |
石川孝人
|
小野 登
|
坂本高章(三太) |
6
|
5/9
|
妖怪牝狐参上 | 牝狐 |
石川孝人
|
小野 登
|
水上涌子(お幸)、三宅裕子(お光)、松田賢一(伸太郎)、波多野博(仙造) |
7
|
5/16
|
必殺コウモリ男 | コウモリ男 |
石川孝人
|
小野 登
|
坂本高章(三太) |
8
|
5/23
|
のっぺらぼうが火をふいた | のっぺらぼう |
淺間虹兒
|
小野 登
|
|
9
|
5/30
|
ワラのお化けが笑う時 | ワラのお化け |
石川孝人
|
小野 登
|
川原保、木村かおり、宮崎ユミ |
10
|
6/6
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河童の皿の光る時 | 河童 |
淺間虹児
小谷正浩 |
小野 登
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11
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6/13
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三ッ目の一ッが飛んでくる | 三ッ目入道 |
小谷正浩
小池俊司 |
小野 登
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滝譲二(悪源太) |
12
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怪人ヨロイ武者 | ヨロイ武者 |
石川孝人
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小野 登
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乃木年雄、西田良、波多野博 |
13
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輝け!白獅子の星 | 狼仮面、カラカサ小僧、一ッ目、コウモリ男、河童 |
石川孝人
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八束 基
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