●解説 |
1973年、小松左京氏が光文社カッパノベルスにて書き下ろしで執筆したSF小説「日本沈没」は上下2巻が同時刊行され、上下巻で計385万部の大ベストセラーとなった。高度経済成長が一段落した当時、インフレや石油ショックなどの社会不安がヒットの要因としてあったのは否めない。
東宝の田中友幸プロデューサーはこの小説が刊行されると、すぐに映画化権を取得。1973年12月29日より正月映画として公開する。監督には黒澤明作品でチーフ助監督を務めていた森谷司郎氏、脚本には同じく黒澤作品に参加していた橋本忍氏が抜擢。特技監督は中野昭慶氏が担当する。
最初に編集した際には三時間に及ぶ長さだったが、封切館の上映時間の都合で短くせざるを得なくなり、2時間24分にまで縮められたという。物語終盤で急に展開が早くなり、ラストではいつのまにか日本全土が沈んだことになっているのは、それが要因だろう。小野寺と玲子のラブロマンスも描かれてはいるが、刺身のツマ程度のものであり、壮大な一大叙事詩としての印象が強い。原作にかなり忠実な映像化であり、その後のどの映像作品よりも原作に近い。キャスティングが見事で、小林桂樹氏演じる田所博士も鬼気迫るものがあるが、丹波哲郎氏演じる山本総理の存在感は圧倒的だ。
製作期間は四ヶ月という短さながら880万人の観客を動員し、配給収入は当時で20億円を挙げる大ヒットを記録。その勢いに乗って続編『続・日本沈没』が企画されたが、ポスターによる告知がされたものの製作には至っていない。だが、本作の成功によって東宝はこの後『ノストラダムスの大予言』『東京湾炎上』『地震列島』などのパニック映画、あるいは『日本沈没』の小松左京原作の『エスパイ』など、それまでの怪獣映画に代わるものとして新たなジャンルの特撮映画に活路を見出していく。日本の特撮映画の分岐点ともなった作品である。
●キャラクター |
■小野寺俊夫(藤岡弘)・・・・・・潜水艇の操艇者。高性能深海潜水艇「わだつみ」を所有する海底開発興業の所属だったが、田所博士と出会い、D計画に参加することになる。
■阿部玲子(いしだあゆみ)・・・・・・地方の財産家の長女。小野寺と恋に落ち、共にスイスへ行こうとするが、富士山噴火の混乱の中で行方不明になる。
■田所雄介博士(小林桂樹)・・・・・・地球物理学者。直感とイマジネーションで日本沈没を予測する。D計画の責任者。
■山本総理(丹波哲郎)・・・・・・日本の総理大臣。沈没の前に日本人を一人でも多く国外へ移住させるため尽力する。
■渡老人(島田正吾)・・・・・・政財界の黒幕。田所の説を信じ、D計画のために膨大な資金を提供する。
■幸長秀彦助教授(滝田裕介)・・・・・・海洋地質学専攻。田所博士の理解者であり、D計画の主要メンバーとなる。
■中田浩一郎(二谷英明)・・・・・・科学技術庁に所属し、情報科学専攻。自然科学確率論の解析に携わっていた。
■邦枝潔(中丸忠雄)・・・・・・内閣調査室に所属し、田所にD計画の話を持ちかける。D計画予算および連絡責任者。
●ストーリー |
小笠原諸島北方にある無人島が一夜にして消えた。深海潜水艇「わだつみ号」の操艇者・小野寺俊夫はその原因を調べるようとする地球物理学者・田所博士の依頼によって日本海溝に潜る。八千メートルの海底には奇怪な溝が延び、乱泥流が発生していた。仕事を終えて東京に戻った小野寺は名家の令嬢・阿部玲子と出会い、湘南の海岸で激しく抱擁する。その時、突如として伊豆天城山が爆発。さらに三原山と大室山までもが噴火を始めた。
内閣では地震問題に関する学者と閣僚との懇談会が極秘のうちに開かれた。楽観的な予測をする学者が多い中ただ一人、田所だけが日本列島の異常を警告するが、彼の説は他の学者たちに一笑に付されてしまう。しかし、そんな田所の説を信じた者がいた。政財界の黒幕と呼ばれる渡老人である。彼の後押しによって日本の異変を調べるためのD1計画が始動。そのためにD計画本部が設置され、田所を始め、幸長助教授、内閣調査室の邦枝、情報科学専門の中田らがそのメンバーとなった。彼らはフランスから深海潜水艇ケルマディック号を購入。小野寺は田所の強い要望でその操艇者としてスカウトされ、日本海溝の海底調査を続けることになる。調査の結果、田所博士は一つの結論を導き出した。それは、日本列島の大部分は海底に沈む…という恐るべきものであった。その結論を裏づけるかのように、東京で大地震が発生。電車は脱線し、車は衝突。首都圏はたちまちパニック状態に陥り、多くの犠牲者が出た。
地震から三ヶ月が過ぎ、治安が回復し始めた頃、田所がテレビに出演し日本が沈没することを明かした。事前に知らされていなかったD計画本部のメンバーたちは唖然とする。だが、それは少しでもショックを和らげながら日本が沈没することを国民に意識させようという陽動作戦であり、田所自身がその狂言を買って出たのだった。その頃、山本総理は日本国民が国外へ大移住するためのD2計画をひそかに進めていた。日本列島が十ヵ月後に急激な沈下が始まることが明らかになると、総理官邸で緊急臨時閣議が開かれ、日本国民の海外移住について審議された。
すでに自分にできることは何もないと感じた小野寺は玲子と共にスイスへ移住することを決意した。その出発の日、山本総理は衛星放送を通じて日本列島の沈没を全世界に発表。それを裏づけるかのように富士山が噴火し、箱根や御殿場で避難が始まる。その混乱の中で玲子が行方不明となるが、小野寺には彼女を残したまま日本を離れることはできなかった。富士山噴火の後、日本各地で火山が爆発。その間にも世界各国に特使が飛び、日本国民の避難交渉が進められていた。交渉は困難を極めたが、列島が壊滅していくにつれてアメリカ、ソ連、中国などから救助の手がさしのべられ、国民は列島から次々と脱出していく。やがて日本列島は完全に海中へ没した。日本民族は世界各国に散らばり、俊夫と玲子も、それぞれ地球上のどこかの国で生き延びていた。
●データ |
1973年12月29日公開
カラー シネマスコープ 144分
東宝映像=東宝映画共同作品
[スタッフ]
製作/田中友幸、田中収 原作/小松左京(光文社カッパノベルス) 脚本/橋本 忍 監督/森谷司郎 撮影/村井博、木村大作 音楽/佐藤勝 美術/村木与知四郎 録音/伴利也 整音/東宝効果集団 照明/佐藤幸次郎 監督助手/橋本幸治 編集/池田千代子 スチール/石月美徳 現像/東洋現像所 協力/日本海洋産業株式会社 製作担当者/森知貴秀
[特殊技術]
特技監督/中野昭慶 撮影/富岡素敬 美術/井上泰幸 照明/森本正邦 光学撮影/宮西武史 合成/三瓶一信 操演/松本光司 監督助手/田渕吉男 特殊効果/渡辺忠昭 スチール/田中一清 整音/東宝録音センター 効果/東宝効果集団 製作担当者/篠田啓助
[特別スタッフ]
竹内均(東京大学教授) 大崎順彦(東京大学教授) 奈須紀幸(東京大学教授) 諏訪彰(気象研究所地震研究部長)
[キャスト]
藤岡弘 いしだあゆみ 小林桂樹 滝田裕介 二谷英明 中丸忠雄 村井国夫 夏八木勲 丹波哲郎 伊東光一 松下達雄 河村弘二 山本武 森幹太 鈴木瑞穂 垂水悟郎 細川俊夫 加藤和夫 中村伸郎 島田正吾 角ゆり子 梶哲也 稲垣昭三 内田稔 大木史朗 吉永慶 宮島誠 大杉雄二 神山繁 高橋昌也 近藤準 竹内均 石井宏明 今井和雄 早川雄三 中條静夫 名古屋章 斉藤美和 新田昌玄 大久保正信 アンドリュー・ヒューズ ロジャー・ウッド 大類正照 中村哲 地井武男 森下哲夫 和田文夫 斉藤英雄 中田勉 鈴木治夫 田中志幸 永島岳 津田光男 磐木吉二郎 中島光之助 熊谷卓三 小松英三郎 門脇三郎 草間璋夫 大西康雅 服部妙子 林由香 川口節子 小林伊津子 高橋久美江 鳥居功靖 小野辺敦 バン・ヘンリー チャールズ・シームス