公募で生まれた怪獣怪人


 1966年から1973年の間、NET(テレビ朝日)系で『桂小金治アフタヌーンショー』という番組が放送されていた。川崎敬三氏が司会を務め、やらせ事件の発覚によって残念な終わり方をしたあの『アフタヌーンショー』の前身である。司会はもちろん桂小金治氏。後のワイドショー番組のお手本ともなった番組だったが、変身ブームの真っ只中だったこともあって、春休みや夏休みの頃などには時折怪獣や変身ヒーローをとりあげていた。これもそんな企画のひとつだが、ある回で怪獣の絵を手にした沢山の子供たちがスタジオに集められ、彼らが描いた怪獣のデザイン画が次々に発表されたことがあった。その中から優秀作が一点選ばれ、番組の最後にはそのデザインをもとにした怪獣の着ぐるみが登場した。デザインをした少年は大喜び・・・と思いきや、なんだか怪訝そうな顔。というのも、着ぐるみの怪獣は彼のデザインとはかなりイメージが異なり、何よりも白一色だった怪獣の体色が赤や青や黄色など、派手に塗りわけられていたのだ。この怪獣の名は”レッドアローン”といい、桂小金治氏が「レッドって言うんだから赤い色があってもいいじゃない」などと言って、その少年をなだめていたのが印象的だった。
 番組では、レッドアローンはゴジラ映画にいずれ登場すると発表された。ところが、いつまで経っても映画には出てこない。てっきり取りやめになったのかと思っていたら、『ゴジラ対メガロ』に登場したロボット・ジェットジャガーこそが、この怪獣を元にしたキャラクターであることを後から知った。確かにボディは着ぐるみのレッドアローンに似てはいるが、怪獣ではなくロボットに変更されてしまったために頭部はまったくの別物。特徴的だった背中の翼もなくなっていた。残っているのは着ぐるみ製作の時に施されたカラーリングのみで、少年のデザイン画の面影はほとんどない。子供の夢をかなえるはずの企画が、どうしてこんなことになってしまったのか。オトナの事情もあるだろうが、もう少し配慮していただきたかったと思う。ジェットジャガー自体は個人的には大変好きなキャラクターなのだが・・・。ただし、レッドアローンは西友チェーンの「ちびっこ怪獣大学」という企画のシンボルキャラクターにはなっていたらしい。「スーパーヒーローアルバム」(朝日ソノラマ)の表紙裏には、レッドアローンの写真が印刷された「怪獣大学」のバッジや案内書が掲載されている。

 こうした怪獣・怪人のデザイン公募キャンペーンは劇場映画では珍しい(他にはストーリー募集をして実現した『ゴジラVSビオランテ』くらい)が、テレビシリーズにおいては幾度となく行なわれている。『ウルトラセブン』のテペトとガイロス、『宇宙猿人ゴリ対スペクトルマン』のクルマニクラス、『シルバー仮面』のバーナー星人、『快傑ライオン丸』のマツバラバなどなど。私自身は一度も応募したことはないが、どんなデザインが選ばれるのかは非常に興味がある。しかしながら、『ウルトラマンティガ』の公募で入選した”でんでんわに”という作品にはいささか驚かされた。藤子不二雄先生原作のTVアニメ『ジャングル黒べえ』、及び劇場アニメ『ドラえもん のび太の宇宙開拓史』に”デンデンワニ”というキャラクターがすでに登場していたからだ。しかも姿形までよく似ている。テレビでの発表後にそのことが判明し、名前はタラバンに改名されたが、デザインの方はカラーリングや顔つきがオリジナルとは異なっていたためか、そのまま採用されている。ウルトラシリーズでは同じく『ウルトラマンティガ』のメンジュラ、『ウルトラマン80』のズラスイマーも公募怪獣。あのウルトラの父と母も公募デザインらしい。視聴者がデザインした円谷怪獣としては『帰ってきたウルトラマン』のレオゴン、『ウルトラマンA』のガラン、『ミラーマン』のダークロンというのもあるが、これらは公募ではなく自主的な投稿によるものだ。一方のライダーシリーズでは公募キャンペーンは少なく、『仮面ライダー』のシオマネキングと『仮面ライダースーパー1』のショオカキングの2体のみ。だが、共に優れたデザインであり、公募作品であることは別にしても大変印象深い。
 また、デザインではなく、名前だけの一般公募というのもある。劇場映画では『宇宙大怪獣ギララ』のギララ、ゴジラの息子のミニラ、ガメラシリーズの敵役・バイラスとギロンが公募によって名づけられている。テレビ作品での公募第1号は『ウルトラQ』のガラモンだろう。当時「週刊少年マガジン」で名前を募集していたが、公募時期にはすでに撮影が終わっていたはずで、本当に採用されたのかどうかは疑問だ。同じウルトラシリーズ(?)でも『キャプテンウルトラ』はテレビで募集していたのを確かに覚えている。怪獣の写真が画面に写しだされ、「雨を降らす怪獣です」とかなんとかいう説明があった。どんな名前になるのだろうと思っていたら、なんとアメゴン! 名前は単純な方がいいらしい。一方のライダーシリーズでは何といっても仮面ライダーZX(ゼクロス)の名前公募キャンペーンが有名だ。この種の公募では破格の100万円の賞金がかけられて注目されたが、さすがにZXと書いてゼクロスと読ませようという者は一人もいなかった。しかし、単にZXと名づけた人たちは何人かいて、その人たちに賞金が人数割りされたらしい。こうなると名前の公募というより名前当てクイズである。そういえばライダーマンの時も「テレビマガジン」誌上で名前を募集していたようだが・・・。

 ところで、番組中で公募キャンペーンをしながら、その後発表がなされず、それが実現したのかどうかいまだにわからない番組が二つある。ひとつは『円盤戦争バンキッド』で、こちらは怪獣や怪人ではなく、ブキミ星人の乗る円盤のデザイン募集だった。そしてもうひとつは『メガロマン』の怪獣公募。これは当時『小川宏ショー』で、応募した子供たち(大学生も混じっていた)をスタジオに集めて特集していたが、優秀作品がいくつか紹介されただけで「この怪獣が今度『メガロマン』に出ます」という発表はなかった。奇しくも両方とも東宝作品なのだが、「実はあれが公募デザインなのですよ」という情報をお持ちの方は、ぜひご一報ください。

追記
 メガロマンの怪獣公募に応募され、優秀作品の作者として「小川宏ショー」に出演されたyuniosi様からメールをいただきました。番組が放送されたのは昭和54年9月24日。この3ヶ月後には「メガロマン」は視聴率低迷によって放送を打ち切られており、結局のところ公募作品はひとつも採用されなかったとのことです。ただ、この話には後日談があり、「小川宏ショー」を見ていたピー・プロの鷺巣社長より後日連絡があったのだそうです。テレビに映ったデザイン画を気に入られたということで、新しく製作する「シルバージャガー」という番組に協力して欲しいと要請されたyuniosi様はこれを快諾し、パイロットフィルム製作に関与されました。しかし、周知の通り「シルバージャガー」はパイロット版のみで終わり、残念ながら番組にはなりませんでした。