●解説


 テレビにおいて『マグマ大使』の製作や『怪獣王子』の製作協力にあたっていたピー・プロダクションは新たな特撮テレビシリーズとして『ゴケミドロ』を企画。昭和42年にモノクロのパイロットフィルムを完成させた。その後、この企画は松竹に持ち込まれ、紆余曲折を経て翌年の8月、劇場映画『吸血鬼ゴケミドロ』として公開される。ただし、映画化に至るまでにはかなり大幅な変更がなされており、結果的にはゴケミドロという名称、及び人間の体内に侵入して自由に操る宇宙生物の能力のみが受け継がれた形となっていた。
 旅客機が人里離れた岩山に不時着し、機内にとり残された十人の人間たちが血液を常食とする宇宙生物ゴケミドロに襲われる。気持ちがいいほどに醜い人間模様を描いた挙句、最後に生き残ったふたりも結局救われない。機内と同じことが地球全体で起こっていたという驚愕のラストは実に衝撃的で、マイナー色は強いもののSF怪奇映画の秀作としてファンに高く評価されている。脚本は『マグマ大使』や東映テレビ作品を多く手がけていた高久進氏と、現在は推理作家として知られる小林久三氏。監督には東映の映画・テレビで活躍していた佐藤肇氏が松竹に招かれ、得意分野で手腕を発揮した。また、ゴケミドロに操られる吸血鬼・寺岡を演じたシャンソン歌手の高英男氏、絵に描いたような強欲代議士・真野を演じた北村英三氏、その代議士の太鼓持ちをしながら最後には裏切ってしまう会社重役・徳安を演じた金子信雄氏など、俳優陣の熱演も印象深い。
 もともと企画がピー・プロに端を発していたこともあって、特撮は小嶋伸介氏を始めとする当時のピー・プロのスタッフが手がけており、アメーバ状のゴケミドロが地上を這うシーンなどは『マグマ大使』の人間モドキを彷彿とさせている。尚、『宇宙猿人ゴリ』に登場するゴリの円盤は、本作品で多数製作されたゴケミドロの円盤のひとつを流用したものだという。
 


 
●キャラクター


■杉坂英
(吉田輝雄)・・・・・・岩山に不時着したジェット旅客機JA307号(と劇中では呼ばれているが、機体のナンバーはJA8012)の副操縦士。誰も助けに来ないその極限状況の中でも乗客の命を優先的に考え、利己的な彼らに裏切られながらも常に冷静に行動する。
■朝倉かずみ
(佐藤友美)・・・・・・心優しきスチュワーデス。エゴ剥き出しの乗客たちにふりまわされる。
■寺岡博文
(高英男)・・・・・・ブルタニア大使を暗殺し、逃亡を計ってJA307号機に乗り込んだ男。ライフルと拳銃を機内に持ち込み、操縦士を脅して沖縄へ進路を変更させようとする。機が不時着した後、彼の体内に宇宙生物ゴケミドロが侵入。恐るべき吸血鬼と化して機内の人々を襲い始める。
■真野剛造
(北村英三)・・・・・・強欲な代議士。次期総裁選挙を控え、そのための資金を徳安の会社からせしめるつもりだった。死ぬことなど怖れていないなどと言いつつ、誰よりも臆病で、わが身可愛さに他人を平気で蹴落とす。
■徳安(金子信雄)・・・・・・大阪に本社を持つ兵器会社の重役。それまで真野に十億近い現金を渡し、潰れかけていた彼の会社は日本有数の大会社にのしあがった。だが、真野に疑惑を抱き、その真意を確かめようとする。
■徳安法子
(楠侑子)・・・・・・徳安の妻。徳安の仕事のため、真野の女になっていた。言いなりにはなっていたものの、夫に対して激しい恨みを抱く。
■佐賀敏夫
(高橋昌也)・・・・・・宇宙生物学者。客観的に状況を見据え、宇宙からの侵略者の存在に気づく。乗客の中では最も紳士的に行動していたが、学者としての興味から他人を宇宙生物の犠牲にすることに賛同してしまう。

■百武
(加藤和夫)・・・・・・精神科医。極限状況におかれた人間の反応に興味を持っており、周りの乗客たちの行動を見ては楽しんでさえいるようだった。だが、吸血鬼と化した寺岡の第一の犠牲者となってしまう。
■松宮(山本紀彦)・・・・・・自殺志望の青年。爆破予告をした上で時限爆弾を機内に持ち込んでいた。世の中が面白くないからというのが、その行動の要因らしい。
■ニール
(キヤッシー・ホーラン)・・・・・・ベトナム戦線で従軍中だった夫が一週間前に戦死。夫の遺体と再会するために岩国の米軍基地へ行く途中だった。そんな彼女もまた、自分が生き延びるために他人を犠牲にしようとする。

■機長(西本裕行)・・・・・・JA307号機の機長。不時着の際に命を失った。


 
●ストーリー


 羽田を飛び立ち、大阪へと向っていたジェット旅客機JA307号に突如奇怪な現象が起こった。多くの鳥が狂ったように窓ガラスにぶつかり、怪光が接近したかと思うと、機内の計器が狂い出したのだ。エンジンは火を吹き、やがてジェット機は急降下。どこともわからない岩山へと不時着してしまった。
 副操縦士の杉坂はスチュワーデスのかずみ、そして生き残った乗客たちと共に不安な一夜を過ごす。無線装置は壊れ、水も食糧もなく、彼らはただ救助されるのを待つしかなかった。代議士の真野、彼と癒着していた会社重役の徳安は杉坂に責任を問い、自分たちが助かりたいためにエゴを剥き出しにし始める。だが、外国大使を暗殺して逃亡中だった男・寺岡が拳銃を片手にかずみを人質にとり、機の外へ出てしまった。逃げ込んだ森林の中でふたりが見たものは、目映い光を放つ空飛ぶ円盤。意識を失い、円盤の中に吸い込まれる寺岡。その額がザクロのように割れると、ドロドロとした謎の物体がそこから彼の体内へと入りこんだ。
 恐怖のあまり気を失ったかずみは杉坂に助けられるが、恐るべき吸血鬼と化した寺岡は他の乗客が見ていないところで精神科医の百武を殺害。更に徳安を襲い、その血を吸いつくす。徳安の妻・法子は夫が死んでも悲しむどころか自由になれたと喜ぶが、彼女もまた寺岡に狙われていた。円盤の中へと連れ去られた法子は洗脳され、翌朝になって杉坂たちの前に姿を現す。彼女を操っていた謎の生物は、彼女の身体を使って”ゴケミドロ”を名乗り、さらに自分たちの目的が人類の皆殺しにあることを告げる。
 やがて法子の顔はドクロと化し、おびえた乗客たちは自殺志願の若者・松宮を生贄にして機の外へ放り出した。隠し持っていた時限爆弾によって爆死する松宮。真野は米国人女性・ニールと共に逃亡を計るが、徘徊していた寺岡に襲われ、ニールが犠牲となる。機内へと逃げ込み、杉坂とかずみを外へ放り出す真野。追い詰められた杉坂はかずみを守って寺岡に立ち向かい、ガソリンを浴びせて火をつけた。たちまち燃え上がる吸血鬼・寺岡。だが、その体内から這い出したゴケミドロは機内にいた宇宙生物学者の佐賀に乗り移った。
 新たな吸血鬼と化した佐賀は真野を殺害し、残る杉坂とかずみに迫る。機を離れ、逃走するふたり。危機一髪、佐賀は落石によって崖下へと落下し、目の前から消えた。杉坂たちは助けを求めてひたすら歩き続ける。しかし、やっとの思いでたどりついた街で彼らが見たものは、ドクロと化した死体の山であった。


 
●データ


1968年8月14日公開
カラー ワイド 84分
松竹作品

[スタッフ]
製作/猪股尭  脚本/高久進、小林久三  撮影/平瀬静雄  美術/芳野尹孝  音楽/菊池俊輔  照明/青本辰夫  編集/寺田昭光  録音/中村寛  調音/松本隆司  監督助手/白木慶二  装置/東洋現像所  製作主任/内藤誠、渡辺寿昭  協力/ピー・プロダクション、小嶋伸介、岡田元侑、三上陸男  監督/佐藤肇

[キャスト]
吉田輝雄  佐藤友美  高英男  高橋昌也  金子信雄  北村英三  楠 侑子  加藤和夫  西本裕行  山本紀彦  キヤッシー・ホーラン