| ●解説 |
1973年11月に刊行された「ノストラダムスの大予言」(五島勉著・祥伝社)は、当時の世相を反映して瞬く間に大ベストセラーとなった。石油ショックや相次ぐ地震、そして小説「日本沈没」の大ヒットなど、人々が未来に不安を持ち始めた「終末ブーム」はこのベストセラーによって一層拡大する。たとえこの本を読まなくても、人類が滅亡するという1999年7月に自分が何歳になっているかを計算した人は多いだろう。こうした状況の中で『日本沈没』を映画化して大ヒットをとばした東宝が、パニック映画の第2弾として『ノストラダムスの大予言』を製作したのは至極当然の流れと言える。公開は1974年8月で、当時6億5千万円の製作費がかけられた。
脚本は『世界大戦争』ですでに終末モノを手がけていた八住利雄氏。監督は前年の『人間革命』に続いて舛田利雄氏があたり、『ゴジラ対ヘドラ』の坂野義光氏が協力監督として本作品に加わっている。原作がストーリーを持たない解説本だっただけに、映画『ノストラダムスの大予言』ではドラマを描くことよりも、地球をとりまく異常現象を映しだすことに終始していた。夢の島に発生する巨大ナメクジ、地下鉄坑内に大量発生する雑草、人間を食うほど狂暴化したニューギニアの原住民、オゾン層が破壊されたことによって起こる山火事やコンビナートの爆発・・・などなど。ドキュメンタリータッチで見せるその映像には、後に多くのドキュメンタリー映像を手がけた坂野監督の手腕が垣間見れる。そして『日本沈没』を成功させた特撮監督・中野昭慶氏はここでも腕をふるっており、見応えのあるスペクタクルシーンはやはり本作品の見せ場だ。
「諸世紀」を読み上げる岸田今日子氏の深みのあるナレーションや、富田勲氏による幽玄なテーマ曲は、不可思議な映像を盛り上げるのに一役も二役も買っている。丹波哲郎氏の尋常でない神がかりな演技もその後の氏の活動を彷彿とさせ、興味深いものがある。しかし、公害、オゾン層の破壊、核戦争など、およそ考えられる人類滅亡の要因を次から次へと提示しているのは、かえって危機感を削いでしまった感があった。ラストは飽くまでも空想のまま幕を閉じ、山村聡氏演ずる総理大臣の長々とした発言も理想論を述べているだけで、具体的対策は何も語られていない。当時「安っぽい文明批判」などと叩かれたのも、あながち的外れな批評とは言えないだろう。興行的にも当初は『日本沈没』に次ぐヒットが見込まれていたが、製作者側の期待には及ばなかった。
ところで、『ノストラダムスの大予言』は現在ビデオ化もされておらず、観る機会の少ない作品となっている。ラス近くの未来空想シーンの中で核戦争によって怪物化した人類の子孫”軟体人間”が登場するのだが、その描写が被爆者に対して偏見を生みかねないとして大阪の被爆者団体より抗議を受けたためだ。東宝はこれを謝罪し、問題のシーンと、さらにニューギニア原住民が人肉を食べる残虐なシーンを自主的にカットして上映を続けた。ただ、東宝が新聞に掲載した謝罪文によれば、カットされたのは12月20日以降のことであり、公開日の8月3日からは4ヶ月以上が経過している。すでに多くの劇場では公開を終えていたはずで、当時このカット版を見た人は少ないと思われる。なお、1980年のテレビ放送(テレビ朝日系で全国ネット)でもこのカットシーンは放送されていない。その後、ビデオソフト化も進められたが、ジャケットまで製作されながら発売寸前で中止となったという。予定されていたのはもちろんカット版であるが、現在ではこれすらも国内でソフト化することは困難になってしまったようだ。
| ●キャラクター |
■西山良玄(丹波哲郎)・・・・・・西山環境研究所所長。曽祖父の代より先祖はノストラダムスの「諸世紀」を人々に伝えたばかりに悲劇的な最期をとげており、自らもその予言によって現代の世に警鐘を鳴らしている。しかし、強引なまでに企業の撒き散らしている公害の実態を明らかにしたため企業側からの妨害に苦しむ。人類の将来を本気で考えているとはいえ、食糧危機のため弱者や無能力者を処分することを口にするなど、冷徹な面もある。
■西山伸枝(司葉子)・・・・・・良玄の妻。大気中の変転が原因と思われる呼吸器の異常により床に伏せる。やがて良玄が見守る中で息をひきとる。
■西山まり子(由美かおる)・・・・・・良玄と伸枝の一人娘。子供たちにバレエを教えている。中川との間に子供を身ごもるが、そのことを彼に伝えた時、なぜか急に踊りだした。
■中川明(黒沢年男)・・・・・・カメラマン。アフリカの取材から帰国した後、西山と共に第二次ニューギニア調査団にも同行した。世界各地の異常現象をまのあたりにし、地球が狂い始めていることを実感する。また、まり子の恋人でもあり、西山夫妻にはとても気に入られている。
■中川三治(平田未喜三)・・・・・・明の父で、漁師の組合長。赤潮の発生によって大量の魚の死骸が打ち上げられ、半狂乱になる。
■中川勝子(中村たつ)・・・・・・明の母。半狂乱になって沖へ向かって歩き出した夫を必死に止める。
■大根(竜崎勝)・・・・・・西山環境研究所所員。国連派遣の調査団のひとりとしてニューギニアへ異変の調査に向かうが、消息を断つ。西山たちがニューギニア奥地で再会した時には放射能の影響によってケロイドとコケに犯され、死を待つばかりの状態だった。
■吉浜(佐々木勝彦)・・・・・・西山環境研究所所員。大根と共にニューギニア調査団に加わった。西山たちがニューギニア奥地で再会した時にはすでに屍と化していた。
■井原(武藤章生)・・・・・・西山環境研究所所員。ニューギニア調査団には第一次にも第二次にも参加しておらず、生き残ったものと思われる。
■木田(浜村純)・・・・・・西山環境研究所に長年勤務し、経理を任されている。せっかく生まれようとしていた娘の子どもが奇形児と知り、自然環境が改善されていないことに激怒して西山を責めた。その後、妻と共に巡礼の旅に出る。
■植物学者(平田昭彦)・・・・・・「自然と人間の未来」と題された討論会に出席する。自然環境が如何に破壊されているかを聴衆に説明した。
■動物学者(小泉博)・・・・・・討論会に出席し、近代都市化に伴う弊害について、学生の質問に答える。
■病院院長(志村喬)・・・・・・奇形児の大量発生に頭を悩ませる。木田の娘も彼の病院で診察を受けていた。
■総理大臣(山村聡)・・・・・・異常気象による食糧危機に対して備蓄食糧を早急に放出し、生活の安全を約束する。人々の騒ぎはおさまらなかったが、それでも民衆を信じ、彼らに理性が戻るのをひたすら待つ。
| ●ストーリー |
環境研究所所長・西山良玄の家系は曽祖父の代よりノストラダムスの予言書”諸世紀”を信じ、予言を人々に伝えていた。このままでは予言書に書かれている通り、一九九九年七の月に人類は滅亡する。西山は公害をその要因のひとつと考え、企業が撒き散らしている公害の実態を明らかにするが、そのため企業側から妨害を受け、銀行からの融資の停止や恐喝電話に頭を悩まされる。しかし、夢の島に発生した30センチものナメクジ、浜に打ち上げられた大量の魚の死骸、一夜にして地下鉄のずい道に大発生した未知の雑草など、各地で起こる数々の現象は西山のことばを裏づけるものだった。しかも異変は確実に人間にも及び、奇形児が異常なまでに増加する一方で、突然変異的な能力を持った子どもたちがその直後に死ぬという事例がいくつも確認されていた。西山はそれらの異常現象を環境庁に報告し、来たるべき食糧危機に備えて対策をたてるべきだと主張する。
西山の意見に異論を唱えるものも少なくはなかったが、大気の汚染によって空中に浮遊する微粒子状のチリが太陽をさえぎり、世界中が寒冷化するようになると、食糧危機は誰の目にも明らかになった。エジプトに吹雪が舞い、ハワイ北部の太平洋上までが氷結し、アフリカやインドでは長期に渡ってかんばつが続く―――これらの世界的異常気象は、十億に近い人々を餓死線上にさまよわせた。そんな時、ニューギニアへ派遣されていた国際調査団が行方不明となり、第二次調査団の日本代表として西山が派遣されることとなった。そこで彼らが見たものは、巨大化した蝙蝠や食肉植物、そして狂暴化して人肉を食らう原住民たちだった。成層圏に蓄積した原子の灰がニューギニア奥地に降り注ぎ、動植物や人間に変化をもたらしたのだ。
やがて瀬戸内海上空でSSTの爆発事故が起こり、オゾン層は破壊されて太陽の紫外線が直接地上に降り注いだ。そのため、沼地は干上がり、森林は発火して山火事となり、石油コンビナートは次々と爆発炎上する。そのうえ、北極上空でもSSTが爆発し、おびただしい流氷が南下。これらの現象は気圧配置にも大きな変動を与えた。日本では大雨による濁流が町を呑み込み、アメリカのミシシッピー流域では大洪水に襲われて穀倉地帯が全滅、北米の五大湖も氾濫して周辺の小麦地帯も壊滅状態、オーストラリアとソビエト・ウクライナの穀倉地帯は異常高温と旱魃により農作物は枯れ果て、世界の主要食料生産国はほぼ全滅に陥った。日本の首相はただちに備蓄食料の放出を決定し、国民に生活の安全と治安の維持を約束するが、衝動的なパニックを避けることはできなかった。マーケットに押し寄せる群衆とそれを阻止しようとする機動隊。首都圏脱出を焦るあまり事故を起こし、炎に包まれる高速道路。オートバイで崖から次々と海へ落下していく若者たち―――。首相はそれでも民衆を信じ、人々に理性が戻るのを待った。
そのころ、日本へ戻った西山は、病気におかされた妻の伸枝が静かに息を引きとるのを見守っていた。原因は大気の汚染による呼吸器の異常。だが、ひとつの命が消える一方でもうひとつの命が生まれようとしていた。娘のまり子が恋人・中川の子を宿したのだ。まり子は出産することを決意するが、スモッグが反射鏡となって逆転した東京の街の風景が上空に映し出され、人々の不安や動揺はびん乱の極みに達する。国会の特別委員会で西山は語った。地震によって原子力発電所が爆発したら・・・、もし兵器を用いた世界大戦争が起こったら、どうなるかを。決断を迫られた首相は、今こそ全世界の人々とひとつになって闘い抜くことを誓うのだった。
| ●データ |
1974年8月3日公開
カラー シネマスコープ 114分
東宝映像=東宝映画共同作品
[スタッフ]
製作/田中友幸、田中収 原作/五島勉 構成・脚本/八住利雄 潤色/舛田利雄、坂野義光 監督/舛田利雄 撮影/西垣六郎、鷲尾馨 美術/村木与四郎 録音/増尾鼎 照明/小島真二 音楽/富田勲 協力監督/坂野義光 監督助手/岡田文亮 編集/小川信夫 スチール/石月美徳 振付/川西清彦
(西野バレー団) 製作担当者/村上久之 現像/東京現像所 整音/東宝録音センター 効果/東宝効果集団 サントラ盤/東宝レコード
[特殊技術]
特撮監督/中野昭慶 撮影/富岡素敬、山本武 美術/井上泰幸 照明/池田泰平 スチール/田中一清 光学撮影/宮西武史 合成/松田博 合成作画/石井義雄 操演/松本光司 特殊効果/渡辺忠昭 監督助手/川北絋一 製作担当者/篠田啓助
[特別スタッフ]
異常気象/根本順吉 食生態学/西丸震哉 超科学現象/斉藤守弘 植物社会学/宮脇昭 作家/半村良、石川喬司
[キャスト]
丹波哲郎 由美かおる 黒沢年男 志村喬 平田昭彦 小泉博 谷村昌彦 鈴木瑞穂 内藤武敏 佐々木勝彦 竜崎勝 浜村純 下川辰平 加藤和夫 渥美国泰 北沢彪 青木義朗 稲野和子 加藤小夜子 音羽久米子 矢吹寿子 中村たつ 谷口香 武藤章生 久野四郎 平田未喜三 弘松三郎 雪丘恵介 久遠利三 亀谷雅彦 原田君事 小笠原剛 大杉雄二 鈴木治夫 苅谷俊介 小坂生男 富士乃幸夫 加藤茂雄 中山剣吾 宇仁貫三 東静子 林光子 記平佳枝 麻里とも恵 吉田真理子 劇団ひまわり 劇団日本児童 納谷悟郎 市川治 佐間功 村越伊知郎 梶哲也 ウイリー・ドーシー ロルフ・ジェッサー フランツ・グルーバー ジョージ・フリン トニー・セテラ カール・マクムラン オスマン・ユスフ 三石千尋 マイクスタントマンチーム 中江真司 岸田今日子 司葉子 山村聡