●解説

 まさに一世を風靡し、その後のテレビ界にも多大な影響を与えたと言われる伝説のお笑いコンビ・コント55号。テレビでの人気を追い風にし、すでに人気グループだったクレージーキャッツやザ・ドリフターズ同様に、東宝と松竹とでそれぞれ主演映画が作られ、シリーズ化された。主演第一作となるのは1968年に公開された東宝の「コント55号世紀の大弱点」。松竹では同年「コント55号と水前寺清子の神様の恋人」を皮切りに水前寺清子氏と組ませ、東宝との差別化を図っている。そして、翌1969年には8月から12月までのわずか5ヶ月の間に東宝で3本、松竹で2本と、実に5本もの主演映画が立て続けに公開されるに至り、人気は頂点を極めていた。 「コント55号 宇宙大冒険」もそのうちの1本であり、結果的には東宝におけるコント55号シリーズの最終作となった。
 本作はまた、その後定番となった東宝の子供向けプログラム「東宝チャンピオンまつり」の第一回の一本でもある。併映はゴジラシリーズの新作「オール怪獣大進撃」と、テレビアニメを編集した「巨人の星 行け行け飛雄馬」。70分前後の長編三本立という豪華なラインナップだった。勿論、メインはゴジラであったが、すでに怪獣ブームは下火となっており、当時人気のスポ根アニメ「巨人の星」の役割は大きかったに違いない。そして本作はというと、確かにコント55号は子供にも人気はあり、内容的にも子供受けする要素が多分にあったものの、子供向けのプログラムの中に組み入れるのはいささか無理があったのではないかと思われる。
 80年代に有名ライターとなった、あのジェームス三木氏による脚本は当時の世相を徹底的に風刺しており、反戦のテーマを積極的に織り込んでいた。地球人の闘争本能を取り入れたばかりに核戦争が起こって滅びてしまう宇宙人。コント55号の二人が一人の女性との間にそれぞれ子供を産ませていたり、二人が精神病院に入れられてしまったりという、とんでもない展開はとても子供向けのものとは思えず、飽くまで大人を対象としていたことが伺える。福田純監督によるテンポのよい演出もやはり子供を意識しているとは思えない。惜しむらくは肝心のコント55号の二人のキャラクターが今一つ活かされていなかった点で、要所要所には独特の味が出ていたものの他の作品に見られたようなバイタリティが感じられなかった。将棋の駒のような歩き方をするというギャグも、しつこすぎて返って個性を殺してしまった感がある。
 特撮面では、円盤が江戸時代の京の町の上空を飛びまわるシーンなど、空飛ぶ円盤を中心としたシーンが見せ場となっている。しかし、あまり特撮を前面に押し出してはおらず、タイトルにおける真野田陽一氏以下の特撮スタッフの表記も単に”特殊技術”とだけクレジットされている。特撮映画としては低予算故に、一番の見せどころであるはずのラストの大爆破シーンも「世界大戦争」や「緯度0大作戦」といった過去の作品のライブフィルムを使用せざるを得なかったようだ。非常にスケールの大きな話ながら、全体的には小品のイメージは否めない。
 ところで、コント55号以外にも当時人気のあったコメディアンや俳優が多く出演しているが、パラド星の学者を演じた、たんく・だん吉氏とは、後の車だん吉氏のこと。当時は本作にも共演している、いわた・がん太氏と共にコント0番地というコンビを組んでおり、コント55号のバラエティ番組にも多く出演していた。


 
●キャラクター


■坂本桂馬
(萩本欽一)・・・・・・文久二年の京都にいた素浪人。小菊にほの字。将棋の桂馬のような歩き方をする。
■芹沢角
(坂上二郎)・・・・・・新撰組の一員にして、桂馬に敵対心を持つ。やはり小菊にぞっこん。将棋の角のような歩き方をする。
■小菊
(高橋紀子)・・・・・・京の芸者。桂馬と角をてんびんにかけていた。環境に順応するのがはやい。
■ドグマ
(川口浩)・・・・・・パラド星人。人々が無気力化し滅びつつある母星のために、獰猛で好戦的な地球人を連れてくるという使命を帯びて江戸時代末期の日本へやって来た。臆病で弱虫だが、心優しい。奥さんが三人、子供が六人いる。
■青髯(伴淳三郎)・・・・・・パラド星人のエネルギーステーションを襲い、侵略して植民地にしていた怪人物。美女が大好きで、世界の(なぜか地球の)美女の霊を集めて肉体化し氷づけにしていた。
■楊貴妃
(應蘭芳)・・・・・・青髯に氷づけにされていた美女の一人で、中国代表。桂馬と角によって蘇生される。
■クレオパトラ
(杉本エマ)・・・・・・同じく美女の一人で、エジプト代表。

■ジャンヌ・ダーク
(カルーセル麻紀)・・・・・・フランス代表の美女。口が悪い。
■マリリン・モンロー(本田由香子)・・・・・・アメリカ代表の美女。目立ちたがり。
■小野小町
(沢井桂子)・・・・・・日本代表の美女。

■施政長官(南利明)・・・・・・パラド星の長官。地球人の性格を導入してパラド星人に失われた闘争心を復活させようと図る。
■軍事長官(左卜全)・・・・・・他のパラド星人同様、無気力だったが、地球人の闘争本能を得て好戦的に。

■ドドメ博士
(由利徹)・・・・・・桂馬と角の頭脳から闘争本能を形成する物質を抽出した医学博士。地球人研究分科会のリーダー。
■社会学者(たんく・だん吉)・・・・・・地球人研究分科会のメンバー。桂馬や角たちがにせものの地球人ではないかと疑う。
■生物学者(いわた・がん太)・・・・・・地球人研究分科会のメンバー。「鳴くまで待とうホットドッグ」という名言を残す。

■物理学者(梅津栄)・・・・・・地球人研究分科会のメンバー。社会学者の意見に賛同する。
■解説者
(砂川啓介)・・・・・・パラド星のテレビで地球人三人の生態を実況中継する。


 
●ストーリー


 文久二年の京。素浪人の坂本桂馬と新撰組の芹沢角は芸者の小菊にぞっこん。彼女をめぐって決闘を始めるが、その様子を見ていた一人の虚無僧が彼ら三人を空飛ぶ円盤の中へ誘いこみ、宇宙へ連れ立った。虚無僧の正体は宇宙からやって来たパラド星人・ドグマであり、地球人をパラド星へ連れていくという使命を帯びていたのだ。だが、銀河系中心にあるパラド星までは片道2年半かかり、宇宙船の中ではその何十倍もの時間が流れるという。ドグマは老化を防ぐべく細胞の新陳代謝を緩やかにする薬・タイムピルを三人に与えた。
 半年後、円盤はエネルギー補給のためにエネルギーステーションへと立ち寄るが、そこは謎の人物・青髯によって侵略されていた。勇敢にも青髯に挑みかかる桂馬と角だったが、冷凍液を噴射する杖によって二人共氷づけにされてしまう。そこで小菊は青髯が女好きなことを利用し隙を見て杖を奪い、青髯を氷づけにして桂馬たちを救い出した。ステーションの地下には青髭によって氷づけにされていた世界中の美女が眠っており、その美しさのとりこになった桂馬たちはドグマがとめるのも聞かずにとびきりの美女5人を円盤に連れ帰った。だが、タイムピルはすでになく、美女たちはたちまち老化し、やがて白骨化してしまった。
 さらに2年後、円盤はようやくパラド星へ到着した。そこは穏やかな平和な星であったが、人々はすっかり闘争本能を失い、無気力と怠惰な方向へ向かっていた。地球人三人が連れてこられたのは、彼らの闘争本能を抜き出してパラド星人に注入することにあったのだ。彼らから見れば地球人ほど獰猛で闘志まんまんの種族は他になかった。だが、いがみあっていた桂馬と角も長い旅をするうちにすっかり意気投合し、パラド星人の見世物になりながらも闘争本能を見せることはなく、ただ退屈な毎日を過ごすだけだった。そのためパラド星の学者たちは彼らが本物の地球人ではないのではないかと疑い、使命を果たさなかったドグマにペテンの罪で死刑を宣告してしまう。それを知った桂馬と角はドグマを救うため見せかけの喧嘩を始めた。彼らの思惑通りドグマの処刑は中止されたが、負けた方は解剖すると長官に告げられ、二人は本格的な決闘をさせられるはめに・・・。その結果、二人共大けがをして病院に運ばれてしまう。
 診察にあたったドドメ博士は手術中に偶然にも彼らの大脳から闘争本能を形成する物質を抽出することに成功。それはただちに同じものが大量生産され、パラド星人たちに与えられた。桂馬と角は人畜無害の人間と化したが、彼らから闘争本能をもらったパラド星は再び活気に満ちた星へと生まれ変わった。だが、その闘争本能は些細な喧嘩から殺し合いへとエスカレートし、やがて核戦争へと発展した。無数の核兵器が発射され、5時間以内に死の灰が降り注ぐと判った時、ドグマは地球人三人を円盤に乗せてパラド星を脱出させる。そして、パラド星は大爆発と共に宇宙から消えた。
 円盤が再び地球へ戻ってきた時、地球では二百年もの年月が流れていた。桂馬と角は小菊との間にそれぞれひとりづつ子供を儲けていたが、地球の変わりように困惑し、核戦争の危機が迫っていることを知って愕然とする。パラド星の悲劇が地球でも起ころうとしているのだ。ソヴエト大使館の前で「戦争はやめてください」「死にたくありません」と必死に反戦を懇願する二人。しかし、彼らの言葉が聞き入られるはずもなく、桂馬と角は精神病院へと入れられてしまった。
 二人の子供を連れ、小菊は言う。
「どっかにこの子たちが住めるような、ちょうどいい星ってないのかしら?」


 
●データ


1969年12月20日公開
カラー ワイド 72分
東宝作品

[スタッフ]
製作/奥田喜久丸、寺本忠弘、浅井良二  脚本/ジェームス・三木  監督/福田純  撮影/逢沢譲  美術/育野重一  録音/牛窪秀夫  照明/下村一夫  音楽/広瀬健次郎  監督助手/根本順善  編集/大橋冨美子  現像/東京現像所  整音/エコースタジオ  製作担当者/村上久之  特殊技術/真野田陽一、豊島陸、金子勝治、三瓶一信、小川昭二、池渕剛治  協力/株式会社エコー

[キャスト]
コント55号(萩本欽一、坂上二郎)  川口浩  高橋紀子  由利徹  左卜全  梅津栄  南利明  カルーセル麻紀  杉本エマ  應蘭芳  本田由香子  塩沢とき  沢井桂子  砂川啓介  矢野間啓治  頭師孝雄  阿部昇二  コント0番地(たんく・だん吉、いわた・がんた)  神木真一郎  原田力  木下陽夫  平野学  今井計  大浦万丈  楠高宣  桂木美加  ゑりづ敦子  大野菊枝  辻しげる  小沢憬子  江幡秀子  内山みどり  田辺和佳子  若山真樹  川口節子  佐渡絹代  伴淳三郎