●解説


 1959(昭和34)年に松本常保氏によって京都に設立された日本電波映画株式会社は、テレビ黎明期に数々のテレビ映画を作った製作会社である。当初より『矢車剣之助』『天馬天平』『琴姫七変化』などのヒット作を次々と生み出し、その勢いに乗って1961年には専用の撮影所を完成させた。京都の会社だけあってその製作番組は時代劇が中心であったが、特撮テレビ映画の製作にも意欲的で、63年には国産では初の宇宙SFテレビシリーズ『宇宙Gメン』を製作・放映する。これは本格的なミニチュアセットが組まれた意欲作だったが、残念ながら視聴率的には惨敗し、13話分製作されながら8話で打ち切となってしまった。しかし、同社はそれに臆することなく今度は巨大怪獣モノを企画。それがここに紹介する『アゴン』である。
『アゴン』は第1〜2話の脚本を東宝怪獣映画で知られていた関沢新一氏が担当。造型は、東宝を始めとする各社の造型に携わっていた京都在住の造型家・大橋史典氏に依頼された。原水爆をテーマにしたそのストーリー、そして何より怪獣の造型が『ゴジラ』に似ていたことから、後に東宝よりクレームがついたが、ゴジラの関係者でもある両名が携わっていることから取り下げられたという。アゴンはゴジラよりもむしろ後に『マグマ大使』に登場したアロンに酷似しているが、別の着ぐるみである。アロンもやはり大橋氏によるもので、造型物としての完成度はより高くなっていた。
 さて、1964年の2月より製作が進められた本シリーズではあったが、よみうりテレビより同年秋からの放送が予定されていながらスポンサーがつかずに放送は中止となり、製作も4本のみでストップしてしまう。円谷プロの『ウルトラQ』よりも一足早く製作されながらも結局、本シリーズはしばらくお蔵入りとなり、ようやくテレビで放送されたのは4年後の1968年1月のことだった。放送局はフジテレビに移り、正月の朝に4日間、全4話を連続して放送し終了。4年前は当たり前だったモノクロフィルムもこの頃にはすでに時代遅れとなりつつあり、怪獣を倒すスーパーヒーローも登場しない本作は子供たちの目には極めて地味に映ったものと思われる。また、影山晴紀氏が『宇宙Gメン』に引き続いて担当した特撮も『ウルトラQ』と比べるべくもなく、粗雑さは否めない。加えて、効果音なのか音楽なのかはっきりしない奇妙なBGMも全編通して各シーンを盛り下げてしまっていた。しかしながら、限られた予算と人材で本格的な怪獣映画をテレビで実現しようとしたという点で、パイオニア精神に満ちあふれた意欲作であることに間違いはなく、テレビの怪獣モノを語る上で決して忘れてはならない作品といえよう。
 なお、日本電波映画は『アゴン』製作の後も、筒井康隆氏、眉村卓氏といったSF作家をスタッフに招いたSFテレビシリーズ『SFモンスター作戦』を企画するが、製作には至らなかった。1965年にはようやく次の特撮テレビシリーズ『ジャングルプリンス』を製作するが、全26本製作されたものの、これもまたお蔵入りとなり、1970年になって日本テレビの月〜金曜・朝9:30という時間帯でひっそりと放送されている。後に大和企画として新しくスタートした同社は変身ブーム真っ只中の1973年に特撮時代劇『白獅子仮面』を製作・放映するが、人気は得られずに13本で打ち切り。社名が大和新社となってからは特に特撮作品は手がけていない。



 
●キャラクター


須本五郎(広田進司)・・・・・・毎朝新聞社会部の記者。スッポンの五郎の異名をとり、一度くっついたネタは離さない。ウラン運搬車の行方不明事件をきっかけに大和刑事、右京博士、静川さつきたちと出会い、さらに怪獣アゴンに遭遇する。結構そそっかしい性格。
大和刑事
(松本朝夫)・・・・・・警視庁科学Gメンの刑事。アゴンに関する事件を担当し、アゴンの猛威の前にも臆することなく自分のなすべきことを確実に実行する。なお、科学Gメンなるものがどういう組織なのかは本編中明らかでなく、他のメンバーも登場しない。
右京博士
(志摩靖彦)・・・・・・原子力を研究している科学者。国立原子力センターの長だったが、アゴンに壊滅させられてしまう。しかし、右京原子研究所という自らの研究所も持っている上、第3〜4話では日本原子燃料研究所の所長になっている。原子燃料をエネルギーとする怪獣アゴンに対する対策を原子力研究の立場から協力する。
静川さつき
(沢明美)・・・・・・右京博士の助手。少々気が強く、当初は五郎を冷たくあしらっていた。が、アゴンの襲撃によってケガをしたところを助けられてからは彼にも気を許すようになった。
アゴン
(東悦次)・・・・・・ジュラ紀に生息していた恐竜の生き残り。長い間海底に眠っていたが、原子力の影響で突然変異を起こし、地上へ現われた…という、まるっきりゴジラと同じ設定。当然、エネルギー源はウラン等の原子燃料で、これを利用しているのか口から炎を吐くことができる。アゴンの名はアトミック・ドラゴンの略称であり、右京博士の命名による。


 
●全話ストーリー


第1話 アゴン出現 前編

 台風の中でウラン運搬車が海中に落下し、行方不明になるという事件が起きた。事件の調査は磯浜海岸で内密に行なわれ、それを知った毎朝新聞の須本五郎は急いで現場へと駆けつける。原子力センターの右京博士と警視庁の大和刑事の指揮による必死の捜索にもかかわらず、一向に手がかりはつかめないでいたが、突然ガイガーカウンターが激しく反応。海上が泡立ち、巨大な怪獣が姿を現わした。後日、原子力センターを訪ねた五郎と大和刑事は右京博士から怪獣に関する仮説を聞いた。アゴンと名づけられたその怪獣はジュラ紀に繁殖していた恐竜の一種であり、原子力の影響で突然変異を起こしたというのだ。やがて再びアゴンが出現し、原子力センターへ近づいていく。逃げ遅れた博士の助手・静川さつきは倒木に足を挟まれてしまう。
 本編の主人公となる五郎は、関沢脚本特有の明るいキャラクターが目指されており、本作における彼の台詞や描写にはそれが顕著だ。が、今ひとつ主人公に見えないのはどうしたものか。また、これは時代のせいもあるだろうが、妙に間延びしたカットは今の目で見ると少々気になってしまう。特に洞窟の中から怪しい光が近づいてくるシーン。それが子どもの手にしていた懐中電灯だとわかるまでに1分以上も費やしているのはどうしたものか。


第2話 アゴン出現 后編

 地割れの中に落ちたさつきは五郎に助け出されるが、アゴンはウラン物質を求めて原子力センターを破壊。原子炉の爆発に巻き込まれたかのように見えたが、その生死はわからなかった。そんな折、右京博士は声明を発表。人類が幾度となく行なった水爆実験のショックで蘇ったアゴンは、深海に捨てられた放射能灰のためにますます巨大に成長したこと、そしてウラン物質がある限り油断ができないことを告げ、防衛隊に警戒体性をとるよう依頼する。博士のことば通り、まもなくアゴンは再び人類の前に姿を現わし、防衛隊はアゴンに対し果敢に攻撃を仕掛けるが、戦車隊も戦闘機も巨大なアゴンにはまるで歯が立たなかった。そこで右京博士は原子燃料を使ってアゴンを誘導することを考案。大和が輸送車ごと原子燃料を海中に向かって突っ込ませると、アゴンはそれを手にとり、海の中へ姿を消した。
 
前半部にも後半部にもそれぞれアゴンによる破壊シーンがあり、全4本中で怪獣映画としての見せ場が最も多い作品となっている。戦車隊や戦闘機隊の出動・攻撃シーンは自衛隊の記録フィルムを多用しており、本物故の迫力。その反面、ミニチュアによる特撮部分とのギャップがあまりにも激しいのが哀しい。

第3話 風前の灯 前篇

 ある嵐の夜、猟師の松造の家へ怪しい二人組の男・黒田と鉄が現われた。彼らは乗っていたボートが転覆したため海の底に沈んだトランクを引き上げたいという。彼らの頼みを聞き入れた松造はひとりで海の中に潜るが、そこにはアゴンが潜んでおり、トランクはその足元にあった。トランクの引き上げを拒む松造。そこで二人組は口封じのために松造の息子・紋太を人質にとるとともに、原子燃料研究所に忍び込んで濃縮ウランを盗み出した。ウランを使ってアゴンを動かそうというのだ。だが、松造が再び岬の底へ潜った時には、すでにアゴンは移動していた。念願のトランクを手に入れながらも無事に逃げ延びるまではと、紋太を返そうとしない黒田。一方、岬の底にアゴンがいることを知った右京博士は防衛隊の出動と避難勧告を要請していた。やがて姿を現わしたアゴンは、トランクと紋太を乗せたボートを口にくわえてしまう。
 記事のネタさがしをしていたのに「釣りでもして歩いたら」と博士に言われて本当に釣りをしてしまう五郎。勤務中だったのに、その釣りにつき合うさつき。濃縮ウランを、なんと素手で盗み出してしまう黒田たち。彼らに紋太を人質にとられて「誰にも言うんじゃねぇ」とおどされながらも、いとも簡単に話してしまう松造……と、どうも不可解な展開ばかりが続き、なぜかボートをくわえたアゴンの姿で次回へ続いてしまう。で、盗まれたウランがどうなったかというと……どうなったのだ?

第4話 風前の灯 后篇

 ボートをくわえたまま上陸するアゴン。だが、ボートの中に紋太がいるため防衛隊は攻撃することができない。五郎はヘリコプターから縄梯子を降ろして紋太を救出することを提案し、それはただちに実行に移されたが、ヘリコプターはアゴンに近づいた途端、叩き落されてしまった。アゴンは依然としてボートを口にしたまま三重県に向かって前進を続け、右京博士はウラン物質をヘリコプターに積んでアゴンの進行方向を変えるという作戦を実行する。そしてウランを目の前にしたアゴンはボートを口から離し、ヘリコプターを追い始めた。紋太は無事に救出され、トランクの中には大量の麻薬が積まっていることが判明。五郎はその麻薬をアゴンに食わせてしまうことを思いつくが、黒田たちによって麻薬とウランを積んだヘリコプターを強奪されてしまう。しかし、アゴンに襲われたヘリコプターはたちまち飲み込まれ、大量の麻薬はアゴンに影響を与え始めた。苦しみもがき、溶鉱炉で暴れて火だるまになったアゴンは、やがて海の底へと消えていった。
 五郎が自分が考えた作戦によって人命を失ったことに対し、ひどく落ち込むシーンがある。彼も単なるお調子者ではなかったのだ。だが、さつきに「あなたは立派よ」とか言われて単純に立ち直ったところを見ると、やはり単なるお調子者かもしれない。それにしても、麻薬中毒になった怪獣なんていうのは、数ある怪獣たちの中でもこのアゴンくらいのものであろう。このまま死んだのかどうかはわからないようなラストになってはいるが……。


 
●データ

1968年1月2日〜1968年1月5日
フジテレビ系 毎日午前8:15〜8:45放映
白黒 30分 全4本
 日本電波映画作品

[スタッフ]
制作/松本常保  監修/関沢新一  脚本/関沢新一、内田弘三  監督/峯徳夫、大橋史典  特技監督/大橋史典  撮影/河原崎隆夫  照明/松本久男  録音/竹川昌夫  音楽/斉藤超  美術/鳥居塚誠一  特撮/影山晴紀  制作/日本電波映画株式会社(日本電映)

[キャスト]
須本五郎/広田進司  大和刑事/松本朝夫  右京博士/志摩靖彦  静川さつき/沢明美  アゴン/東悦次

[放映リスト]

放送日
サブタイトル
脚本
監督
ゲスト
68/1/2
アゴン出現 前編
関沢新一
峯徳夫
小林芳宏
1/3
アゴン出現 后編
関沢新一
峯徳夫
  
1/4
風前の灯 前篇
内田弘三
大橋史典
入江慎也、小林芳宏、福山象三、野崎善彦
1/5
風前の灯 后篇
内田弘三
大橋史典
入江慎也、小林芳宏、福山象三、野崎善彦