オレは、南都大学空手部主将の東郷龍二。 空手部主将というと知性のせい無骨な男を想像するだろうが、なんのなんの、 アイドルタレント顔負けの甘いマスクと均整のとれた体、それに何よりも、コンピューター並のシャープな頭脳がオレの持ち味だ。 欠点は特に無い。強いていうならば、留まることのない旺盛な好奇心と何事をも恐れぬくそ度胸ぐらいだ。 夏休みも間近に迫った6月の昼下がり、オレはいつものように部屋で快く寝息をたてていた。 と、突然、荒々しくドアが開けられた。 オレは、これ以上にない不愉快さで顔をしかめながら、けだるく片目をあけた。 「キャプテン、お休みのところお邪魔して申しわけありません。」 2回生の空手部員、葛城真吾が肩で息をはずませながら深刻な面差しで直立していた。 「何か用か。」 オレは、ブッキラボウに夢の中で答えた。 「オッス。今しがた実家より“大至急帰れ”という連絡がありました。 それで、本日よりしばらくの間休部させていただきたいのであります。」 「よしわかった。」 オレが返事をするやいなや、やつは「失礼します」と言って部室を飛び出して行った。 一週間後、いつものようにクラブの練習を終えて、アパートへ帰ると小包みが一つ配達されていた。差し出し人は葛城真吾。 包みの中身は、1通の手紙と奇妙な模様が描かれたお守りの様な物だった。 オレは、その模様をながめながら手紙の封を切った。 ・・・・・・前略 キャプテン 今、私の村ではとてつもなく恐ろしい奇怪な事が起ころうとしています。いや、もうすでに起こりつつあるのかもしれません。 とても手紙では説明できないほど奇妙な事です。あまりに奇妙な事柄なので村の者以外の人間は誰も信じてはくれません。 もちろん警察も。しかし、ことは村人全員の生命、ひいては全人類の存亡をも左右しかねないといっても過言ではありません。 どうかお願いです。力を貸して下さい。 キャプテンが来てくれることを信じて破魔の印を同封いたします。これは大変貴重な物です。決して無くさないでください。 また、村に入る時は必ず身につけてください。すぐにお越しくださることを期待いたしております。 草々 葛城真吾・・・・・・ オレは、体の中から好奇心の虫がもぞもぞと、押さえきれないほど力強く這い上がって来るのを感じていた。 次の日、オレはわけのわからぬままボストンバック1つを手に、奈良県の飛鳥をめざして新幹線に乗っていた。 ・・・・・・・・・飛鳥に到着したオレはまっ先に葛城真吾の父親である神主さんのところを尋ねた。 「お父さんですか。この村が大変な事になっているそうですね。」 「ああ、東郷龍二さんですね。この度は遠路はるばるお越し下さいまして誠にありがとうございます。 実は、この村は今大騒ぎなんですよ。妖怪変化が出没しましてね。 噂によりますと、村人も何人か喰い殺されたとかで・・・恐ろしい事ですよ。 はるか昔に封じ込められた妖怪だそうですが、何者かの手によってその封印がはがされた様なんです。 うちの息子も村人が殺されたり、行方不明になっているのが腹立たしく思い、 使命感から地下迷路に出むいて行ったのですがそれっきり・・・。 東郷さん!ぜひあなたのお力で何とか私の息子や、この村を救って下さい!! それから余談ですが、夜は絶対に出歩かないで下さいよ。夜は妖気が高まって、生気や体力が吸い取られるんですよ。 ですからなるべく寝泊りはこの神社でして下さい。但し、7時までにお願いします。」 |