闇の世界の入り口はどこにでも存在する。
不幸にもその入り口を覗いてしまった人間達が、
怨念を込めて回しているメーリングリスト。
これを読んでいる貴方は、もう既に黒い領域に侵入している。
もう逃げても無駄だ。


第1夜 第2夜 第3夜 第4夜 第5夜 第6夜 第7夜
第8夜 第9夜 第10夜 第11夜 第12夜 第13夜 第14夜
第15夜 第16夜 第17夜 第18夜 第19夜 第20夜

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こんにちわ。
みなさんは、一人ぼっちで部屋にいるときに寂しいと思った事がありますか?
一人でいる事が寂しい・・そう思えるだけ、幸せなのかもしれません。
出来事の発端は、1年前に琵琶湖へツーリングに行ったときの事です。
現地で友人と待ち合わせをした私は、バイクで国道を飛ばしていました。
かなり時間に遅れていた事もあって、見知った道を通らず、近道を選んだのです。
木がうっそうと生い茂る森がどこまでも続いていました。
白く立ち込める霧のせいでしょうか?
近道のはずが、いつまでも目的地に着きません。
どうやら道に迷ってしまったようでした。時計を見ると約束の時間は過ぎていました。
方角のわからないまま、出来るだけ幅の広い道を選んでバイクを走らせました。
そうすればいつかは建物のある場所へ出られるはずと思ったからです。
それから1時間ほど走り続けて、どこをどう走ったのか
道の先にはサーカスのテントのようなものが頭を覗かせていました。
道はそのテントの前で終わっていました。
そこは広場のようになっており、テントを囲むようにしてまわりは高い木々で覆われていました。
「こんなところでサーカスなんて、興行が成り立つのかな。」
などと独り言を言いながら、バイクのエンジンを切りました。
僕はテントの入り口に立って声を掛けました。
「すいません!誰かいらっしゃいますか!?」
もしテントの中に誰かがいるのならば、この場所が何処なのか聞き出せると思ったのです。
シンと静まりかえったテントの中を覗き込むようにしてもう一度声を掛けました。
「すいません!道をお伺いしたいのですが!」
水を打ったような静けさの中で、僕の声だけが響くだけでした。
僕は悪いかな、と思いましたがテントの中へと入っていきました。
何か場所の特定できるものがあればと思いました。ポスターでも何でも良いのです。
テントの中は広々としていました。
それはそうでしょう。ここで見世物が行われるのですから。
円い舞台を囲むようにして観客席が設置されていました。
舞台の上には様々なサーカスの道具が放置されていました。
玉乗り用の玉、オリ、平均台・・・。
あきらめて帰ろうと振り返ったとき、僕はギョッとしました。
振り向いたその先に観客席に座った男が僕をじっと睨んでいるのです。
その男はピエロの衣装とメイクをしていました。
僕の心臓は激しく波打っていましたが、平静を装いました。
「す、すいません。声を掛けたのですが、返事がなかったもので。」
ピエロの男は、表情一つ変えず口元のみに笑みをたたえた顔でジッと僕を見つめるだけでした。
「あの、道をお尋ねしたいのですが・・。」
ピエロの男は無言のまま僕を凝視し続けました。
僕は気味が悪くなり、ピエロの男に詫びると、早足でテントの外へと急ぎました。
バイクのエンジンを蒸かして来た道を戻る事にしました。
離れていくテントをバックミラー越しに見ると、
ピエロの男がテントの前でこっちを見て立っているのです。
背筋がゾクッとするのを感じながら、バイクのスピードを上げました。
テントが霧の向こうに消えた頃、なにげなくバックミラーを覗いた僕は、自分の目を疑いました。
そこにはもの凄いスピードで僕のバイクに近づく物体があるのです。
どんどん近づいてくるその物体は、バックミラー越しにもそれとわかるほどに近づきました。
それは、先程のピエロの男だったのです!物凄いスピードで走ってくるピエロの男だったのです!
僕はパニック状態になりました。何が起こっているのかわかりません。
肉眼で確認しようと首を後ろに向けました。
ピエロの男は、すでに1mほど後ろまで追いつき、真っ赤な口を開けて笑っていました。
僕はそのまま気を失ってしまいました。
転倒したのか、ガードレールに突っ込んだのかは定かではありませんが、
激しい痛みを感じた事は微かに記憶しています。
次に気がついたのは病院のベットの上でした。
後で聞いた話ですが、僕は琵琶湖のすぐ近くで事故を起こしていたそうです。
友人と待ち合わせした場所から10分とかからない場所で。
僕は思った程には傷は重くなく、三ヶ月ほどで退院する事ができました。
しかし、それからというもの僕の人生は変わってしまいました。
口元に笑みをたたえたあのピエロの男。
学校でも、食事中も、友人と出掛けていても、常に僕の前に現れるのです。
このメールを書いている今も、部屋のすみで膝をかかえて座り、僕を凝視し続けるのです。



はじめてメールします。
私の住む町は、人口300人あまりの小さなところです。
みなさんはその地方に伝わるしきたりというのをご存知でしょうか。
近代化されたこの日本でも、意外に根深く残されているのです。
その事を話すには6年前、私の10歳の誕生日までさかのぼらなければなりません。
私の家は、祖父、祖母、父、母、長男、次男、姉、そして末娘の私という大家族でした。
家族中が私の誕生日を祝ってくれました。
いいえ、家族中というのは間違いですね。
祖父だけは私の誕生日を祝うことができませんでした。
母が言うには、私の誕生日を迎える前に具合は悪くなり、病院に入院したというのです。
私は少し悲しくなりましたが、みんなが祝ってくれたのですぐに元気になりました。
母は私のためだけに、特製のシチューを作ってくれました。
そのときの味は今でも忘れません。
それから一年後、11歳の誕生日を迎える日でした。
今度は祖母が私の前からいなくなりました。
母は「親戚の家に移り住む事になったのよ」と言っていましたが、
誕生日のたびに家族が減るのはいい気持ちがしませんでした。
そして12歳の誕生日で長男の兄が、13歳の誕生日に父がいなくなりました。
私は自分の誕生日が嫌になりました。
年を一つ重ねるたびに一つずつ私の前から大切な家族が姿を消すのです。
14歳の誕生日の頃にはすっかり鬱病のような状態になってしまいました。
今度は一体誰が私の前からいなくなるのだろう。
そう考えると、自分が生きているのさえ嫌になりました。
誕生日を次の日に控えたとき、私は見てしまったのです。
それは、母が兄の部屋へ入っていくところでした。
ドアの隙間から何気なく部屋を覗くと、庖丁を振りかざした母が、兄の背中を何度も何度も刺しているのです。
兄はすでに息をしていませんでした。それでも何かに操られているように何度も何度も兄を刺すのでした。
私は声を失いました。あのいつも優しい母が・・。
部屋に戻った私は、両目から涙が溢れ出しました。
そして心を落ち着かせて、高校から帰った姉にその事を話しました。
姉はその事を聞いても、冷たい目をしてあしらうだけで、まったくとりあってはくれませんでした。
その晩も、毎年のように母は私の誕生日を祝ってくれました。
そこにいたのはいつもの優しい母でした。
私はガタガタと振るえながら食卓で母の料理を待ちました。
母の特製シチューを口に運びながら、私は両目から涙がこぼれるのを止められませんでした。
その傍らで姉は平然として座っていました。
その日から私の生活は地獄でした。逃げ出すわけにはいきません。私を産んでくれた母なのです。
それにまだ中学生の私に、どこへ逃げろと言うのでしょう。
いつも優しい母、家族を一人ずつ殺してきた母。
私は心を閉ざすことしか出来ませんでした。
そしてとうとう1年が過ぎてしまいました。
私の15歳の誕生日です。私か姉、どちらかが母に殺されてしまうのでしょうか。
次の日に誕生日を控えた私は考えました。
今夜は姉と一緒にいよう。二人で母を説得しよう、と。
姉の部屋へ向かった私は、ノブをひねってドアを開けました。
そこには太い荒縄で首を吊っていた姉の姿が微かに揺れていました。
顔から血の気の引いた姉の顔は悲しげでした。
姉は知っていたのです。それでも必死に冷静を保っていたのです。
そして恐怖に耐え切れなくなった姉は、自分の手で死を選んだのでした。
そのときです。階段を登ってくる音を聞いたのは。
母です!母が私たちを殺そうとやって来たのです!
私は咄嗟に押し入れの中に隠れました。
姉の部屋にやってきた母は、その光景にハッと息を呑み、「なんてことを・・」と小声で呟きました。
そして手に持った庖丁で縄を切り姉を下ろすと、今度は同じ庖丁で姉を切り刻み始めました。
私はいまでも叫びだしたい気持ちで一杯でしたが、両手で口を押さえてこらえました。
細かく刻んだ姉の肉片をバケツの中に放り込む母の姿。
やがてバケツ一杯になった肉塊を運んでいく母。
私は必死になって母の後ろをつけました。
母は調理場にやってくると、大きな調理鍋に姉の肉塊を放り込みました。
私は全てを悟りました。母が誕生日に作ってくれる特製シチュー、あれは私の家族達だったのです。
私はその場にへたり込みました。
母はそんな私に気づき、にっこりと笑顔で頬についた返り血をぬぐって言いました。
「あしたにはシチューが出来き上がりますからね。」と。
それから、私はある計画を立てました。私の16歳の誕生日までの計画。
私と母の二人きりの生活が続きました。母は変わらぬ母のままでした。
そして誕生日の前日の朝です。私は母よりも早く起きて朝食を作りました。
その朝食の中にある薬を混ぜたのです。
「あなたが朝食を作ってくれるなんて珍しいわね。」
母は、嬉しそうに私の作ったみそ汁をすすりました。
朝食を食べ終わる頃、母の体に異変が起きました。喉元を押さえた母は、悶絶して意識を失いました。
私は、あらかじめ用意しておいたノコギリで母の体を切り刻みました。
強力なシビレ薬でしたから、母はそのまま目を覚ます事なく命の火を消しました。
そしてバラバラになった母は、私の手で煮込まれたのです。
あとで調べてわかったのですが、この町には人工を一定に保つため『人減らし』の風習が昔からあったそうです。
「血の繋がったものが老いたものを食べる事によって、永遠の命を繋げる」という言い伝えも知りました。
そして町の人間が減っても何も事件にならないのは、今もそのしきたりを町全体が守っているからなのです。
さて、今年も私の誕生日が近づいてきました。
みなさん、17歳になる私は、いったい誰を食べればいいのでしょうか?



みなさんこんにちわ。
私は郊外のマンションに住む独身の男性です。
みなさんは自分のまわりの出来事がすべて現実に起こっている事だと信じていますか?
私の仕事はフリーのライターで、自宅へ仕事を持ちかえり、家でワープロを叩く事が多いのです。
あの日の晩も私は机に向かってキーボードと格闘していました。
すでに夜中の2時を過ぎています。
私の部屋は5階にあるのですが、上の階の住人がこんな日に限ってうるさいのです。
『ドスン!ゴロゴロ・・。』
といった荷物を降ろすような音や、
『ダッダッダッダッダッ・・』
といった部屋を駆け回る音が上の階から聞えてくるのです。
集中力のない私ですから、仕事中にやられたのではたまったものではありません。
このところ家での徹夜仕事が続いていたのですが、毎日こんな調子です。
いいかげん頭に来ていた私は、少し注意してやろうと思いました。
非常階段を登ってちょうど真上にあたる部屋の前へと行きました。
『ピンポーン・・』
呼び鈴を鳴らしても出てくる気配がありません。留守という事はありません。
さっきまでドスンドスンとやっていたのですから。
もう一度呼び鈴を2度ほど押したのですが、返事がないので少し荒々しくドアを叩きました。
「夜中にうるさいんですけど!」
と嫌味を込めて言ってみました。それでも反応はありません。
私が自分の部屋に戻ろうとすると、キィと少しだけドアが開いた音がしました。
振り替えるとやはりドアが少しだけ開いています。
中の住人が出てきたのかなと思いドアに近づきました。
その小さな隙間から見える景色は真っ暗でした。え?と思った私は思い切ってドアを勢いよく開けてみました。
その光景に私は呆然としました。
そこには何の家具も置かれていない6畳間が月明かりだけに照らされてガランとしているだけでした。
頭の中を様々な考えが駆け巡りました。
隣の部屋だろうか?いえ、位置的に見てもこの部屋から音がしたとしか考えられません。
住人がどこかに隠れている?隠れるような場所は見当たりません。
混乱しながらも部屋に戻った私は、なおも続く上からの物音に悩まされながらも、その日は眠りにつきました。
次の日、胸につかえたこの『気持ち悪さ』を解消するべく、管理人室に赴きました。
私は管理人に「上の階の人が夜中にうるさい」という事を告げました。
管理人はいぶかしげな目をして私を見ました。
「このマンションは、貴方の住んでいる5階までしかありませんが・・」
私は頭が真っ白になりました。そうです。なぜ今まで気づかなかったのでしょう。
このマンションは5階建てだったのです。何も言わずに私は管理人室を後にしました。
(とにかく今はマンションから離れよう)
そう自分に言い聞かせてフラフラとマンションを出ました。
「君、こんなところで何をやっているのかね。」
声のした方を見ると、自転車に乗った警官がこちらを見ています。
「こんなところ?」
ふと後ろを振り替えると、マンションがあったはずのその場所には深い霧に包まれた霊園がどこまでも続いていました。
私はいままで何をしていたのでしょう・・。
激しい頭痛に襲われた私は、一つの結論を導き出しました。
私はすでに自分が死んでいる事に気付いていなかった事を。



みなさんは一人暮らしをした事がありますか?
もしまだなら、住むべき場所は慎重に探した方が良いと思います。
私は6畳一間の部屋に小さなベランダ、ユニットバスとダイニングキッチンという
ごく一般的なワンルームマンション6階に住んでいます。
これは、私がここに引っ越してきた最初の夜に起こった出来事です。
やはり引っ越してきたばかりというのは、そうそう落ち着いて寝られるものではありません。
布団に潜り込んだものの、なかなか寝られず、
月明かりの差し込むガラス戸の方を見てただボーッとしていました。
引っ越しを手伝ってくれた友達と飲みに行っていたので、
多少のアルコールも入っていましたので、眠れずとも良い気分でいられました。
そのときです。
『ピンポーーーーーン』
玄関のベルが部屋全体に響きました。
ギョッとして布団から起き上がりました。時計を見るとすでに夜中の2時です。
「こんな時間に誰だろう?」
寝間着の上にカーディガンを羽織り、玄関の覗き穴に顔を近づけました。
「うっ」と私は思わず声を漏らしてしまいました。
その先数10センチのところに青白い顔をした女が、私の方をジッと見ているのです。
「ど・・どちら様ですか?」
私が訪ねると、薄紫色の唇が動き、何も言わずにニヤーッと白い歯を見せるだけでした。
「あの・・どちら様ですか?」
私がもう一度訪ねても、女は何も言いませんでした。
不審に思った私は、
「もう寝ますんで、すいません。」
といって玄関を離れて、再び布団へと入ろうとしました。
「ピンポン、ピンポン、ピンポーーーーン!!」
と、またあの音がけたたましく部屋の中に響きました。
少し怒りを覚えた私は、「いいかげんにしてくれ!」と叫びながら玄関へ向かいました。
のぞき穴を覗いて心臓が止まりそうになりました。
今度は女が二人になっているのです。やはり青白い肌と薄紫色をした唇を持つ女が。
「警察呼びますよ!」
そう言ってみても、彼女たちは微動だにしませんでした。
(このままでは、長時間居座られるかもしれないぞ)
そう思った私は、少し脅してやるつもりで、玄関のドアをバッと開けました。
激しく怒声を浴びせれば逃げていくと思っていたのです。
しかし私の怒声は喉でかき消されたのです。
のぞき穴からは見えなかった彼女たちの下半身が目に飛び込んだからです。
彼女たち着ている白いロングスカートは血まみれでした。
そして左手には血のついた庖丁、右手にはスイカのような黒い塊をそれぞれ掴んでいました。
それが人の生首である事が分かるまでに時間がかかりませんでした。
その生首の1つから『ブチブチブチッ』という音がして地面に転がりました。
掴んでいた髪の毛が千切れたのです。
ゴロンとこっちを向いた生首は、隣に住んでいるA子さんでした。
息をする方法も忘れた私は、悲鳴すらあげる事も出来ず、開け放ったドアを閉めようと動きました。
それと同時に女が庖丁を振り上げ、私に襲いかかろうとしたのです。
半開きになったドアに、二人の女が振り下ろした庖丁が、私の肌を切り裂こうと蛇のように伸びてきました。
2本の腕を挟んだドアの隙間から、女の笑い顔が不気味に覗いていました。
「ヒューーー、ヒューーー」と女の唇から、息が抜けているような音が聞えてきました、
私は何度も何度もドアを叩きつけて、女の腕を挟み込みました。
やがて女の腕は力が無くなり、するするとドアから抜けていきました。
私はすぐさまドアを閉め、鍵とチェーンを掛けました。
私は全身から汗が噴き出し、その場にヘタリと座り込んでしまいました。
恥を忍んで言いますと、ズボンも少し濡れていました。
一瞬静粛があたりを包みました。しかし次の瞬間、
『ドンドンドンドン!』『ピンポン、ピンポン、ピンポーン!』
というドアを叩く音とチャイムを鳴らす音が響きました。それは止む事がありませんでした。
激しく揺れるドアに近づき、のぞき穴に目をやった私は、気がおかしくなりそうになりました。
あの青白い顔と薄紫色の唇を持つ女が、もう一人増えているのです。
3人の女は、庖丁をドアに突き立てようとしたり、額に血が滲むほど頭を叩きつけたり、
その光景は私の精神を崩壊へと導くには十分の状況が揃っていました。
しかし私は、気を持ち直して電話口へ向かいました。
「警察だ・・」
震える手を抑えながら、プッシュホンで『110』と押していきました。
プルルルル・・・ガチャ・・
「もしもし!もしもし!」電話に向かってすがるように問い掛けました。
「ヒューーー、ヒューーー」電話の向こうには聞き覚えのあるような音。
女の唇から発せられる空気の漏れるような音が流れてきました。
「うわぁーーっ!」
私は電話を耳から離して投げ捨てました。
部屋の中の重圧を感じた私は、自分の目を疑いました。
ベランダへ通じるガラス戸一杯に、あの女たちがガラスに顔を押し付けてひしめきあっていたのです。
ガラス戸に1本、また1本とヒビが入りました。
そしてガラスの割れる音とともに私は意識を失いました。

目が醒めたときは、女たちの姿もなく、ガラス戸すらも元の形を止めていました。
あれは全て夢だったんでしょうか?
月明かりが部屋の奥まで差し込んできていました。
そのとき、『ピンポーーーーーン』と玄関のベルが部屋全体に響きました。
時計を見ると夜中の2時でした。



世の中にはどんなものでも商売にしてしまう人がいるものです。
その中には非常に危険な物も多くありますので注意が必要です。
この事件は、私が商店街にある観光センターのパンフレットを見ていたときから始まりました。
カラフルに彩られた様々なパンフレットの中に、
藁半紙にモノクロコピーしただけの粗末なものを見つけました。
その紙には大きくこう書いてありました。
『心霊体験ツアー(確実に体験できます) 都心から1時間』
普段から怪談話などを好んでしていた私は、話のタネにでもと、その紙を1枚取ってポケットにしまいました。
しかしだからといって本当にツアーへ参加する程の行動力はありません。
家についた頃には半ばその存在すら忘れかけていました。
数日たったある日、家へ遊びに来た友人Aがその紙を散らかった机の上から見つけました。
「なんだよコレ、面白そうじゃん。」
そういう事には探求心の強い男でした。その日は酒も入っていた事もあり、
話が盛り上がり、今度の休みに参加してみようという事になったのです。
行動力に長けたAは、次の日には二人分申し込んでしまったのです。

そしてとうとう当日。
現地まで自費で向かいました。パンフレットにあった通り、
そこは都心から電車で1時間弱のところにあり、特に田舎というわけでもなく、
どこにでもあるような郊外の静かな町でした。
待ち合わせ場所に、ツアーの案内人だという男がやって来ました。
小太りでメガネをかけており、常に視線をそらしているような男でした。
「こちらです。」と呟くように言った男について行きました。
Aは「雰囲気出てるな」と私に耳打ちして来ました。
案内された所は、とあるアパートの2階でした。
てっきり旅館やなにかに案内されるものだと思っていた私たちは顔を見合わせて苦笑いしていました。
簡素な木製のドアを開けて、男は「どうぞ」と私たちを促しました。
中は粗末な台所と8畳ぐらいの部屋、窓にはダンボールが貼られており、その隙間から西日が差し込んでいました。
部屋の畳には、赤いビニールテープで、半円が描かれていました。
半円は北側の壁から始まり、西の窓側で終わっていました。
「夜はこのビニールテープの内側に寝て下さい。」
そう言うと男は、そそくさと立ち去ってしまいました。
「困った事になったよなぁ。」
と言いながらも、Aはこのおかしな状況を楽しんでいるようでした。

とりあえずその日は買っておいた酒やツマミで夜まで過ごそうという事になりました。
酒を喉に流し込みながら、Aは小声で私に耳打ちしました。
「なぁ、この円の中で寝ろって事は何か仕掛けがあるんじゃないか?
係の人がツアーの客が寝静まるまで待っててさ、幽霊だと思わせるトリックをやらかすのさ。
ドッキリカメラみたいにね。昼間の男の態度も演出でさぁ。」
Aの言う事もまんざら的を外していないなと思いました。そこである計画を立てたのです。
Aが円の中で寝たフリをし、それを円の外で私が見ているという物でした。
やがて夜も深まり、Aが布団の中に入る事にしました。
どこで見られているかわかりませんから、布団は2組敷き、一方には荷物を潜り込ませました。
1時間かそこらたった頃でしょうか。二人とも本当に寝てしまっていました。
妙な雑音に私は目を覚ましたのです。
遠くの方からラジオから流れる詩吟のような音が聞えて来たのです。
その音は徐々に大きくなって来ました。
その内容がハッキリ聞きとれる程になってわかりました。それは複数の人間が唱えるお経でした。
私は口を押さえて笑いをこらえていました。見るとAの布団も小刻みに揺れていました。
Aも笑いをこらえていたのだと思います。
私はカメラを構えて体制を低くして台所の方へ潜みました。
お経はついに隣の部屋ぐらいまで近くで聞えるようになり、
そのとき北側の壁からモヤのような物が現れるのを私は目撃しました。
「あ・・」と声に漏らした瞬間、壁から一人、二人、三人・・、
次々と僧侶らしき男が現れ、ビニールテープに沿って行進し、Aのまわりを囲んで読経していました。
Aも異変に気づいたらしく、ガバッと掛け布団をめくりあげました。
一人の僧侶が顔を上げると、月明かりに照らされて、その表情を見る事が出来ました。
目は金色に輝き、口は耳まで裂け、その中から覗いた歯は鋭利に研ぎ澄まされ、
それぞれの方向に長く伸び、それは歯というよりも牙でした。
間違いなく人間の顔ではありませんでした。
僧侶は一斉にAに覆い被さり、Aの体を貪り食いました。
「うわぁぁっっーーーっ!!!」
Aの金切り声が響き渡りました。私は突然の展開にカメラをその場に落としてしまいました。
その衝撃でシャッターが押されたのか、バシャッと部屋全体をフラッシュの光が照らしました。
そのとき一斉に私を見た僧侶たちの目を二度と忘れる事は出来ません。
それから無我夢中でアパートを飛び出し、どこをどう逃げたのか覚えていません。

数日後、警察に事の成り行きを説明しましたが、まったく信じてもらえませんでした。
なぜなら、Aは自分の家に戻っていたからです。そしてAはあの日の事をまったく覚えていませんでした。
しかし私は見てしまったのです。
毎日、毎日、私のあとをつけてくる二人の男を。
ツアーの案内人だったあの男と一緒に、私を遠くから見つめているAの金色に輝く目を。



航海日誌
我々、地球最後の生き残りである1000名は、宇宙居住船で地球の外周を周回中である。
この船は、地球が回避不能な自体に陥ったとき、選ばれし人類が一時的に地球を退避するものだ。
このシステムの構築は1990年から本格的に動き出していたと聞いている。
我々がこの船内で生きていけるのは25年。
その間に地球は環境を取り戻し、新たな大地で我々が人類の歴史を再び築き上げていくのだ。
いや、築き上げていくはずだった。
この事実を知っているのは、居住者の中でも最高責任者である私だけである。
その帰るべき地球そのものが消滅してしまうとは。
我々は帰る場所を失った。
帰る場所がかつて存在した空間を永遠に周回する死刑台に立たされたに過ぎないのだ。
全人類滅亡まであと25年。
これは私だけが知る耐え難い事実である。
しかし、希望がないわけではない。
事前にこの最悪の結末を防げば良いのだ。
理論上ではあるが、地球が存在していた公転軌道上を逆方向に光速回転させた分子に情報を流出させる事で、
電文のタイムスリップが可能なはずである。
もしそれが正しく作用すれば、このメールを20世紀のインターネット回線に載せる事が可能だろう。
この事実を20世紀の人類が知り、一丸となって対処すれば、地球は救われるだろう。
そして我々1000名の地球脱出、そして全滅の事実は無に帰するだろう。
このメール送信の成功を祈って、私はある計画を実行する。
それは居住区の切り離しである。
1000名では25年の命でも、私一人ならば寿命尽きるまで生きのびる事が出来るのだ。
もしこのメールが届かなかったとしても。



あれは、ちょうど15年程前になります。
妻の“洋子”と出会ったのは。
私は当時、大学のテニスサークルに在籍しており、
新入生だった洋子は何人かの同じく新入生と一緒に紹介されました。
洋子は小柄で目のパッチリしたタイプで、私はいわゆる一目惚れをしてしまったのです。
私は手の早い人間ではないのですが、洋子を一目見たそのときから夢中でした。
テニスを教えるにも、(他の新入生はそっちのけで)洋子につきっきりになっていたぐらいです。
やがて私達は、自然と良い仲になっていました。
しかし、私はある不思議な事に気付きました。
頭の中は、いつも洋子の事でいっぱいなのに、
洋子と離れているときには、どうしても顔が思い出せないのです!
目をつぶって洋子の顔を思い出そうとしても、
洋子の顔だけはどうしても頭に浮かんでこないのです。
出てくるのは、洋子の顔に近い昔の友人ばかりなのです。
私は本当に洋子の事を愛していたのでしょうか?
愛している人間の顔が思い出せない事なんてあるのでしょうか?
私は悩みました。自分の心がわからなくなりました。
それからというもの、洋子に会うたびに洋子の顔を見つめました。
会えば『洋子はこういう顔だ』と思い出すのですが・・。
しかし、別れてすぐに思い出そうとしても、やはり浮かんでこないのです。
付き合ってから4年が経ち、私は意を決して洋子に結婚を申し込みました。
一緒に暮らせば、私の“心の病”も消えると思ったのです。
私が洋子を愛している気持ちは、そのときも信じて疑わなかったのですから。
そして、今では私達の間に二人の子供がいます。
裕福というわけではありませんが、客観的に見ても幸せな家庭を築いていると思います。
しかし、こうしてメールを書いている今でも、
洋子と二人の子供の顔は思い出せません。



こんにちは。今、病院からメールを出しています。
僕は都内に住む高校生です。
あるとき、街で買い物をしていると、
道行く人達の僕に集まる視線に気付きました。
ギョッとした目を僕に向けたかと思うとすぐに目をそらす人、
ニヤニヤとしながら僕の方をチラチラと覗く人、
通り過ぎたあとに僕の背後で吹き出す人までいました。
僕は自分の体を見直しましたが、特におかしなところはありません。
そう思ってふと目に入ったショーウィンドゥに映る僕の顔を見てハッとしました。
右の鼻から信じられないくらい太い鼻毛がヌッと一本伸びているのです。 その顔はとてもマヌケでした。
僕はとても恥ずかしくなり、手で鼻を押さえながら急いで家路につきました。
家に帰るとすぐに洗面所へと向かいました。
鏡に映るその毛は、黒々として、見れば見るほど太さが際立つ鼻毛でした。
私は左の親指とひとさし指の爪で、その毛を摘むと、ググッとその毛を引っ張りました。
ツーンと激痛が鼻の奥に響きましたが、そのあまりの痛みに爪はすっぽりと毛から滑ってしまいました。
その安易な抜き方に後悔をした私は、今度は確実な『毛抜きバサミ』を用意しました。
その真っ黒な物体にハサミを食い込ませ、さきほど摘んだときと同じ指でハサミを固定し、
一気に引き抜きました。ズルズルッと鈍い音が頭に響きました。
・・・。
激痛とともに引き出されたその鼻毛は、予想以上に長く、
全てが抜けたときには、中指ほどの長さがありました。
長年溜まった垢を一気に洗い流したような開放感に満たされました。
しかし次の瞬間です。
鼻の奥がムズムズと痒くなり、ポタポタと液体が流れ始めました。
そうです、鼻血です。それに気付いて鼻を押さえる頃には、既に鼻血の勢いは増していました。
あとからあとから溢れ出る鼻血は、上を向いてもお構いなしに流れ出しました。
ティッシュを積めても、すぐにティッシュは真っ赤になり、
フィルターの役目すら果たさなくなりました。
私は洗面所に行って、洗面器へと鼻血を流し込みました。
鼻血はすぐに洗面器を満たしていきます。私の脳裏にある考えがよぎりました。
「このまま鼻血を流し続けたら、出血多量で死んでしまうのではないか?」と。
私は意を決して、洗面器の血を一気に飲み干しました。
そのまま気を失って、気付いたときは病院のベットの上でした。
あれから1年あまりが経過し、鼻血は今でも流れ続けています。
今は24時間体制の輸血だけが私の命を支えています。



これは、私の会社で起こっている出来事です。
私の会社は、コンピューター関係の仕事をしており、
忙しいときになると残業が次の日の朝まで続く事もあります。
夜中に残業していると、不思議な事もあるものです。
深夜1時を過ぎると、パソコンのキーボードをもの凄い速さで叩く音がするのです。
『カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ・・・』
残業中は、自分の仕事に手一杯で、人の事などかまっていられません。
キーボードを叩く音など珍しいわけもなく、誰も不思議に思いませんでした。
ところが、私の同僚であるNが、一人きりで残業していたとき、
やはりその音はしたのです。
「誰か他に残っていたのかな?」
まわりを見渡しますが、特にそのような気配はありませんでした。
耳を澄まして、音の大きくなる方向へ行ってみる事にしました。
その音は、2つ先の課から響いていました。
部屋の中は電気が消され、一台のパソコンだけから明かりが漏れていました。
Nが近づくと、「あ・・」と声を詰まらせました。
パソコンの前には、髪を振り乱し、真っ白い顔をした女が、
全ての指から血を噴き出してキーボードを叩いていたのです。
Nはそのまま気を失いました。
明け方の4時頃、Nは目を覚ましました。
そこに女の姿はなく、キーボードに血もついていません。
「幻覚でも見ちゃったかな・・」
Nがパソコンの電源を切ろうとしたとき、画面にとある言葉が何度も何度も羅列されていました。
Nからその言葉を聞いた3人の人間は、ことごとく死んでしまいました。
どうやら、私は4人目になりそうです。
その前に、その言葉を伝えておきます。
は・・に・・
(編集者により自主規制)



みなさんは自殺を考えた事がありますか?
もし今貴方がそれをお考えでしたら、考えを改める事です。
それでもどうしようもないのなら、なるべく苦しまずに死ねる方法を探して下さい。
私は中小企業の社長をしていました。
バブルの頃はやり手の若社長とおだてられ、様々な事業に手を染めましたが、
不況とともに周りから人が離れていき、残ったのは巨額の借金のみでした。
どうしようもなくなり、私は自殺を考えました。
車を山奥へ飛ばして、発見されにくそうな雑木林を選びました。
静かに社会のしがらみを捨てたかったのです。
枝振りの良い木を探して、そこに雑貨屋で買ってきたばかりのロープを掛けました。
同じく雑貨屋で買った脚立に登り、ゆっくりロープで作った輪に首を掛けました。
ガタガタと震える両足で脚立を後ろへ蹴り転がすと、
それまで脚立で支えられていた全体重が私の首に圧し掛かりました。
私は足をバタつかせてもがきました。
頭がガンガンと響き渡り、顔がみるみる膨張していくのがわかりました。
苦しい!苦しい!苦しい!
眼球が飛び出し、私の視界は無くなりました。
そして何かが破裂したような衝撃が走り、目、耳、鼻、瞼から血が吹き上がりました。
しかしです。しかし、それでも私は死ぬ事が出来なかったのです。
いえ、私はすでに死んでいたのかも知れません。
しかし、私に圧し掛かった『苦しさ』は一向に和らぐ事はありません。
むしろ時間がたてばたつほど苦しみは増していきます。
今、私の死体は、誰にも発見されないまま、木に吊るされて腐りかかっています。
自分の体が腐っていく痛みがわかりますか?
私が自殺を試みてからすでに半年以上経過していますが、
この痛みには未だに慣れません。



こんにちは、インターネットカフェでこのメールを書いています。
皆さんは幽霊とかって見えないものだと思ってませんか?
私が見た幽霊は見えるんです。もしあれが幽霊ならば・・ですが。
会社の同僚Aと何の事はない雑談の中で共通の友人Bが話題にあがりました。
「最近どうしてるかな?」といった話から、「最近彼女が出来たらしいぜ」といった話まで出ました。
それじゃ今度3人で会おうか、という話に発展し、さっそく電話をかけました。
するとBは明るい声で「彼女も呼ぶからうちまで来いよ」と言いました。
私とAはBの彼女に興味があったのでさっそくBのうちに出向きました。
Bのマンションに入ったとき、背筋がゾクッとしたのを覚えていますが、
そのときは気のせいだと思ってしまったのです。
Bのウチのベルを鳴らしました。
中から「開いてるから入って来いよ」と声がかかります。
Aと顔を合わせてガチャっと扉を開けたとき、私とAは体が硬直しました。
Bの座るベットの右奥。ちょうど部屋の角になっているところに女が立っていたのです。
白いワンピースを着て、肩までの髪はボサボサ。肌はカサカサにひび割れていました。
「おい、B。その人・・」
指さしたその先の女は、顔を上げて私を見ました。
その目を見て確信しました。この世の者ではないと。その顔には眼球が無かったのですから。
「B!B!」
硬直している私達は必至でBを呼びました。
「何言ってるんだよ、俺の彼女だよ。」
顔を上げたBの顔にも眼球はありませんでした。
私とAは悲鳴すら上げられず走り出しました。
「おい、見たか。」
「見た。」
「何だあれ。」
「わかんねーよ。」
とにかくお互い今日の事は忘れようと言い合ってその日は別れました。
次の日、そしてその次の日。Aは会社にやってきませんでした。
3日目です。Aから会いたいと連絡がありました。
駅前の喫茶店で待ち合わせをすると、Aが新聞を片手に入ってきました。
「さっそくだけど、この記事を読んでみてくれよ。」
Aの示す記事を読んでギョッとしました。
それはBの死亡記事でした。死因は心臓マヒ。
たった一人で、あのマンションの一室で、一人呼吸を止めていたそうです。
Aは運ばれてきたホットコーヒーを口に運ぼうとしますが、手が震えてなかなか飲めないようでした。
「それだけじゃ・・ないんだ。」
「え?」と私はAの顔を確認しました。
「いただろ、Bのところにいたあの女さ。」
私は黙ってBの話を聞いていました。
「あの女な・・今・・俺の家に・・いるんだよ・・」
「まさか・・」
「信じてくれなくてもいいさ。とにかくもうあの家に帰れない。俺は逃げる。」
それからAには会っていません。
Aは行方不明になってしまったのです。
きっとどこかで死んでいるに違いありません。
なぜかって?
だって私の家には、私の部屋の角になっているところには、あの女が立っているのですから。



皆さんにも『あの頃が一番良かった』という時期があるでしょう?
私の場合は、中学時代がそうでした。
沢山の友達に囲まれて毎日笑顔が絶える事はありませんでした。
あれから10年以上の月日が経ちました。
仕事に追われる毎日、ギスギスした人間関係。
あの頃にもう一度帰れたら…。そんな事ばかりを考えていました。
そんなとき、あるアイデアが浮かびました。
そうだ、同窓会をやろう。
それから私は準備にかかりました。
「中学時代のクラス全員に集まって欲しい」それだけを願い、
住所がわからなくなっていたクラスメートもなんとか探し出しました。
会場のセッティング、招待状の配布、全て私一人が行いました。
大変でしたが、もう一度あの頃に戻れると思えばまったく苦ではありませんでした。
こうして同窓会は無事に行われたのです。
集まったみんなも私と同じ気持ちだったのかも知れません。
「あの頃は良かった」「中学時代は楽しかった」などと口々にこぼして笑顔を浮かべていたのです。
みんなの笑い声や表情を見ているうちに、最後に残っていた私の罪悪感も吹き飛びました。
もう迷う必要は無いのです。
同窓会も終わり、みんなはそれぞれに名残りを惜しみながら帰路に着きました。
中には涙を浮かべながら私の手を握り締めて何度もお礼を言う奴までいました。
…。
だんだん、このメールを書くのが億劫になってきました。
手や足の先が痺れてきたのです。
今日の料理や飲み物に混ぜた即効性のない劇薬が体にまわり始めたようです…。
今頃はみんなの体にも同じような反応が出始めているはずです。
これで私達は永遠にあの頃のままでいられます。
ずーーーーーーーーーーーーーーっと。
ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
−−−−




こんにちは。僕は24歳になる会社員です。
同窓会という程の規模ではなく、中学時代に仲の良かった友達5人が久しぶりに集まろうという事になりました。
色気の無い男ばかりの集まりでしたが、それなりに盛り上がりました。
アルコールも進み、時間も刻々と過ぎていましたが、昔の話は尽きる事がありません。
友人の一人が言い出しました。
「昔好きだった女子の名前を紙に書いて見せあおうぜ!」
みんな照れつつもその場のノリでそのゲームは行われました。
一斉に出した紙に5人は一喜一憂しました。
意外な名前を書いたヤツ、同じ名前を書いた二人、実はその後付き合っていた事が発覚したヤツ。
しかし、僕の出した紙には反応がありません。
友人の一人が僕の紙を手に取って言いました。
「山村・・・多加子?・・・そんな女子いたっけ?」
友人は他の3人に疑問を投げかけますが、誰一人答える者はいません。
僕は必死になって山村多加子の事を説明しました。
「ほら!おかっぱ頭でクリッとした目をしててさ!いつも窓際の席で外を見ててさ!」
いくら彼女の事を言っても誰一人ピンと来ていません。
「お前、名前間違えてんじゃね〜の?」
友人がちゃかすように僕の書いた紙をヒラヒラさせました。
僕はムッとしました。
自分の好きだった女子が、存在しなかったかのように言われるのは自分自身が否定されたようにも思えたからです。
こうなったら引っ込みがつきません。
家に帰ると、押し入れを掘り起こし始めました。
中学時代の卒業アルバムを探すためです。
卒業アルバムならば、彼女の写真や名前も証拠として残っているはずですから。
ダンボールの奥の方から出てきた卒業アルバム。
僕は名簿の中から山村多加子の名前を捜します。

浜口・・・
福田・・・
増山・・・
三津谷・・・
森岡・・・
吉田・・・

無い!何度リストを追っても“山村”の文字がありません。
好きだった女子の名前を間違えて記憶しているなんて事があるのでしょうか?
次に女子の写真を目で追います。ですが、僕の記憶に鮮明に焼き付いている山村多加子の顔はそこにはありませんでした。
彼女に似ている女子さえいないのです。
僕の頭がどうかしてしまったのでしょうか?
いるはずのない山村多加子という女子の記憶が、僕の頭には鮮明に記憶されているのです。
山村多加子は一体どこに行ってしまったのでしょうか?
『・・・居たよ・・・』
え?
混乱した僕の脳裏に女性の声が唐突に聞こえてきました。
『お前のそばに・・・ずーーーっと居たよ』
僕が気配を感じて顔を右へ向けると、僕の顔のわずか数センチ前に青白い顔をしたおかっぱ頭の女の子がいました。
充血した赤い目が僕の顔をジッと睨み、ひび割れた唇がニヤリと吊り上ると黄色い歯がそこから見えました。
僕はそのまま気を失いました。
その一瞬の出来事でも僕はわかりました。あれは山村多加子でした。
彼女は一体何者なのでしょうか?
そして今も彼女は僕の近くに居るのでしょうか?



家で夕飯を食べた後の事です。
テレビを見ながら妻と雑談をしていたわけですよ。
今日の出来事やテレビでやっていたニュースのこと、まあたわいも無い事です。
食器を洗いながら僕の話を聞いていた妻は、「うん」「そうなの」「それで?」と相槌を打っていたんです。
ところがある瞬間から、妻が僕の話に相槌を打たなくなった事に気付きました。
え?と台所の方に目をやると、そこには誰もいません。
それどころか、食べた後の食器はいまだ僕が肘をついているテーブルに雑然と置かれたままです。
そのとき、風呂場の方から水を流す音が聞こえました。
なんだ、あいついつの間にか風呂に入っていたのか。
話してる途中だったのに無粋なヤツだな。
やがてシャワーからの水音が聞こえてきます。
僕がテレビの方へ目を戻そうとして、妻の写真と目が合いました。
その写真に線香の煙が絡んでいます。
そうだ。僕の妻は1年前に交通事故で死んだんだった。
じゃあ、今風呂に入っているのは…誰だ?
まだシャワーの水音が響き続けています…。



俺の友達に売れない漫画化がいたんだ。
そいつ、マイナーなホラー漫画雑誌に連載持っててさ、
殺人鬼の女が刃物で次々と人を殺していく猟奇殺人モノの作品を描いてたんだよね。
ところがホラー雑誌の発行部数が伸びなくて、廃刊になってしまったんだ。
連載を続行させる他誌も無くて、その漫画も未完に終わっちゃった。
それからしばらくして、その漫画にそっくりな猟奇殺人が起きた。
警察は“漫画の内容をマネした犯行”という見解で捜査を進めてきたんだけどね。
未完に終わるまでの内容をなぞってきた犯人だけど、その後も被害者は後を絶たなかった。
俺は嫌な予感がして久しぶりにその友達のもとを訪ねたんだよね。
そうしたら奥さんが出てきて、そいつがもう何年も前に胸の病で死んでしまっていた事を教えてくれたのさ。
ショックだったんだろうね。あいつの仕事場もそのままに残してあった。
そこで妙なものを見つけちまった。
あいつの机の上に放り出された原稿。
あの未完に終わった作品の続きが描かれていたのさ。
そしてその内容は、その後あの事件の犯人が起こしてきた事とまったく一緒だった。
俺は怖くなって逃げるようにその家を後にした。
車で離れる俺を、あいつ奥さんがずっと見つめているのをバックミラーで確認してゾッとした。
なぜかって?
その漫画の結末に明かされる殺人鬼の正体は、その奥さんにそっくりだったから。
そして最後に殺される犠牲者は俺だったから。



私は数年前までごくごく平凡なOLでした。
その日私は給湯室の当番でした。
朝、当番のOLは上司にお茶をいれて机へと運ぶ事になっています。
私とそりが合わないA部長にもお茶を持っていかなければなりません。
A部長は私を目のかたきにしてみんなの前で怒鳴るんです。
あまりに酷い事を大声で言うので女子トイレで泣いてしまった事もあります。
そんな事を思い出していると急に悔しさが込み上げてきたのです。
おもむろにバケツに入っていた雑巾を手に取ると、A部長の飲むであろうお茶の中にその絞り汁を入れてやりました。
それをA部長のもとへと運ぶと、私の存在など目に入らないとばかりにA部長は無言でお茶を手に取り口へと運びました。
私はすぐに給湯室に戻り、こらえていた笑いを洩らしました。
それから数日後、A部長は会社を休むようになりました。
聞いた話によると、体中に湿疹ができ、寝込んでいるとの事なのです。
まさか!と思いました。
あのお茶が原因なのでしょうか?
そして最悪な結末を迎えました。
A部長は帰らぬ人となったのです。
雑巾の絞り汁から出たバイ菌によって苦しめられたA部長は、
アレルギー反応によるショックで心臓麻痺を起こしたのです。
私は信じられませんでした。
ほんの小さな復讐のつもりだったのです。
雑巾の事だって、先輩OLがやっていたという話を聞いてマネただけなのです。
やがて私のもとに警察が事情聴取にやってきました。
私のかわいいイタズラは、殺人事件として大きなものに膨れ上がりました。
週刊誌には“殺人OL”という言葉が躍りました。
私の顔写真も大きく扱われていました。

それから5年の刑期を終え出所しました。
顔の知れている私を雇ってくれる仕事はありませんでした。
最終的に辿り着いたのは、繁華街の裏手にある風俗店でした。
毎晩、毎晩、私は見知らぬ男に抱かれ続けました。

そんな仕事も長くは続きませんでした。
私の体中に醜い湿疹が出来てしまったからです。
血液検査の結果は陽性でした。



とあるサイトの掲示板で仲良くなったA子さんと会う事になりました。
携帯のメールアドレスを交換し、どこに行こうか?何を食べようか?といった事をやりとりし、当日になりました。
待ち合わせ場所に行くと、すでにA子さんはそこにいました。
「A子さんですか?」
「はい、あなたはBさんですよね」
A子さんは目のクリッとしたかわいらしい女性でした。
僕たちは意気投合し、それから何度も会いました。
そして2ヵ月後、僕達は同棲を始めていました。すでに結婚の話を出ています。
そんなある日、彼女が食事の準備をしているとき、僕の携帯にメールが来ました。

Bさん、お久しぶりです。A子です。
しばらく海外に行っていたのでメール出来なくてすみません。
今、東京に戻っているので一度お会いできませんか?

ギョッとしてキッチンの方へ顔を向けると、
見知らぬ老婆が包丁を研いでいました…。



僕は普通のサラリーマンですが、とある資格を取って独立を考えていました。
週末になると図書館にノートPCを持参して閉館までずっと勉強をしていたのです。
週末になるとそういった静かな場所を求めてやってくる人達でいっぱいになります。
僕の座る席は決まっていました。
桜の木が見える窓際の机です。
どんなに混んでいる日でも、僕がいくときはいつもその席は空いていました。
僕はすっかりその席に愛着が沸きました。
何度も通っているうちに図書館のスタッフとも仲良くなりました。
閉館の音楽が鳴り、顔なじみのスタッフへ挨拶するとき、僕はお気に入りの席の事を話しました。
「僕が来るときはいつもあの席が空いているんですよねー。」
するとスタッフの女性はサッと顔色を変えてその席を指さしました。
「え?・・あなたにはあれが見えてないんですか?」



俺の仕事は簡単だ。 名簿に書かれた老人の家に電話して息子を装い、多額の金を振り込ませる。
あいつら半分ボケてるからすぐにだまされる。
さて、今日も一稼ぎするか・・。
「はい、もしもし・・どちら様ですか?」
弱々しい声のババアが出た。これは簡単に仕事が済みそうだ。
「おばあちゃん?俺だよ俺。わかるだろ?」
「え?ヒロシかい?ヒロシなのかい?」
「そうだよヒロシだよ!実は困った事があってね・・」
「本当にヒロシかい・・。そうかい・・。」
「え?」
「よくも電話なんてかけて来られたもんだ。私をこんな体にしたくせに!
私の人生をメチャクチャにしたくせに!あんたへの恨みは1日たりとも忘れた事は無い!
毎日毎日、あんたを呪って呪って呪って、呪い殺し・・」
ガチャン。
額にジットリと汗が滲んだ。
受話器を置いた手が震えていた。
プルルルルルルル・・
同じ電話からコール音が鳴った。
「はい・・もしもし」
「何で切ったぁぁぁぁぁ!!!なんでなんで切ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
金切り声が電話から響いた。
「なんで!」
俺は慌てて電話を切り、電話線を引き抜いて電話をゴミ箱へ捨てた。
すると・・
ドン!ドン!ドン!ドン!
玄関の扉を激しく叩く音。
「呪い殺すぅぅ!!呪い殺すぅぅぅ!!!!」
部屋の中まで響き渡る老婆の声。
やがて鍵は破壊され、開け放たれた扉の向こうには、
両目から血を流した老婆がまさに俺に飛び掛かろうとしていた・・。



とある女子高生が二人で歩いている。
「寿命診断ゲームって知ってる?」「なにそれー?」
話題にあがったゲームアプリをダウンロード。
友人と別れたA子はさっそくゲームを始めた。
「生年月日を教えて下さい。」
「あなたは何人家族ですか?」
「豚肉と牛肉どっちが好き?」
などの質問に次々と答えていく。
そして『寿命測定中・・』の表示。
そして赤い文字で画面に映し出される。
“あなたの寿命はあと15秒です”
「・・え?」
その瞬間、横から突っ込んできたトラックに跳ね飛ばされるA子。
血で真っ赤に染まったスマホの画面でカウントダウンが0になった・・。