ひらり・・・


ひらり・・・



頬に落ちる小さな花



空からこぼれ落ちる小さな白い花


空は灰色で


どこまでも…どこまでも灰色で


なのにこぼれ落ちる白い小さな花は


どこまでも…どこまで白くて…


小さくて…キレイだった。





White snow






「……くぼちゃんっ」


空からこぼれ落ちる花を手に取ろうと伸ばした手を
横から伸びた手に制されて、
伸ばした俺の手はいつの間にか温かなぬくもりで包まれていた。

俺の手を掴んでいる手から視線を動かすとそこには、
印象的な赤いコートの肩が真っ白に染まり…
黒髪もまた雪が積もっていたけれど、一人の少年が雪の上に座り、
俺の腕を自分の胸元に抱きこんでいた。

それはまるで外界の敵から雛鳥を守る親のようにも見えるし、
何かの懺悔のようでもあり…何かの儀式のようにも思えた。

ただじっと、俺の腕を大事そうに抱きこんで
少年はぴくりとも動かない。

そんな少年の上にひらりひらりと舞い降りる白い花。


「……ねぇ、風邪、ひくよ?」


俺は思わずそう声をかけた。
少年は俺の声に肩を少し震わせて、そしてゆっくり顔を上げる。


その刹那、


ゆっくりと、静かに少年の頬を流れる一筋の雫から
俺は目が離せなかった。
大きな黒い目が小さく揺れて、少年は一度ぎゅっと目を瞑ると
それを振り切るかのように空を一度見上げてから俺に向き直る。


「…家、帰ろう?」


俺の手の甲に頬を摺り寄せて、泣き笑いのような笑顔を浮かべた少年が
俺にそう告げた。


「家?」
「そう、俺達の家に帰ろうぜ、くぼちゃん」
「……くぼちゃん?」
「……え?」


先程から何度か呼ばれていたからまさかとは思っていたけれど、
『くぼちゃん』とは俺のことだったみたいで…。
何度も頭の中で「くぼちゃん」を繰り返してみても
やっぱり何も覚えていることはなくて…。
聞き返した俺に少年は抱きこんでいた俺の手をゆっくり離して
俺の目を覗き込んだ。


「…冗談、言ってんじゃねーよな。だとしたら質悪すぎて笑えないぞ、それ」
「ん〜、冗談だったらよかったんだけどね?」
「マジで?」
「……自分の名前、わかんないんだよね。キミは知ってる?」
「………キミ?……俺の、俺のことも…何も?」
「うん。申し訳ないんだケド…」


少年の顔色が一瞬にして白を通り越して蒼くなって


「おっと……」


ふらっと傾いだ体を支えようと腕を差し出した。
上半身だけを起き上がらせた状態で胸元に倒れこんだ少年を抱き止めて
その体が温かさをもって俺の腕の中にいることになぜだか無償に安堵した。


「……これが、俺……なのか……だったら……」
「え?」


額を俺の胸にあてた少年が呟いた言葉が耳を掠める。
聞き取れなくて聞き返した俺に、少年はゆっくりと顔を上げて
さっきとは違う…儚くて今にも消えてしまいそうなのに…
それでも俺の心をえぐるような…とても綺麗な笑顔を向けた。


「俺の名前は時任…時任稔。おまえの名前は『久保田誠人』。
 よろしくな、『くぼちゃん』」


そう言って時任は俺の首に腕を回してぎゅっとしがみついてきた。
首筋に当たる頬に温かい何かが伝う。

それは白い花のぬくもりかそうでないのか…
今の俺にはわかるはずもなかった………。



A to Z?


2005.4.23 水生様



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