一緒になにかしようとか…、どこかに行こうとか…。 そういう約束はしてないようで、意外にたくさんしていたりするのかもしれない。 明日のあさっての…、ずっとずっと先の約束を…。 けど、その約束の中が全部守るなんてことは、できるようでできなかったりして…、約束は破るためにあるなんて言葉がちょっとだけ頭をよぎったりもするけど…、 守れない約束は、しない方がいいってことだけは確かなのかもしれなかった。 『今度の日曜は一緒にでかけることに決定だかんなっ。忘れんなよっ』 先週の日曜日に時任がそう言ったのを思い出したのは、手にひらについた自分の赤い血を見た瞬間で…、 手に持った拳銃からは、白い硝煙が上がっていた。 なんとか危機ってヤツは脱出したみたいだけど、目の前を通ったネコに気を取られた瞬間に、後ろから撃たれた肩から血が流れ出してる。 バイトが終わってマンションに帰る途中だったけど…、ヤクザなんてやってた頃のコトがこんな時に限って蘇ってきて追いかけてきてた。 たぶんそれは当然のコトで…、いつかは撃った弾の数だけ身体に浴びる日がくるんだろうってそんな予感はあったのに…、 一緒にってそう言った時任の言葉を思い出したら…、ほんの少しでもいいから…、時間が欲しいってそう思った。 約束守れなくってゴメンねって…、そう伝えるために…。 一緒にでかけるコトなんて…、いつも一緒にいるから別にたいしたことじゃない。 いつだって一緒にでかけられるし…、どこにだって一緒に行ける。 いつも一緒にいるから、そんな約束なんていつでもできるのに…、 いつの間にか、ベランダの窓にはてるてる坊主が下がってた…。 そのてるてる坊主のイミが…、こんな時になってわかるなんてマヌケすぎて…、 少しだけ笑ったら…、なぜか空から雨が降ってきた。 空を見上げるとパラパラと雨が頬に当たって…、額に当たって…、ゆっくりと濡れた感触が下へと落ちる。 けど、てるてる坊主の下がったベランダのあるマンションで…、時任がなにしてんのかなぁって、そう思ったら冷たいはずの雨があたたかくなって…、 帰ろうって、あの部屋まで帰ろうって…、そう思った。 カラダがすごく重かったけど、約束はたぶん守るためにあるはずだから…、こんな所でのんびりとしてられない。 ゴメンねじゃなくて…、明日はどこに行こうかってそう言いたくなったから…。 このままじっとして流れてく血を眺めてるよりも…、マンションに向って歩きたかった。 雨が降ってて視界は悪いけど…、撃たれた場所は肩だからまだ行ける。 だから行けるとこまでじゃなくて…、時任いる場所に向って前に足を踏み出した。 一緒にいることも、たった一個の約束も…、どうやっても一人じゃ出来ないから…、 路地裏で雨に打たれて一人で冷たくカラダを冷やしていくよりも…、二人で生きることにしがみついて…、 情けなくてみっともなくても…、あがきかった…。 どんな時でも、こんな一瞬でも…、どこまでも一緒に行けるように…、時任に向って手を伸ばしたかった。 それがたとえエゴでしかなくても、血が流れ出していく肩よりも愛しさに焼け付いていく胸の方が痛むから…、 この想いよりも強く…、時任を抱きしめていたかった。 ケータイをかけようとしたけど…、手に力が入らなくてアスファルトの上にすべり落ちて大きな音を立てる。 その音を聞いてたら、こんな血まみれの手じゃ近くにいても手をにぎれないし、抱きしめられないなぁって… そう想ったら…、いきなり視界がグラリと揺らいだ。 「明日はきっと晴れるから…、二人で…」 明日晴れるかどうかなんて、ホントはわからなかった…。 けど、雨上がりの青い青い空の下で笑ってる時任が見えた気がしたから…、きっと晴れるんだろうって…、 雨の降り続く灰色の空の下で想った。 「久保ちゃ…、久保ちゃん…」 聞きなれた声がして…、始めは気のせいかと想ったけどホンモノで…、 次に目を開けた瞬間、まだ雨は降ってたけど…、血まみれの俺の手を時任が握ってくれてた。 だから汚れるから離してって言ったら…、時任は怒ってもっと強く握ってきた。 力の入らなくなってる手を…、ぎゅっと強く…。 その握りしめてくる力の強さを感じるたびに…、それがあたたかく涙のように心を濡らしていくような気がして…、 力の入らない手で…、時任の手を握り返した。 「約束守れなくて…、ゴメンねって言わないつもりだったけど…。やっぱり行けないみたいだから…」 「行けないのは明日だろ…、明日がダメなら次に行けばいいじゃん…」 「・・・・・・そうだね」 「今度はもっと…、てるてる坊主作るからさ…」 「…うん」 「ガキみたいだけど…、指切り…」 「ウソついたら、ちゃんと針飲むから…」 指切りして…、約束して…。 それが守れる保障なんて…、きっとどんな約束にもなくて…。 けど…、ベランダのてるてる坊主が揺れるたびに…、きっと必ずって約束したくなるんだろう…。 こんな風に、瞳に零れ落ちそうな涙を溜めたまま…、笑ってるカオなんかじゃなくて…、 ホントの笑顔を見るために…。 |