朝、目が覚めると…、たいがい頭ん中がぼーっとしてる。 だから、いつも眠っても眠っても寝たりねぇカンジで、このままずっと眠ってんのも悪くないって思う時もあった。 でも、やっぱずっと眠ってんのは時間がもったいない気がして…。 ムリヤリ起きて、床に脱ぎ散らかしたままになってるジーパンをはく。 今日の予定なんかなくっても眠ったまま一日が過ぎたら、たぶんきっと後悔するってそれだけハッキリしてっから…。 寝ぼけたままはいたジーパンはなぜかサイズが大きくて、それをはきながら立ち上がろうとした俺は、すそを踏んで前にこけそうになった。 「うわっ、なんでこんな長げぇんだよっ」 部屋には誰もいなかったのに、照れ隠しにそんな風に言ってみたけど、すそを踏んだワケは簡単で考えるまでもない。寝ぼけてはいたジーパンは俺のじゃなくて…、一緒にベッドで寝てたはずの久保ちゃんのだった。 ウェストはゆるいけどなんとか大丈夫なカンジで、なのに足の長さはぜんっぜん違う。自分の足より長いジーパンを眺めて見たら、なんかムッとした。 背の高さが違うっつっても、なんでここまで足の長さまで違うことねぇのにって…、 そんな風に思いながら、とりあえず歩けるように折り曲げようとして屈み込もうとしたら、ジーパンのすそを踏んでたせいで今度は持ちこたえられずに前に転んだ。 ちょっと腕打って痛かったし、ジーパンのすそ踏んで転ぶのもバカっぽいし、マジでカッコわりぃ…って思ってると、なんか誰かに見られてるようなイヤーなカンジがしてくる。 だから、まさかなってひとり言とか呟きながら誰もいないことを願って、ドアの方を見ると…、 そこには誰かさんの嫌味なくらい長い足が見えた。 「げっ…! い、いつからソコにいたんだよっ」 「さっきから」 「さっきからってドコから…」 「うーん、時任がなんかムズカシイ顔して俺のジーパンはいてるトコからかなぁ…」 「さ、最初っから見てんじゃねぇかっ!!」 ベッドにいなかったからいないって決めつけてたけど、久保ちゃんはドアの前に立ってずっと俺のコト見てたらしい。 くそぉっ、いるならいるって言いやがれっ!! そうココロの中で叫んでみたけど、なんかすっげぇマジでまぬけなトコ見られてハズカシくて、自分の顔が赤くなってくるのがわかった。 久保ちゃんのジーパンはいて、こけた上に顔まで赤いなんて…、 マジで最悪すぎて、まともに久保ちゃんのカオが見れない。 だから、久保ちゃんのカオじゃなくて足ばっかじーっと見てて、そしたらさっきまでカンジてたムカムカが復活してきた。 「なんで、俺様よりも背が高い上に足まで長げぇんだよっ」 「お前よか背が高いのに、足が短かかったらヘンっしょ?」 「ヘンでもなんでも、一個くらい俺が勝ってるトコあったっていいじゃんっ!」 「勝ってるトコねぇ…」 「くそぉっ、明日から毎日牛乳飲みまくってやるっ!!」 「牛乳は今でもj毎日飲んでなかったっけ?」 「うっせぇっ!」 すその長すぎるジーパンを履いたままで、そう言ってリビングに行こうとすると、久保ちゃんの腕が俺のことを捕まえようとする。 だから俺はその腕から逃げて、リビングに向って走った。 長いジーパンのすそを引きずって、またこけそうになりながら…。 そしたら久保ちゃんは、リビングまでしつこく追いかけてきた。 「な、なんで追いかけて来くんだよっ!」 「時任が逃げるから」 「はぁ?」 「ぶかぶかのジーパンはいてるから、ウェストゆるくて腰まで見えてるし、こけるとあぶないから着替えさせてあげようかと思って…」 「着替えくらい自分でできるに決まってんだろっ! なに考えてんだよっ、久保ちゃんのエッチっ!!」 「エッチって言われても、ホントのことだしねぇ…」 「…って、しみじみとつぶやいてんじゃねぇっ!!」 久保ちゃんはソファーのトコに隠れた俺のトコに、上からソファーを乗り越えて捕まえようとする。だから俺はそこからキッチンの方に逃げようとしたけど、ジーパンのせいでうまく走れなくて、こけかけたトコを久保ちゃんに足を捕まえられた。 じたばた暴れると足じゃなくて、ジーパンのすそをつかまれる。 そしたら、ジーパンのウェストがゆるいから、ずるずると下にずれてきてはいてるトランクスが半分くらい見えた。 「うわっ!! マジで離しやがれっ!!」 「ココまで、きてそれはないんでない?」 「こ、ココまでって…、ドコまでだよっ!!」 「うーん…、今、ラブホでカギもらった辺りかなぁ? もちろん部屋番号は401だけど」 「か、勝手にウチをラブホにすんなっ!!」 「時任・・・・・・」 「ぎゃあぁぁぁっ!!!!」 ジーパンをずるずるとずり下ろされて、自由に足が動かせなくて…、絶対絶命の危機ってヤツでマジでやられると思った。だから、叫びながらぎゅっと目を閉じたけど、いつまでたっても久保ちゃんが何かしてくる気配がない。 不思議に思って恐る恐る目を開けて見ると、久保ちゃんが声を出さずに肩を震わせながら笑ってた。 すっげぇ楽しそうに…、俺の上に乗っかったままで…。 「久保ちゃんのバカ〜〜〜っ!!!」 からかわれたコトに気づいた俺は、ジーパンを一気に脱ぎ捨てて足の自由を取り戻すと、久保ちゃんをゲシゲシと蹴りながら反撃した。すると久保ちゃんは笑ったままで、反撃をかわしながら俺を床に押さえつけようとする。 だから、じたばた力いっぱい暴れてベッド行きを阻止した。 けど、時々は反撃を許してキスされながら…、離せっていいながら笑って…、 笑って笑って…、笑いながらそうしてたら…、 いつのまにか攻撃も反撃もキスになってて…、それに気づいてまた笑った。 「うわっ…、ドコさわってんだよっ!」 「そっちこそ、ドコさわってんの?」 「べ、べつにちょっと当たっただけじゃんかっ!」 「時任君のエッチっ」 「エッチなのは久保ちゃんだろっ!」 「じゃ、お互いにエッチってことで…」 「一緒にすんなっ!」 床の上でゴロゴロ転がって…、イタズラするみたいに身体にさわって…、 エッチなんて言いながら、キスどまりで…、 でも、それでもベッドで抱き合ってる時みたいに、なにかでココロの中がいっぱいに埋まっていくような気がした。 久保ちゃんが笑ってて…、俺も笑ってて…。 空は晴れてて天気が良くて何事もなくて…、そういう一日で…。 そんな一日の中にいると、やっぱり眠ってないで起きてて良かったって…、 久保ちゃんにキスしながらスゴク思った。 眠ったままだったら、それだけたぶんこんな風に…、 笑い会える時間が、一緒にいられる時間がなくなるってコトだから…。 もしかしたら朝は…、会いたい人に会うために来るのかもしれないって思った。 短く長くキスしながら…、暖かく触れ合った場所から時を刻む鼓動をカンジて、カンジ合ってて…、 今のこの瞬間を抱きしめるように、久保ちゃんに向って腕を伸ばす。 もしも抱きしめ合った時間が、思い出に変わる時が来たとしても…、両腕を伸ばしたことを後悔なんてしないように…、思いっきり…。 昨日でも明日でもなくて…、今だけをこの瞬間をカンジながら…。 「ホントは、俺の方が負けっぱなしなんだけどね」 「えっ、なに?」 「食料切れてたから、買い出しに行こうって言っただけ」 「なら、早く行こうぜっ」 「もう一回だけ、キスしてからね…」 青く晴れ渡った天気の日も、雨の降り注ぐ灰色の日も…、朝はいつの日も必ずやって来くるけど…、 その日が楽しいことだけ、うれしいことだけ詰め込んだ日じゃない。 でも、君に会える朝がやってきたなら、瞳を閉じてなんていられないから…。 朝が来たら好きだって告白するみたいに、おはようを言いたくなる。 だから今日の日をこの瞬間を、君と一緒に抱きしめよう。 晴れの日も雨の日も…、やがて来る終わりの日も…。 |