ピンポーン…、ピンポーン・・・・。 リビングでゲームしてたら…、突然、玄関のチャイムが鳴る。 けど、チャイムを鳴らしてんのは俺の知り合いでも久保ちゃんの知り合いもない…、会ったこともない誰かで…。 それがわかってるからってのもあるかもしんねぇけど、久保ちゃんも俺もウチにいる時は、チャイムが鳴っても玄関に出るのはメンドかった。 出てみても訪問販売とかよくわかんねぇ勧誘とかでロクなことねぇし、やっぱこのままムシってやろうと思ってると…、キッチンから久保ちゃんが俺の方を見る。 なんかいやーな予感をカンジてると、カレー製作中の久保ちゃんはジャガイモをむきながら、俺に玄関に出るように言った。 「しつこく鳴らしてるから、出て見てくんない?」 「・・・・・イヤだ」 「今、手が離せないんだけど?」 「出てもどうせ、訪問販売かなにかだってっ」 「けど、出て見ないとわかんないっしょ?」 「出なくても俺にはわかるっ!」 「時任って、超能力持ってたっけ?」 「・・・・き、昨日からっ!!」 「ふぅん…」 超能力なんか持った覚えはねぇけど、ゲームのコントローラーをカチャカチャいわせながらそう言うと、久保ちゃんは切った野菜をなべに入れかけてやめた。 チャイムがまだしつこく鳴ってて、だからカレーを作るのを中断して、そのまま玄関に行くのかって思ってたけど…、 久保ちゃんは立ち止まって、ゲームを止めないでいる俺の方を見た。 「じゃあさ、チャイム鳴らしてるのが誰なのか、どっちが当たってるか賭けしない?」 「か、賭けってなに賭けるんだよっ?」 「うーん、負けた方が勝った方の言うことなんでも聞くとか?」 「・・・・・・どうせ、またなにかたくらんでんだろっ」 「そんな風に見える?」 「見えるっ!」 「そんな力一杯言わなくても、ねぇ?」 久保ちゃんはそう言うと、一人で玄関に向った。 だから、誰が来たかって賭けはナシってことになりそうだったけど…、 久保ちゃんが玄関に行くのを見てるとなんとなく誰が来たのか気になって、俺はやりかけのゲームのコントローラーを床に投げた。 「俺は訪問販売に賭けるかんなっ」 「あれ、賭けはしないんじゃなかったっけ?」 「誰もしねぇなんて言ってねぇだろっ」 「じゃ、なに賭ける?」 「う〜…」 「負けた方が隠してるコト一つ話すってのはどう?」 「隠しごとって…、俺はべつに…」 「なら、やめる?」 「・・・・・・やっぱやるっ」 「それじゃ、俺は宅急便ね」 俺は訪問販売で、久保ちゃんは宅急便に賭けたけど、留守番してる時にチャイムが鳴る時はたいがいが訪問販売…。ココで久保ちゃんと暮らし初めた頃は、久保ちゃんじゃなくて訪問販売でも玄関には出てたけど…、 でもそれはべつにチャイムが鳴ったからじゃなくて…、久保ちゃんが帰ってきたのかって勘違いしたせいだった…。 べつに待ってなんかないのに…、チャイムの音が気になってて…。 その頃のことを思い出したら、少しだけ気分がすぐ目の前にある久保ちゃんの背中が遠くなった気がした。 だからその距離を埋めるために…、思いっきり目の前に背中に飛びつく。 そしたら久保ちゃんは少し前に倒れそうになったけど、ちゃんと二人分の体重を支えてくれた。 しょうがないなぁってカンジで、少し笑いながら…。 さすがにあきらめたのか、チャイムはもう鳴り止んでて賭けはやっぱりダメになってたけど…、俺はなんとなくもうちょっとだけこうしてたくて…、笑ってる久保ちゃんの声を聞いてたくて…、 後ろから首に腕を回して、背中にしがみついたままだった。 「結局、誰だったかわかんなかったから、賭けはナシな?」 「確かにチャイムは止んだけど、ちゃんと賭けは成立するよ?」 「はぁ? なんで?」 「証拠品あるから、俺の勝ち」 久保ちゃんはそう言うと、郵便受けに入ってた俺の前に宅急便の不在票を差し出す。その紙はホンモノで、ちゃんと宅急便を運んできた運転手の名前と連絡先が書いてあった。 俺はそれを見た瞬間に背中から離れて、逃げ出そうとしたけど…、 リビングに逃げ込む前に、久保ちゃんに腕をつかまれた。 「まさか、隠しゴトはないって言うつもりじゃないよねぇ?」 「うっ…」 負けるつもりなかったから、なにを言うかは考えてなかった。 久保ちゃんに隠しゴトなんか…、したことねぇし…。 けど、それでも賭けに乗ったのは、久保ちゃんの隠しゴトがなんなのか知りたいような気がしたからだった。俺の知らないコトがあってもおかしくねぇけど…、隠しゴトがぜんぜん気にならないってワケじゃない。 でもそれは、たぶん聞きたいようで聞きたくないことなのかもしれなかった…。 久保ちゃんの隠しゴトは聞けなくなったけど…、俺の隠しゴトは約束だから言わなきゃならない…。だから俺はうつむいて廊下をじっと見つめながら、久保ちゃんにしてた唯一の隠しゴトを告白した。 「い、一回しか言ってやらねぇから、良く聞いとけよっ」 「はいはい」 「あのさ…」 「うん?」 「俺は、久保ちゃんのコトが好きなんだ…」 俺が思い切って隠しゴトを言うと、久保ちゃんは少しだけ驚いたカオしたけど…、すぐに珍しく声を立てて笑い始める。 せっかく約束守って言ったのに笑われてムッとして足をガシッと蹴ると…、久保ちゃんはゴメンってあやまりながらキスしてきた。 でも笑ってるからゴメンって言われても、あやまられた気がしない。 だからもう一回ガツッと蹴ると、久保ちゃんは微笑みながら俺の頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。 「俺も時任が好きだよ…、いつも隠してないケドね?」 俺のは隠しゴトで…、久保ちゃんのはそうじゃなくて…。けど、隠しゴトもそうじゃないコトも…、唇に吸い込まれてそれ以上は言葉にならなかった。 さっきまでしてたゲームはまだ電源切ってなかったけど…、俺は久保ちゃんとリビングに戻らずにベッドのある部屋のドアを開ける。 でもその瞬間に…、久保ちゃんが持ってた宅急便の不在票が見えた。 「・・・・・・なぁ、久保ちゃん」 「なに?」 「その不在票…、日にちが昨日になってねぇか?」 「だぁねぇ」 「…って、始めから気づいてただろっ!!」 「どうだったかなぁ…」 「とぼけんなっ!!!」 結局、不在票がニセモノだとわかって、久保ちゃんにガツガツッと蹴りを入れて、でもやっぱりリビングには戻らなかった…。ベッドのある部屋に入った時、また玄関のチャイムが鳴ったのが聞こえたけど、今度はもう久保ちゃんも出ようとはしない。 チャイムを聞きながらお互いに顔を見合わせて…、それから笑って…。 二人分の体重で…、ベッドをギシギシと軋ませる。 チャイムの音はただいまの合図だから…、 俺がおかえりって言いながらあのドアを開けるのは、これまでもこれからも…、 この世で、たった一人きりなのかもしれない。 |