なんとなく、薄ぼんやりと辺りが明るいことに気づいて目を開けると…、見えてきたのはいつも寝てるベッドのある部屋じゃなくてリビングだった。 かろうじて身体に毛布はかかってるけど、やっばり朝はまだ少し寒い。 眠くてもベッドまで移動すれば良かったかなぁってなんとなく思いながら、俺はカーペットの上で少しだけ寝返りを打った。 すると目の前に、俺と同じ毛布にくるまって眠ってる時任のカオが見えて…。 その気持ち良さそうに眠ってるカオをみたら、もう少し毛布を自分の方に引っ張ろうと思ってたけどできなくなった。 だから毛布の代わりにゆっくりと暖かい身体を、腕の中に引き寄せると…、 時任はちょっとだけ唸って身じろぎした後、また静かな寝息を立てて眠りに落ちていった。俺の服を右手で掴んで…、穏やかに微笑みながら…。 そんな風に微笑んでくれてる所を見ると、たぶん今日はうなされるような夢は見ていないのかもしれない。 だから右手を握らずに…、軽く時任の髪を撫でた…。 瞳を開けてこっちを見てくれないのはちょっとさみしいけど…、朝焼けの空がゆっくりと穏やかに明るくなっていくように…、 抱きしめた暖かさの中に、まだゆっくりとまどろんでいたかったから…。 時任を寝息を聞きながら少し視線を左に向けると、そこには散らばってるゲームソフトと…、転がってるコントローラーが目に入る。 それを見てからやっと、昨日ゲームを二人でしてたことを思い出した。 いつものように俺の全勝だったから…、時任がふて腐れてたことを…。 『ぜってぇっ、勝ってやるっ!!』 『そのセリフ何回目?』 『うるせぇっ!』 『いい加減あきらめたら?』 『嫌だっ』 『いい加減、もう寝ない?』 『もっかいだけっ!』 『・・・・・・そのセリフも何回目だったっけ?』 もう寝たいなぁって思ってても、時任がやる気になってる内は逃げられない。 少し手加減して負ければいいんだろうけど…、時任はそういうのが嫌いで敏感だからできなかった。 けどホンキで逃げようと思えば逃げられるってコトも、少し強く言えばちゃんと時任がゲームのコントローラーを床に置くこともホントはわかってる。 だからたぶん…、逃げられないんじゃなくて、逃げたくないのが…、 ムッとしながらも楽しそうな時任を、見てたかったのが本当かもしれない…。 そんなのはいつものことで…、今日だって二人でゲームするんだろうけど…、 『おいっ、寝るなよ久保ちゃんっ。二人でなきゃ、対戦はできねぇだろっ』って、そんな風に言われると、こんな風に朝焼けの差し込む部屋で時任を抱きしめてる今と同じように…、 いつもと変わりないなんでもない時間でも、手放したくない気がした。 ただ二人でベッドでまどろんでるだけの日も…、銃声の鳴り響く路地を走っている時も…、いらない時間なんてどこにもない。 時任がそばにいるようになって、ヒマな時間もタイクツな日もなくなったから…。 目覚めていても眠っていても…、 そして夕焼けを眺めていても…、朝焼けの空を見つめていても…、 抱きしめていたい日々と時間だけが、この部屋の中にあった。 二人きりのこの部屋の中に…。 今日も赤く明けていく空をカーテン越しにカンジながら、時任の額にキスすると…、 時任は寝言みたいな声で…、俺のコトを呼んでくれる…。 だからその声を聞きながら再び目を閉じると、空は朝焼けで明るくなってきてるのに…、まだ夜の暗がりがそこにある気がした。 確かにカンジた覚えのある暗がりと、刺すように冷たい感触が…。 その暗がりは少し前まで気づかなかったけど…、確かに確実にそこにあった。 手の届く場所に…。 けど俺はその暗がりの方じゃなくて…、時任の右手の方に手探りで探すようにして自分の手を伸ばした…。 そして指をからめるようにして手をつなぐと、時任も強く手を握り返してくれる。 するとつなぎ合った手のひらと、指先からカンジられる暖かさだけが鮮明になった。 「・・・・久保ちゃん」 「うん…」 「まだ眠…」 「起きなくていいよ…、朝焼けが消えても…」 「・・・・・・…」 「だから…、このままずっと・・・・・・・」 赤く空を染めている朝焼けと…、明けていく今日の日と…。 抱きしめ合ってる腕と、にぎりしめてる手のひら…、そしてからみ合った指先…。 穏やかに穏やかに過ぎていく時間の中で…、身体も心も朝焼けの暖かな色に染まっていく…。 まるで胸の奥の想いが…、朝焼けの赤に滲んでいくように…。 その想いをなくしたくないから…、暖かさと鼓動が何よりも大切だから…、 この腕に閉じ込めるようにきつく抱きしめてしまいそうになるけど…、 今だけは…、せめて朝焼けが消えるまでは優しく抱きしめていたかった。 |