「ねぇ…、気持ちいい?」 いつも久保ちゃんはベッドの上で、そんな風に俺に聞いてくる。 もう何度も何度も…、そういうコトしてて…、 いつの間にか、何回したかなんて数え切れなくなったのに…。 なのに、俺のカオをのぞき込みながら気持ちいいかって聞く。 だからなんでいちいち聞くんだって…、そう怒鳴ったら…。 久保ちゃんは…、気持ち良くないとするイミないからって言った。 二人でベッドで抱きしめ合うことが、気持ちいいってそれはウソじゃない。 始めは抵抗あったけど…、すればちゃんと気持ち良くなる…。 でも気持ち良くないとする意味ないって、そう久保ちゃんが言ったの聞いた瞬間…、 俺はなんとなく胸の奥が苦しくなった気がして、上にのっかって来てる久保ちゃんの背中を思い切り叩いた。 「痛いしっ、苦しいしっ!ぜんっぜんっ!! 気持ち良くないっ!!」 「・・・・・・・・」 「…って、俺が言ったらイミねぇからやめんのか?」 「気持ち良くならないなら、しょうがないっしょ?」 「へぇ…、そうかよ…」 「うん」 「だったら、もう絶対にさせてやんねぇかんなっ!!」 俺はそう怒鳴ると、久保ちゃんの腹にマジ蹴りを入れる。 そしたら久保ちゃんは、俺の蹴りをまともに食らって少しだけうめいた。 けど、あやまってなんかやらない。 気持ち良くするためだけに…、気持ち良くなるためだけにするなら…、 きっとオトコとやるより、オンナの方がいいに決まってんのに…。 なのに、俺が久保ちゃんに抱かれてんのは…、欲望を吐き出して気持ち良くなりたいからってだけじゃない。 気持ち良くなりたいのは身体だけじゃなくて、ココロも気持ち良くなりたかった…。 抱かれるコトも…、好きだって想うコトも…。 気持ちいいだけじゃなくて…、痛くてたまんない時もあるけど…、 それでも…、久保ちゃんにしか抱かれたくない。 どんなに相性悪くて…、最悪な抱きしめ合い方しかできなくても…。 「キモチ良くなりたいなら、どっかのオンナとやればいいじゃんっ! その方が久保ちゃんもすっげぇキモチ良くなれるだろっ!」 「・・・・・・時任」 「俺も久保ちゃんじゃなくて、どっかのオンナとやって気持ち良くなってやるっ!」 「ホンキで言ってるの?」 「ホンキに決まってんだろっ、バーカッ!!!!」 時任は俺に向かってそう怒鳴ると、なにも着ないで裸のまま部屋から出ていこうとする。だから、とっさに腕をつかんで引き止めたけど…、なんで時任が怒ってるのかぜんぜんわからなかった。 時任を抱くようになってから、もう回数なんてわからないくらいしたけど…。 やっぱり気持ち良くないと、こういうのはするイミがない気がした。 時任がそばにいると抱きたいって思うし…、いつも触れてたいとも思ってる。 抱きしめることも、キスすることも…、気持ちいいから…。 けどそれは相手が時任だからカンジてることで、他の誰かを抱きたいと思ったことはなかった。赤い唇を見てキスしたくなるのも…、細い首筋を見て抱きたくなることも…。 でも俺に抱かれてくれてる時任のことは、抱いていてもわからない。 身体の反応でわかることもあるけど…、それは身体だけ…。 時任は気持ち良くなりたいなら、どこかのオンナとするって言ったけど、それはホントのことだった。 俺に抱かれてくれてるけど、時任はやっぱり性別はオトコだから…、オンナの子とやりたいって思うコトがあるかもしれない。だから時任が気持ち良くなれるようにって、いつの間にか意識するようになってた。 時任の身体を、俺の身体に繋ぎ止めるために…。 ココロがダメなら身体だけでもなんて、時任が聞いたら怒るだろうけど…。 変わるかもしれないココロよりも、身体の方が繋ぎ止めやすい気がしてた。 だから気持ち良くなければ…、イミがない。 時任を繋ぎ止められないならイミなんかなくなって…、ただ欲望のままに、壊れた想いのままに抱くことしかできなくなる。 痛くて苦しくて、最悪で最低な抱き方しか…。 けど、そんな抱き方しかできなくなっても、時任を逃がしてやれない。 他のオンナと抱き合って、気持ち良さそうなカオしてる時任を想像すらしたくない。 だからどっかのオンナとやるって言った時任を、俺はベッドの上に引き倒して押さえつけた。 他のオンナとやる気も起きないくらい、めちゃくちゃに壊してやるつもりで…。 なのに、さっきまで散々貪り合ってた唇に噛みつくようにキスしたのは…、俺じゃなくて時任だった。 「・・・・・・とき」 「しゃべんなっ… 黙れっ!!」 「・・・・・んっ」 「これから思いっきり…、俺のこと抱けよ…」 「時任?」 「痛がっても泣き叫んでも…、やめやがったら…。このままどっかのオンナと寝てやるっ」 「なんで、そんなコト言うの? 痛いだけなら…」 「・・・また、イミねぇとか言うつもりだろっ。けど、痛くても気持ち良くっても…、イミならちゃんとあるっ」 「どこに?」 「イミなんてさ…。相手が久保ちゃんだって、それだけで十分じゃんか…」 気持ちいいことにイミがあるんじゃなくて…、久保ちゃんと抱き合ってることにイミがあるって想ってたい。 身体が先走ったりすることがあったとしても、それは好きだってコトがあるからで…、 だからこんなにキスしたくなって、抱かれて抱きしめたくなる。 好きだから…、大好きだから…。 身体だけ繋ぎ合うなら相手のカオが見えないように目を閉じて…、気持ちいいことだけしてればいいかもしれない。 けど、久保ちゃんと抱きしめ合って身体を繋ぎ合うのは…、そうじゃないから…。 乱暴に俺を抱こうとしてる久保ちゃんのカオを、少しだけ痛みに顔をしかめながら見上げた。 「んっ…、あっ…」 「苦しくさせるのも痛くさせるのも…、全部俺だから…」 「久保ちゃ…」 「だから、恨みながら憎みながらでもいいから…、俺の方を見ててね」 抱きしめるぬくもりがすべてだと想いたいけど…、抱きしめていないとすぐにそのぬくもりは消えうせて、両腕は残された想いに冷たくなってしまう。 愛しさと紙一重の憎しみと…、気持ちいいコトの裏にある痛みと…。 それが全部、好きの中にはたくさんたくさん詰りすぎていて胸の奥を重く重くさせる。 けど、腕の中のぬくもりもなにもかもを…、一つとして手放せなかった。 「好きだよ…」 その想いがすべてを…、繋ぎ止めているから…。 |