「久保ちゃーん…」 「ん〜?」 「腹へったっ」 「あっそう」 「…って、なんか作ってくんねぇの?」 「まだ、カレーがあったっしょ?」 「・・・・・・・・カビ生えてたぞ」 「うーん…、そういやもう七日目だっけ?」 「わかってんなら言うなっつーのっ!」 なーんにもしなくてもやっぱ人間ってのは腹が減るし…、減ったらなにか喰いたくなる。 けど、だらだらしてる時にメシなんか作る気力ねぇから、棚の中に買い置きしてある即席のカップめんのビニールをバリバリ破いた。 ホントは久保ちゃんがなんか作ってくれるかって、ちょっち期待してたんだけど…、 やっぱ見事に期待ハズレ…。 久保ちゃんは晩メシは作るけど、朝メシと晩メシは作らなかった。 朝はさすがに喰わなきゃ持たねぇから、パン焼いてバターぬって喰ってる。 すっげぇ、メンドくさがりの久保ちゃんが晩メシ作ってること自体が、実は奇跡に近いのかもしんねぇけど…、 たまには、昼にもインスタントじゃねぇもん喰いてぇなぁとか思った。 「ねぇ、時任」 「なんだよっ」 「カップめん…、俺のも作ってくんない?」 「イヤだっ」 「時任君のケチ」 「カップめんくらいでケチとか言うなっ」 「だったら、作ってくれてもいいっしょ? カップめんくらい」 「ううっ…」 久保ちゃんは自分の分だけカップめんを作ろうとしてた俺に、「カップめんくらい」を強調しつつダルそうにそう言った。 確かにカップめんはお湯をそそげばできるから、一つ作っても、二つ作ってもあんまり変わんねぇけど、そういう言い方されるとなんかムカついて作りたくなくなってくる。 でもカップめんくらいで騒ぐのもガキくせぇ気がして…、俺は自分の分ともう一つカップめんを棚から出して作ることにした。 薄いビニールをバリバリ破って…、それからフタを開けて中から薬味とか入ってる袋を出して中にザーッと入れる。 カップめんは、お湯の量さえ間違えなきゃ誰が作っても一緒。 なーんて思いながら作ってたけど…、スープの粉の入った袋を破った時…、 勢い良く破りすぎて、中に入ってた粉が床にバラバラッとこぼれた。 「げっ…!!」 「どしたの?」 「な、なんでもねぇよっ」 「叫び声が聞こえた気したけど?」 「気のせいに決まってんだろっ」 「そう?」 久保ちゃんにはそう言って誤魔化したけど、正直言ってヤバイ。 とっさに新しいのを開けようと思ったら、戸棚にはもうカップめんは残ってなかった…。 麺はお湯を注げば柔らかくなるから問題ねぇけど…、味のないスープで喰ってウマイわけねぇよな、やっぱ…。 なのに、俺様の目の前にあるのはフツーのカップめんと味のないカップめん…。 俺様が作ってやったんだからっ、味がなくても文句は言わせねぇっっ!!! なーんてココロの中で叫びつつ、二つのカップめんにポットから線のトコまでお湯を注いだ。 するとフツーのヤツはとんこつの白い色のスープになったけど…、味のないめんのはすこーし微妙に白っぽくなっただけで、 ・・・・・・・・ハッキリ言ってかなりマズそう。 なんかマジで三分後がコワイ気がしたけど、俺は二つのカップめんの上に箸を乗せて久保ちゃんのトコまで持ってった。 「作ってやったんだから、ありがたく思えよっ」 「はいはい、ありがとうゴザイマース」 「ココロがこもってないっ」 「・・・・・・ありがとね、時任」 「み、耳元で囁くなぁぁっ!!!」 「せっかくココロを込めて言ったのに、ねぇ?」 「フツーに言えっ、フツーにっ!!」 久保ちゃんと二人で目の前のカップめん眺めながら、そんなカンジで話しながら三分になるのを待ってた…。 でも、やっぱ久保ちゃんの前にあるヤツが、かなり気になる…。味のないカップめんを久保ちゃんの前に置いたのは俺だけど、なんかもやもやっとした気分でスッキリしない。 これがイヤなら自分で作りやがれってカンジだけど、ミスったのは俺だしなぁとか思ったりして…、三分が近づいてくるとちょっとドキドキしてきた。 久保ちゃんは三分くらいになると、カップの上にあるハシを取ってフタを開けようとする。 けど、俺はその瞬間…、久保ちゃんの前からカップめんを奪い取って…、 強引に自分の前にあったヤツを、久保ちゃんの前に置いた。 「それって、俺のじゃなかったの?」 「ちょ、ちょっと手違いっ」 「どっちも同じヤツなのに?」 「・・・・・まぁな」 「ふーん…」 「な、なんだよっ! 作ってやったのに、なんか文句あんのかっ!」 「文句はないけど…、俺にそっちのくれない?」 「イヤだっ」 「なんで?」 「うっ…」 「いいから、こっちに渡しなさいって」 久保ちゃんはそう言うと、俺の手からマジでカップめんを取ろうとする。 けど、なんとか腕でガードして取られないようにした。 そしたら、久保ちゃんはあきらめたみたいで、飲みモノでも取ろうとしてんのかキッチンの方に行こうとする。 バラバラに落とした粉はふきんで拭いてるから、セーフだと思ったけど…、 キッチンから戻ってきた久保ちゃんは、なぜか飲みモノじゃなくてカップスープの素を持ってきた。 「どうしても食べるなら、コレ入れてから食べなさいね。カップが小さいし、この大きさなら少しはマシになると思うから」 久保ちゃんは俺の前にスープの素を置くと、そう言ってフツーのカップめんのフタを開けて食い始める。それを少し見てから自分のカップめんのフタを開けて、今度はこぼさないように気をつけながら、俺は中にスープの素を入れた。 「結構、スープスパみたいでウマイかも」 「でしょ?」 「・・・・もしかして、最初から知ってたのか?」 「うん」 「…ならさ、もし俺がカップめん取替えなかったらどうしてた?」 「べつにどうもしないけど?」 「ふーん…」 「けど、取り替えてくれたの見たら…、スゴク好きだなぁって思ったけどね」 「げほっ、ごほごほっ!!」 「咳き込むほど急がなくても、麺はのびないっしょ?」 「麺じゃなくて…、く、久保ちゃんがヘンなこと言うからだっ!!」 激しく咳しながら、あのままにしなくて良かったなんて現金なこと思ってたけど…、 カップスープの味のする麺を食べながら…、俺も久保ちゃんと同じこと思ってた。 ・・・・・・スゴク好きだなぁって。 ホントにちょっとのコトで、なんでもないコトなのかもしんねぇけど…、 スープの粉を入れると麺の入ってるカップから伝わってくる熱が、入れる前よりあったかくなった気がした。 好きだなぁって…、そう想ってるキモチみたいに…。 だからまだ真昼間だったげど、俺はハズかしいのをぐっとガマンして…、 この部屋には俺ら以外はいないのに、久保ちゃんの耳にぼそっと言いたいことを呟く。そしたら久保ちゃんは、小さく笑って俺の頭に軽く自分の頭をぶつけた。 「好きだよ…、ホントにスゴクね」 俺が作ったスープ入りのカップめんと…、フツーのカップめんの中身は結局、半分くらい残ったままで、 ・・・・・・・・後で見ると完全に伸びてた。 |