2月22日…、天気は晴れ。 べつになんてことないフツーの日だったはずなんだけど…、朝起きたらテーブルにベーコンエッグが白い皿に入れて置いてあった。 しかもコンビニじゃなくて、ちゃんとキッチンで作ったスープとサラダ付きでっ! 今日は誕生日でもなんでもないし…、バレンタインはこないだすんだし…。 な、なんなんだ一体…。 寝起きに見たまぶしすぎる朝食セットに…、俺は軽くめまいを起こした。 「おはよう、時任」 「・・・・・おはよ」 「もうじきパンが焼けるから、先に座って食べてなよ」 「あ、うん…」 久保ちゃんはいつもと変わらないカオして、俺のトーストを焼きながらコーヒーを入れてる。 その様子をじーっと眺めてたけど、少し機嫌がいいような気もするし…、悪いような気もして…。 やっぱなんで久保ちゃんが、立派な朝食セットを作ったのかわかんなかった。 いつもは、てきとーにパン焼いて食ってるだけなのに…。 料理に目覚めたってんなら話はベツだけど、メンドくさがりの久保ちゃんがってのはありえないような気がした。 うまそうな朝メシが食えんのがうれしくても…、ちょっとブキミ。 久保ちゃんがなにかたくらんでそうな気がして、俺は少しうなりながらベーコンエッグをフォークで突き刺した。 「パン焼けたよ」 「ん〜」 「バターとジャム…、どっち?」 「バター…」 「了解」 「・・・・・なぁ、久保ちゃん」 「なに?」 「朝メシ作るの楽しい?」 「いんや」 「・・・・・・・だよな」 「けど時任が食ってるのを見るのは、結構好きかも…」 「はぁ? なんで?」 「ダンナにメシ作ってるツマの心境ってヤツ?」 「ぶうぅぅぅっっっ!!!!」 「きたないなぁ」 「く、く、久保ちゃんがヘンなこと言うからだろっ!!」 「そう? 新婚サンみたいでいいっしょ?」 「誰が新婚さんだっ!!」 きょ、今日の久保ちゃんはヘンだっ、ぜってぇヘンだっ!!! りっぱな朝メシ作ったり…、し、新婚サンみたいにメシ食ってる俺をじーっと見てたり…。 うううっ、ブキミだっっ、どう考えてもブキミすぎるっ!!! それに男同士で新婚サンごっこみたいなことしてんのって、かなり寒いってのっ!! ま、まさか…、何かの仕返しで嫌がらせされてるとか…。 うーん…、とりあえず心当たりはねぇんだけど…、わっかんねぇよなぁ。 久保ちゃんて妙なことで根に持ってたりするし…、けどそれらしいことはなんも思いつかねぇ。 ・・・とかなんとか思いつつ、朝メシ食ってソファーでうなりながら寝転んでると、食器を片付け終えた久保ちゃんがそばに寄ってきた。 だから、なんかちょっと警戒してると、久保ちゃんが隣に座ってきて…。 なぜかゆっくりと俺の頭を撫で始めた。 「…時任」 「な、なに?」 「この前欲しがってたスニーカー、買ってあげよっか?」 「・・・・・・・・」 「どしたの?」 「・・・・・・な、なにたくらんでんだよっ」 「たくらんでるって何が?」 「突然、スニーカー買ってくれるなんておかしすぎるっ!!! ぜってぇっっ、なにかたくらんでんだろっ!!」 「ぜーんぜん」 「ウソだっ!!ウソに決まってるっ!!」 俺がウソだと叫びながら久保ちゃんから逃げようとすると、久保ちゃんは俺を強引に抱きしめて逃がさないようにする。 そして、俺の耳にふーっと息を吹きかけてきた。 だから耳に吹きかけられんのがキライだって知っててやった久保ちゃんを、俺が恨みを込めて睨みつける。すると、久保ちゃんは軽々と嫌がる俺を自分のヒザの上に抱っこした。 「うわぁぁぁっ、離せぇぇっ!!!」 「暴れてないで、あきらめておとなしくしなよ」 「そんなんできるかぁっ!!」 「せっかく可愛がってあげてんのに、ねぇ?」 「可愛がってるってドコがだよっ!」 「朝メシ作ってあげたし、スニーカーも買ってあげるし…、頭も撫でてあげてるけど?」 「あ、朝メシは確かにうまかったけどっ、妙な可愛がり方される覚えはねぇっつーのっ!!」 「なんで? 今日は時任の日でしょ?」 「はぁ? 俺の日ぃぃ??」 「2月22日」 「た、誕生日じゃねぇだろっ!」 「誕生日じゃなくて、にゃんにゃんにゃんの日」 「にゃんにゃんにゃん〜〜っっ!?」 「2月22日はネコの日。だからお前の日ってワケ」 「あ、アホかぁぁっ!!!」 「ネコの日は、ネコをかわいがらなきゃね?」 「誰がネコだっ!! 久保ちゃんのバカ〜〜っ!!」 俺をネコあつかいにした久保ちゃんにムッとしながら、抱っこされたまま強引に頭を撫でられてる。その自分の姿の情けなさに、俺は久保ちゃんに仕返しを誓った。 くっそぉっっ、ぜってぇ仕返してやるっ!! けれど、久保ちゃんに撫でられながらカレンダーを見たけど…。 わんわんわんの日…。 犬の日はとっくの昔に終わっていた・・・・・・。 |