通りすがりの赤の他人が同居人になって・・・・・・。
 それからいつの間にか手をつないで抱きしめあって…、キスして…。
 そんな風になったのは、ちゃんと好きだからってワケを知ってるから不自然でも不思議でもない。
 けど好きなヒトとは、そーいうコトをすごくしたくなるんだって…。
 それがわかったのは始めてキスした時じゃなくて、何度もキスをしたりする後だった。
 ホントは好きだって自覚した後も、べつに何も変わらないってそう思ってて…。
 だから久保ちゃんが一緒に寝ようって言うまで、それほどそういうことをしたいとは思ってなかった。

 「ふっ…、ん…」

 リビングで目を閉じてキスししながら、進入してくる久保ちゃんの舌に自分の舌をからめて応えてたんだけど…、なんかいつもとちょっとカンジが違ってて…。
 だからそれが気になったから、キスの途中でそぉっと目を開けてみることにした。
 けど、キ、キスの途中で目なんか開けたことなかったし…、なんか心臓がバクバクしてて、なかなか目が開けられない。
 久保ちゃんがどんなカオしてキスしてんのかって、それも気になってたけど…。
 俺と久保ちゃんがキスしてる音が聞こえるたびに、ドキドキがひどくなって止まらなかった。
 そうしてる内にもういいやって気分になったけど…。
 何か紙をめくる音が聞こえた瞬間に、俺はハッとして思わずパチッと目を開いた。

 「・・・・・んっ、んんっ!!」

 キスの途中で目を開けて見た、紙をめくる音の正体。
 それは久保ちゃんが俺とキスをしながら、左手で新聞をめくって読む音だった。
 それを見た瞬間、頭の中の血管がブチッと音を立てる。
 そして次の瞬間には、俺は久保ちゃんの頭をガツッと殴ってた。
 
 「ふ、ふ、ふざけんなぁぁぁっ!!!」
 「痛…っ!」
 「俺様とキスしておきながらっ、新聞なんか読んでんじゃねぇよっ!!」
 「あれ、バレちゃった?」
 「バレるに決まってんだろっ!!」
 
 新聞読みながらキスされて…、すっげぇムカムカしてイライラして…。
 殴っただけじゃ気がすまなくて腹に蹴り入れたら、久保ちゃんは軽々とその蹴りをかわす。
 それにさらにムカついて、こういう時くらい素直に蹴られやがれ!!…って思いながら、もう一回久保ちゃんを蹴ろうとすると、今度はその足を捕まえられた。
 
 「ちくしょうっ、離せっ!!!」
 「なにそんなに怒ってんの?」
 「・・・・・・・・・」
 「時任?」

 なんで怒ってんのかって聞いてくる久保ちゃんのカオを、思い切りぶん殴ってやりたかった。ドキドキしてた分だけスゴクくやしくて…、スゴク哀しかったから…、もうキスなんかしてやるもんかってそう言いながら…。
 久保ちゃんとキスしたかったからしてたのに…、新聞読んでる片手間でキスされてたなんて、マヌケすぎて泣けてきそうになる。
 キスする時は目を開けるなって言うけど…、それが相手のウソが見えるからってそういう意味かもしれなかった。
 俺はもう片方の足で久保ちゃんの手を蹴ってつかまれてた足を取り戻すと、これ以上、ココにはいたくなかったから寝室に行こうとする。
 けど久保ちゃんの腕がしつこく抱きしめてきて、俺はそうすることができなかった。

 「逃げないで、いいワケくらい聞いてくんない?」
 「・・・・・・・嫌だ」
 「どうしても?」
 「・・・・・・・わかってるからもういいっ」
 「わかってるって何が?」
 「俺とキスなんかしたくないんだろっ、だからもういいっつってんだっ!!」
 「・・・・・・何もわかってないよ、ぜんぜん」
 「ふ…っんっ…、な、なにすん・・・・・」
 
 久保ちゃんは俺をソファーに押さえつけると、強引にキスしてきた。
 さっきみたいなゆっくりなキスじゃないから、すぐに息が上がってきて苦しくなる。
 苦しいって言いたくて背中を叩いても、久保ちゃんは腕を離してくれなかった。
 長い長いキスには終わりがなくて…、ホンキのキスに目眩がする。
 心の中で嫌だ嫌だって言いながら、俺はいつの間にか久保ちゃんの背中に腕を回していた。
 今度は何も見えないように、ぎゅっと目を閉じたまま…。
 そうしてキスしてるとしばらくして、久保ちゃんが小さく音を立てて唇を離した。

 「・・・・・時任」
 「な、なに…?」
 「俺の今日の予定知ってるよね?」
 「えっ? 今日の予定ってなんかあったっけ?」
 「昨日の夜、バイトがあるからって言ったっしょ?」
 「あっ・・・・・・」
 「思い出してくれた?」
 「うっ…、まぁ…」
 「キスしかけて来てくれるのはうれしいんだけど、俺の場合はキスだけじゃ終わらないんだよねぇ?」
 「そ、そんなの俺が知るかっ」
 「せっかく新聞読んで気をまぎらわせてたのに、バイトに行く努力をしてるけなげな俺を誰かさんが殴るし」
 「うっ…」
 「責任取って欲しいんだけど?」
 「せ、責任って…、バイトはどうすんだよっ」
 「・・・・・・・お休み」
 
 行くはずだったバイトを休みに決定すると、久保ちゃんは俺の服に手を入れて脱がしにかかった。始めはちょっと抵抗してたけど…、最後には腕に引っかかってたトレーナーを自分から脱ぐ。
 ホントはキスだけじゃ終わらないのは久保ちゃんだけじゃなくて…、それは俺も同じだった。
 たぶんこういうのって、ケダモノじみてるって言うのかもしんないけど…。
 キスは始まりの合図だから…、おざなりなキスならしたくない。
 それにホンキじゃない好きなんか言われたくないから、ホンキじゃないキスもしたくなかった。

 「こんど…、あんなキス…したら…」
 「別れる?」
 「どこにも…いけないように…、ベッドに繋いでやる…」
 「・・・・・・時任」
 「あっ…、んぅっ…」

 「繋いだりしなくても、もうずっと前から繋がれてるよ…。ベッドじゃなくて、時任の右手にだけどね…」

 おざなりな言葉、片手間のキス…、欲望だけの身体のつながり…。
 キスの途中で目を開けて見えるのは、もしかしたらそんなモノなのかもしれない。
 けど、反射的に目を閉じてキスしても…、それはそういうのを見たくないからなんじゃなくて、目を閉じていた方がキスが温かく感じられるから…。
 だから見ないフリをするんじゃなくて、たくさんたくさん温かいキスをするために目を閉じてキスしたい。
 大好きな君とホンキで本当のキスだけを…。

                            『瞳を閉じて』 2003.2.8更新

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