探しモノってのは探してる時には見つからないのに、探してない時には簡単に見つかったりすっから、すっげぇ不思議だったりするけど…。 今日の探しモノはマジで、たったニ、三日前にどこかで見た気がした。 なんとなく…、久保ちゃんが使ってたような…、使ってなかったような…。 記憶ははっきりとはしてなかったけど、部屋ん中のどこかにあったのは確かだった。 「さっきから探してんのに、なんでねぇんだよ…」 ブツブツ言いながらリビングを探してたけど、目当てのモノは見つからない。 探すっつっても場所は限られてっから、一通り見て回ったら探す場所がなくなった。 けど、久保ちゃんは時々妙なところにモノを置いたりすっから…、もしかしてと思ってリビングからベッドのある部屋の方に移動する。 そしてリビングでしてたみたいに、探しモノをし始めたけど…。 なくとなく、パソコンが置いてある机の引き出しが気になった。 「もしかして、こん中に突っ込んで入れたりして…」 こないだから久保ちゃんがパソコンの前に座ってたのを思い出して、念のために引き出しも調べることにする。 そして引き出しを開けて見たら、探してるモノじゃないモノが出てきた。 それはちょっとだけ古そうな写真で…、学校の制服着た中学生くらいのヤツらがきっちり並んで写ってる。集合写真みたいだから一人一人の顔は小さかったけど、指でそれをたどっていったら、知ってる顔を一つだけ見つけた。 「うわ〜…、信じらんねぇ……」 写真に写ってるそいつのことは良く知ってるはずなのに、俺が知ってるのよりもコドモで背がかなり低かった。どことなくメンドそうな顔してんのは相変わらずだったけど…、ちょっとだけ今とは雰囲気が違う。 たぶんそこに写ってることが、全部、俺の知らないことばかりだから…、そんな風に感じてるのかもしれねぇけど…。 どこがどう違うのかは説明できないのに…、 じっと写真を眺めてるとそう思った。 「・・・・とりあえず戻しといた方がいいよな、やっぱ」 べつに見たからって、後ろめたいって気持ちもなかったのにそう言ったのは…。 本人のいない時にこういう写真を見るのが、隠れてコソコソしてるみたいであまり気分が良くなかったからだった。 生きてきた時間よりも、一緒にいた時間が短いから…。 知らないことがたくさんあるのは当たり前で…、たぶん俺にも写ってる俺の知らない久保ちゃんのように、久保ちゃんの知らない俺がいるんだと思う。 振り返らないと見えない場所に…、立ってる俺が…。 けど、振り返らないと見えない場所だけを知ってて、今立ってる場所を知らないよりも…、その逆の方が絶対に何十倍も…、何百倍、何千倍も…、ずっとずっといいから…。 俺は写真を元の場所に入れて、引き出しを閉めようとした。 「こんなトコで、なにやってんの?」 「・・・・・・・・うわぁっ!!!」 「そんなに驚いた?」 「い、いつから後ろに立ってたんだよっ」 「ついさっき」 「・・・・・・・あ、あのさ、ちょっち探しモノしてたら出てきたんだ、コレ」 「あぁ、それね。中学ん時の入学式に撮ったヤツ」 「ふぅん…、どうりで若いと思った」 「・・・・・今でも十分若いつもりなんだけど、ねぇ?」 いつの間にかウチに帰って来てた久保ちゃんは、俺の持ってる写真をちょっとだけ眺めてたけど、その頃に何があったとかそういうことは何も言わない。 だから俺もそれ以上は何もいわずに、引き出しに写真をしまった。 色んなモノが入ってグチャグチャな引き出しの中に…。 そしたらきっとずっとアルバムに貼られないままで…、またココに入ってることを忘れちまうんだろうなって気がした。 「そういえばさ、二人で写真とか撮ったことなかったよな…」 「じゃあさ、カメラ買ってこよっか? インスタントだけど…」 「写真撮られるのキライじゃねぇの?」 「そんな風に見える?」 「さっきの写真、メンドそうなカオしてた」 「写真っていうより、入学式がメンドかったのかも?」 「ヒトゴトみたいに言ってんな」 「過ぎてしまえばそんなモンでしょ」 そう言った久保ちゃんにとって、あの写真とか昔の思い出とか…、どんなモノなのかはわからないけど…。 なつかしいって、そんな風に思ってるようなカンジはぜんぜんしなかった。 だからたぶん、アルバムじゃなくて引き出しの中にいれたままで十分なのかもしれない。 どこにあるのかわからなくなっても…、それでいいなら…。 久保ちゃんはカメラを買って来ようかって言ったけど、撮った写真がぐちゃぐちゃの引き出しに入れられるのは嫌だった。 忘れられるしかない写真ならいらないって…。 でも、そんな風に思った瞬間に、久保ちゃんが俺の頭にポンッと手を置した。 「せっかく撮るんだし、カメラと一緒にアルバムも買って来なきゃね」 アルバムを買って来ようって…、二人で撮るんだからって言われて…。 ぐちゃぐちゃの引き出しに入れられるんじゃなんだってわかって、すごくうれしかった。 ちゃんと思い出を…、忘れたくないことを撮ろうとしてくれてるんだって…。 だから、たくさんアルバムが埋まるくらい写真を撮ろうってそう想ったけど…。 俺はなぜか、その言葉に首を横に振ってた。 「俺と一緒じゃ撮りたくない?」 「そういうんじゃねぇけどさ…、なんとなく…」 「なんとなく?」 「撮らない方がいいかもって想ったから…」 「どうして?」 「だってさ、写真なんか撮らなくったって、忘れられることなんか一つもねぇじゃん…」 今、写真を撮ったら中学の時のヤツみたいに、こんな時もあったってカンジの写真が撮れるのかもしれない。けど、目を閉じればいつだって見えるから…、久保ちゃんだけは忘れたりなんかしないから写真は必要なかった。 俺だけにしか見えないアルバムの中に…、もうたくさん貼ってあるから…。 写真の中から微笑みかけてくるんじゃなくて…、腕をこっちに向かって伸ばしてくれてる久保ちゃんの姿が…、その暖かさが…。 誰よりも…、なによりも記憶鮮明に…。 「今から思いっきり笑えっ、写真撮ってやっからっ」 「撮らないんじゃなかったっけ? カメラもないし?」 「カメラじゃなくて記憶すんの」 「記憶って何に?」 「・・・・俺の中に」 良く写真があるから忘れられないなんていうけど…。 そんな風に写真があるからって…、そういうワケで覚えてたとしたら…。 きっとその記憶を忘れてない意味なんか、ないんじゃないかって気がする。 だから、写真を燃やせばなくなるようなキオクなんて…、そんなものはいらないから…。 二人で写った写真を、アルバムには貼りたくなかった。 大切なモノ、大切なキオク…、大切な人のカオ…。 たとえそれがハッキリと思い出せなかったとしても…、ココロの中に残る想いは胸の中で写真よりも鮮明で…、色鮮やかで…。 忘れられないんじゃなくて、忘れたくない忘れる必要のないモノだから…。 両手で作ったファインダーの中に…、たくさんたくさんの君の笑顔を撮ろう。 君に向かって…、微笑み返しながら…。 |