| マンションからコンビニまでの距離はホント短いけど…。 冬になるとそんな距離でもやっぱり寒い。 だから寒いのが嫌いな時任は、マンションを出てからコンビニまでに寒いと何回も連呼してた。 何回言っても無駄だってわかってても、寒いとなくとなく言いたくなるらしい。 時任が寒いって言うのをずっと聞いてたら、そう言えば夏もクーラーかけてる部屋で暑いって言ってたなぁ…なんて思い出した。 そしたら季節が移って月日が過ぎても…、変わらない今がなぜか見えた気がして、ちょっとだけホッとしてる自分に気づく。 けど、そんな風に変わらないことを確認するのは始めてじゃなくて…。 いつもそんな自分に気づくたび、俺は時任の横で気づかれないように苦笑してた。 「そんなに寒いなら、ウチにいれば？」 「寒くっても、欲しいモンがあるから買いに来てんじゃんっ」 「なにが欲しいのか言ってくれたら、買って来てあげるけど？」 「べつにいいっ」 「なんで？」 「見なきゃわかんねぇし…」 「欲しいモノなのに？」 「見てから欲しいモン決めんのっ」 「あっそ」 昨日も寒かったけど、今日もやっぱ寒い。 外に出ると空気がひんやりとしてて、マフラーとかしてても顔が冷たくなってきた。 ほんのちょっとの距離のコンビニまででも、寒いもんは寒いっ…とか思いながら、寒いって連呼してみる。何回言っても寒いのは仕方ねぇしどうにもなんないってわかってっけど、言った方がマシになる気がするからフシギだった。 それに暑いときには暑い、寒い時には寒いって言ってんのが自然だし…。 なんて思ってると、横から久保ちゃんが寒いならウチにいればって言ってくる。 だから買いたかったマガジンとかなくなりかけてるハミガキ粉とかを思い浮かべたけど…、やっぱ一人でウチで留守番したいとは思わなかった。 「あっ、それはやめろってっ…、それはぜってぇマズイっ」 「新発売だし、食べてみなきゃウマイかマズイかなんてわかんないっしょ？」 「食べてみなくても見ただけで、食う気しねぇくらいマズそうじゃんっ」 「そんなコトないと思うケド？」 「この不気味な色見て、なんとも思わねぇのか？」 「べつに？」 「うわっ、信じらんねぇっ！ 二袋も入れやがったっ！」 「せっかくだから、一緒に試食」 「ヤダ」 「そーいうお前こそ、なにチョコばっかカゴに入れてんの？」 「冬はチョコがうめぇんっだよっ」 「また、虫歯になっても知らないよ？」 「うっ…、ちゃんと歯をみがけばなんねぇだろ…」 「虫歯になったら一人で行きなね？ 歯医者サン」 「久保ちゃ〜んっ」 「ほい、ハミガキ粉」 「・・・・・・・やっぱ、ちょっと減らしてくる」 「そう？」 コンビニで一つのカゴに二人分の買いたいモノを詰め込んでいくと、すぐにカゴは一杯になった。 だから見たカンジでざっと中身を計算したけど、今日は予算をオーバーしていない。 このままレジに行っても平気そうだから下に置いたカゴを持とうとすると、同じようにしようとした時任の手の方が少し早くて、偶然、その上に俺の手が重なった。 そしたら、時任の手が少しだけ震えて冷たいって怒鳴られる。 あまり気にしたことないけど、確かに時任の手より俺の手の方がいつも冷たかった。 その原因は時任の体温が高いって言うよりも、たぶん俺の体温が低いせいだろう。 俺が乗せてる手をどけると、時任は一人で二人分の買い物を持ってレジに行った。 「いらっしゃいませっ」 時任が会計を済ませるのを待つ間、ちょっとだけ自分の手を眺めてみたけど、見た目もやっぱりあまり温かそうには見えなかった。 自分の手から窓から見える寒い外に視線を移しながら、冬は冷たいって言われたけど、夏は暑いって言われたっけ…なんてまたそんなことを思い出して…。 夏暑くて冬寒いって…、もしかしてサイアクかもって思ったりする。 手が暖かいとか冷たいとか、体温が低いとか高いとか、そういうのは体質なんだろうケド…。 手が冷たいヒトはココロがあったかいって…、どこかで聞いたコトのあるそんな言葉がウソだってことだけは確かだった。 「なんでそんなに手が冷たいんだよっ」 「さぁ、なんでかなぁ？」 「マンションから出て少ししかたってねぇし、コンビニだってあったかかったのに」 「もしかして、俺って変温ドウブツなのかも？」 「へんおんドウブツって何だよ？」 「ヘビとかトカゲとか爬虫類みたいなヤツのコト」 「げっ…」 「体温調節能力ゼロ」 「それってサイアクじゃん」 「冬眠でもしようかなぁ」 「するなっつーのっ」 冬になると久保ちゃんの手にさわると、冷たくなってることが多い。 さっきもすっげぇ冷たくてちょっとビックリしたけど…、俺の手の上から離れてく久保ちゃんの手を見てたら、冷たいって言わなきゃ良かったって思った。 冷たすぎる久保ちゃんの手は、寒い日にはさわるとゾクゾクッとするくらい冷たくて…。 でもだからって…、冷たいからって手を握るのがイヤだなんて思わない。 にじんでくる汗を手のひらにカンジてても…、夏の日に手をつないでたように…。 冬の冷たさを手のひらをカンジても…、手をつないでたいから…。 つなごうとしてる手があったかいか冷たいかなんて、そんなのは握ってみなきゃわからない。 だから思ってたのと違った体温カンジたら、手を離したくなるのかもしれないけど…。 つないでる手が久保ちゃんの手なら、あったかくても冷たくてもどっちでも良かった。 「さっき冷たいって言ってたのに、なに手ぇつないでんの？」 「いいじゃんべつに…」 「このままつないでると、時任の手まで冷たくなるよ？」 「それでもいい…」 「どして？」 「冷たいなら…、同じ温度になるまで手ぇつないでたらいいだけじゃん…」 冷たいって言いながらつながれた手は…、やっぱり俺の手より温かかった。 まだ冬は本番で…、まだまだ寒い日は続いていくけど…。 同じ温度になるまでつながれてる手が、たぶん手だけじゃなくてココロの温度が下がり過ぎないように止めてくれてた。 それはたぶん今が冬でもどんな季節でも、暑くても寒くても変わらない。 手を握る時にカンジられるのは、皮膚の表面温度じゃないから…。 ただ隣にいてくれる誰かがこうして今もそばにいることを…、少しずつ手のひらが温かくなっていくのと同じようにカンジてたいのかもしれなかった。 「久保ちゃんっ、早くカギ開けろっ」 「はいはい」 「うーっ、寒いっ」 「明日は晴れらしいよ？」 「当たんのか、ソレ」 「さぁ？」 カギを開けるためにつないでた手を離したけど…。 手のひらには握ってた時の感触と、あたたかな体温が手のひらの中に残っていた。 |