夜は眠るためにあるは言うけど…、べつにそれは人それぞれだって気がする。 けど、気持ち良さそうに眠ってる時任の顔をも見るようになってから…、ヒトに眠りは必要なのかもしれないと思うようになった。 不眠症がちで眠れなくてもべつにそれであせったことなんかないし、眠れないなら眠れなければいいだけのコトで…。 だから俺にとっての眠りは、あまり重要じゃなかったのかもしれない。 確かに寝不足は身体が少し重い気がするけど、だからってそれに悩んで病院に行って、安定剤とか睡眠薬もらってまで眠る必要は感じなかったし…。 ずっと起きてればいつかは眠くなるから、ただそうしてればいいだけの話しだった。 「う…ん…」 こうしてる今も時任は俺の隣で眠ってたけど、ウチにあるベッドは時任と一緒に眠るようになっても、やっぱりパイプベッドが一つきりだった。 だからそんな狭いトコに眠ってるせいで、時任はどんなにごそごそと動いて寝返りを打っても、結局、俺にくっついて眠ることしかできない。 そのせいで今日もごそごそと動いて寝やすい場所を探して、無意識の内に俺の腕の中にもぐり込んできてた。 俺の胸に顔をすりつけるようにして…、すーっと安心したみたいに息を吐いて…、それからまた深い眠りに落ち始める。そうすると寝顔は見れなくなるけど、その代わりに時任の柔らかい髪の毛が目の前にあるのが見えた。 だからそれを少し撫でてやってから、そっと身体に腕を伸ばして抱きしめながらそれに頬を寄せてみる。 そしたら、セッタの匂いに混じって時任の匂いもした。 部屋中にセッタの匂いが染み付いてるから、時任からもセッタの匂いはするけど…、その匂いは少し甘い気がする。 でもあまりその匂いを嗅いでいると時任を起こしたくなるから、そのままの姿勢でゆっくりと目を閉じた。 何もかもが溶けあうくらい抱きたい衝動はあっても、こうやって時任の温かさを感じてたいと思う時もある。そういう時はもしかしたら、自分でも気づかない内に眠りたくなってるのかもしれなかった。 「・・・・・・・時任」 「すー…」 「おやすみ…」 「・・・・・・・」 ベッドで時任を抱きしめていられるなら…、もう前に歩き出す必要もないし…、ドコにもいかなくていい。 この腕の中に時任がいるなら、すべてがココにあるから…。 ただ、このベッドの中で眠りだけを貪っていればいいだけなのかもしれない。 だから、もし不眠症がちじゃなかったら…、もしそうだったとしたら…。 こんな風にずっと時任を抱きしめたまま、まるでそのぬくもりに溺れて眠り続けていたかもしれなかった。 「うっ…、く、くるし…」 「・・・・・・」 「くぼ…ちゃ…んっ」 「・・・・・・すぅ…」 今みたいに眠ってるとなんか息が苦しくなって、たまに目が覚めたりする時がある。 けど、そうなってる原因はいっつも一緒に寝てる久保ちゃんだった。 久保ちゃんはぎゅっと俺を抱きしめて、気持ち良さそうに眠ってる。 その腕の力が強すぎてマジで息ぐるしいからバシッと頭を叩いてみたけど、ちょっとうなるだけで久保ちゃんは起きなかった。 くっそぉっ、俺様はぬいぐるみじゃねぇんだっつーのっ! 「ちょっ…、マジで離せってっ」 「・・・・・・・」 「おいっ…」 「・・・・・・・・・」 これだけ言っても起きねぇってのは、なんとなく納得がいかねぇ気がする。 だからタヌキ寝入りしてんのかと思って、ちょっと横腹をくすぐってたけどマジでぜんぜ反応がなかった。 くすぐったら眠ってても起きねぇかフツー…。 なんて思いながら、俺は今の状況から脱出するために、久保ちゃんを蹴飛ばしてやるために足を動かす。 けど…、かすれがちの声が寝言を言ったのを聞いたら蹴飛ばせなくなった。 「とき…と…、ごめん…ね…」 もしかしたら、ゴメンは俺に向かって言ったんじゃなくて…、夢の中の俺に言ったセリフなのかもしれない…。 夢の中で俺にあやまるようなコトでもしたのかと思ったけど…。 なんとなくその言葉が…、少しだけ胸の奥にズキッと響いた。 強く強く抱きしめすぎている腕が…、ゴメンねってあやまってる声が…。 こんなに温かい毛布の中にくるまってるはずなのに、ゆらゆらとココロをゆるがせる。 抱きしめてる強さの分だけ…、なぜか哀しくなっていく気がして…。 俺は蹴飛ばさないかわりに、息が苦しくなるくらい抱きしめてくる久保ちゃんの背中に腕をまわした。 そしてぎゅっと強く抱きしめるんじゃなくて…、苦しくならないようにゆっくりと抱きしめてから、またそのまま眠るために目を閉じる。 すると久保ちゃんの胸から…、石鹸とセッタの匂いがした。 「おやすみ…、久保ちゃん…」 温かい毛布の中とか…、狭いベッドの中じゃなくても…。 ホントはずっとこうして、ぬくもりを抱きしめてたい。 抱きしめてる身体だけじゃなくて、ココロにもぬくもりが伝わるように…。 ぎゅっと抱きしめすぎている腕が、胸を痛くさせないように…。 ただ…、ずっとこうしてたかった。 |