| 自分の鼓動が早くなる瞬間は、ときどきだけど息がつまりそうになる。 けどその早くなった鼓動を…、どきどきを止める方法なんて知らなかった。 どんなにどきどきしたくないって思ってても、胸の奥が早いリズムを刻んでどきどきを伝えてくる。 そのどきどきの理由がなんでかって、それはちゃんと自覚はしてたりするけど…。 なんとなく、こんな風に俺ばっかどきどきしてるのはちょっとくやしかった。 「なにやってんの、時任」 「なんでもねぇから気にすんなっ」 「…って、言われてもねぇ？」 「いいからほっとけよっ」 俺はそう言いつつ10分前くらいから、こうやってテレビ見てる久保ちゃんの手首をつかんで、じーっと時計を眺めながら脈をはかってる。始めは何も言わなかったけど、10分もやってるとさすがに何してんのか気になったみたいだった。 でも俺がすることをジャマする気はなくて、腕を取り返さないでそのままにしてくれてる。 だからトクン、トクンと振動してる鼓動を手首から感じて…、一分間の数を数えて…。 そうしてそのリズムを覚え込んでから、俺はいきなりテレビ見てる久保ちゃんの顔に自分の顔を近づけて…。 冬だから少しだけ乾いたカンジの久保ちゃんの唇にキスした。 軽くするんじゃなくて…、いきなり舌入れて深く音するくらいに…。 そしたらたぶんさっき数えたのより…、少しは鼓動が早くなるかもって思ったからしたんだけど…。 深くキスした瞬間にカンジたのは久保ちゃんのドキドキする鼓動じゃなくて、いつも聞いてる自分のドキドキだった。 「ふぅっ…んっ…」 呼吸する合間に聞こえる音も…、自分の声も…。 何もかもがドキドキする心音に重なって…、遠くから聞こえてくる。 からめた舌を逆にからみとられて…、自分からしたキスだったはずなのに…。 いつの間にか逆に久保ちゃんにキスされてた。 離れようとすると抱きしめられて逃げられなくなって…。 そうしてる内にまだ久保ちゃんが見てる番組は終ってないのに…、俺は電気カーペットの敷かれた床に転がされてた。 「ちょっ、ちょお待てってっ」 「自分から誘っといてそれはないっしょ？」 「べ、べつに誘ってなんかねぇよっ」 「キスしたいって思ったから、してくれたんじゃないの？」 「うっ…、そ、それは…」 「もしかして違う？」 そう言った久保ちゃんの目は、いつもより少しだけ真剣で…。 だからどうしてもその視線に勝てなくて…、床に転がった俺を見下ろしてる久保ちゃんに向かって手を伸ばす。そして久保ちゃんのかけてる眼鏡を外すと、俺はそれをコトンと床の上に置いた。 「俺よか久保ちゃんの方がどきどきしてたら…、ココでやってもいい…」 「どきどきって？」 「心臓の音…」 「だったら問題ないと思うケド？」 「・・・・・・さっきあんましてなかった」 「ふーん、それを確認するために、普段は自分からしないのにキスしてきたってワケね」 「久保ちゃんはどきどきして、なんかおかしくなりそうになんかなったことねぇだろっ」 「あるよ？」 「ウソばっか言うなっ」 「じゃあ証明してあげるから…、ココで俺に抱かれてくんない？」 「なんでそーなんだよっ」 「どきどきが止まらないから、鼓動も衝動も止められないんでしょ？」 そんな風に言った久保ちゃんにもうすでにどきどきさせられてるから、きっといつもみたいに服を脱がされて…、熱くなってく身体を触られキスされて…。 たぶんまたどきどきする鼓動を早く早くさせられながら、むちゃくちゃに乱されるんだって思った。 けど久保ちゃんはそうしないで俺の腕をぐいっと引っ張って、上半身だけ起こさせると正面から向かい合うように前に座る。 そして俺のことを腕で包み込むようにゆっくりと抱き寄せて…、それから唇じゃなくて額にキスした。 「ココでやるって言ったのに、なんでやんねぇの？」 「そう思ったんだけど、やっぱやめにしようかなぁって…」 「なんで？」 「セックスしなくても、キスしなくても…、どきどきしてるって証明したくなったからかも？」 「・・・・・なにもしなかったら、どきどきなんかしねぇだろ？」 「いつもしてるけど？」 「・・・・・・・でもさ」 「さっき計ってたのを言ってるのなら、それはやってもムダ」 「ムダってことはねぇだろっ」 「時任に触れてる時に計ったら、心拍数は上がりっぱなしでしょ？」 「・・・・そんなのアリかよ」 「俺の上がりっぱなしの鼓動を聞かせられるのは、時任だけだから…。だからどきどきしてる鼓動をずっと聞いててよ」 「ずっとって？」 「この鼓動が止まるまで…」 好きじゃないっ、嫌いだっていくら言葉で心の中で叫んでも…、どきどきする鼓動が好きだって…、大好きだって伝えてくる。 だから触れた指先から、抱きしめた腕から伝わる鼓動も…、伝えた鼓動も…。 言葉よりも正確にいつだって胸の奥の想いだけ叫んでた。 どんなにウソを上手くついても…、サヨナラの手紙を書いても…、鼓動だけは本当の想いを刻んでる。 終らない時じゃなくて…、限られた時と一緒に…。 誰よりも愛しい恋しい君に、本当に伝えたいことはきっと言葉にはならないから…。 だから嘘をつくのがヘタな僕の鼓動を…、止まらない想いの心音をずっと聞いててください。 |