風呂に入る前とかに、洗面台の鏡に映った自分の顔を見ることあるけど…。 当たり前に毎日見るからあまり気にしたことなんかない。 俺様の顔だから、いつだってカッコいいに決まってるし…。 でも、さっきから隣りでマジな顔して本読んでる久保ちゃんの顔は、なんでかわかんねぇけど…、突然、気になったりする。 だから今もメガネかけてて、マジな顔してる時も、やっぱ…、その…。 か、カッコいいなぁとか…、そんなバカみたいなこと思いながら、なんとなく隣りの久保ちゃんの顔を見てた。 「どしたの? 俺の顔になんかついてる?」 「べっ、べつにそんなんじゃねぇけど…」 「…けど?」 「うっ…、なにを見てても俺の勝手だろっ」 「それはごもっとも…」 久保ちゃんはそう言うと、やっと本から視線をはずして俺の方を見る。 けど、その時の顔はさっきまでのマジな顔じゃなくて…、微笑んでた…。 目を細めてスゴク優しいカンジで…。 そういう時の久保ちゃんの顔は、なんか正面からまともに見れない。 自分の顔が自然に赤くなってくのがわかるから…。 だから、一番好きな優しく笑ってる久保ちゃんの顔を…、いつも見つめてられなかった。 「顔が赤いよ、時任」 「そ、そんなことねぇよっ!」 「ちゃんとこっち向いて言ってくれない?」 「べっつに向かなくてもいいじゃんっ」 「話をする時は、人の目を見て話すモンでしょ?」 さっきからじーっと見つめて来てたのに…。 こっちから視線を向けたら、時任は赤い顔して視線をそらせた。 プイっと顔を背けて何かにすねてるカンジで…。 そんな時の時任は、いくら視線を合わせようとしても合わせてくれない。 視線をそらされたら、大きなキレイな瞳が見れなくなるから少し残念だった。 だから、時任の頬に手を伸ばして強引にこっちを向かせる。 すると時任の顔がますます赤くなった。 「あっ、ますます真っ赤…」 「ば、バカっ、見んなっ!」 「見るなって言われても困るんだけど?」 「なんでだよっ」 「なんでだと思う?」 「俺に聞くなっ!!」 時任は視線を泳がせながら、俺に見られるのを嫌がってる。 けど、頬にある手を外そうとしてないから、本気でそう思ってるんじゃないってわかった。 だから唇じゃなくて、赤くなってる頬に音を立ててキスしてみる。 そしたら、時任の顔がさっきまでと比べものにならないくらい赤くなった。 面白いからもっともっと…、たくさん額とか鼻とかいろんなトコにキスしたら…、時任はわめきながらじたばたと暴れ出す。 そうしてる内に手を振り払って逃げようとしたから、腕を伸ばして身体を捕まえて抱きしめた。 「は、放せぇっっ!!」 「イヤ」 「だ、だいたいっ、久保ちゃんがヘンなカオして俺のこと見るから悪いんだっ!」 「うーん、ヘンなカオって言われたら、さすがにちょっとショックかも…」 「そ、そういうんじゃなくてっ、いっつも俺のカオ見て笑うから…」 「笑ってる…?」 笑ってるって言われても、笑った覚えなんかなかった。 時任のカオ見てる時の自分のカオを見たことないから、わからないけど…。 もしかたら時任に見惚れちゃって、みっともないカオしてるのかもしれない。 あまりジカクなかったけど、ヘンなカオって言われるのはイヤだなぁって思ってると、時任が真っ赤なカオのままで目をそらさずに真っ直ぐ俺の方を見た。 「く、久保ちゃん…」 「なに?」 「やっぱちょっと訂正するっ」 「訂正?」 「ヘンなカオじゃなくて…、好きなカオだから…。久保ちゃんが笑ってるのっ」 「ホントに?」 「う、ウソでこんなハズいこと言うわけねぇだろっ、バカっ!」 「真っ赤になってる時任のカオは、かわいくて好きだから…」 「かわいいとか言うなっ! 俺様はカッコいいんだっ!」 「うん、カッコよくてかわいくて…、大好きだよ」 大好きだって言われてキスされて…、もっともっと赤くなって…。 カッコわるいから赤くなったのを治したいのに治らない。 久保ちゃんのカオを見てるだけで…、こんなになってんのに…。 触れてる唇から…、抱きしめられてる身体から…、熱がどこまでも急上昇して止まらなかった。 だから手を伸ばして、ぐにっと久保ちゃんの口を手で引っ張って横に伸ばしてみる。 そしたら…、カッコいい顔がかなりマヌケなカオになった。 「ぶっっ!!! ぎゃははははっ!!!!」 「ほひほー…」 「すっげぇっ、カッコいいカオっ!!!!」 「ひゃのへー…」 「はははっ、なにしゃべってんのかわかんねぇよっ! は、腹痛てぇっっ!!」 時任が指でぐいっと引っ張ったまま、俺のカオ見て爆笑してる。 べつに爆笑してる時任もかわいいから…、いいんだけど…。 やっぱ、なんかちょっと痛いしムカツクかなぁなんて思ってたりする。 だから仕返しに時任の口に手を伸ばして、時任が俺にしてるみたいにぐいっと引っ張ってみた。 そしたら時任のカオは、かなりマヌケになった。 けど、それでもかわいいことに変わりはなかったけど…。 「ひゃ、ひゃにふんだひょっ!!」 「ほはへひゃ、ひゃひゅひんへひょ…」 「ひゃなへっっ!!」 「ひょっしひゃ、ひゃひへひょ」 カッコいい俺様の顔を、久保ちゃんがぐにっと引っ張ってる。 だからまともにしゃべれねぇし、引っ張られてるトコがやっぱ痛かった。 マヌケなカオして久保ちゃんと俺は、理解不能なコトバをしゃべってる。 久保ちゃんがマヌケになったみたいに、今の俺様はかなりマヌケなカオしてるに違いなかった。 ううっ、カッコいい俺様の顔が…とか思いつつ、俺と久保ちゃんはせいのってカンジで同時に手を放すことにする。 そうしないと、ずっとこのままになりそうだった。 「へいのーっ」 「へい」 「うううっ、カオが痛い…」 「自業自得ってヤツじゃないの?」 「けど、面白かったから、もうちょっとくらいならやってて良かったかも…」 「ヒトのカオでヒマつぶししないで欲しいなぁ」 「ヒマじゃなくて、どんなカオでも久保ちゃんがカッコいいかどうか実験しただけっ」 「で、結果は?」 「か、カッコ良かった…」 「とか言いながら、カオが笑ってるし…」 「ホントだってっ」 「けど、普段はカッコいいって思ってくれてるってコトで許してあげるよ」 「えっ? なんでそんなことがわかんだよっ。 そ、そんなこと思ってるって一言も言ってねぇじゃんかっ!」 「言ったよ、どんなカオでもって…。 それっていつもはカッコいいっていうことだよねぇ?」 「げっ…!!」 「好きだよ、時任」 「…か、カオが?」 「その存在のすべてが…」 大好きなヒトのカオを見てるのは好きだけど…。 たぶん好きなのはカオだけじゃなくて…、俺の方を見て微笑んでくれる表情で…。 向けてくれる優しい感情で…、見つめてくれてる瞳だって想うから…。 だから見つめてくれてる瞳に…、優しい感情にその微笑みに負けないくらいに…。 大好きなヒトの瞳を見つめて微笑んでいたい…。 胸の奥にある想いも、何もかもがその瞳に伝わるようにいのりながら…。 ただ一人だけを見つめて…。 |