「くぼちゃ〜ん」
 「ん〜?」

 だるい、ねむい、なんもしたくねぇ。
 けど、一人でだらだら寝てんのもなんかイヤ。
 俺は壁に背中あずけて本読んでる久保ちゃんのトコまで、ソファーからずるずる這っていった。
 だって、歩くの面倒じゃんかっ。

 「くぼちゃんってば」
 「…うん」

 いくら呼んでも、俺の方を見てくんない。
 そおんなムズカシイ本読んで、なんか役に立つことあんのかよ?
 どうせなら、料理の本でも読めってのっ!

 あぁ、なんかつまんねぇ…。

 俺はさらに近づいて、久保ちゃんの膝に頭を乗せる。
 そんで、下から本読んでる久保ちゃんの顔を見た。

 あっ、なんか睫毛長い。
 けっこうマジ顔して読んでる。
 ふーん。
 …ちょっとカッコいいかも。
 なーんて。
 
 じっくり下から久保ちゃんの顔を眺めたあと、俺は久保ちゃんの腕の血管を指でなぞった。
 
 久保ちゃんて、細いけど筋肉ついてんだよなぁ。
 俺もこれっくらい筋肉ほしいかも。
 おっ、こんなトコにホクロ発見。

 俺はタイクツしのぎに久保ちゃんの観察を始めた。



 昨日買ってきた本読んでると、時任が俺の膝に頭乗せてきた。
 …結構重いんだけどなぁ。
 けど、俺の顔をじっと見上げてる顔がかわいいから、そのままじっとしててやる。
 そうすると、時任は俺の腕を指でなどり始めた。
 
 なーにやってんだろねぇ。
 楽しそうな顔しちゃってさ。

 などってる指も、乗せられてる頭の感触もちょっとくすぐったい。
 サラサラしてる髪を撫でようして手を伸ばしたら、噛み付かれた。

 「…痛いよ、時任」
 「う〜」
 「もしかして、すねてるの?」
 
 手に軽く時任の歯型がつく。
 一応、手加減して噛んでくれたみたいだなぁ。
 俺が歯型眺めてると、今度は腕に小さな痛みが走った。

 「時任…」

 今度は腕に噛み付かれた。
 噛み付き癖はなかったはずだけどなぁ。
 俺が時任の顔を見ると、時任はさっきと同じように楽しそうな顔してた。

 そっちがその気なら…。

 俺は屈み込んで、時任の首筋にいきなり噛み付いた。

 「い、いたっ」

 時任が小さな声で痛みを訴える。
 けどこれは自業自得。
 なんて思ってたんだけど、時任の目じりに涙が滲んでんの見たら気が変わった。

 「痛かった? ごめんね」

 あやまると時任は首を横に振って、俺の手を握った。
 …そおいえばさっきから喋んないよねぇ。
 いつもと違って、時任はなんか気だるそうな顔してた。

 ああ、そっか。

 俺は昨夜のことを思い出した。
 時任が喋るのもだるくてたまらない理由。
 俺は膝枕してる時任の身体を起こしてから、座ってる俺の膝の間にその身体を抱え込んだ。
 
 「眠いならねてかまわないから」

 俺がそう言うと、時任は俺の身体に背中を預けた。



 背中に久保ちゃんの体温感じる。
 あったかくって気持ちいい。
 久保ちゃんの心臓の音がとくんって聞こえる。
 なんかすっごく眠くなってきた。
 
 おやすみ、久保ちゃん。

 起きるまでずっと抱いててくれよな。

 ぎゅっとね。

                            『ぎゅっ』 2002.3.13更新

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