「…俺様のプリンがなくなってる」 「あ〜、ごめんね。 あったからつい…」 「つい…っで、人のモン食うなっ!」 「後で買って来てあげるから」 「…とか言って、買ってきたことねぇじゃんかっ!」 「そうだっけ?」 なーんて事件が二回連続起こったから、俺はもっかい買ってきたプリンに名前を書いた。 でっかくくっきり俺のだってすぐにわかるように…。 プリンは最近コンビで新発売の栗のヤツだけど、二回も久保ちゃんに食われたから俺は一度も食ってなかった。買って来てすぐに食っちまえばいいのかもしんないけど、プリンとかって冬でも一度冷蔵庫に入れないとなんとなくイヤな気がする。 そういうのはたぶん、イヤなんじゃなくて習慣ってヤツなのかもしんねぇけど…。 結局、今日買ってきたプリンも晩メシの後にデザートとして食うことに決めて、名前書いてある部分を前にして冷蔵庫に入れる。 そして俺は冷蔵庫の前で、これだけでっかくくっきりと名前書いてれば、さすがに久保ちゃんも食わねぇだろっと呟いて、うんうんと納得したようにうなづいた。 「名前書いてあるヤツは食うなよっ、俺んだからなっ!」 「はいはい」 「マジで食うなよっ!」 「わかってますって」 久保ちゃんは聞いてるようで聞いてなかったり、聞いてないようで聞いてたりすっから、返事は結構当てになんなかったりする。 けど、ちゃんと久保ちゃんに名前書いたこと言ったし、目立つトコに置いてるし…。 一応、わかってるって言ってたから平気だろうと思ってた。 なのに結局、俺は晩メシを食った後にプリンを食うことが出来なかった。 「あれ、これって新しいヤツ?」 そんな風に俺が呟いたのは、晩メシ食ってテレビ見て、そろそろプリン食おうかなぁって思って冷蔵庫開けたら、俺のプリンの横に別のプリンがあったからだった。 それは栗じゃなくてかぼちゃプリンで…、見たことのない感じのヤツ。 二つを見比べてると栗の味も気になったけど、やっぱかぼちゃの味も気になった。 俺が買った覚えのないヤツだから、久保ちゃんが買ってきたに決まってっけど…。 久保ちゃんが風呂に入ってるのをいいことに、俺はかぼちゃプリンのフタをペリッとめくった。 「どうせコンビニで買ったヤツに決まってっから、明日また買ってくりゃいいだろ」 なーんて誰もいないのにぶつぶつ言いワケしながら、持ってたスプーンでかぼちゃプリンをすくって食べてみる。そしたらかぼちゃプリンは、まったりとしててうまかった。 だから明日は、今食った分と俺の分と二個買って来ることに決める。 そしてうまいプリンを食いながらテレビの前に行こうとしたら、突然、ぬっと背後から不気味な気配が沸いて出た。 「そのプリン…、どこから持ってきたのかなぁ? ねぇ、時任クン」 「・・・・・・・・っ!!!」 「まさか、冷蔵庫からじゃないよねぇ?」 「い、い、いつの間に風呂から上がったんだよっ!」 「さっきだけど?」 「ふ、ふーん…」 「…って、なに逃げてんの?」 「べ、べつに逃げてねぇよ…」 「手に持ってるプリンって、俺のだよねぇ?」 「…気のせいだろ」 「気のせいじゃないよ。プリンのカップの底見てくれる?」 「なんで、底なんか見るんだよ?」 「いいからさ」 そう久保ちゃんに言われて食べてたプリンの底を見た瞬間、俺はピシッと凍りついた。 こぼさないように気をつけてカップの底を見ると、そこには俺がしてたみたいに『久保田』って久保ちゃんの名前が書いてある。 名前が書いてある以上、俺が買ってきたヤツだとか…、気づかない内に食っちまったんじゃねぇのかとか…、そういう誤魔化しが効かなくなった。 「・・・・・・つ、ついあったから食っちまった」 「ふーん…」 「明日、ちゃんと同じの買ってくるからさ」 「なーんて言って、買ってきたためしあったっけ?」 「うっ…」 「名前書いてたのに食べるなんて、ヒドイなぁ」 「…っていうかっ、名前書くなら目立つトコに書けっ!!」 「名前なんてなくても、俺のだってわかってて食ったっしょ?」 「それなら昨日、久保ちゃんも同じコトしてんじゃんっ!」 「じゃ、おあいこってコトで栗プリンは没収〜」 「なにすんだよっ、俺様の栗プリンを返せっ!!」 「かぼちゃプリン返してくれたらね?」 「…半分じゃダメ?」 「ダメ」 「久保ちゃんのケチっ!」 久保ちゃんは俺の栗プリンを没収すると、ペリッとフタをめくって食べ始めた。 それ見てると、かぼちゃより栗の方がうまそうなカンジする。 確かにかぼちゃもうまかったけど、栗は食ったことないし…。 目の前でうまそうに食われっと、すっげぇどんな味なのか気になってしょうがない。 だから俺は、そおっと久保ちゃんの横からスプーンを伸ばした。 けどスプーンがプリンに届く前に、久保ちゃんが俺の方を見る。 久保ちゃんは俺よか背ぇ高いし、やっぱ気づかれずにプリンを横取りするのはムリだった。 「…人のプリンになにしようとしてんの?」 「べ、べつになにもしてねぇって…」 「そんなに、このプリン食いたい?」 「…うん」 「じゃあさ、口開けて?」 「はぁ?」 「ほら、開けないとプリンが下に落ちるよ?」 「えっ、あ…」 久保ちゃんがプリンをスプーンですくって俺の前まで持ってきて…、口を開けるように言う。 こんなコドモみたいなハズカシイ真似したくねぇけど、落ちるともったいねぇから口を開ける。 そしたら口の中に、ちゃんと栗の味のするプリンが入ってきた。 かぼちゃもうまかったけど、やっぱ栗もうまい…。 そのうまさを味わってると、久保ちゃんがまたスプーンを俺の前まで持ってきた。 「俺ばっか食ってると、久保ちゃんのがなくなるじゃんかっ」 「そう思うんだったら、そっちのかぼちゃの残り食わせてくんない?」 「食わせるって、俺が?」 「イヤ?」 「イヤっていうよか…」 「なに?」 「…な、なんでもねぇよっ」 めちゃくちゃハズカシイことしてる気ぃしたけど、自分ばっか食ってんのはなんだし…。 仕方ねぇから久保ちゃんの前に、かぼちゃプリンをすくったスプーンを持ってった。 そしたら久保ちゃんが、俺のスプーンからプリンをぱくっと食べる。 スプーンを持ったまま俺がなんとなくプリン食ってる久保ちゃん見てると、久保ちゃんはそんな俺を見てちょっと笑ったみたいに見えた。 「カオが赤いよ、時任」 「く、久保ちゃんが妙なことさせっからだろっ」 「プリン食べさせるくらい、べつになんでもないと思うケド?」 「フツーやんねぇじゃんっ」 「そう?」 「そうだよっ」 「いいじゃないべつに…、好きでやってるんだし」 「す、好きでって…」 「ほら、口開けないとキスするよ?」 「えっ、うわっ…、開けるから待てっ!」 なんて言いながら、久保ちゃんはマジでキスして来ようとする。 口元が笑ってっからジョウダンかもしんねぇけど…、開けなかったらマジでされてたかも…。 な、なんなんだよっ、一体っ!! そ、それにっ、フツーは男同士がプリンの食べさせ合いなんかしねぇっつーのっ! お、男同士とかじゃなくても、やらねぇかもしんねぇけどさ…。 なんて考えてっとますますハズカシクなってきて、自分の顔がすっげぇ赤くなってんのがわかる。 なのに久保ちゃんはそれでも不気味なくらい優しく微笑みながら、平気で俺にスプーンを差し出してプリンを食べさせてて…。 だからそれをやめさせるためにハズカシイからもういいって言いたいんだけど、いつもよりももっと優しく微笑んでくれてる久保ちゃん見てるとなぜかどうしてもやめろって言えない。 そんなカンジで久保ちゃんに食べさせたり、食べさせてもらったりしてたら、背中がゾクゾクっとしてかゆくなってきた。 プリンはうまいけど…、これ以上はマジで限界だっつーのっ!!! 「く、久保ちゃんっ」 「ん?」 「ゴメンナサイっ」 「…って何が?」 「前に久保ちゃんが買って来てた新商品のケーキとシュークリーム…、お、俺が食ったっ」 「ふーん…、他には?」 「他にもある気ぃすっけど、覚えてねぇかも…」 「なのに誰かさんは栗プリンくらいで文句言うし、反省の色ないし」 「ううっ…、ちょっとは反省してるって」 「今度やったら、本格的にバカップルごっこするよ?」 「げっ、やっぱマジでワザとやってたんだなっ!」 「やりたいなら、今からでも続きやったげるけど?」 「遠慮しとくっ!!!」 「・・・・・残念だなぁ」 「残念がってんじゃねぇよっ!!」 そんな感じで次の日、俺と久保ちゃんは一緒にコンビニに買い物に行った。 二人分のプリンを買いに…。 けど、そん時に久保ちゃんが俺の手を捕まえて握ってくる。 バカップルごっこの続きかと思ったけど、手が温かかったから何も言わないでいた。 そしたら久保ちゃんがちょっと俺の方に屈みこんできて、頬に軽く柔らかい何かが当たる。 それが何かなんてのは考えるまでもなかった。 「な、なにすんだよっ!」 「まあまあ」 「なにがまあまあ…っだよっ!」 ・・・・・・考えたくねぇけど、俺らってマジでバカップルだったりして? なんてのは…、き、気のせいだよな…。 |