洗濯をするためにバスルームに行くと、風呂から上がった時任が着替えをしてた。 もう裸なんて見慣れちゃってるのに、時任はそういう時以外は見られるのを嫌がるから、ちょっとバスタオルとか投げて来るのに備えたけど。 今日はチラッと俺の方を見ただけで、おとなしくトランクスとジーパンを履いた。 けど、顔の方はいつもみたいにやっぱり赤くなってたから、たぶん騒いだらまたからかわれるとか思ったからなのかもしれない。 反応してくれないのはちょっと寂しい気がしたけど、こうやって明るい場所で時任の身体を見るのも新鮮だった。 「…ジロジロ見んなよっ」 「見ても減るモンじゃないし?」 「見たら減るっ」 「・・・・・どこが?」 「なっ…、どこ触ってんだよっ」 「ん〜、背中」 「バカっ、くすぐってぇだろっ」 バカとかエロオヤジって言われながら、時任の背中を手のひらで触ってると…。 背中から出てる肩甲骨が少し奇妙に見えた。 時任が腕を動かすたびに肩甲骨が動くと、まるでべつのイキモノのようにも見える。 下から背骨にそって手をすべらせると、手のひらは肩甲骨に当たった。 ホクロ一つない綺麗な背中にある肩甲骨を触ると、時任の身体がビクッと反応する。 少しだけ前かがみになった身体を後ろから抱きしめると、時任の体温が頬に温かかった。 「もうっ、いい加減にしろってのっ」 「そんなにくすぐったい?」 「さっきからそう言ってんだろっ」 「ねぇ、時任…」 「な、なんだよ」 「肩甲骨は背中に羽がついてた時の名残りだって話…、信じる?」 「そんなのわかんねぇよ。羽がついてんのって鳥しか見たことねぇし…」 「確かにそうだけどね」 「けど、空飛べるってんなら、ちょっとついててもいいかも」 「ここらヘンに?」 「く、久保ちゃん…」 「羽が生えてくる、おまじない」 「…んなのっ、生えてくるわきゃねぇだろっ」 時任の羽がつく当たりにキスしても、当たり前だけど羽なんか生えてこない。 けど時任に羽が生えてたら、たぶん真っ白で…。 汚れなんて一つもないキレイな羽のような気がした。 羽のついてない肩甲骨はどこか不自然だから…、羽がついているのがホントなのかもしれない。 「もし生えてきても飛べない羽だったら、いらない?」 「飛べないなら羽じゃねぇだろ。羽があるなら飛ぶっきゃねぇよっ」 「落ちるかもよ?」 「飛べるか飛べないかってのは、飛んでみなきゃわかんねぇじゃんっ」 飛ぼうとして足を踏み出すことができるから…。 もし背中に羽があったら、時任はたぶんホントに飛んでしまうんだろう。 高いビルの屋上の地上と空の境界線を越えて…。 けど、たとえ時任が飛べたとしても、ビルの屋上で白い羽を無残に毟って…。 今みたいに羽のなくなった肩甲骨を、俺は醜いエゴに浸りながら撫でているのかもしれなかった。 「せっかく着てないんだから、このまま移動しない?」 「着れなくしたのは久保ちゃんだろっ」 「だから、責任取ろうかなぁって」 「取らなくていいっ!」 「そう言わないでさ」 「…最初っから、そういうつもりだっただろっ」 「さぁ?」 飛ぼうとしている君の目の前で…。 青い空と地上との境界線にカーテンを引く手を、どうか拒まないでください。 |