「それじゃ、行ってくるから…」
 「ん〜」

 なんか冬っぽい寒い日、俺はコンビニに買い物に行くって言った久保ちゃんにヒラヒラ手を振り終わった後、あったかいカーペットの上でゴロゴロしながら目の前に置いてる菓子を食ってた。
 久保ちゃんは一緒に行くつもりだったかもしんないけど、やっぱこんだけ寒くなると外に出る気力は失せる。暑いのもイヤだけど、寒いのもイヤだし…。
 だから寒くない部屋で留守番してる。
 ここんとこそんな感じで、俺よか久保ちゃんの方が買い物に出る回数が多かった。
 だからさすがに今日はちょっち怒ってっかなぁ…ってのは思ったけど、かなり寒そうだったから出かけるのはパスっ。
 今日みたいな寒い日は、あったかーいカーペットと仲良くしてるのが一番だしなっ。
 そんなカンジで一人で久保ちゃんがコンビニから帰ってくるの待ってたら、しばらくして玄関のチャイムが鳴った。

 ピンポーン…、ピンポーン…。

 この部屋のチャイム鳴らすのって、俺と久保ちゃんと新聞の勧誘のオッサンくらいだし…。
 久保ちゃんのチャイムの鳴らし方は、特徴あるからすぐわかる。
 あったかいカーペットから離れるのはイヤだったけど、このままだと久保ちゃんも食料もドアの前で凍えちまいそうだから玄関に向かって走った。
 いつもソファーに置いてある毛布かぶってっけど、寒いものは寒い。
 身体が冷めてくる前に急いで玄関のドアを開けるとヒューッと冷たい風が中に入ってきた。

 「うわっっ、すっげぇっ寒っ!!」
 「・・・・・・すごいカッコだねぇ」
 「寒いんだから、仕方ねぇだろっ」
 「ふーん…っで、俺はその寒い外まで買い物に行って来たんだけど?」
 「さ、サンキュー久保ちゃんっ」
 「それだけ?」
 「久保ちゃんっ、大好きっ」
 「ついでみたいに言われると、さすがに傷つくなぁ」
 「つ、ついでのワケねぇだろっ」

 早くリビングに戻りたかっただけだから、実は久保ちゃんの指摘はかなり正しかったりする。久保ちゃんに言われてちょっちギクッとしたけど、ささっとリビングに戻ってそれを誤魔化した。
 久保ちゃんはたまーに妙なコトで根に持ったりすったら、気をつけないとヤバかったりする。
 前に久保ちゃんに仕返しされた時のことは、マジであんま思い出したくねぇし…。
 なーんて思いながらカーペットに懐いていると、同じようにリビングに入ってきた久保ちゃんがテーブルの上にコンビニ袋を置いた。
 
 「寒いからあったかいモノ買って来てあげたから…」
 「おっ、もしかして肉まんとか?」
 「うーん近いけど、ちよっと違うかも?」
 「すき焼き入ってるヤツ?」
 「いんや」
 「ピザ?」
 「カレー」
 「な、なにぃ〜〜〜っ!!」
 「ほら、冷めない内に食べなよ」

 久保ちゃんに渡されたカレーまんは確かにあったかかった。
 けど、あったかくっても…、さめててもカレーまんはカレーまん…。
 昨日の晩もカレーで、今日もたぶんカレーなのに…。
 ・・・・・・・今、俺の手に乗ってるのもカレーまん。
 これはハッキリ言って、カレーの呪いとしか思えなかった。

 「なんでカレーまんなんか買ってくんだよっ。他のヤツあっただろっ!」
 「あー、確かにあったねぇ」
 「あったねぇ…、じゃねぇよっ! カレーまんなんか…」
 「いらない? この寒ーい中を買って来たんだけどねぇ」
 「ううっ…」
 「今日は特に寒かったかも…」
 「あ、ありがたくいただきマスっ!」

 久保ちゃんがさむーい中を買ってきたカレーまんに合掌すると、あったかい内に食わないとうまくないから食い始める。
 そしたら俺の横で久保ちゃんもカレーまんを食ってた。
 ほんっと久保ちゃんて新商品にはこだわるクセに、こういうのは平気だよなぁ。
 もしかしたら、365日、晩メシがカレーでもヘーキな顔してっかも…。
 それにつき合わされるのは、マジでぜってぇイヤだけどなっ!

 「いい加減、毛布から出たら?」
 「冬が終ったら出るっ」
 「冬眠でもするつもり?」
 「クマじゃねぇっつーのっ!」

 あったかいカレーまんをパクつきながら久保ちゃんが他になに買って来たか、コンビニ袋の中をのぞいてチェックする。
 けどその袋の中身を見た瞬間、俺は毛布かぶってて寒くないのに凍りついた。
 
 「なんか凍っちゃってるけど、どしたの?」
 「・・・・・・・・・」
 「おーい、時任〜」
 「・・・・・・」
 「お湯でもかける?」

 「そしたら三分で…って、俺はカップ麺かぁぁぁっ!!!」

 やっと復活した俺が持ってるコンビニ袋…。
 その中に入ってるのは、カレー味のスナックとかつまみとか…。
 ぜんぶっ、ぜんぶっ、ぜぇぇぇんぶっ、カレー味の食いモノだった。
 どこから見つけたんだ、んなモンっていうくらいのカレー味のオンパレード。
 こんなにカレー味ばっか食ったら、とーぶんカレー臭いのが取れねぇかも…。
 なんてことはどうでもいいんだっつーのっ!!

 「く、久保ちゃんっ!!」
 「カレー味って、同じカレーでも色々味違うから奥が深いよねぇ〜」
 「んなモン深くなくていいっ!!!」
 「ばかうけの中辛カレー味あるけど?」
 「一人で食えっ!!」
 「うまいのにねぇ?」
 「そんなにカレー味ばっか食ってると、味覚オンチになんだからなっ!」
 「そう簡単にはならないって」
 「なるっ!!」
 「ふーん…」

 久保ちゃんは少し考えるみたいにそう言うと、ばかうけを持ったままでいきなり俺にキスしてきた。
 前置きも何もなかったから、逃げる余裕なんかない。
 やっぱさっきカレーまん食べたから、キスはカレーの味がした。
 
 「イチゴ味…」
 「えっ?」
 「さっきイチゴ味のポッキー食べたよねぇ?」
 「そ、それは食べてたけど…、なんでわかんの?」
 「キスしたら、イチゴ味がしたから」
 「…って、さっきカレーまん食ったのにっ」
 「ほら、味覚オンチじゃないっしょ?」
 
 味覚オンチじゃないっていうか、フツーはわかんねぇってっ!
 ポッキー食ったのは久保ちゃんが出かけてからだから、食ってるの見られてねぇのになんでわかんだよっ!!
 
 「…というわけで、当分カレーしか買って来ないからヨロシク〜」
 「それはイヤだぁぁっ!!」
 「イヤだって言われてもねぇ? 買いに行くの俺だし?」
 「ううっ・・ 」
 「外にはカーペットも毛布もないし、寒いなぁ…」

 「・・・・・・・ごめんなさい。次からは一緒に行きマス」

 「ばかうけ食う?」
 「だーかーらっ、いらねぇってのっ!」

 こうして俺は、次の日からカーペットと毛布に留守番させてコンビニに買い物に行くことになった。
 けど、一緒に買い物に行くのは悪くないかもって…。
 外を歩きながら久保ちゃんのあったかい手と手をつないだ瞬間に思ったりした。
 寒い間は手をつないでる理由がちゃんとあるって、それだけが理由だったりするけど。
 カーペットより毛布よりこうしてる方がいいかもしんない…。
 
                            『冬』 2002.11.10更新

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