目と目が合った瞬間、手と手をつないだ時…。 抱きしめた腕の強さ…、キスした感触…、身体をつなげた時の温度。 一緒にいるから…、だからカンジられることはいっぱいある。 けどそれは、いつもそんなに意識してカンジようとしてるワケじゃなかった。 べつに何も知りたいなんて想ってなくっても、自然に色んなことをカンジようとしてるから…。 知らない内に見つめて、腕を伸ばして手を伸ばしてる自分に気づくことなんてあまりないけど、たぶんずっとそうしてたのかもしれない。 けど時々…、本当に時々だけどそんなのをカンジてても胸の中がざわざわした。 自分のカンジてることがホントじゃない気がして…。 そういう時のカンカクは、なんとなく久保ちゃんの眼鏡をかけてみた時のカンジと似てた。 見えるようで見えなくて、色んなモノの形がくずれてぐちゃぐちゃに混ざったみたいな…。良く分からないけど、たぶんそんなカンジなんだと思う。 「なにしてんの?」 「べつに何も…」 「ふーん…」 「なんか寒いよな、今日」 「そうねぇ」 朝起きたらやたら寒かったから、俺も久保ちゃんもまだベッドの中にいた。 たぶん廊下もリビングもスゴク寒くなってると思うと、少しでも長くあったかい毛布にくるまってたい気分になる。だからベッドの上に座ってセッタ吸ってる久保ちゃんの腰にしがみつくみたいにして、まだベッドの中でゴロゴロしてた。 もうじき冬だからしょうがねぇって言えばそれまでなのかもしんないけど、寒いってだけで動く気力がなくなってくる。 いつまでも起きないでぎゅっと抱きついてたら、久保ちゃんが俺の頭を撫でてきた。 「そろそろ起きない?」 「・・・・・・寒い」 「このままじゃ、朝メシも食えないんだけど?」 「じゃ、食うな」 「お前ねぇ…」 久保ちゃんは抱きついたまま離そうとしない俺にあきれてたみたいだけど、無理やり引き剥がしたりはしない。 だからホントにずっとこうしててやったら、どうすんだろうって思った。 引き剥がしてくれた方があきらめて起きられるから、引き剥がして欲しいけど…。 スゴク暖かくて気持ちいいから、ずっとこのままにしてて欲しいとも思ってる。 久保ちゃんがそれ以上何も言わなかったから、なんで何も言わないのかって気になって…。 抱きしめてる手をちょっとゆるめて久保ちゃんの顔を見上げたら、久保ちゃんも俺の方を見てた。 久保ちゃんは俺にどけて欲しいって思ってるはずで…。 だから怒ってるかって思ったけど、怒るどころかスゴク優しいカンジだった。 「俺にどいて欲しい?」 「うん」 「そんな風には見えねぇけど」 「うーん、そんなコトないんだけどねぇ」 優しくされんのは好きだけど…、優しいってふわふわしてて…、ふわふわしすぎてて時々つかめなくなる。 ふわふわの白い羽を抱きしめるみたいに…、柔らかすぎてカンカクがなくて…。 それをずっと抱きしめてると少しずつ少しずつ羽がこぼれ落ちて…。 気づいたら腕の中に何もなくなってる気がして、胸の中がざわざわした。 こんなに優しくされてて…、抱きしめられてて…。 それでざわざわしてるなんて、おかしいのかもしれないけど、そんな胸の中のヘンなカンカクをカンジてると何かが見えなくなっていく気がした。 何も悪くなくて、別にこのままでかまわないのに…。 「久保ちゃん…」 「なに?」 「今日、一個だけ久保ちゃんのワガママ聞いてやる」 「わがまま?」 「そう、ワガママっ」 「ホントに聞いてくれるの?」 「か、金のかかることはダメだけどなっ」 「ん〜、じゃあさ」 「うん?」 「今日はこのまま、一緒にベッドで寝てくれない?」 「…って、さっき起きたいって言ってたじゃんかっ」 「ま、朝メシ食ってからだけど」 「一緒に寝てるって、それが久保ちゃんのワガママ?」 「ただ寝るんじゃないけどね」 「・・・・・・・うっ、まさか」 「寒いから、運動してあったまるってのも悪くないっしょ?」 「前言撤回は…」 「ナシね」 あたたかすぎるベッドとか…、優しすぎる腕とか…。 そればかりをカンジてると、きっと白い柔らかな羽が降り積もって…。 そのあたたかさと優しさから離れられなくなる。 ふわふわと音もなく降り積もる雪のように…、ココロに想いが降り積もるから…。 時々、あんまり静かに降り注ぐから…、わかんなくなったりもするけど…。 ホントじゃないなんて、そんな胸のざわざわしたカンカクがなくなるくらい。 ココロでカラダで、言葉にはならない想いをカンジ取りたかった。 |